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本/「南のポリティカ 誇りと抵抗」

2005-02-13 | Libros(ほん)

本のご紹介
 「南のポリティカ 誇りと抵抗」
   著者/上野清士
   出版/ラティーナ出版
   価格/2000円

 私の「日本語」は、グアテマラのマヤ系先住民カクチケル族の家族の視線を借りている場合もあれば、サンサルバドルの市場で働くミゲル青年のマッチョな口ひげであったり、ハバナの輪タクの運転手の力瘤や汗、サントドミンゴの女衒親父の緩んだ頬、あるいはリマの日本人会の献身的な初老の医師の肩、メキシコ市内の地下鉄のなかで空き缶を打ち調子をつけながら歌い片手を突き出す子どもたちの饐えた体臭を透過したものだ。
 彼らが自覚しようがしまいが、北の富裕国に向けた必死の「誇り」と「抵抗」を映し出す手段としての「日本語」でありたいと思った。
  (著者の「あとがき」より抜粋)

 本書が若い読者に役立つとしたら、世の不条理を胸底に沈殿させるということ(まえがきにかえて「チェ・ゲバラが日本の若者に遺贈する視線」より)と著者は言う。 音楽雑誌「ラティーナ」に連載されたコラムから選び出された37編の文章は、濃淡はあれ「人間の負の部分」を投げかけてくる。
 それは人間の命や尊厳に対する冷淡さであり、搾れるだけ搾り取る無慈悲さであり、総じて、人間のえげつなさである。
 しかし、読んでいてネガティブな印象にならないのは、それに相対する人間の強さも併せて垣間見れるから。「南」のしたたかに、しぶとく生きる人々、そして、沈黙しない死者たちの姿がそこにあるからだ。
 彼らに注ぐ著者の視線は、日本人にしてはラディカルではあるが、その地で彼らと寄り添い、その匂いを嗅いできた人ならではのリアルさがある。チェがもしモーターサイクルで南米大陸を今も旅していたなら、カンテラの明かりのもと、ノートに同じ言葉を書き殴っていたかもしれない。

  15才以下の児童労働者が群れとして存在する国では、その子ども達が社会的不公正、貧富の差などに反発して、自動小銃が担げるような肉体に成長すれば、たとえば反政府武装組織の構成員として参加することは、ある意味で「権利」だと思う。
    ~第一章「子ども労働の現実、世界の現実」より

 テロ容認と気色ばむ前に、材料面で改良を重ねた子どもでも扱える軽い自動小銃が「先進国」で大量生産されていることも考え合わせてみるべきだろう。 「世界」を見るとき、そうした複合眼が求められることも、この本から読み取れるだろう。


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