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自動車学

クルマを楽しみ、考え、問題を提起する

レガシィワゴン2.0GT DIT 試乗記 その1

2012-12-06 04:05:33 | クルマ評


 今まで僕は現行BM/BR型レガシィに少なからず失望していた。良く表現すればおっとりとしていて穏やかな性格、なのである。しかしこれを正直に悪く表現すると、キレの無い走り味、といった感じであった。やたらとクイッ、クイッと曲がるところはレガシィらしさが残っていたのだが、それ以外はもうレガシィだかトヨタのクルマだかわからないようなクルマになっていたのだ。以前に僕はこの自動車学の中で『この先レガシィを買うことはもう無いと思う』と言ったことがあったが、それはこういう理由があってのことだった。
 すべてはボディが大きくなってしまったせいだろう。レガシィはもはやかつてのレガシィではない。
 そんなふうに僕は勝手に解釈していた。だから今回の新型レガシィワゴンDITもそれほど期待はしていなかった。

 ところが、である。いざ試乗してみるとこのレガシィワゴンDITの走り味はそれまでのBM/BR型レガシィとは全く別のクルマかと思うほどに進化していたのだ。もはやキレの無い走り味、などどこにも存在しない。
 レガシィが帰ってきた!
 これが試乗を終えた僕の、率直な感想である。

 まずはなんといってもエンジンだ。このDITに搭載されているFA20直噴ターボエンジンは、300psのパワーと40.8kg-mものトルクをたたき出している。その加速は強烈なもので、これまでのEJ25ターボ(285ps、35.7kg-m)とは比べものにならないくらいすさまじい。おまけにEJ25ターボよりもスムーズで静かである。レッドゾーンは6000回転、と決して高回転までブン回るエンジンではないのだが、いくら高回転型エンジンが大好きな僕でもこの圧倒的な加速力とそのスムーズさを味わうとそんなことはどうでもいい、と思ってしまう。久しぶりにワクワク、ゾクゾクするエンジンだった。さらに特筆すべきはその燃費の良さで、これほどのハイパワーエンジンであるにもかかわらずJC08モードで12.4kmを記録している。ちなみにEJ25ターボは10.2km。従来のEJ25ターボエンジンを搭載した2.5GTも引き続き販売されているが、もう必要は無いだろう。

 余談だが、このFA20ターボの直噴システムはBRZ/86のFA20のものとは異なり、スバルが独自に開発したのだそうだ。自前で開発ができるのなら、BRZ/86のFA20もトヨタのものではなく自前のシステムを使えばよかったのに、と思ったのだが、そこにはトヨタ側からの「うちのを使え!」というゴリ押しがあったのではないだろうか。せめて直噴システムくらいはトヨタの技術を使わないと、『共同開発』という言葉が成り立たなくなってしまう。トランスミッションだけがトヨタ、というのではトヨタ側が納得しなかったのではないか。
 これはあくまでも想像なのだが、FA20ターボの完成度の高い直噴システムを味わっているうちに、ふとそんなことを考えてしまった。

 次回へ続く

BRZ試乗記

2012-04-19 17:54:52 | クルマ評

 先週、スバルディーラーから「BRZの試乗をしませんか?」とわざわざ電話がかかってきた。僕はもちろんふたつ返事で了承し、土曜日に試乗と決定。だがあいにく土曜日はどしゃぶりの雨。僕は天気を恨めしく思い、同時に普段の行いが悪いのかな・・・などと考えてしまった。
 しかし、この雨がBRZの思わぬ問題点を発見することになる。

 試乗したのは最高級グレードのSで、6速MT仕様。ボディカラーは黒だった。ボディデザインは相変わらず好きにはなれないが、それでも写真で見るよりはだいぶカッコいい。雨が降っているのでそそくさと運転席に乗り込むと、トヨタ2000GTをイメージしたデザインのダッシュボードが目に飛び込んでくる。これもあまり好きではないが、やはり写真で見るよりは実物のほうがいいと感じた。身長172cmの僕がシートポジションを決めると、リアシートのレッグスペースはごくわずかである。リアシートの居住性に淡い期待を抱いていた方は現実を思い知らされることになるだろう。FC3SのRX-7のリアシートよりはマシ、といった程度のスペースしかない。

