「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.277 ★ 中国・子供服の一大生産地で働く若者の青春模様   ワン・ビン監督作品、映画『青春』

2024年04月20日 | 日記

 

東洋経済オンライン (壬生 智裕 : 映画ライター)

2024年4月19日

映画『青春』監督:ワン・ビン/配給:ムヴィオラ/215分/4月20日(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開(©2023 Gladys Glover House on Fire CS Production ARTE France Cinéma Les Films Fauves Volya Films WANG bing)

世界的なドキュメンタリー作家として知られるワン・ビン監督の最新作は何と3時間35分と長尺だ。

だが代表作『鉄西区』は9時間5分、『死霊魂』は8時間26分にも及び、ワン作品が長尺なのは実はそれほど驚くべきことではない。彼の作品を見終えた後の心地よい疲労感と映画的興奮は唯一無二だ。

名もなき若者たちの青春模様

本作の舞台となるのは、上海を中心に長江下流一帯に広がる「長江デルタ地域」。ここだけで中国全体の国内総生産(GDP)の約4分の1を占めており、日本のGDPをはるかに超える。

しかし本作が主眼としているのは、そんな華やかな経済成長物語ではなく、子ども服の一大生産地として知られる織里鎮の衣料品工場で働く名もなき若者たちの青春模様。そのほとんどが近隣の貧しい農村からの出稼ぎ労働者だ。彼らはドドドッと、けたたましいミシンの音が鳴り響く中で働いている。

彼らの仕事は出来高制で、賃金は6カ月ごとにまとめて支払われる。だが後払いであるゆえ、仕方なく前借りをする者もおり、その分手取りも少なくなる。

そこで若者たちは工場の社長に賃上げ交渉を行う。だが納期直前というタイミングの悪さで、「社長の俺に指図するのか」「頭がおかしいのか」とぶち切れられ、「そんな言い方しなくても」と話は平行線だ。だが、自由に言い合える環境があるともいえる。

長時間にわたり単純作業を続けている彼らは、その時間をやり過ごすために冗談を言い合ったり、異性にちょっかいを出したり、音楽を聴いたり、ばか騒ぎをしたり。時にはけんかをしてしまうことも。

もちろん若者なので、恋模様もあふれている。好きな子の気を引こうと必死な者もいれば、気持ちがすれ違ってしまう恋人たちもいる。カメラはそうした若者たちの日常をじっくりと冷静に観察している。

ワン監督は、そんな若者たちについてこう説明している。「彼らはそうやって時間を潰し、正気を保っている。これが彼らにとっての、与えられた状況に対処する方法、現状を何とか耐えられるものにする方法なのです」。

だが本作で描かれる若者たちの、画面からあふれんばかりの生命感とみずみずしさはいったい何なのだろうか。それは驚くほどにパワフルで、画面から目が離せなくなる。

注目の映画監督
ワン・ビン

2002年、中古のデジタルビデオカメラでつくりあげた『鉄西区』が、ベルリン国際映画祭をはじめ世界各国の映画祭で上映され、その革新的なスタイルで世界に衝撃を与えた。その後も『鳳鳴 中国の記憶』『無言歌』『死霊魂』など次々と意欲的な作品を発表。中国現代史が目を背けてきた部分や、他者が目を向けないような社会的弱者の声に耳を傾ける作風のインディペンデント作品であり、中国国内ではほとんど一般公開されていない。

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