「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.41 ★ なんでもありの三国志 でも「孔明」の描かれ方には共通点

2024年01月29日 | 日記

日経BOOKPLUS  (箱崎 みどり:ニッポン放送アナウンサー)

2024年1月25日

さまざまな三国志作品の中でも、真面目で実直で忠義にあついという諸葛亮(諸葛孔明)のキャラクターは共通している。『孔明のヨメ。』(杜康潤作)は諸葛孔明の妻、黄月英を主人公としたラブコメ風4コマ漫画。

『泣き虫弱虫諸葛孔明』(酒見賢一著)は、現代の視点で三国志を大胆に解釈した抱腹絶倒の小説。どちらも肩ひじ張らずに三国志の世界をのぞきたい方におすすめだ。三国志マニア、研究者のニッポン放送アナウンサー・箱崎みどりさんが紹介する。連載第2回。

真面目で忠義にあつい孔明

 今、ニッポン放送の番組『伊集院光のタネ』(火~金曜日、17:30~18:00)でご一緒している伊集院光さんが、三国志に興味を持ってくださっています。

 「三国志を知りたいとき、何から始めればいいか」というのは、私もよく聞かれる質問です。三国志全体に関するおすすめ本は次回以降にご紹介しますが、興味を持った登場人物に関する本や漫画から読んでいくのもおすすめです。

 『三国志演義』(以下、『演義』)には、「三絶」という表現が出てきます。一般人とはレベルが違う3人という意味で、「奸」の絶が曹操、「義」の絶が関羽、そして「智」の絶が諸葛孔明です。

 このうち「奸」とは、悪がしこいとか悪人という意味。たしかに『演義』において、曹操は明らかに悪役として描かれます。ところが吉川英治の『 三国志 』(講談社ほか)をはじめ同時期の小説は、そういう見方を一変させました。器の大きい、人間的な魅力にあふれるリーダーとして描いたのです。

 この傾向は、戦後の柴田錬三郎の『柴錬三国志』(新潮社)、陳舜臣の『 秘本三国志 』(文春文庫)などにも継承されます。曹操は書き手によって姿が変わる、毀誉褒貶(きよほうへん)の激しいキャラクターなのです。

「孔明のキャラクターは安定しているので、どんな舞台に登場してもさほど違和感がありません」と話す箱崎みどりさん

 対照的に、孔明の評価は安定しています。『演義』の孔明は神がかり的で、ついツッコミを入れたくなる場面もありますが、どんな作品でも、基本的に、真面目で実直で忠義にあつい人、というイメージは変わりません。もちろん描き方に幅はあるものの、方向性はだいたい似ている気がします。孔明を悪者に仕立てようと考える書き手はほぼいません。面白おかしく脚色することはあっても、根底にはリスペクトがあるように思います。

 だから、孔明がどんな舞台に登場しても、さほど違和感はなく、往年の三国志ファンも安心して楽しめます。

孔明の妻が主人公、ラブコメ風4コマ漫画

 昨今は、漫画『 パリピ孔明 』(四葉夕卜原作/小川亮漫画/講談社)が、アニメ化、テレビドラマ化され、話題になりました。孔明が現代の渋谷の街に転生するという荒唐無稽なお話ですが、『パリピ孔明』の孔明は史実や『演義』をはじめとする小説で作られてきたイメージそのもの。しかもセリフやストーリーの中に『演義』などへのオマージュがふんだんに盛り込まれています。私はそういうシーンを見るたびに、ついニヤニヤしたり涙ぐんだりしました。

 『パリピ孔明』は、三国志を知らない多くの人の心をつかんでいますが、三国志を知っていると、マニアックな面白さも楽しめます。そこで私は、テレビドラマの各回の放送が終わるたびに、その解説記事を講談社現代新書のウェブにアップしました。「このセリフやシーンにはこういう深い意味があるんだ」ということが分かれば、もっとドラマを楽しめるかなと思いまして。

