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COCCOLITH EARTH WATCH REPORT

限りある地球に住む一地球市民として、微力ながら持続可能な世界実現に向けて情報や意見の発信を試みています。

タバコ規制枠組み条約作りで、WHOから悪の枢軸と揶揄された日米独3国の歩み

2009-06-28 00:46:21 | Weblog
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目  次
 はじめに
 1.FCTC発効前後の経緯
 2.ドイツに学ぶ講演会の企画・開催
 3.資料から推測した講演の概要
 3-1) ビンディング議員の講演
 3-2) ランゲル博士の講演
 3-2a) 禁煙店舗と喫煙店舗で歴然とした差がある
 3-2b) 法律の導入を成功に導いた要因
 3-2c) 受動喫煙法の導入の効果は明白に現れた
 3-2d) 国民の意識調査にも啓発効果が現れた
 4.日本はどうなっているのか
 5.喫煙による死者数・他の原因による死者数
 6.新型インフルエンザと喫煙の害への対応に見られるギャップ
 おわりに
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はじめに
 6月13日の書き込みで、アメリカ上下両院議会で受動喫煙防止法が圧倒的多数で可決され、アメリカがタバコ規制に大きな一歩を踏み出したことを書込みしました。その後で、喫煙の害の周知に奔走しておいでの呼吸器内科医M先生から、WHOが2003年の年次総会でタバコ規制枠組み条約(FCTC)を採択する際、厳しい規制の採用に反対意見を述べたことから、日米独3国がWHOから「悪の枢軸」と呼ばれていたことを聞きました。枢軸国のうちではドイツが他に先駆けて国レベルで受動喫煙防止法を制定し、アメリカでも6月22日、オバマ大統領が上下両院で成立済みの法案に署名しました。日本は悪の枢軸の最後の砦になったとM先生が慨嘆されても無理からぬ状況になりました。最近、ドイツから識者を招いてドイツに学ぶ講演会も開催されました。M先生からいただいた講演での配布資料をもとに、ドイツの歩み中心に記事にまとめてみました。

1.FCTC発効前後の経緯
 WHOが2003年の年次総会でFCTCを採択する際、当初盛り込まれたタバコの価格、税金、警告表示、欺瞞的名称、広告などの厳しい規制を含む案に反対意見を述べたことから、日米独3国はWHOの192加盟国から「悪の枢軸」と揶揄されました。他の大多数の国々の賛同で採択された条約は、3枢軸国を含む多数の国での批准を受けて、2005年2月に発効しました。更にWHOは2007年5月、加盟国に対して「飲食店や職場等を含む公共スペース内を、100%の禁煙とする法律制定を強く求める」と勧告を出しました。現在、約80ヶ国がこのような法律を制定あるいは制定予定中です。3枢軸国のうちではドイツが他に先駆けて2007年9月に国レベルで受動喫煙防止法を制定し、連邦の官庁、公共交通機関、タクシー、駅での喫煙を禁止しました。

2.ドイツに学ぶ講演会の企画・開催
 2月14日の書込みでも述べたように、火の点いたタバコの先端から立ち上る副流煙に多くの有害物質が含まれているのにもかかわらず、タバコ産業が政官界に及ぼす影響が極めて大きい日本では、FCTCを批准しても受動喫煙防止に向けての実効性ある対策が遅れています。ドイツもタバコ関連産業と政界との癒着が強い国で、世界の紙巻きタバコの70%はドイツのKoerber社の機械で作られているそうです。そのドイツでどのようにして受動喫煙防止法が制定されたかを、制定に奔走した連邦議会議員や学識者に語って貰うと言う趣向で、6月13日に「ドイツの受動喫煙防止法に学ぶ」と銘打って、2009年世界禁煙デー記念講演会が開催されたそうです。ここではM先生に見せていただいた講演会での配布資料をもとにまとめてみました。
 なお、講演会に参加したtankobu_xさんという方が、ネット上で講演見聞録を書き込んでおられます。tankobu_xさんのサイトには、禁煙活動に関する情報がたくさん載っているので、訪ねて見てください。


3.資料から推測した講演の概要
 講演会は日本医師会が多くの協会・団体と共催で開催したもので、ドイツ側からは、連邦議会で法律の制定に先進的役割を演じたローター・ビンディング議員(社会民主党)と、WHOタバコ対策協力センター・がん予防本部長として尽力したドイツがん研究所のマルチナ・ペチュケ・ランゲル博士でした。

