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7-2-3 騎士団長

2023-09-06 03:40:08 | 世界史


『文芸復興の時代 世界の歴史7』社会思想社、1974年
2 航海王という名の王子――ポルトガル夜話――
3 騎士団長

 エンリケ王子はこの遠征でアフリカと深く結びつけられた。
 セウタの占領は多くの無理をしながらつづけられ、一四一八年と三七年には、エンリケみずから遠往軍を指揮しなくてはならなかった。
 西アフリカがある程度までしかイスラム化されておらず、キリスト教布教の可能性があるという事実がしだいに判明した。
 またセウタ確保の費用をひねり出すことにも、新しい富を求めて探検を開始する理由があった。
 エンリケは一つには王室の一員として、一つには「キリスト騎士団長」としての立場から、その役目を果たしたのであるが、この団長の地位は、コンスタンツ公会議できまった統一教皇マルティヌス五世(在位一四一七~三一)から認可されたものである。
 ところでこの騎士団(騎士修道会)であるが、これはもともと十宇軍がうみ出したもので、ローマ教皇の監督をうける特殊な軍事的宗教法人である。
 とくに「ダンブル(神殿)騎士団」はヨーロッパ各地に領地をもつ大修道会で、キプロス島に本部をおき、十四世紀はじめまで地中海貿易と国際金融・為替業をいとなみ、強大な財力をもっていた。
 こういうローマ教会関係の組織がヨーロッパ全体にいろいろと分散し、各地の貴族勢力と深い関係をもっていたという事実こそ、十二、三世紀の各王権の弱体と表裏の関係をなすものであった。
 王権と教会との争いは、フランス王フィリップ四世(美貌王=びぼうおう)による二二四年のダンブル騎士団大弾圧にはじまった。
 これから教皇権の衰えと教会大分裂が用意されるのだが、ポルトガルについていうと、当時のポルトガル王ディニス(在位一二七九~一三二五)は、教皇クレメンス五世のダンブル騎士団解散命令――フランス王の圧迫でやむなく出されたもの――を利用した。
 王は、騎士団員の逃亡の世話をやき、巧みにリスボン付近に集中していたダンブルの領地を横領し、その事後承認とひきかえに、新しく一三一八年「キリスト騎士団」をつくり、団長任命権を王の手に確保したのである。
 これ以後、この騎士団は、ポルトガル王家とおおむね利害をともにすることとなった。
 エンリケ王子は教皇への忠誠が、すなわちポルトガル王家、領土の安泰につながるという考えをもち、きわめてまじめな騎士修道会長の生活を送り、結婚もせずに生涯を終えた。
 それ以上に人間的につっこんだ理解をしようとすると、宮廷史家の最上級の讃辞がありすぎてじゃまになる。
 威厳、寛容、勤勉、廉直(れんちょく)、信仰、勇気、王への忠誠などの美徳を示す多くの例証は、そのまま望ましきキリスト騎士団長像である。
 若いときにだけ酒を飲んだこと、卑怯な部下に罰を与えずむしろよい恩賞を与えたこと、慎重でむしろ粘液質ということがわずかに個性的と思われる特徴で、大胆にいえば対人関係がほんとうは苦手で、仕事に熱中する性質ということになるだろう。
 仕事というのは天体の観測だったらしく、睡眠不足に強かった――または不眠症だった――ことが、書き残されている。
 エンリケ王子は父ジュアン一世、長兄ズアルテ、甥(おい)のアフォンソ五世(在位一四三八~八一)と三人の王に仕えている。
 次兄ペドロは幼少のアフォンソ五世の摂政をつとめ、異母兄のバルセロス伯と不和になり、一四四九年に殺された。
 ペドロの死後エンリケは騎士団長の立場に引きこもり、宮廷の紛争から遠ざかって自分の仕事に専念した。
 この間アフォンソ五世の政策は、それまでの商業偏重に不満な貴族たちの反動に同調し、軍事活動にふけってエンリケの仕事とはしっくりゆかなくなったようである。
 エンリケはポルトガル南端のアルガルベ地方の総督という役職をも持っており、むしろ封建的な独立性を保ち、巨大な富を残して死んだとされる。
 寺院や大学への遺言による寄付がわかっているが、その富が果たして巨大だったのか、またどういうふうにその後の地理上の発見につながるかは、よくわからない。
 リスボンの商人とエンリケの関係もよくわからない。
 しかしエンリケの派遣する船はキリスト騎士団の旗をつけており、その事業はローマ教皇とポルトガル王室双方の支持を受けていた。
 騎士団はそれ自体が排他的な経営主体であり、エンリケが「株式会社」をつくったという伝説はだいたい否定されている。





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