3次元紀行

手ぶらで地球にやって来ました。生きていくのはたいへん。そんな日々を標本にしてみました。

幻覚

2008-08-09 11:51:39 | ほら、ホラーだよ
ほら、ホラーだよpart.23

「じ、実行委員長」
座敷オヤジがやっと声を発した。声がかすれていた。
「これ、実行委員長の三つ目入道」
「あ、お、おいら?」
陰気に圧されたのか三つ目入道の声もどこやら精彩がない。
「おぬしの第三の目は、たしかサイコキネシスとやらじゃったのう」
「いかにも」
「目力で妖怪を跳ね飛ばすというヤツじゃったのう」
「さよう」
「そこでだ。実行委員長として、この陰気にご退場いただくよう勧告してもらいたいんじゃが」
「あ、ああ、そうだな、うん」
三つ目入道もやっと気を取り直して立ち上がった。立ち上がるとでかくて、なかなかどうして威風堂々としている。
三つ目入道はその陰気なヤツの前に山のように立ちはだかると威圧するように言った。
「お前さんの陰気はこの家に災いをもたらす。この家から出て行ってもらおうか」
居並ぶほかのお化けたちも同調するように低いうなり声を発した。
しかし、その陰気なやつは平然と薄ら笑いを浮かべて言った。
「いやだと言ったら?」
「腕ずくでも出て行ってもらう。いや、目力だから目ずくかな?」
三つ目入道が妙なところにこだわったのが一瞬のスキだったかもしれない。
「そうか。ということはお前は俺様の敵だな。ならばこうするか」
陰気なヤツはそう言うがはやいか、三つ目入道を吹き飛ばした。三つ目入道が吹っ飛んだ方向では居並ぶものたちがボーリングのピンのように皆吹っ飛んだ。満場からウワーンというような悲鳴がわきあがった。フクワライなんかはいいかげんにくっ付けていた目鼻口眉を吹き飛ばされたため、慌ててそれを拾い集めなければならなかった。
「どうした三つ目入道!なにをしておる?!」
座敷オヤジも慌てている。
「ヒャ、ヒャ、ヒャ、ヒャ、ヒャ」
陰気なヤツは今度は奇妙な笑い声を立てて勝ち誇った。
「三つ目入道の第三の目は描いてある絵じゃねえの?ヒャ、ヒャ、ヒャ、ヒャ、ヒャ」
「くそう・・・ちょっと油断した」
三つ目入道は投げ出された体を起こし、立ち上がろうとしていた。が、立ち上がれなかった。またしても吹っ飛ばされたからだ。また大勢のものどもが巻き添えをくって宙に舞った。宙に舞ったものどもが落下したときはただのガラクタ・・・懐中電灯とかプラスティクの手桶とか破れたこうもり傘とか鍋、炊飯器、掃除機など・・・に変わり果てていた。
「おい、みんな大丈夫か!?」
座敷オヤジの声はもはや悲痛なものになっていた。
みなが慌てふためくなか、陰気なヤツの癇に障る笑い声が延々と続いた。その笑い声を聞いているうち、ぼくは編隊ものにでてくる悪者の小ボスを思い浮かべていた。あいつ、今にモンスターにでも変身するんじゃないかなあ。それにしても赤レンジャーは来ないのかな?なんて思ったが、まさかね。だもんでその小ボスは図に乗りまくっていた。
「見たか!三つ目入道みたいな前世紀の遺物が束になってかかってきても、俺様はびくともしないぜ。ましてガラクタ妖怪どもなぞ、へ、でもないわ。おい、座敷オヤジよ、俺様はな、お前らの仲間にいれてもらわなくてもいいんだ。おまえらが出て行くんだ。わかるか?。俺様に仲間はいらない。手下になるというならおいてやってもいいぜ、ヒャ、ヒャ、ヒャ、ヒャ」
期待通りの悪者ぶりだ。しかし、調子付いていたのはそこまでで、その後ちょっと様子がおかしくなってきた。そいつは急にそわそわしだしてつぶやいた。
「やば、・・・そろそろあいつが来るな・・・」そして、僕に向かって言った。
「ちょっと用事を思い出したんで今回は失礼するがな、その前に、ヨシヒコ。あの正一位とかいう気取ったやつな、あいつは何にも出来ないと自分でも言ってたろう?あいつはまじ何もできない。しかし、おれはできるぜ。お前をクラスで一番にすることが出来る。ママは喜ぶぜ。オレ様のほうがあいつよりずっと力があるんだ。オレ様の力のあるところ、今見たろう?それにあいつはうそつきさ。この前のママな、オレ様がちょっと指導してたんだぜ。どうだ?そんな気がするだろう?どうよ、オレ様につかないか?いい目見せるよ。オレ様に用があったら呼んでくれ。ゲンガクと呼んでくれ。またくるぜ・・・」
そいつは最初は低音で重々しくしゃべっていたが、だんだん早口になり、最後は録音の早回しみたいになってちょっと笑えた。
そして、そいつが消えるか消えないかというところでショウチャンが現れた。