3-1) ビンディング議員の講演
 ビンディング議員は、連邦議会での法律制定に至るまでの紆余曲折について語りました。連邦の官庁、公共交通機関、タクシー、駅での喫煙を禁止する受動喫煙防止法が制定されたのは、タバコ業界や飲食店業界からの圧力によって、飲食店に関する法律が16ある州それぞれの管轄に丸投げされたことを受けての次善の策でした。飲食店をも対象に含めた法律の制定に延々と議論を続けるより、まずは連邦の管轄が明らかな部分に適用し、各州には同一ルールの実施を呼びかけるに止まった経過的対応と言えますが、無から有を生じた大きな一歩であるに違いありません。

3-2) ランゲル博士の講演
 ランゲル博士は法律の導入を成功に導いた要因について語りました。

3-2a) 禁煙店舗と喫煙店舗で歴然とした差がある
 まずは冒頭の図1,2をご覧ください。シュツットガルト市の禁煙レストランと、喫煙が認められているケルン市のディスコの営業時間中に、店舗内の空気中の肺の中まで入り込みやすい2.5ミクロンまでの粉塵(PM2.5)の平均濃度の推移を測定した記録です。禁煙店舗と喫煙店舗で歴然とした差があります。



3-2b) 法律の導入を成功に導いた要因
 下表はランゲル博士が示した成功要因の概要を表にまとめたものです。



 ランゲル博士は、環境と健康の両面から科学的根拠を信頼性の高い論文で示すとともに、平易、明白な資料(ファクトシート)の提示が啓発活動に重要と述べています。これには医療機関からの幅広い支援が必要なことは言うまでもありません。
 法律制定には政治家に立法に動かし、その必要性を社会に周知させて行くために、政治家とジャーナリストへの先見的啓発活動が欠かせません。連邦議会ではまずビンディングが動き、消費者保護担当大臣や保健大臣、更にはメルケル首相の賛同を得るに至りました。
 ジャーナリス達の協力を得るために彼らの考え方や立場への理解し、有力新聞や雑誌に記事を掲載してもらうことも大きな力になります。
 強い抵抗が予想されるタバコ業界などからの反論に対処するために、精査された法案の準備や、反論の嘘や欺瞞の暴露、政界へのロビー活動への警告も必要です。
 全てを通じて、「受動喫煙はがんの原因になる」で代表されるような簡潔で重みのあるメッセージを添え、最後に「それは可能なのだ」、オバマ大統領の言葉を引用すれば”YES WE CAN.”との大切なメッセージを添えることが重要です。



3-2c) 受動喫煙防止法の導入の効果は明白に現れた
 図3はシュツットガルト市の喫煙が認められていたレストランで、受動喫煙防止法適用前後の店舗内の空気中の肺に入る2.5ミクロンまでの粉塵(PM2.5)の平均濃度の推移の記録を比較したものです。冒頭の図1,2からも予想されるように、法律適用の効果が明白に見られます。禁煙店舗と喫煙店舗で歴然とした差が明らかです。シュツットガルト市のカフェやディスコでも同様な改善効果が見られたそうです。



3-2d) 国民の意識調査にも啓発効果が現れた
 図4は2005年のFCTC発効以降のドイツ国民の禁煙飲食店支持率が増加傾向を示しています。図5は支持政党別に調べた結果で、いずれの政党の支持者でも2⁄3以上が禁煙法の制定を支持していることがわかります。なお、CDU⁄CSUは姉妹政党のキリスト教民主⁄社会同盟、SPDは社会民主党、FDPは自由民主党の略です。

4.日本はどうなっているのか
 悪の枢軸の最後の砦に残った日本はどうでしょうか?日本はFCTC批准国でありながら、健康増進法第25条で、「ある施設を管理する者は、その施設内で受動喫煙の被害が出ないよう策を講じなければならない」という “努力義務”があるだけです。神奈川県が唯一県として公共施設受動喫煙防止条例を制定していますが、タバコ・飲食店業界からの抵抗で原案から大きく後退したものになりました。区や市で「路上喫煙」を取り締まっていますが、罰則が甘いものばかりで実効性が疑問視されるものばかりです。