 走り始めると、紛うこと無きスバル車であることを実感する。それは水平対向エンジンからだけではなく、例えば足回りからもそういう印象を受ける。基本的にはレガシィやインプレッサと共通の足回りだからだろう。とはいえBRZのものはフロントのロアアームの形状を変えているし、リアはサブフレームの構造とナックルの形状、そしてアームの取り回しなどを変えている。よりダイレクト感と横剛性の向上を目指したのだと思う。特筆すべきは意外にもその乗り心地の良さである。乗る前はガチガチに固い足回りを想像していたのだが、いざ乗ると拍子抜けするほどしなやかな足回りだった。決して柔らかいわけではないのだが、それでも路面の凹凸をよくいなしている。STIのスプリングを付けている僕のレガシィよりも乗り心地がいい、と感じるほどで、これなら例えば助手席の彼女から文句が出ることもないだろう。

 エンジンはFA20と呼ばれるもので、トヨタの直噴システムが組み込まれたものである。今回は遠慮して5000回転ほどしか回さなかったのだが、とても軽やか、かつスムーズに回転を上げていく。低速でのトルクもあり、全体的にこれまでのEJエンジンよりも進化していて次世代エンジンなのだなと実感させられた。試乗車の走行距離は1100kmほどだったが、これが一万キロほど走るとさらに軽やかに回るようになると思う。富士重工のエンジンは耐久性を考慮してか、当たりが付くまでにやや時間がかかる場合が多い。僕のレガシィもサンバーも一万キロを超えてから見違えるように軽やかに回るようになったのである。オーナーになった方は焦らずにならし運転をしてほしいと思う。余談だがフォルクスワーゲンの初代ビートルの水平対向エンジンは、そのあまりの耐久性の高さゆえに『十万キロで当たりが付く』という笑い話があったほどだ。この耐久性の高さは水平対向エンジンの特徴ともいうべきもので、長持ちするエンジンの代償だと思えばならし運転という我慢もたいして苦にはならないだろう。この話は以前の『水平対向エンジンの話』のところでしておけばよかった・・・

 6速MTはアイシン製のレクサス用のものがベースとなっている。僕のNA8Cロードスターもシフトストロークが短いほうだが、このBRZの6速MTはさらにショートストロークでちょっと驚いた。加えてシフト操作自体も極めてスムーズである。ただ、あまりにスムーズ過ぎて直接ロッドやシフトフォークを操作している、という感触が乏しく、なんだかリモコン操作でギアチェンジをしているような感じがしてしまった。ここらへんは好みなのだろうが、僕はもう少しコクッ、コクッという手ごたえがあったほうがいい。

 一般道のほかにちょっとした峠道も走ってみたのだが、レガシィやインプレッサよりも深く落とし込まれたエンジンの効果がこの時まさに真価を発揮した。それほど固くない足回りにもかかわらず、コーナーでほとんどロールを感じない。低重心のためにまさに路面にへばり付くように走るのである。逆に言えば、低重心であるからこそ足回りをガチガチに固くする必要が無かったのだろう。ともかくこの低重心ぶりは誰が乗っても実感できるもので、富士重工がやたらとうたい文句にしている理由がよくわかった。重量バランスの良さも相まって、コーナーでのこの走り味はBRZ/86でなければ味わえない独特の世界がある、と言ってもいいと思う。

 しかし、である。この純正のタイヤはなんとかならないのか。Sに純正装着されているタイヤはミシュランのプライマシーHPというタイヤでサイズは215/45R17というものだが、このタイヤ、ウェット路面では全くと言っていいほどグリップしない。冒頭に「雨で思わぬ発見をした」と述べたが、それはこのタイヤのことである。
 このプライマシーHPというタイヤはとにかくだらしない。雨の峠でちょっと飛ばすだけでも簡単に音を上げてしまうのだ。ちょっとコーナーに突っ込むだけでフロントタイヤがズルズルと滑り出す。滑りを止め、コーナー出口に向けてアクセルをわずかに踏めば、今度はリアタイヤがズルズル・・・といった具合。ドリフト命、のおにいちゃんなら面白い!と思うのかもしれないが、僕には全く面白くない。滑り出すレベルが低すぎる。だいいち大した速度も出ていないのにこのありさまでは危険ではないか。このタイヤ選択は間違っている、と言いたい。なぜこんなしょぼいタイヤを純正装着したのか。まさか雨中のテストをしなかったわけではないだろう。それともテストをした人がこれが面白い!とでも思ったのか。トヨタの意見、という可能性もある。トヨタが『なにせ86だから、ドリフトしやすいクルマにしたい』とでも言ったのだろうか。真相はわからないが、はっきり言って雨の峠ではこのBRZ/86よりも僕のロードスターのほうがはるかに速い。
 しょぼいタイヤのせいでBRZの足回りの実力を体感することはできなかった。それでも、タイヤの滑り出しがとてもよく把握できるということは足回りの素性がいい、ということになるのかもしれない。いずれにしてもBRZ/86のオーナーの方は雨の峠では飛ばさないほうがいい。それなりに飛ばしたいのなら、まずはタイヤ交換をするべきだ。

