アジア映画巡礼

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緊急事態が明けたなら...①映像の冒険が楽しい中国映画『凱里ブルース』

2020-04-19 | 中国映画

今日から17日後に、緊急事態宣言の期限が切れます。でも、その日、5月6日(水)をカウントダウンして待つような状況ではなく、その時になってみないとその後のことはわからない、というのが正直なところですね。それを考えてやきもきしてしまうのは、実は私の好きな作品で、5月8日(金)から公開される映画が2本あるからなのです。両作品の公式サイトをチェックしたところ、今の時点では変更はないようなので、時間がある今のうちに、ご紹介しておこうと思います。1本は中国のインディペンデント映画『凱里(カイリ)ブルース』、もう1本は香港・中国作品『イップ・マン 完結』です。本日はまず、『凱里ブルース』からどうぞ。

© Blackfin(Beijing)Culture & MediaCo.,Ltd - Heaven Pictures(Beijing)The Movie Co., - LtdEdward DING - BI Gan / ReallyLikeFilms

『凱里ブルース』 公式サイト   
 2015/中国/110分/中国語/原題:路边野餐/英語題:Kaili Blues  
 監督:ビー・ガン(毕赣) 
 主演:チェン・ヨンゾン(陳永忠)、ヅァオ・ダクィン(趙達清)、ルオ・フェイヤン(羅飛揚)、シェ・リクサン(謝理循)、ユ・シシュ(余世学)、クォ・ユエ/ルナ・クォック(郭月)
 配給:リアリーライクフィルムズ+ドリームキット
5月8日(金)より東北地方、9日(土)より東京、シアター・イメージフォーラムほかロードショー

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凱里(カイリ)は、中国南方の内陸部、貴州省にある市の名前です。亜熱帯に近く、しかも海辺ではないので、空気がねっとりと町や山を覆い、時にはもやがかかります。こんな凱里市に9年の刑期を終えて戻ってきた男チェン・シェン(陳升/チェン・ヨンゾン)は、自分の体の治療も兼ねて、老齢の女医の診療所で手伝いをしていました。チェン・シェンには妻がいたのですが、戻ってきてみると妻は亡くなっており、可愛がっていた甥のウェイウェイ(衛衛/ルオ・フェイヤン)も姿が見えません。ウェイウェイの父はチェン・シェンの弟(シェ・リクサン)で、彼はなぜか、チェン・シェンの気持ちを逆なでするようなことばかりします。チェン・シェンはウェイウェイの夢を見たり、亡き母の夢を見たりして、心が安まりません。やがてチェン・シェンは、昔の恋人に思い出の品を届けてほしいと女医から言われたのをきっかけに、その苗族の元恋人とウェイウェイを捜す旅に出ます。そこでチェン・シェンは、バイクを走らせていたウェイウェイ(ユ・シシュ)と、それと知らずに出会い、ダンマイ(蕩麦)という町に赴きます。青年に成長したウェイウェイは、洋裁を仕事にしている娘ヤンヤン(洋洋/ルナ・クォック)に気があるようで、彼女をずっと追いかけています。一方チェン・シェンは、女性の理容師に髪をあたってもらいながら、自分の来し方の話を人のことのようにして語り聞かせます。川辺の町ダンマイは、過去と現在が繋がっているような、不思議な感覚を覚える町でした...。

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一応のストーリーらしきものを書きましたが、整合性のある物語が進行していくのではなく、主人公チェン・シェンの内部にあるものがいろんなイメージで描かれていく、という感じの作品です。ストーリーを追おうとすると混乱に突っ込んでいくことになってしまうので、映像の流れに身を任せて、その時々のイメージを受け入れていると、それがだんだんと心地よくなってきます。特に、後半が始まるぐらいの所から、川辺の町ダンマイで起こる出来事が進行するシーンは、約40分間がワンカットに収められていて、とても不思議な感覚を味わうことができます。

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最初に『凱里ブルース』を中国インディペンデント映画祭で見た時は、ここのワンカットという撮り方に気づかず、物語の進行の方に気を取られていたのですが、ワンカットであることを知ってから二度目に見てみると、掟破りの撮り方も入っていて、さらに引き込まれてしまいました。ワンカットと言っても、カメラが捉える対象人物が次々と変化するので、そこでカットが切り替わっているような錯覚を覚えます。その上、手持ちカメラでカメラマンが徒歩で追いかけている、と思って見ていたら、ウェイウェイのバイクに乗るチェン・シェンに合わせて、カメラもごく自然に乗り物に乗ったらしくスムーズに移動するなど、「どうやって撮ったの?」がたくさんあって、とても興味深いシーンです。カメラがまるで自らの意思を持って空中浮揚しているみたいな、素敵なワンカットでした。

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本作で長編劇映画デビューを果たしたビー・ガン監督は、1989年6月凱里生まれの30歳。本作は最初、大学の恩師などの支援といった自主製作資金で撮り始め、その後プロデューサーを得て完成させたそうですが、俳優たちもプロではない人がほとんどで、主人公チェン・シェンを演じるチェン・ヨンゾンはビー・ガン監督の叔父なのだとか。しかしこのチェン・ヨンゾン、高橋悦史似のシブい中年顔で、これ以前にもビー・ガン監督の短編や中編にも出演していたせいか、堂々たる主演俳優ぶりです。また、ヤンヤン役のルナ・クォックがみずみずしい演技を見せてくれ、映画のメイン・イメージに、チャイナドレス姿の彼女が使われているのも納得の存在感でした。

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ほかにも、劇中で何度か詩が読み上げられたり(ビー・ガン監督の自作の詩のようです)、オープニングにはお経が出てきたりと、様々なサインが詰め込まれた作品です。上の写真で、少年時代のウェイウェイがいじっているのは壁に描かれた時計で、日時計ならぬ照明時計になっており、針の影が時間を示すのですが、照明は点or滅の二択しかなく、それを時計と言えるのかとか、細かいところにとらわれ始めると無限の楽しみが見いだせる作品です。ビー・ガン監督の映画は本作のほか、2017年の『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯へ(地球最后的夜晩)』が2018年の東京フィルメックスで上映後に、本年2月28日から公開されました。こちらはタン・ウェイ(湯唯)、シルヴィア・チャン(張𦫿嘉)、ホアン・ジエ(黄覚)らプロの俳優を起用したもので、チェン・ヨンゾンも出演しています。やはり主人公の過去と現在、現実と夢とが錯綜する物語で、後半には60分間のワンカットシーンがあります。ただ、『ロングデイズ・ジャーニー』のワンカットシーンは、夜と室内とで暗くて、『凱里ブルース』のシーンほどには心躍りませんでした。下は、2018年のフィルメックスでいただいた、『ロングデイズ・ジャーニー』の画像です。あの映画か、と思い出される方も多いでしょう。

『ロングデイズ・ジャーニー』をご覧になった方は、『凱里ブルース』もぜひどうぞ。無事公開となることを願いつつ、予告編を付けておきます。と、YouTubeを見てみたら、本編映像も2編、最近アップされていました。続けて付けておきますので、ビー・ガン監督の手腕をちょっぴりお楽しみ下さい。

ポン・ジュノ監督やギエルモ・デル・トロ監督も絶賛/映画『凱里ブルース』予告編

 

映画『凱里ブルース』本編映像1

 

映画『凱里ブルース』本編映像2

 


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