アジア映画巡礼

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必見! チャン・イーモウ監督作『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』

2022-05-19 | 中国映画

明日、5月20日(金)から、久しぶりにチャン・イーモウ監督の映画が公開されます。『グレート・ウォール』(2016)、『SHADOW/影武者』(2018)に続く監督作品は『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』(2020)。前2作の派手なアクション時代劇がウソのような、静かで物語をじっくりと見せてくれる作品です。時代は劇中では明確に語られてはいないのですが、中国語版Wikiによると、文革ことプロレタリア文化大革命末期の1975年。舞台となる地域は、広大な砂漠に囲まれた中国西北部。エンドクレジットに敦煌市への謝辞が出ていたことから、恐らく敦煌に近いあたりと思われます。その砂漠を一人の男が延々と歩いてくるシーンから、本作は始まります。では、まずは映画のデータをどうぞ。

『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』 公式サイト
2020年/中国/中国語/106分/原題:一秒鐘
 監督・脚本:チャン・イーモウ(張藝謀)
 出演:チャン・イー(張譯)、リウ・ハオツン(劉浩存)、ファン・ウェイ(范偉)
 配給:ツイン
5月20日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ 他全国公開

© Huanxi Media Group Limited

と、いつもですとここで少しストーリーをご紹介するのですが、実はこの作品、まったく予備知識なしにご覧いただいた方が、冒頭部分でスリリングな体験ができてグッと映画に引き込まれていく仕掛けになっているため、敢えてストーリーは書きません。どうしてもお知りになりたい方は、上記公式サイトをご覧になって下さいね。先に述べたように、砂漠を越えて「第一農場」地区に辿り着いた男(チャン・イー)は何者なのか、何をしにやって来たのか、この男、映画のフィルムを古いバイクに積み込んだあと農場の食堂で腹ごしらえをしている男を窓の外からじっと見つめているけれど、バイクを盗もうとしているのだろうか、それとも単に腹が減っているのだろうか...等々、推理をしている間にどんどん映画に引き込まれていくのが本作です。その気分を、ぜひ味わっていただきたいと思います。

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その後に登場するのがボサボサ頭の少年で、あとで少年ではなく少女だとわかるのですが、バイクの荷物からフィルムが1巻入った平たいフィルム缶をこっそり盗んでいくのです。あんな物が盗みの対象になるのはなぜ? と思っていると、さっきの男がその子を追いかけ、奪い返そうとします。そこから2人の攻防が延々と続いていくうちに、いろんな背景がわかってくるという仕掛けです。実はこの少女(リウ・ハオツン)、「第二農場」地区に住む「劉(リウ)の娘」と呼ばれている両親のいない子で、幼い弟との2人暮らし。弟をとても可愛がっていて、フィルム缶を盗んだのも弟と関係があったのでした。そんなフィルム缶で弟に何を? 売って何かを買ってやるのか、とか思っていると、意表を突く物が登場します。う~ん、日本人には想像もつきませんねえ。

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その後物語の舞台は、「第二農場」にある映画館に移ります。ここの責任者は「范(ファン)電影(映画のファンさん)」とみんなから呼ばれている中年男で、何の娯楽もないこの砂漠の村にとって、唯一最大の娯楽である映画を見せてくれる人、ということから、地域の住民全員が熱い眼差しを注ぐ人でもありました。この日も名作『英雄児女』(1964)が上映されるというので、みんな早くから来て待っているのですが、なかなか映画のフィルムがやって来ません。ファン電影が姿を現すと、方々から貢ぎ物(と言ってもピーナツ数粒とかですが)が差し出され、それを気持ちよさげに受け取って農場の食堂へ行き...と余裕綽々のファン電影でしたが、そこで大事件が発覚します...。

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そこからは賑やかな展開になりますが、このあたりの主人公たちの行動は、かつてチャン・イーモウ監督が若き日に体験したことなのだとか。今のようなデジタル時代ではないフィルムに映画が焼き付けられていたからこその行動で、少々コメディタッチが行き過ぎとか思うところもあるものの、なるほどなあ、と思わせられます。そして物語は二転三転してラストへ、さらにはもう一段ある2年後へとつながっていきます。

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恐らく、チャン・イーモウ監督にとって、文革ことプロレタリア文化大革命の時代を描くのは、自分の原点なのでしょう。本作と同時期にチャン・イーモウ監督は、『愛しの故郷(ふるさと)』(2020)という大がかりな愛国映画にも関わっていますが、今の繁栄する中国に至るまでの過去を考えると、文革時代が甦って来たのでは、と思います。本作中での文革時代の再現ぶりは実に細かく、神経が行き届いています。「農場」と呼ばれる生産単位というか村というか、そのたたずまいや食堂などの施設、そして当時の映画を上映した公民館のような場所、さらには映画関連の様々な大道具と小道具も、あれだけの物を集めるのは大変だったのでは、とフィルムをつなぐための古色蒼然としたスプライサーを見ながら思ったりしました。主人公の男が「写真をやっていたからフィルムのことは知ってる」というシーンがあるのですが、まさに写真から映画撮影に入ったチャン・イーモウ監督自身のことを言っているようでした。

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その主人公を演じたのは俳優のチャン・イー。現代劇に出ているときは「ちょっと大泉洋に似ているな」とか思ったりするのですが、本作では1週間ぐらい絶食したような体型と顔つきで、鬼気迫るものがありました。役名は一応あるようですが、劇中で呼ばれることはなく、他郷に侵入した名無しの影みたいな男を生硬な演技で表現していて、ぐっと惹きつけられます。チャン・イーモウ監督もチャン・イーがお気に入りのようで、本作に続く2作『懸崖之上』(2021)と『狙撃手』(2021)でもチャン・イーを起用しています。特に『狙撃手』は章宇(チャン・ユー)との共演作なので、戦争映画ではあるもののちょっと見てみたいですね。

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一方、「劉の娘」を演じるリウ・ハオツンは、3,000人をカメラテストした中から選ばれたラッキーガール。上の写真が素顔に近いもので、こんなに可愛いのにウニの殻みたいな頭の問題児にされてしまってお気の毒。あのとげとげヘアスタイルは実際に髪を切られて作られたもので、劇中でも時々とげとげヘアからかわいい表情が覗きます。演技力もなかなかのものなので、早くも『初恋のきた道』(1999)のチャン・ツィイー、『サンザシの樹の下で』(2010)のチョウ・ドンユィに続くチャン・イーモウ組から誕生した未来の大スターか、と騒がれているようです。そんな風に見どころも多い『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』はいよいよ明日公開です。最後に予告編を付けておきますが、本日、日本の映画監督でアジア映画に詳しい行定勲監督の本作へのコメントもアップされましたので、こちらもご参考になさって下さい。

『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』30秒予告

 


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