「まったく油断も隙もありゃしない」
ショウチャンはそう言いながら現れた。
「おい、みんな大丈夫か?」
ショウチャンが声をかけると、ただのガラクタに戻っていた者どもが小刻みに震えだし、徐々に個性的な姿をあらわし始めた。
「座敷オヤジ、しっかりしてくれよ。取り壊しなんて言葉に動揺しちゃいけない。書斎の仏教書をかじって、童子からオヤジになったんだろう?形あるものはいずれうつろいゆくものだということは十分心得ているはずじゃないか。この家がこうしてある限りは、この家の守り神は座敷オヤジ、キミだ。しっかり守ってくれよ。たのむよ」
「面目ない」
座敷オヤジはいかにもバツがわるそうだった。
ショウチャンは三つ目入道に手をかしていた。
「あー、油断した。油断さえしてなければあんなやつ・・・」
三つ目入道は言い訳がましくブツブツ言いながらやっと立ち上がり、照れくさいのか衣の乱れなぞを直すふりをした。
「うん、今度は油断せずよろしくたのむ」ショウチャンはそんな三つ目入道にもねぎらいの言葉をかけた。
「さてと、ヨシヒコ」
ショウチャンはぼくのほうにむきなおった。
「キミも気付いたとは思うが、あいつは魔なんだ。魔が人の幸せを願うことはない。魔が狙っているのは、人の破滅だ。
あいつは多分、キミを手助けすると見せかけて、さんざん持ち上げ、十分持ち上がったところで手を離す。持ち上げるのが高ければ高いほど落差は激しい。キミは深い絶望感を味わい、人々に恨みや悪意を抱くようになる。やがて魔の言いなりになってやつらの世界に引き込まれ、最後は自分自身が魔になってしまう。
だから、ヤツの口車に乗ってはいけない。
考えてもごらん。小学校のクラスできみを一番にすることは多分あいつにとってたやすいことだろう。おおかた学級委員の伊藤くんや白鳥明日香ちゃんの答案を見て君にその答えを耳打ちするか、職員室で先生が模範解答を作っているのを覗いてきて、それを教えるということもできる。まあ、高校までなんとかその手できみを成績上位者にすることは可能だ。しかし、その後どうなるかだ。
大学ではその手は通じない。ましてや社会に出ると多分何をどうしていいかわからなくなるだろう。しかし、そこで留まればまだかわいいもんだ。『あいつはいい大学を出たのに、ちっとも仕事ができない』という陰口を言われるだけですむ。が、あの魔が、とてつもない腕利きで、人の手柄を横取りしたり、本来キミのものではないものをきみのところに持ち込むことができたとしたら、キミはどうなるか。キミは50歳、60歳というやり直しのきかない年齢で、人々の恨みや非難を浴びることになるかもしれない。
ま、今はそこまで想像するのは難しいだろうから、社会に出て躓くというところまででとどめておくけれども、つまり、努力して自力で問題を解決するという訓練をしてこなかったので、キミは何の解決能力を持たないで社会に出るわけだ。そのときになってそれまでの時間がうまくやってきた時間などではなく、実は空白の時間だったことに気付くが、もう失った時間は取り返しがつかない。
だからやっぱり自分で努力して、一番にはならなくても勉強しただけの実力をちゃんと身に着けておいたほうがいいんだ。これはわかってくれるよね?
 それからママのことだけれど、人間は程度の差こそあれ、みな霊能者だとこの前も言ったけど、多少の霊感はだれにでもあるんだ。魔がさすということも普通にあるし、インスピレーションを受けるということもだれにでも起こりうる。
 で、この前、あいつがママを指導していたというなら指導しようとしていたのだろう。
 しかし、ママは指導なんか受けていない。きみを愛しているからね。愛の前では魔は無力なんだ。まあ、ちょっとひっかかったとすれば、おばさんに対する君をめぐってのジェラシーというのはあったかもしれないが、それはたいした問題じゃない」
気がつくと、座敷オヤジたちの姿はなかった。ショウチャンの出現で座敷オヤジたちの会議は解散になったのだろう。
「ぼくを信じて」
とショウチャンは言った。