アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

第31回東京国際映画祭:私のDAY3

2018-10-28 | アジア映画全般

毎日通う六本木。今日の日曜日はハロウィーンの仮装もちらほらと見かけました。本日は、昨日の『パッドマン 5億人の女性を救った男』に続き、インド映画『世界はリズムで満ちている』の上映がある日です。TIFFのプログラミング・ディレクターはインド映画に大いに配慮して下さっていて、土日のいい時間帯に最大のスクリーン7を当てて下さっていました。本日は、ソールドアウトではなかったのですが、ほぼ売り切れ状態での上映でした。

『世界はリズムで満ちている』
2018/インド/131分/タミル語/原題:Sarvam Thaala Mayam/英題:Madras Beats
 監督:ラージーヴ・メーナン
 キャスト:G・V・プラカーシュ・クマール、ネドゥムディ・ヴェーヌ、アパルナー・バーラムラリ


主人公は、チェンナイの大学生で映画スターのヴィジャイ命!のピーター(G・V・プラカーシュ・クマール)。父はムリダンガム作りの職人ジョンソン(クマラヴェール)で、母は家計を助けるために街角でスープ屋を開いているテレサ。そう、一家はクリスチャンなのです。実は、皮を扱う楽器職人は被差別カーストに位置づけられるため、その差別から逃れるためにピーターの家はクリスチャンに改宗したのでした(いつ頃改宗したのかについては言及してありません)。ピーターは映画スターのファン同士の争いで大けがをし、その傷の手当をしてくれた看護師のサーラー(アパルナー・バーラムラリ)に恋してしまいます。ところが、そんなピーターの前に、この恋も吹っ飛ぶような魅力的な存在が現れました。それが、ムリダンガム奏者である巨匠ヴェンブ・アイヤル(ネドゥムディ・ヴェーヌ)。ムリダンガムをコンサート会場に届けに行って、間近で聞いたアイヤルの演奏に魅せられてしまったピーターは、何とか弟子入りしようとしますが、ピーターの身分をたてにアイヤルの弟子マニ(ヴィニート)は彼を追い払います。古典音楽の演奏家たちの多くは、ヒンドゥー教の最高位カースト、バラモン階級に属しているのです。やっとのことでアイヤルに入門を許してもらい、ナンドゥら先輩弟子と共に教えを受けるピーターでしたが、マニは何かにつけて彼を目の敵にします...。


まだ、火曜日にご覧になる方がいらっしゃるので、このあたりまでに。実は今日は、ラージ-ヴ・メーナン監督と、奥様でプロデューサーのラターさんとお昼をご一緒し、いろいろ裏話をうかがったのですが、それはまた、後日お伝えすることにします。

で、本日も上映の後、皆さんの拍手の音が聞こえてきました! その後監督夫妻が登壇し、プログラミング・ディレクター石坂健治さんの司会でQ&Aが行われました。簡単ですが、ご報告しておきます。


石坂:この作品はインドでもまだ公開されていなくて、本日の上映がワールド・プレミアです。では、まずはひと言、ご挨拶を。

監督:東京国際映画祭来られて嬉しいです。今日はこの映画の初めての上映で、皆さんが初の観客となります。今回上映されたのは、インドで検定にかけるためのプリントで、国際版とかではありません。ですから、「インターバル」とか出て来たんですね。この映画は、私がムリダンガムの巨匠(Umayalpuram Sivaramanだとのことです)のドキュメンタリー映画を製作した時に、それにからめて何か映画を作れるのでは、と思って作ったものです。

プロデューサー:映画祭にご紹介下さり、とても嬉しいです。私たちインド人は、日本映画の巨匠の作品から多大な影響を受けています。例えば、黒澤監督とか是枝監督とかですね。そんな日本に来られて喜んでいます。

監督:古典音楽は、古くさい、年取った人のためのもの、と考えられていて、私がこの映画を作ろうとした時、なかなかスポンサーがついてくれませんでした。それで、妻がプロデュ-サーを買って出てくれて、やっと本作が完成しました。

石坂:演奏が素晴らしいのですが、映画のために俳優に音楽の訓練をしたのでしょうか。

監督:出演者のうち、多くの人が音楽家です。ナンドゥを演じた人(スメーシュ・ナーラーヤナン)は実際にムリダンガム奏者ですし、ピーター役のG.V.プラカーシュ・クマールは作曲を担当したA.R.ラフマーンの甥で、作曲家、歌手でもあります。彼は1年かけてムリダンガムを特訓しました。先生役のネドゥムディ・ヴェーヌは音楽家一家の出で、幼い頃から演奏に親しんできた人です。そのほか、リアリティ・ショーの審査員で出演している人たちも、実際の演奏家です。ほかに登場するミュージシャンも、全部本物の人を使っています。


Q1:カーストについて尋ねたいのですが、ピーターは「不可触民」ですか? カーストというのはヒンドゥー教のものであって、クリスチャンは関係ないのかと思っていましたが、やはりあるのでしょうか? 太鼓作りは「不可蝕民」の仕事と決まっているのでしょうか?