 BRZ/86の問題点はこのタイヤである。もしタイヤがポテンザやアドバンだったら、このBRZ/86の魅力は格段に増すことになるだろう。

富士重工業の名車、サンバー

2012-03-02 01:56:21 | クルマ評
 先日、スバルサンバーがその長き歴史に幕を閉じた。僕は富士重工業を代表するクルマはレガシィではなく、このサンバーであったと思っている。
 
 サンバーは独創性の固まりのようなクルマである。ラダーフレームを持つ強固なボディ、リアエンジンレイアウト、四輪独立サス、四気筒エンジン。これらはみな軽商用車では唯一のメカニズムであり、なおかつ四気筒エンジン以外のメカニズムは実に51年間も守り続けてきた。これほど製造コストをかけた軽商用車は今までも、そしてこれから先も存在することはないと思う。

 ジムニーのところでも述べたが、ラダーフレームを備えている理由は負荷に対する強度が優れているという点にある。軽商用車の最大積載量は350kgと決められているのだが、恐らくサンバーはキャパシティに相当な余裕があると思っていい。それにしても、わずか百万円そこそこの軽商用車であるサンバーがコストのかかるラダーフレームを備えているというのは常識では考えられないことだ。なにせあれほど高価なハイエースでさえ、単純なモノコックボディなのである。

 リアエンジンである一番大きな理由は、やはり初代サンバーがスバル360をベースに開発されたからだろう。それでも、そこから51年間も変わらずリアエンジンにこだわり続けたのにはわけがある。まずは前後の重量配分だが、例えばサンバーバン2WDのスーパーチャージャーAT仕様でフロント荷重が450kg、リア荷重が460kgとほぼ完璧な50対50となっている。その誤差がわずか10kgなどという数値は、僕はサンバー以外のクルマでは見たことが無い。
 この完璧な重量配分からくるバランスの良さは、様々な場所で真価を発揮する。例えば雪が積もった道での坂道発進。エブリィやハイゼット、ミニキャブは人もエンジンもフロント荷重になるためにリアが極端に軽く、このためトラクション不足からホイールスピンを起こしやすい。逆にフルブレーキング時には今度はリアタイヤがロックしやすくなるのである。当然重量配分に優れているサンバーならそんなリスクははるかに少ない。もっとも、他の軽商用車も後ろに荷物を積んでいればどちらも軽減するだろうが、そのために常時荷物を積んで走るというわけにもいかない。
 次に静粛性でも大きなメリットがある。サンバーはエンジンと運転手との距離が他の軽商用車と比べて一番離れているために静かなのだ。特に60km/hくらいになるととても静かになる。さらに荷物を満載している時などは、とても軽商用車とは思えないほどだ。ある赤帽の運転手の方は、サンバーは静かだから長距離を走っても疲れない、と言っていた。確かに騒音は疲労度に大きく影響してくるものである。

 四輪独立サスは安定性に大きなメリットがある。全幅に対してあれほど全高が高いにもかかわらず、コーナーで思ったほどロールは少ない。加えて四輪の接地感が比較的しっかりしているために恐怖感はなく、むしろ面白さを感じるほどだ。思えばスバルのクルマはすべて四輪独立サスだったのだが、そこには強いこだわりがあったのだろう。

 実は一年ほど前に僕はサンバーを買った。生産終了となる前にどうしても欲しくて、それまで乗っていた下駄代わりのワゴンRを処分して購入したのである。前述したサンバーバン2WDのスーパーチャージャーATとは僕のクルマのことだ。本当はマニュアルが欲しかったのだが、共同で使用する家族の猛反対に遭い、しかたなくATにした。これがマニュアルだったら、と今でも乗るたびに残念に思う。そう思わせるほど、サンバーは乗っていて楽しい軽商用車である。四気筒エンジンはスムーズによく回り、おまけにスーパーチャージャー付きだからトルクがある。四輪独立サスと相まって実に活発によく走るのである。
 加えてキャブオーバー型のボディのために荷室がライバルと比べて広いのもいい。サンバーバンはデカいバイクも載るのである。僕はバイクも趣味だからバイクを売ったり買ったりと運ぶこともあるためにこいつはとてもありがたい。キャブオーバー型で不安になるのは衝突安全の面なのだが、JNCAPが実施した2010年度の自動車アセスメント評価によるとサンバーは運転席、助手席ともに6段階中3という成績だった。例えばスズキエブリィの運転席4、助手席6という成績よりは低いが、ホンダバモスはサンバーと全く同じ成績で、両席ともに3である。これを見てわかるようにサンバーはキャブオーバー型でありながらそれほど悪くない成績だ。その理由はやはり強固なラダーフレームを装備しているからこそなのだろう。
 