 もし、このドラマをきっかけに孔明や三国志に興味を持った方がいたら、ぜひおすすめしたいのが『 孔明のヨメ。 』(杜康潤作/芳文社)です。いわゆる“ラブコメ”風の4コマ漫画で、タイトルの通り主人公は孔明とヨメの黄月英。現在も雑誌『まんがホーム』に連載中です。

『孔明のヨメ。』(杜康潤作)

 物語は、孔明がまだ世に出る前、2人が出会うところから始まります。同じ漫画でも、現代日本を舞台に壮大なフィクションとして描かれている『パリピ孔明』に対し、こちらは史実ベース、つまり史書『三国志』に基づいています。だから孔明も、扇子を振るだけで風を起こせるような超人ではなく、どこにでもいそうな、でもちょっと変わった人という感じで描かれています。実際の孔明もこういう人だったのではないかなと思わせてくれます。

 そして何より面白いのが、緻密な描写。1800年も前の異国の話なので、当時の人が、例えば何を食べてどんな家に住み、どんな服を着ていたのかについては、資料がなかったり、見つからなかったりすることも当然あるでしょう。しかし作者の杜康潤先生は、三国志熱が高じて中国へ渡り、現地で調査・研究をされてきたそうです。

 その成果は随所に表れています。例えば各巻の巻頭に「創作ノート」と題して当時の習慣や日常的に使われていた道具などを紹介したり、折に触れて解説を加えたりしています。私もこの漫画を読んで初めて知ったことがたくさんありました。

 もちろん分からない部分もあるはずで、そこは類推や想像で埋めました、とも書かれています。ただ考えてみれば、『演義』も含めて、すべて史書『三国志』の空白を埋める作業だったともいえます。もちろん、書き手によって埋め方はさまざま。その振り幅の大きさが、三国志の醍醐味です。

 ちなみに、高貴な出自ながら料理や化粧には興味がない、変わり者として描かれることが多い“ヨメ”の黄月英は、『孔明のヨメ。』では、当時の価値観から見れば規格外でも、孔明を懸命に支える一人の女性として描かれています。当時の女性としては珍しかった、学問や工作が好きなところがイキイキと描写されていて、孔明と同志のような関係です。

 私は、これはかなり真実に近い姿ではないかと思っています。孔明が作ったとされている武器や道具の中に、実は黄月英が発案したものが多く含まれているともいわれていますので。

偶像としての孔明をたたき壊す傑作

 同じく孔明を描いた作品では、小説『 泣き虫弱虫諸葛孔明 』(酒見賢一著/文春文庫)は、相当ぶっ飛んでいます。こちらも史実をベースにした全5巻の大著で、著者の中国史に対する造詣の深さが発揮されています。

『泣き虫弱虫諸葛孔明』(酒見賢一著)

 ただし、いわゆる大河歴史小説のような重々しさはありません。三国志に書かれていることを、酒見先生ご自身が現代人として解釈し、鋭いツッコミを入れながら進行する抱腹絶倒の物語です。

 そのため、孔明に対する見方にも容赦はありません。宇宙がどうのこうのとか、わざと意味不明なことを語って相手を煙に巻く、あやしげな人物として描かれています。劉備に仕える前の孔明が、無位無官で晴耕雨読の生活を送るなか、大言壮語を吐いていたとすれば、確かに信用できない人物ですよね。史実を読み解いてこういう描き方もできるのかと、私は斬新な孔明像に驚かされました。

 例えば序盤には、黄月英(同書では「黄氏」)が、やはり工作好きの妻として登場するシーンがあります。新婚間もない頃、孔明は訪ねてきた友人の徐庶と崔州平の前でさんざんのろけて見せた後、自家製のうどんを食べていくようすすめます。

 ところが、黄月英が台所に立って作る様子はない。2人が不思議に思っていると、実は台所では黄月英が工作した自動調理機がうどんを作っていたのです。

 ただ、いくら黄月英が道具作りの天才でも、西暦200年ごろにこのような機械が存在するはずはありません。酒見先生はこれを、実は人力だったと種明かしします。ふだんから家事全般を切り盛りしている孔明の弟の諸葛均が、機械のふりをして作業をさせられていたのです。孔明夫婦が友人の前でハッタリをかますために、とんでもない苦役を強いられていたというお話で、『泣き虫弱虫諸葛孔明』が、いかに変わった孔明像を見せてくれるのかが、お分かりいただけるのではないでしょうか。

