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新潟県中越地震に寄せて ~ 新しい約束 / Promised Land

2004年10月24日 22時46分09秒 | 想在
 十月二十三日、土曜日の夜。 身体で感じるはげしい揺れが、三回。

 そのとき、青山にいて、ビルの地下で、友人と呑んでいた。 地下にいると、気持ち悪いくらい妙な揺れ方をして、もし、上の階がくずれて、生き埋めになったら、どうしよう ... と、恐怖心を煽られた。

 なんとなく、胸騒ぎがしたのだけれど、まさか、大変な被害に遭われた地域もあるほどの大地震だったとは ... 。

 その晩、わが友人 (というか彼) からメールが入った。

 「さっきの地震の影響で、混線してるのか、電話がつながらない」 と。

 仕事を終えて、会いに来ようとしていたらしいのだ。

 私は、午後十時くらいに帰宅して、彼にわが家まで来てもらった。

 そして、テレビの映像に、ふたりで、くぎづけになった。

 (テレビは、ここ数年、ヴィデオ観賞用としてしか使っていないので、テレビ番組を観るのは、ひさしぶりだった)

 ふと、阪神大震災のときのことを思い出す。

 当時付き合っていた彼と、同じようにテレビの映像に喰い入っていたことを。 神戸に身内がいるので、肝を潰すような思いでいたところの、身内の無事を確認できた、あのときのうれしさと言ったら。

 元・彼は、「もし、東京にも大地震がきたら、どうする?」 とたずねてきた。

 「どうしよう?」 と、私。

 「きっと、おれんちは、崩壊するな」 ―― 元・彼は、築十年くらいの分譲マンションにご両親といっしょに住んでいた。

 「タッちゃんの家が崩壊するなら、うちもそうだよ。 っていうか、東京は全滅しちゃうのかも」 ―― 私は、六階建てで、一フロアに二家しかない、小ぢんまりとしたビルの一部屋で、一人暮らししていた。

 「もし、もしさ。 東京が大震災に遭って、お互いの家がなくなっちゃって、連絡が取れなくなったら、**川の土手で、待ち合わせしようか?」 と、元・彼は、言った。 **川というのは、私たちが住んでいた街の近くにある、大きな川で、私たちは、その前の年、いっしょに、その河川敷で花火を見たことがあったのだ。

 「万が一のことがあっても、**川に行けば、会えるのね」

 「そうだよ。 どんなことがあっても、**川で、必ず会おうね」

 私たちは、指切りをした。 なにがあっても、きっと、ふたりの思い出の場所で会おう ... と。

 まだ、学生だった私たち。 考えてみると、なんという幼い約束なのだろう ... 。

 それから、月日は流れて、私たちは、別々の道を歩むことになり、この約束は、事実上無効となった。

 もちろん、この約束が果たされないこと = 震災が訪れないこと、が、なによりではあるが、約束が、その意味を失ってしまったのだ。

 遠い遠い、彼方へ、風に吹かれて、飛んでいってしまった。 二人をつなぐ糸がぷつりと切れて、まるで凧のように、空の彼方へ消え去っていってしまったのだ ... 。



 今日、ふいに、私は、現在の彼に、九年前、元・彼に訊かれたのと同じ質問をしてみた。

 「もし、東京に、大地震がきたら、どうする?」

 「ひとたまりもねえな」 と、ひとこと。

 「ねえ、もし ... 、もしもだけど、大震災に遭って、お互いに連絡がとれなくなったら ... 」 と、私が言いかけると、

 「そのときは、そのときだよ」 と、あっさり。

 「ええと、どこかで、待ち合わせする?」 と、私が、おそるおそる訊ねると、

 「どこかって?」 と、彼は、ぽかんとして、訊ね返してきた。

 「んん~、たとえば、川原とか ... 」

 「川原ねえ。 この辺、川原なんかないしなあ。 あっても、堤防が決壊して、水浸しになってるかもよ?」

 「ああ、じゃあ、どこか広い公園は? ###さんちの近くにある?」

 「うちの近所じゃ、*** (筆者の名) が、来るのが大変だろ。 あそこでいいじゃん」 ―― 私の家の近くにある、広い公園のことを言った。 そこには、二人で、よく出かけているのだ。

 この待ち合わせ案、彼にはあまり興味がないのかな ... と思っていたところ、どうやら賛成してもらえたのかと思って、うれしくて、

 「じゃあ、なにかあったときは、○○公園で、会いましょうね」 と、喜び勇んで言ったら、

 「行けたらね」 と言われてしまった ... 。

 そのとおりだ。 行きたくても、行けない状況だってありえるのだ。 生きてさえいれば、いつか会えるかもしれないけれど、万が一、ということだって、ありえるのだから ... 。

