力の限りに羽を振動させて
その音を空間いっぱいに響かせている
それは高い空と暑い日差しと共に夏そのもの
いくつもの夏の想い出の
風景の奥に存在している
夏の時に割れ目が出来る
樹に止まっていた蝉がそこから落下する
地の上の草陰に時も落ちる
その時の中でも羽を振動させているが
もう夏の響きはしない
草に絡まるガサガサとする音が
とぎれとぎれになり
やがてその音もなくなってしまう
そして草陰に落ちた時も消える
静寂が空間になり
分で隔てられていたものも消える
わたしも夏から引き離され
落ちた時の中でもがく
蝉は知っているのだろうか
時が消えた静寂な光を