 なお有名な「三顧の礼」の際、諸葛均はこの調理器でもう一度苦労させられます。孔明が留守のタイミングで訪れた劉備一行は、せめて孔明の部屋を見たいと家の中を歩き回ろうとします。応対した諸葛均は、それを必死に止めます。理由は以下の通り。

 台所には黄氏発明の自動調理器と木人のかぶり物があり、その他の部屋にも異様なものがごろごろしており、諸葛均は諸葛家のひみつや恥(と思っている)は誰にも見せたくないのであった。

 こういう調子で、デフォルメされた多彩な登場人物たちによる、史実ベースなのになぜか荒唐無稽なお話が全編にわたってつづられます。ついでに言えば、呉(ご)の人々はなぜか映画『仁義なき戦い』に出てくるヤクザのように、「~じゃけ」と広島弁を使っています。現代日本でイメージするならこんな感じじゃないか、という酒見先生のユーモアなのでしょう。三国志にあまりなじみのない方でも、肩ひじ張らずにスッと物語の中に溶け込めると思います。

文/島田栄昭 取材・構成/桜井保幸(日経BOOKプラス編集部) 写真/木村輝

 

『 諸葛亮(上)(下) 

伝説化された“天才軍師”の実像に迫る
乱世に生きながら清新さ、誠実さを失わない、今まで見たことのない諸葛亮がここにいる。宮城谷版『三国志』完結から10年、ついに待望の作品が紡がれた。

箱崎 みどり

ニッポン放送アナウンサー。1986年、東京都生まれ。ニッポン放送(AM1242/FM93)アナウンサー。気象予報士。東京大学大学院総合文化研究科(超域文化科学専攻比較文学比較文化コース)修士課程修了。論文に、「日中戦争期における『三国志演義』再話の特色」(『比較文学・文化論集』29号、2012年)、「日中戦争期のラジオ番組と中国理解――ラジオドラマ『音楽劇 三國志』を中心として――」(『三國志研究』第16号、2021年)など。著書に『愛と欲望の三国志』(講談社現代新書)。

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No.40 ★ 中国「融資平台」のオフショア起債に当局が待った 債務利払いの原資を割高コストで調達する矛盾

2024年01月29日 | 日記

東洋経済オンライン (財新 Biz&Tech)

2024年1月24日

地方政府傘下の融資平台の多くは収益性の低いインフラ建設などに巨額の投資を行い、資金繰りが悪化している(写真はイメージ)

「融資平台」と呼ばれる中国の地方政府傘下の投資会社は、厳しい資金繰りを乗り切るための新たな手法として、オフショア市場での起債を増やしてきた。ところが、この動きを金融監督当局が問題視し、融資平台の外債発行登録申請を受理せず、起債手続きが滞っていることが財新記者の取材で明らかになった。

当局が待ったをかけたのは、融資平台と中国国内の債券投資家があらかじめ申し合わせ、投資家がTRS(トータル・リターン・スワップ、原資から生ずる損益と金利を交換する契約)やQDII(適格国内機関投資家)などの手段を通じて国内資金をオフショアに持ち出し、融資平台が発行する高利回りの外債を購入するスキームだ。

表面金利8%の事例も

この手法で発行される外債は、償還期間が1年または3年で、主に香港やマカオで起債されている。一部の融資平台は、(会計年度の節目である)年末が近づくと債務の元利返済の圧力が高まり、相対的に発行が容易な1年物の外債をつなぎ資金の調達手段にしたのだ。

だが、融資平台はその対価として、国内市場よりも割高な利回りや引き受け資金の国外持ち出しにかかる手数料など、追加のコストを負担しなければならない。

中国の金融情報サービス会社、Windのデータによれば、山東省の融資平台の1つである威海南海投資発展が2023年12月29日に発行した総額3億1000万元(約63億円)の債券は、表面金利が8%に上った。