 数年前まで僕は軽商用車なんてどれも同じで、みな退屈なクルマばかりだと思っていた。そんな僕にサンバーの優秀さを教えてくれたのは岡山に住む短大時代からの親友である。仕事に使用している彼のサンバートラックは車高を落とし、ワイドな鉄チンホイールを履き、エンジンは赤帽仕様、マフラーは自作のスーパートラップ、というとてつもないもの。そんなに楽しいクルマか?と僕は冷めた目で見ていたのだが、いざ所有すると彼の気持ちがよく分かった。楽しいクルマで、楽しいからこそいじりたくなる。彼のサンバーには足元にも及ばないが、僕もあちこちをいじっている。できれば僕も赤帽仕様のチューニングエンジンを入手したいな。
 

トヨタを潤すクルマ、ハイエース

2012-02-01 03:27:08 | クルマ評
 トヨタを潤すクルマ、逆に言えば買う側にとって割高なトヨタ車とは何か。それはズバリ、ハイエースである。

 ラダーフレーム構造ではなく単純なモノコックボディ。技術的な特徴があるわけでもなく、凝った足回りでもなく、おまけにハイテク装置もいっさい無し。これで最も安いモデルで184万円である。おまけにモデルチェンジサイクルも長く、前モデルのH100系は都合15年も作られた。トヨタは恐らく笑いが止まらないだろう。
 エンジンもこれまた金がかかってない。現行H200系のエンジン、あるいは旧H100系の1KZというディーゼルエンジンはそれなりに評価できるエンジンだが、それ以外は閉口してしまうようなエンジンばかりだった。特にH100系に載せられていたL系ディーゼルエンジンは性能うんぬん以前にエンジン自体の出来が悪く、すぐにぶっ壊れる。なかでも印象的だったのは、僕がまだクルマの仕事をしていた時に遭遇したエンジンブロックにこぶし大の風穴が開いた3Lエンジンのハイエースである。走行距離はまだ四万キロのエンジンだったのだが、そのこぶし大の風穴からはコンロッドがビローンと飛び出し、付いているはずのピストンはコンロッドのスモールエンドとともに跡形も無い、という悲惨な状態。恐らくクランクピンとコンロッドのビッグエンドが焼き付いたためにピストンがエンジンブロックを突き破ってしまったのだろう。しかし走行距離が四万キロでここまで派手に焼き付くか、普通。
 当時はこれ以外にも2Lや2LターボなどL系エンジンはみな様々なトラブルが多発し、このため中古エンジンが品薄となり価格も高騰していた。こんなエンジンなのに、トヨタは3Lの後に平然と5Lまで登場させたのだから驚く。ここまでくるともはや商売上手、などというレベルではなく、むしろ犯罪に近い。聞くところによればハイエースは丈夫で長持ちする、などという話があるらしいが、いったい誰がそんなデマを言い出したのだろう。ひょっとしたらトヨタ自身か?
 それでも現行H200系ハイエースはだいぶ出来が良くなった。乗り心地やステアリングフィールもだいぶ改善したし、なにより静かになった。H100系はおしりの下でエンジンがギャーギャー、ガラガラとうるさかったものだ。僕が乗ったのは1TRと呼ばれる2リッターのガソリンエンジンだったが、低速のトルクの厚みも静かさもこれまでのハイエースのガソリンエンジンとは比べものにならないほどである。ディーゼルエンジンの耐久性も間違いなく向上しているだろう。ただ、標準ルーフ仕様はヘッドクリアランスが不足気味なのが気になる。身長172センチの僕でも頭上にはあまり余裕が無く、乗っているとかつてのカリーナEDを思い出してしまった。身長が高い人はミドルルーフかハイルーフを選んだほうがいいかも知れない。
 良くなったとはいえ、それでもやはり価格が高い。最低が184万円は百歩譲ってまだいいとしても、スーパーGLになると価格が一気に80万円も跳ね上がる。いくらなんでもこれはヒドイ。日産のキャラバンも同じような価格設定だが、こちらは5速ATが奢られているぶん、まだマシだろうか。しかも歴代キャラバンはみなハイエースよりも耐久性は上である。それでも、カッコで選ぶなら断然ハイエースだろう。だからこそハイエースの販売台数はキャラバンを圧倒しているのだ。もはや一人勝ち状態のハイエースによって、トヨタは更に潤っていく。