5.世界の人々はどのような原因で死亡しているのか
 WHOのファクト・シートは、喫煙の健康被害により世界で年間540万人(6秒に1人)が亡くなり、世界の子供達の半数がタバコの煙で汚れた空気の中で呼吸し、受動喫煙で年間20万人(3分に1人)の労働者が亡くなっていると明示しています。この数値を他の死因による死者数と比較してみましょう。国立感染症研究所の情報によると、1918~1919年に世界的大流行したスペイン風邪による死者は数千万人に及びました。当時はインフルエンザウイルスの存在すら知られておらず、第一次世界大戦で多数の兵士が船で移動するという感染拡大の条件が揃い、医療や公衆衛生も現在には遠く及ばない状況でした。死者数は1957~58年に流行したアジア風邪では200万人超、1968~69年に流行した香港風邪では100万人超に減りました。国連経済特別顧問のジェフェリー・サックス博士は、著書「貧困の終焉―2025年までに世界を変える」(早川書房、2006)の中で、「昨日2万人以上が極度の貧困で、約8000人の子供がマラリアで、5000人の父母が結核で、7500人の若者がエイズで死亡という状況にあっても、そのような新聞記事が書かれることはまずない」と述べています。これらの数値は年間にすると190~700万で、喫煙による死者数に遠くない数字です。

6.新型インフルエンザと喫煙の害への対応に見られるギャップ
 WHOは6月11日に警戒水準を世界的大流行(パンデミック)を意味する最高の「フェーズ6」へ引き上げました。日本はフェーズ4~5への引き上げが云々された頃から敏感に反応し、国際空港で感染地域からの到着便の乗客・乗員に検出感度が高くないサーモグラフィーによる検査を実施し、街ではマスクが売り切れになりました。大流行の怖さは起こってみないと分からないと言えますが、人々は毎年多数の死者が出ている喫煙や貧困という現存する脅威より、起こるかも知れない脅威を恐れおののくのでしょうか。貧困による死者数が記事にならないのは、サックス博士が指摘するように、発展途上国の人々の窮状に無知、無関心という悲しい背景があります。喫煙による膨大な死者数が問題視されない背景では、タバコ産業やその御用学者による巧妙で根強い抵抗が現存する脅威を隠ぺいしているのです。タバコ産業と政官界の癒着はどこの国でもあり得ることですが、日本のJT(日本タバコ産業)の主要株主は財務大臣(国)で約半数を保有し、JTが重要な財務官僚の天下り先であったことと無縁ではないでしょう。

おわりに
 ランゲル博士の講演は喫煙規制の導入に、政治家とジャーナリスへの先見的啓発活動が如何に重要かを、聴衆に確信させるものだったようです。政治家を納得させること抜きでは立法になりません。また、多くの政治家は国と国民の将来より、議席の確保に汲々し、今はそれが稀に見るほどあからさまに出ています。国民の選ぶ権利の正しい行使が求められています。タバコ産業の抵抗が強い日本では、政治家とジャーナリスばかりでなく、広く一般国民への啓発活動も必要です。WHOは、
Tobacoo Free Initiative
(タバコのない世界構想)で、”Tobacco kills, don't be duped!”(タバコは人を殺す!だまされるな!)と警告しています。禁煙活動に熱心な団体は、熱っぽく活動を進めています。しかし、多くの団体活動であることですが、一歩外に出ると外の空気は案外冷めているものです。私は熱心な禁煙活動家ではありませんが、外の冷めた空気に情報を流すことで、微力ながらでもM先生の活動を応援できたらと願っています。


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4 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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さきほどはありがとうございました。 (tankobu-x)
2009-06-28 21:37:05
こちらでははじめまして。
先ほどリンクを頂いたtankobu_xと申します。

先ほどはリンクありがとうございました。

非常に詳しく分かりやすく書かれているので感服しました。勝手ながら記事本文にも貴サイトへのリンクを貼ってしまいましたがよろしかったでしょうか?
返信する
リンク貼り付け御礼 (coccolith)
2009-06-28 22:35:34
tankobu_xさん、コメントと貴サイトへのリンクの貼り付け有難うございます。こうしてコミュニケーションが繋がって行くのは素晴らしいですね。
返信する
ありがとうございます。 (tankobu-x)
2009-06-29 06:53:34
coccolithさん
リンク貼り付け承認感謝です。

タバコ問題以外にも参考になる記事ばかりなので、お気に入りに登録しました。

今後とも宜しくお願いします。
返信する
ありがとうございます (coccolith)
2009-06-29 23:33:37
お気に入りご登録有難うございます。さらっと書くのが苦手で長文が多いですが、時々ご訪問ください。
M先生からネット上で人の輪が広がって行くのをお喜びいただいています。
返信する

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