中国の中央政府は目下、地方政府の債務を包括的に整理し、新たな債券に「リパッケージ」する計画を進めている。地方財政の急激な悪化や資金調達ルートの目詰まりに直面する融資平台にとって、実質的な元本返済の繰り延べや金利負担の引き下げが期待できる政策だ。

融資平台が発行する外債は主に香港やマカオで起債されている(写真はイメージ)

だが、融資平台は既存債務の利払いという目の前の課題を抱えており、債務のリパッケージ化を待っている余裕がない。それゆえに、割高なコストを負担してまでオフショア市場での起債に走ったのだ。

各地の融資平台による外債の発行状況を見ると、山東省の融資平台の発行件数が最も多く、2023年8月以降だけで50本を超える。江蘇省、四川省、浙江省の融資平台も、それぞれ10本を超える外債を発行した。

コストは国内起債の約2倍

「金融監督当局は先日、融資平台に対して新たな資金調達を認めないと改めて強調した。外債を発行したくても登録申請を受け付けてもらえない状況だ」。山東省のある融資平台の資金調達担当者は、財新記者の取材に対してそう証言した。

当局はなぜ、融資平台の外債発行を問題視するのか。その根拠の1つは、融資平台の役割は(中国国内の)地方のインフラ建設などへの投資であり、海外事業とは本来無縁であることだ。

中国国内の債券市場では、新規起債の金利は4%を切る水準に低下している。そんななか、オフショア市場で約2倍のコストを払ってつなぎ資金を確保するのは、(本質的な問題解決を先送りするための)その場しのぎに過ぎないと言える。

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NO.39 ★ 中国、預金準備率0.5ポイント引き下げへ-他の措置も続けて公表

2024年01月29日 | 日記

Bloomberg News

2024年1月24日

人民銀総裁が発表、会見で預金準備率引き下げ表明は異例

  • 商業用不動産を担保にした融資を他の融資返済に充当も認める

中国人民銀行(中央銀行)の潘功勝総裁は24日、2月5日に預金準備率を0.5ポイント引き下げると発表した。資金供給を増やし、景気を下支えする。

  潘総裁は同日の記者会見で、0.5ポイントの預金準備率引き下げで1兆元(約20兆6000億円)相当の長期流動性が市場に供給されると説明した。

  人民銀総裁が記者会見で、先手を打って預金準備率の引き下げを明らかにするのは異例。通常は内閣に当たる国務院がまずその動きを示唆し、人民銀はウェブサイトを通じて発表する。しかし、今回は景気を巡る根強い懸念への政府の対応に失望が広がる中で、潘総裁が発表した。

  北京を拠点とする香頌資本のマネジングディレクター、沈萌氏は「預金準備率の引き下げをあらかじめ発表したことは、相場急落の歯止めに向けて有効な手段が他にないことを示唆している」と指摘する。

  市場の反応はまちまちで、アナリストらは春節(旧正月)連休前に流動性をならす意味合いが強いのではないかとみている。経済への広範なインパクトは限られる可能性もある。

   24日の香港株式市場で、中国本土銘柄から成るハンセン中国企業株(H株)指数は4%を超える上昇となった。一方、10年物国債利回りは1ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下の2.49%。その後、2.51%に上昇した。オフショア人民元は国有銀行がドル売りを行う中で、一時の下げを帳消しにした。

  人民銀は2023年に預金準備率を2回引き下げ、前回は昨年9月に下げていた。0.5ポイントの引き下げ幅は、過去2年の0.25ポイントより大きい。

  トクビル・ファイナンスのアジア株責任者、ケビン・ネット氏は「預金準備率引き下げはより断固とした行動に見えるという意味で、センチメントを下支えする」としながらも、「不動産市場の構造的な問題に対処する政策が強化されない限り、短期的な相場の持ち直しがあれば、出口の機会としてこれを利用する投資家もいるかもしれない」と述べた。