 実をいうと僕は現行ハイエースを買おうとしたことがあった。仕事で荷物を運ぶことがあるし、バイクも積める。ハイエースを買ったらレーシングカートでもやろうかな、なんてことも考えた時期があった。結局その法外な価格のためにあっさりと諦めたのだが、僕の場合はまだいい。仕事でどうしてもハイエースかキャラバンが必要、という人にはつらい価格設定である。
 

 

ジムニーという偉大なクルマ

2012-01-25 03:20:32 | クルマ評
 スズキの軽自動車SUVであるジムニーが登場したのは1970年。もともとはホープ自動車(現ホープ)のホープスターON型4WDというクルマがルーツになる。ホープ自動車が自動車生産から撤退することとなり、この時スズキがホープ自動車からON型4WDの製造権を購入する。そしてこのON型4WDをベースとして初代ジムニーが誕生することになるのである。
 ジムニーというクルマは初代が誕生して以降、基本的な成り立ちは不変のまま実に四十年もの長きに渡って生産され、世界中の人々に愛用されている。まさに世界に誇る日本の名車である。偉大なクルマだと僕は思う。
 
 ジムニーは軽自動車ながら、ずっと本格的なSUVであり続けている。ラダーフレームを持ち、副変速機付きのトランスファーを備え、サスペンションは前後ともリジッドアクスル、という仕様である。ラダーフレームを備えたボディはモノコックボディよりも重くなる半面、負荷に対する強度で優位に立つ。副変速機付きのトランスファーはフラットなダートなどの時に使用する4WDと大きな駆動力が必要な時に使用する低速用4WD、そして2WDの三種類に切り替えることができる。リジットアクスルは岩などに乗り上げても反対側のタイヤを地面に押し付ける効果があり、またアクスルをヒットしてもドライブシャフトが折れにくい。これほどヘビーデューティーな作りはもはや世界的に見てもトヨタのランドクルーザーとこのジムニーくらいなものだろう。現在世界的にSUVブームが続いているが、そのほとんどが乗用車から派生した軟弱なSUVばかりなのである。それらのSUVは姿かたちは似ていても、その性能差は雲泥の差だ。かつてトヨタセリカのキャッチコピーで『名ばかりのGTは道を開ける』という名文句があった。これはサニーをベースにして作られた当時の日産シルビアを揶揄するものだったが、ジムニーはまさに『名ばかりのSUVは道を開ける』というキャッチコピーがふさわしい。とにかくその悪路走破性は想像の範囲を超えている、と言ってもいいほどだ。

 僕は以前オフロードバイクであるホンダのXLR250というバイクに乗っていて、仲間3、4人とともに林道をよく走っていた時期があった。ある日、僕はその仲間のひとりとともに無謀にも雪解けで泥路となっている林道に入っていったことがある。最初は快調に走っていけたのだが、しだいに林道は勾配がきつくなり路面はグチャグチャで最後は二台ともスタックして立ち往生。足場もおぼつかないような急勾配の泥路の中、二人してウーン、ウーンと言いながらスタックしたバイクを押していると、後ろからクラクションを鳴らされた。
 振り返るとジムニーが四台。僕らがスイマセンと頭を下げ、ヨイショ、ヨイショとバイクを引きずりながら脇へ寄せると、ジムニー軍団はプッ、とクラクションを鳴らして泥路の中を何事もなかったかのように発進。そのままさらに上へ登って行ってしまった。
 僕のXLR250や友人が乗っていたXR250というバイクは、いわばオフロードバイクの代表格ともいえるもの。しかしジムニーはそんな二台のバイクをまさに圧倒するほどの性能差を見せつけて去っていった。悪路ではどんなクルマよりもオフロードバイクのほうが走破性は上だと考えていた僕にとって、その光景は衝撃的ですらあった。

 ごく普通の人が考えるいいクルマ像、例えば乗り心地がいい、燃費がいい、室内が広い、豪華、といった項目はすべてジムニーには当てはまらない。しかしジムニーはその気になればどこにでも行ける、というたったひとつだけの項目を四十年間ひたすら磨き続けてきた。その骨太な理想と潔さは純粋なスポーツカーと通じるところがある。