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蔵馬ウケネタ、日常のことなど思った事を綴る。

この傷は鼓動の向こう側 飛蔵小説

2021年08月23日 20時22分08秒 | 蔵馬受けblog内小説
ツイッターで書いていた小説を、しっかりした形にしてみました。
結構気に入っている小説なので
感想とかコメントとか合ったら
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武術会…激しい戦闘が終わり、木々のざわめきも、葉がこすれる音だけを、
響かせていた。
ホテルの脇の森…。色々なものの呻きや悲しみを飲んだ森は、何も言わずに
ただ木々をそよがせる。


「…蔵馬」
飛影は、歩を止めた。
夕刻の空が、飛影の黒い服をオレンジに一瞬染める。
どんなときでも、朝は来て夜は又訪れる。…苦しいことがあっても、涙に埋もれても。
そして、誰かが命を落としても。


森の入口…その人はいた。と思ったのは、飛影から見えるその人も…同じだった。

ひとり、蔵馬は歩を止めた。

二人は、手を伸ばせば届くほどの…遠くもない距離で、向かい合った。

「怪我はいいのか」
大木に背を預け、飛影は言った。機嫌が悪く見えるのはいつものことだ。
本当に機嫌が悪いときは言葉を掛けられないと、蔵馬は知っている。
それにそんなとき多分誰にも言葉をかけないのも知っている。飛影のことは…自分が
一番知っているつもりだ。一番近くて一番信じているつもりだ。

「おかげさまで、大分良いですよ
ほら、と腕をまくり…そして袖をまた直す。半分だけ…表面だけ…傷跡が薄くなっている腕。
「もう大丈夫…なおりま…っ!」
袖が擦れた瞬間に…漏れた声。
表面はきれいに戻っても、腕を動かせば皮膚が避けそうな痛みが走る。
チラッとそれを見て、飛影は小さく口を開いた。笑っているようにも思える口が、何を言うのか
分からない。
「人間につきあって、そのザマか」
はっと、蔵馬は飛影を見た。
「飛影?」
「教えろ、なぜ武術会に出た」
刺さるような声だった。乾いた風が二人の間を駆けた。
「なぜ…?」
どういう意味…。
理由は分かっているはずなのに。
「一度人間に関わったから、か」
何が言いたいのか、理解出来ず、蔵馬は半歩下がった。苛立ちのような飛影の言い方。
「人間に…」
突っかかる言い方に、目を丸くした…、どういうつもりか分からないが、
なぜこんなに嫌みな言い方をするのか…。こちらも、自然穏やかには返せなくなる。

「そうですよ、もう、俺達は逃げられない」
ぐっと、拳を握って、蔵馬は言った。
「そう思ったから…!」
蔵馬は続きを言えずうめいた。
ガッと…華奢な身体が、木に押し付けられていた。
ゴツゴツとした木の皮が、蔵馬の背に当たる。腕の奥が悲鳴を上げた。
「なぜ!」
逃げなかった。
グイと、蔵馬の胸を掴みあげて飛影は荒々しく言った。
「にっ…げ…?」
シャツのボタンが一つ、弾け飛んだ。あっと、蔵馬の声にならない音が漏れた。
赤い…まだ消えない…血の跡…。わずかに見える蔵馬の白い肌。
この肌が、あのとき、血まみれになった。
掴みあげたシャツの中…蔵馬の胸から、小さな音がした、生きている証。心臓の音。
「お前だけなら、霊界に媚びれば逃げられた筈だ」
「ひ、えい?」
硬い木にこすれるたびに、背中までがピリピリと、痛みを訴える。
「お前だけ、逃げられた筈だ、そうしたらあんな!」
爆発音とともに倒れ込んだからだを見て、ときが止まったかと思った‥。
「…だっ…てっ…」
苦しげに、蔵馬が言った。
「どちらにしろ…俺は…命を狙われる」
妖狐蔵馬が人間界にいるのなら。
「それに…あなただって…分かっているはず…」 
表面だけの治癒は回復全てではない。蔵馬の背に力が入る…飛影はそれをフンと見た。
強がっても、妖狐の力が戻ってもこの身体が傷ついていないはずはない。

蔵馬は右腕を抑えながら言った。
「逃げられない…こと…」
頬が触れるかと言う距離で、ふたりは見つめ合った。
「あなただって…逃げなかった…」
「俺は!」
違う。
こんなことを言いたいんじゃない。
あのとき…フラフラになりながら鴉に立ち向かった姿は、まだ脳裏に焼き付いている。
叫びたかった。
こんな大会二人で無視すれば良かったと。
そんなこと、できないことは分かっていた。

けれど本気でそう思ったから、今がある。
本気で…鴉に向かっていく蔵馬を浚いたいと思った。逃げたくて逃げたくなくて
そんな負けのようなことは出来なくて。
結局闘うしか無かった。知っているつもりだ。
悲しいのか苦しいのか分からない自分がいた。
「違う!お前が…」
ふっと、飛影は手を離した。
シャツが弾けたボタン以外、きれいな形に戻った。
「…お前が!命を賭けるから!」
どうしようもない想いが胸を焼いた。
「…じゃあ…」

小さな、蔵馬の声だった。
「じゃあ…負けて…好きにされても…良かったんですか…」
責めるように、蔵馬は言った。
「あなたに会えないくらい、傷つけられても…?」
シャツの、ボタンが弾けたところを庇いながら、蔵馬は俯いた。
飛影は、なにも、言えなかった‥。
遠くで鳥が鳴いた。
沈黙は、小さな声に破られた。
「俺は…」
飛影は、傍らの剣を見た。
「お前がいないなら意味がないと、思った」
だから、蔵馬がシマネキ草を植えたあの時も、全て燃やすつもりだった。
「…飛影」
冷たい風に肩を震わせ、蔵馬は消えそうに、言った。

「ごめんね」
ごめんなさい…。

「あなたが…好きです」

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なんか…こういうやりとりがあっても良いのではないかなと思うので。
飛影には色々な葛藤があった頃だと思うし…

蔵馬と共にいるには

人に流されそうで人に騙されそうな蔵馬のそばにいないと
心配だからだし、
強くなりたいし…→だから躯のところに行った(と思ってる飛蔵脳))
なので、
このころから伏線があったんじゃないかな…。



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