監督:太鼓は皮を使います。ムリダンガムは、牛、山羊、水牛の皮を使いますが、それも出産後の牝の皮がいいとされています。出産後は皮がやわらかくて、よく伸びるのですね。しかも、放し飼いにしてあるものがよいとされます。そして、この仕事をしているのは、ダリト(被差別カーストの呼び名で「抑圧された人」の意味。今は「不可蝕民」は差別用語となるため使いません)の人たちなんです。彼らは、1930年頃にキリスト教に改宗したりしていますが、差別はなくならず、音楽の世界では太鼓の作り手は演奏者にはなれません。私は作り手から演奏者になる人が出て欲しいという思いをこめて、本作を作りました。

Q2:私はパキスタン人なのですが、撮影監督もしておられるメーナン監督は撮影のスタイルがとてもシンプルですね。ご自分ではどう思っていますか。

監督:撮影のスタイルは、ストーリーによって変わってきますね。本作は、普通の青年が夢を持って、それに向かって精進していく、というものなので、リアルな撮り方をしたかったのです。私が以前に撮った2作品は、ちょっとスタイリッシュだったのでは、と思います。

プロデューサー:本作の場合は、ロケをした場所もすべてが本物の場所でした。ムリダンガム作りの工房も、2部屋しかなくてクルーが5人入ればもう一杯になるような所だったのです。コンサート会場も実際のホールですし、だからリアルな撮り方になったのです。


Q3:主役のピーターが最後に伝統を破りますね。実際にそういうことが古典音楽の世界であるのでしょうか。あと、この映画を撮るに当たって、影響を受けた作品は?

監督:一般的な音楽家では、低カースト出身で有名な音楽監督になった人もいますし、ケーララ州ではトップ・ヴォーカリストになった人もいます。才能があれば大丈夫なのですが、古典音楽は技術や知識だけでなく、伝統を受け継ぐということから、やはり家柄のバックグラウンドがないと難しいですね。影響を受けた作品ということであれば、タミルの聖人ナンドナールの宗教歌からインスピレーションを得ました。

石坂:日本では、ドラマーを主人公にした『嵐を呼ぶ男』という作品があるんですよ。

(あの人が手を挙げているので、指名して下さい、と示すお二人)

Q4:エンドクレジットで歌う女性歌手が素晴らしいのですが、あの人は?

監督:ボンベイ・ジャヤシュリーという歌手です。

Q4:やっぱり。2年前にチェンナイでコンサートを聴きました。

監督:アイヤルは女性ヴォーカルの伴奏をするのは好まないという、古いタイプの音楽家です。それに対してピーターはこだわらずに女性と演奏する、という、新しいタイプの人間として描きました。


Q5:チェンナイから来ました。ピーターは友人と騒いだり、よく酔っ払ったりする、一方のバラモンであるナンドゥはハーバード大卒、そして審査員はみんなバラモン、というステレオタイプ化が見られますが。

監督:必ずしもそうではありません。G.V.プラカーシュの演じた主人公は、映画カルチャーに夢中でお酒も飲んだりしていたのが、古典音楽に目覚めて大きな変革を遂げるキャラクターになっています。まったく違うものになる主人公を描いてみたかったのです。

プロデュ-サー:主人公はヴィジャイの大ファンで、いつもドラムを叩いていた。そこから打楽器的センスを養ってきた、という風になっていますね。マニの妹でテレビ番組のMCをやる彼女は、実際にテレビで番組のホストとして活躍している人ですし、審査員も本物です。そういう人たちを起用しているのです。

終了後、チケット売り場の近くで監督のサイン会が行われました。熱心なファンの方が、日本人の方もインド人の方も列を作り、監督に感想を伝え...と、いつまでも六本木の夜は終わらないのでした。


今日見た別の作品2本『ミス・ペク』『三人の夫』は、後日またご紹介します。


ジャンル:
ウェブログ
コメント (2)   この記事についてブログを書く
« 第31回東京国際映画祭:私のD... | トップ | 第31回東京国際映画祭:私のD... »
最近の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
観てきました (よしだ まさし)
2018-10-29 12:24:12
『世界はリズムで満ちている』、昨日の朝に唐突に思い立ってチケットを買って観てきました。観てよかったです。
敵役の設定、テレビの音楽番組で雌雄を決する展開などは、ちょっとありふれているかなという気がしなくもないのですが、それ以上にリズムの溢れる映像に魅了されました。特に、主人公がインド各地を旅行して、さまざまなリズムに出会うシーンがステキでした。まさに「世界はリズムで満ちている」という場面でした。主人公のひたすら音楽の師を慕う姿も素晴らしかった。泣かされます。

Q&Aも見ていきたかったのですが、『三人の夫』に移動するために、泣く泣く諦めました。
でも、cinetamaさんのレポートのおかげで、カーストのことなど、映画を観ていて分からなかったことも理解できて、大変助かります。ありがとうございます。
よしだ まさし様 (cinetama)
2018-10-30 01:07:50
コメント、ありがとうございました。
フィリピン映画だけでもお忙しいのに、見て下さってすみません。
私もDay4に書いていますように、よくぞスクリーンで見たものよ、という感じです。
よしださんにも楽しんでいただけて、よかったです。

『三人の夫』は、『世界はリズムで~』とは天と地ほども違う世界で、びっくり仰天だったでしょう?
あの3人の夫はそれぞれ、百年以上前に香港を割譲した中国、新界租借という形で事実上ぶんどっていたイギリス、そして返還させた今の中国を象徴しているのでは、とか思ってしまいました。
また後日、レポートしますね。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

アジア映画全般」カテゴリの最新記事