COCCOLITH EARTH WATCH REPORT

限りある地球に住む一地球市民として、微力ながら持続可能な世界実現に向けて情報や意見の発信を試みています。

ブループラネット賞受賞者記念講演会見聞録

2005-11-03 01:10:39 | Weblog
1.はじめに
このたび縁あって表記の講演会に出席できた。この賞は旭硝子財団から環境問題で卓越した成果をあげた方々に贈られるもので、世界的に高く評価されている。講演に先立って、オープニング映像が上映された。画面には、”Why do you harm the earth that has given life to you?” (人は生命を与えてくれた地球を何故傷つけるのか) 、 “Why cannot you live without conflict?” (人は争いなしに生きられないのか)など印象に残るメッセージが流れた。
2. N・シャックルトン博士の講演
 博士は、世界の方々の海洋底から採取した過去の堆積物掘削層から微生物化石を取出し、その炭酸カルシウム骨格に含まれる酸素同位体(質量が18と16で異なるもの)の存在比を高精度で測定した。同じ酸素でも炭酸塩としての沈殿しやすさに水温を反映した違いがあり、骨格中の同位体比から過去の気候を知ることができるのである。このような研究を通じて、地球上で過去数十万年以上にわたり、氷河期と間氷期がおよそ10万年周期で繰返されていたことがわかった。また、博士達の化石骨格中の炭素同位体(質量が13と12で異なるもの)比測定や、他の研究者達の南極の氷床中の大気の分析などによる古気候学の研究から、大気の二酸化炭素濃度が過去の地球の気候変動の大きな要因であったことが分かってきた。気温の変化は地球上で一様に起こるのではなく、高緯度地方に大きく現れる。12,700年前、北大西洋域の気温が急激に寒冷化し、その約1,300年後に急激な温暖化があったことが分かっている。博士は過去100年間の二酸化炭素濃度の増加が、劇的気候変動の引き金になりかねないほど大きいと強く警鐘を鳴らしている。既に北極圏の急速な温暖化で、生態系と先住民族の生活基盤の破壊が進んでいる。身近な問題と気付かないところで、地球の傷みは進んでいるのである。
 泥臭い材料から探し出した微小な試料を精密な物理的測定にかける研究のかたわら、博士は世界屈指のクラリネット収集家という優雅な面もお持ちのことも印象に残った。
3. G・H・サトウ博士の講演
 第二次大戦中、大勢の日系アメリカ人が強制収容の対象になり、当時10代のサトウ少年もカリフォルニア東部のマンザナー収容所に送られた。ここは山崎豊子著「二つの祖国」に出てくる1万人規模の収容所であった。不毛の土地で人間としての尊厳を傷つけられる生活を強いられた体験が、サトウ少年に「似たような境遇に置かれている人々を科学の力で助けたい」という強い動機付けとなった。後にノーベル医学・生理学賞を受賞したM・デルブリュック教授から学問的薫陶と経済的支援を受けて育んだ「教育こそ人の育成の根源」の考えを、自ら指導者となって実践してきた。細胞生物学者として卓越した業績を上げた博士の注目は、1980年代から紅海岸の小国エリトリアに向けられた。当時のエリトリアは隣接した大国エチオピアからの独立戦争のさなかにあり、エリトリア人達は人間としての尊厳を傷つけられ、国際社会からも顧みられない状況にあった。博士は人工池で増殖させた藻類を餌にした魚類の養殖でエリトリア人達の支援を開始した。エリトリアが1991年に独立を達成後、博士は私財を投じて中部海岸沙漠地帯に地域住民支援のためのマンザナープロジェクトを立ち上げた。この地域の雨量は年間20mm以下の乾燥地帯で資源にも恵まれていない。住民は大変に貧しく、粗末な食事を1日1回食うや食わずで生きており、木を植えることすら思いつかない。博士の狙いは広大な海岸地帯に塩水でも育つマングローブを植林し、葉を飼葉として飼育した山羊やヒツジの肉を売って豆を買い、食料の自給と経済的自立を図ることにある。
海水には必須養分である窒素、リンと鉄が不足しているので、マングローブは陸からこれらの流入のある河口付近にしか育っていなかった。海岸地帯全域でマングローブを育てるため、博士は窒素とリン含む肥料を入れたポリ袋に小さな穴をあけて、鉄片と一緒に苗木のそばに埋める方法を考案した。肥料は少しずつ滲出してマングローブの生長を促し、周囲の海域を富栄養化したりしない。地域住民の協力で、これまでに80万本以上のマングローブが植林された。博士はこの他にも多様な創意・工夫を重ねている。何れも先端技術ではないが科学的裏付けがあり、かつ実行可能な低科学技術の指導と応用が、地域住民の飢餓と貧困からの脱却と沙漠地帯の緑化につながっている。
博士の夢は、サハラのような広大な砂漠に海水を灌漑してマングローブを植林し、飢餓と貧困の撲滅に加えて二酸化炭素削減を図ることである。砂漠化や淡水資源不足が危惧される今後、無益な出費を削減すれば不可能とは言えないのではなかろうか。冒頭にあった“Why cannot you live without conflict?”の問いかけが、ずっしりと感じられた。
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1 コメント

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Unknown (tj)
2005-11-06 20:22:55
同位体というのはアイソトープのことだと分かりました!それにしても、中性子の数の違いにより質量数がことなるということ、その結果元素の性格が違ってくるということで、比較測定し、いろいろなことが(漠然とした言い方ですが)、分かってくるのですね。

Food Watch Card を貰っていたのをCoccolith Earth Watch Card と勘違いして、9月27日には受け取らなかったのです。

環境が深刻であることの認識が広まるように。貴君等の仕事に敬意を払います。
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