
映画「コマンダンテ」――。
最初から最後まで、オリバー・ストーン監督が質問しフィデル・カストロがひたすら答える2時間。
ふつう飽きそうなものだが、ぜんぜん飽きない!
含蓄あるカストロ議長の言葉だけで成り立っている映画、逆にいえばカストロ議長でなければ成り立たない映画だと思う。
ちなみに、「社会派オリバー・ストーン監督」って有名人らしいけど、私、予備知識ゼロでした。すみません
いつもニタニタ笑ってて、感じのいい人ではないが、「不躾な質問だけど、実はそこが聞きたい!」という質問にはうってつけかも。
車で移動して街に出るとか、医学生たちに囲まれ言葉を交わすとか握手をするとか、内容を補強するための実写とか、場面が切り替わるのはそんなところ。その間も質問と返答は連綿と続く。
車はベンツだけど、後部座席に3人乗ってぎゅうぎゅう詰め。そこで決して愉快でない質問を繰出されるカストロ議長だが平静そのもの。
後部になにげに置かれているピストルを見せて、しばしピストル談義。
もしものことがあったら、と誰もが思う場面だろう。
この、フィデル・カストロという人、革命戦を勝利しサンティアゴ・デ・クーバからハバナに向けて行進するときも、周りの人は反対したのに、戦車をオープンカー代わりにまったく無防備で、「死ぬときは、どんなことをしても死ぬもんだ」と言ったという。
あぁ、この人って、なんて、変わらないんだろう
とにかく、質問に次ぐ質問、答えに答える議長。
どの問いにどう答えたか、覚え切れるものではないが、カストロ議長の一貫した姿勢が鮮明に浮かび上がってくる。
最も大切なのは道徳心
すべてを革命に捧げてきた自分の人生に悔いはない
もう一度生まれてきたら、同じ生き方をする
命には限りがある。そのときそのときを精一杯生きる・・・
インタビューはオリバー・ストーン氏が英語で質問し、通訳の女性がカストロ議長のスペイン語を訳す形で進められる。
この通訳の女性、単に言葉の通訳にとどまらず、カストロ議長の口調や表情もそのまま繰り返す。その「一心同体ぶり」に感心して観ていると、そこはオリバー・ストーン氏。なにごとか思うところがあったのだろう。
カストロ議長の「愛情問題」を一通りインタビューしたあと、相変わらずニヤニヤしながら、「彼女を愛していますか?」――
「誰のことだ?」と議長。
「彼女ですよ」とオリバー・ストーン氏。
やりとりを通訳していた彼女が、たまりかねて言う。
「Yo(私よ)」
議長、思わず「はぁ?」。
「君は、私の通訳になって、もう何年になる?」
「30年です」・・・・
「あなたは彼を愛してますか?」と、オリバー・ストーン氏。
「はい、愛しています」と彼女。
街頭に出れば、民衆が彼を取り囲む。
カストロ議長を見上げる女性の目は、まるで恋人を見るよう。
中には目を潤ませている人も。
彼と握手をした女性は、感激で飛び跳ねる。
議長自身も認めているが、若い弁護士が革命政権を樹立し、試行錯誤しながら「国」を運営してきた。その過程では過ちもあっただろう。
しかし、最大限の努力をし、献身してきた。その自負もある。
だからこそ、SPもつけず、堂々と民衆の中に入っていける。
ちなみにこの映画、アメリカでは上映禁止になっているそうだ。
ホンモノの政治家を知らないアメリカ国民って、本当にお気の毒・・・
キューバの社会体制やその歴史は、教科書や他の報道、映像作品などである程度知ってはいましたが、このドキュメンタリーは、生々しさが違いますね。
もちろん、負の面が多いことも事実ですが、いわゆる「失敗国家」ではない国を維持していることも事実。
この映画を見ることで、逆に、アメリカがどういう国なのか、わかったような気がします。