  潘総裁は米利上げが一段落する中で、今年は人民銀による金融政策を通じた景気支援の余地が広がると指摘。中国の金融リスクについては全般的に管理可能だとの認識も示した。

  農業部門や小規模企業向けの再貸し出しと再割引の金利を25日から引き下げるとも明らかにした。

  こうした発表の数時間後、当局は低迷する不動産と株式相場のてこ入れに向け、さらなる措置を発表。人民銀と国家金融監督管理総局は、不動産開発会社の商業用不動産を担保に実施した銀行融資を、他の融資の返済や債券の支払いに充てることを認めると共同で発表した。この措置は年末まで続けるとしている。

  中国本土と香港の間で金融投資を促進するための措置も公表した。

原題:China Ramps Up Stimulus, Market Rescue With Sudden RRR Cut (1)(抜粋)

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N0.38 ★ 中国 23年のスマホ出荷5%増、2年ぶりプラス

2024年01月29日 | 日記

NNA ASIA

2024年1月24日

中国工業情報省(工情省)傘下のシンクタンク、中国信息通信研究院(CAICT)が22日発表した2023年のスマートフォンの国内出荷台数は、前年比4.8%増の2億7,600万台だった。プラス成長は2年ぶり。新型コロナウイルス禍を受けた前年の数値の低さに加え、23年の夏から秋にかけて市場投入された新機種が販売を押し上げた。

23年に発売されたスマホ新機種は356機種で、前年から1.4%増えた。

スマホを含む携帯電話の出荷台数は6.5%増の2億8,900万台。同じく2年ぶりにプラス転換した。国内ブランドが占める比率は79.9%で、22年(84.2%)から下がった。

第5世代(5G)移動通信システム対応の携帯電話の出荷台数は11.9%増の2億4,000万台で、全体に占める比率は82.8%だった。

23年12月のスマホ出荷台数は前年同月比横ばいの2,683万6,000台。11月まで3カ月連続のプラスを記録していた。12月に発売されたスマホ新機種は42.4%減の19機種。

12月の携帯電話出荷台数は1.5%増の2,827万5,000台で、5G対応機種は4.2%増の2,420万台。国内ブランドは11.7%増の2,455万4,000台で、86.8%を占めた。

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No. 37 ★ 中国人の海外脱出が急増中!「潤」で日本移住→タワマン爆買い・インター入学する“新しい中国人”とは?

2024年01月28日 | 日記

DIAMOND online  (舛友雄大:中国・ASEAN専門ジャーナリスト)

2024年1月24日

写真はイメージです Photo:PIXTA

最近、街で中国人が増えたと思ったことはないだろうか?観光客ではなく、日本に住んでいる中国人だ。これは気のせいではなく、在留資格を得て日本に中長期滞在する中国人が増えている。さらに、中国人が増えているのは日本だけではない。今、続々と中国人が中国を出て海外へ移住しているのだ。どんな人たちが、どんな理由で中国を脱出しているのだろうか?(中国・ASEAN専門ジャーナリスト 舛友雄大)

中国人富裕層・知識人が、日本へ移住するケースが増えている

 ここ数年、従来とは違う、新しいタイプの中国人が日本へ移住するようになってきた。都内のタワーマンションを“爆買い”して話題になったり、インターナショナルスクールに子どもを入れたりと、中国人富裕層や、言論や表現の自由を求める知識人・文化人が、中国を離れ、日本に移り住むケースが増えてきているのだ。

 こうした経済的に余裕のある中国脱出組に特に人気なのが、外国人企業経営者向けの在留資格「経営・管理ビザ」だ。法務省が発表する在留外国人統計によると、日本でこのビザを保有する中国人は2022年6月に約1.4万人だったのが、2023年6月は約1.8万人になった。22%増というのは、これまでにない急な増え方である。

 経営・管理ビザは外国人が日本で起業するための在留資格を得られるビザだが、日経新聞などが昨年10月に「外国人の企業誘致へ要件緩和 出資金なしで2年滞在可能」と報じたように、2024年度にはさらに要件が緩和される見込みだ。そしてこのビザの取得者の約半数を、中国人が占めているのだ。

 中国人が海外へ移住する~これはいわゆる「潤(ルン)」と言われる動きで、今後ますます加速していくと思われる。さらにこれは世界的な現象で、中国人の脱出先は日本だけではない。今後、日本がこうした人々をどのように受け入れるのか考える上でも、世界の趨勢を把握することが不可欠だ。

「潤う」+「run(逃げる)」のダブルミーニング 習近平時代に増え、2022年の上海ロックダウンが後押し

「潤」とは、先進国など、より豊かな国へ移住することだ。「潤」の字を中国の発音表記(ピンイン)で表記するとrunであることから、原義の「潤う」と英語のrun(逃げる)でダブルミーニングとなっており、お金を稼ぐ(潤う)ために海外で働くというだけでなく、国内の状況悪化に伴い海外へ逃げ出すというニュアンスがある。

 本格的に流行するようになったのは、2022年に中国随一の国際都市・上海で厳しいロックダウンが実施されて以降だ。さらに、中国政治の集権化、経済減速が鮮明になってきたこともこの動きを加速させる要素となっている。また、「潤学」という言葉もあり、こちらは「潤」の考え方を体系的に学んだり、具体的な方法を研究したりすることを意味する。

 そんな「潤」の実態が垣間見えるのが、「潤学綱領」という、「潤」を実践する有志によってまとめられたサイトだ。

「潤は中国人にとって唯一の真の宗教であり、唯一の真の哲学といえる。それは物理的な救済を信じる宗教であり、その実質的な価値は、精神的な救済を追求するキリスト教徒に匹敵するものである。潤の人たちはまだ潤していない人たちを助けることを喜びとし、彼らを現実の『地獄』から救う」とうたう。

 その上で、中国15億人(筆者注:中国政府発表の人口は14億人あまり)のうち、年収12万人民元(約244万円)超が1億人ほどおり、そのうち約1000万人が「情報封鎖」を突破し、外部ネットワークにアクセスする条件を備えており、さらにそこから200万人の特権階級や既得利益者を除く800万人が潜在的な「潤」だと推計する。

政治体制で変わる中国人の国外流出状況

 実際、中国人の国外流出が鮮明になってきていることは国連の統計からはっきり読み取れる。

 中国への移民から中国からの移民を引いた合計純移動数は、2012年にはいったんマイナス12万4641人まで縮小しており、つまり流出は縮小傾向にあった。だが、習近平時代が始まって以降、流出増の方向に転じた。国家主席の任期を5年×2期、10年を上限とする憲法の条文を削除する憲法改正を行なった2018年には、マイナス30万近くまで急増し、コロナ禍で上海ロックダウンが起きた2022年にはさらに増えてマイナス31万を記録。そして2023年は前年を上回るスピードで流出が続いた。まさに「中国人は足で投票している*」と言ってもいい状況になっているのだ。

*足で投票する…自分が住みたい政治体制や国家の方向性によって、国内外に出たり入ったりすること。

 中国脱出の動きは資産家階級でも加速している。投資移住コンサルティング会社ヘンリー&パートナーズは、2023年6月に公表したリポートで、2023年、中国の富裕層(100万米ドル超の投資可能資産を保有)の国外流出は1万3500人で世界最多になると予測した。

金持ちか、逆に貧しいか……「潤」をする人々にもヒエラルキーがある

 そんな「潤」の形態は多種多様だ。

 日本に移住してきたばかりのメディア関係者の郭さん(仮名)は、「日本には移民国家のイメージはないが、意外に入りやすい。ただ移民に関連する情報を希望者自身で収集するのは難しく、独自の情報源が必要だ」と語る。確かに、私が接触した多くの「潤」の人々は、移民コンサルやSNSの情報で糸口をつかんだ人が多かった。

 郭さんによると、「潤」する人にもヒエラルキーがあるという。大富豪は脱出する方法がさまざまあるが、最も悩みが多いのは、ある程度資産があり、かつ今後の現地社会での収入源を考えなければならない中流階級なのだそうだ。ヒエラルキーの最下層は逆に選択肢が限られており、“バックパック一つで出て“いけばいいので、悩む必要はないと解説する。

自分の足で歩いて中米数カ国を抜け アメリカへ入国する「走線」ルート

 その最下層が主に選ぶのが、「走線」と言われるルート。日本語では「徒歩でいくルート」といった意味になる。一番有名なのが中米から数カ国を経て、最終的にメキシコ国境からアメリカ入りするルートだ。今や、YouTubeやSNSで「走線」の経験をシェアする人も増えており、専門のコンサルさえ誕生している。

 BBC中文版は1年前に、この「走線」について詳報している。

 コロナがまだ猛威を振るっていた2021年夏にこの路線でアメリカへ脱出した、武漢出身で「90後(1990年代生まれ)」の楊金(正しい漢字は「金」が3つ)さんを取材した記事だ。もともとカメラマンで、コロナに関係する撮影をしていたところ、公安によって派出所に連行され、殴打されたことで脱出を決意したのだという。中米に渡った楊金さんが、一番つらかったと話すのは炎天下の密林地帯。雨にさらされたり、夜には気温が急に下がって寒くなったり、足には虫にかまれた痕が無数にできたり……と大変な困難の末にアメリカへ脱出した。アメリカで暮らすようになってからも配達員の仕事に就くなど苦労の絶えない楊さんだが、「ここに来たことを後悔していません。中国にいた方が後悔したでしょうね」と語っている。

 実際、米国税関・警備局によると、2023年1月~9月にかけて、米南西部国境から不法入国した中国籍の人々は2万4000人超おり、前年の11倍以上の急増となっている。

シンガポールやタイへ東南アジアでも「潤」は増えている

 日本やアメリカだけではない。「潤」の動きとしてはシンガポールやタイへ移る動きも活発化している。

 シンガポールはコロナに関する入国規制をいち早く撤廃したこともあり、中国人の脱出先として注目を集めた。中国人が高級コンドミニアムなどを「爆買い」するケースが相次ぎ、現地で家賃上昇の一因ともなった。そんな中、シンガポール政府は2023年4月に、不動産を購入する際の印紙税を引き上げ、外国人に適用される税率は従来の2倍の60%とした。この政策が導入されて以降、中国人による「爆買い」はようやく一段落した。その他にも、中国からシンガポールへカネが流出する動きを反映して、超富裕層向けに投資や税務などを一括で取り扱うファミリーオフィスの数が2020年の約400社から2021年には約700社へと急増した。

 他にも、タイ北西部に位置するチェンマイには中国人知識人のコミュニティーが誕生しており、著名作家の野夫氏などが滞在している。また、タイ在住の中国人事情通によると、まず到着ビザでタイ入りし、その後トルコを経由して、脱出する方法が一時期確立していたものの、最近では「潤」と分かると搭乗拒否に遭うケースも出てきたとのことだ。

 去年東京に移住してきたばかりの40代の中国人男性は「トルコや小国のパスポートを買う人もいます。CRS(共通報告基準、加盟各国の徴税機関が相互に自国民の銀行口座の取引記録を閲覧できる制度)非加盟国だと脱税ができますし、コロナ期には自由に出入りできる安心感を求めてマルタなどで生活する人がいました」と話す。

 さらには、北朝鮮からの「脱北者」さながらの現象も起きるようになってきている。2023年8月、30代の中国人男性活動家が水上バイクで中国を脱出。山東省から黄海を隔て、320キロメートル離れた対岸の韓国・仁川の海岸にたどり着くという事件が起きた。

 ゼロコロナ政策が引き金となり、中国のあらゆる階層で、「海外で自由に動けるベースを確保する」ことが最重要課題となってきている。「潤」は世界各地で同時に起きている一大潮流なのだ。中国、そして世界各国の状況を踏まえつつ、日本はどのように彼ら彼女らと向き合うのか。本格的に議論すべき時がやってきているといえそうだ。

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