 これが、九年の歳月というものなのだろうか。

 九年前、私たちは、じぶんたちが死ぬ、なんてことを考えたことすらなかった。 どんなことがあっても、きっと生き延びれる、と。

 そして、私たちは、幼い、無邪気な約束を交わした。 守り通すことのできなかった約束を。

 そんな約束を、九年後、もういい年とも言える年齢になって、ふたたび交わそうとするなんて ... 。

 じぶんが、ほんの少し、情けなくなった。

 内心、しょんぼりしつつも、そのあと、二人で用事を済ませに、出かけた。





 予想外に用事があっというまに済んでしまって、途方に暮れてふらふら歩いていたら、スーパーの一角に、たい焼き屋さんがあるのを発見。 どうやら、『銀だこ』 屋さんのたい焼きのようで、もの珍しかったから、買ってみることにした。

 (私の家の近所にも、『銀だこ』 屋さんはあるが、たい焼きは売られていない気がする ... 。 それとも、私が気がついていないだけだろうか ... )

 見てみると、たい焼き、なにげに大きい。 あんこもはみ出している。 とても、一人一個は食べられそうもないので、二人でひとつを半分こすることに。 でも。 たい焼き一個だけ買うのも気が引けたので、結局、たこ焼きも買うことにした。

 そうして、たい焼きとたこ焼きを半分こしながら、〈二人だと、たい焼きも、たこ焼きも、食べられていいな〉 ... なんて、うれしさにひたっていたら、 彼が、ふいに、

 「―― おれさ、がんばるからさ」 と言い出した。

 いきなりで、わけがわからなかったので、「がんばるって、なにを?」 と、私は、訊いた。

 「ん? いろいろだよ。 とにかくがんばるからさ、なにがあっても ・・・・・・・・・・ 」

 と、思いがけず、確かな “新しい約束” を、してもらえた!

 なにがあっても、きっと、約束の場所で会おう、と。

 九年前の、前回の約束は、破棄されてしまったけれど。

 今度は、“果たされない” 約束として、ずっと、お互いののこころのなかに、刻みつけられたら、いいなあ ... 。





 ちなみに、“新しい約束” を交わしてもらえたのだけど、万が一、なにかの災害で音信不通となっても大丈夫なように、現実的に考えて、わが故郷の住所や電話番号も 教えることにした。 これで、私の身になにかが起きても、安否を確かめることができるだろう ... と。

 考えてみたら、ここ数年、携帯電話の番号やメールアドレスしか知らない友人・知人が増えたな ... ということに気づく。 ときどき会って、呑みに行って、お互いにいろいろ語り合ったり、メールのやりとりなんかはしているけれど、年賀状すら出さないような間柄だったりして、正確な住所も知らないし、実家がどこだかも知らない ... という人が。

 もし、なにかあって、音信不通になっても、ここに行けば会えるかも / ここで訊けばわかるかも ... という “確かな場所” を、友人にも知らせておいたほうが、いいのかな ... と、ふいに考えた。















 * 今回の震災で亡くなられた皆様のご冥福をお祈りいたします。 そして、一日も早い、被災されたかたの快復、被害からの復旧を願います。














 ---
 trackback:
 ・『J'sてんてんてまり』 - 「個人ができること」

 ・『BLOG STATION』 - 「【新潟中越地震】出来ることから始めよう。」


 * ほんとうは、もっとたくさんの、震災に関する記事をご紹介したいのですが ... 。

 * こちらに寄せられたコメント、trackback からも、さらに、さまざまな情報が得られます。 (2004.10.27 追記)
 ---



 当 blog 関連記事:
 ・「7.17 / ムーン・リバー」





 BGM:
 Bert Jansch ‘Promised Land’


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22 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
改めましてこんにちは (nector-nector)
2004-10-25 19:10:30
なんだか、たこ焼きネタがかぶって

うれしいやら恥ずかしいやら・・・・・

たこ焼き鉄板をくれた人とは

もう、事実上連絡のできない関係なんです。



byrdieさんの実家は

新潟と聞いたような気がしたのですが

ご家族は無事だったのでしょうか?
返信する
わあ (byrdie(雲雀))
2004-10-26 00:05:47
nector-nector さん、こんばんは♪ (ふたたび ... )



たこ焼き、ほんとですね! ぐうせん!



> たこ焼き鉄板をくれた人とは

> もう、事実上連絡のできない関係なんです。



んん~、でも、いつか伝えられると、いいですよね ... 。

(感想のつづきは、nector-nector さんちのほうに書かせていただきますね!)





> byrdieさんの実家は

> 新潟と聞いたような気がしたのですが



えと、あれれ??

新潟 ... では、ないです ... (汗)

どこかで紛らわしいことを書いてしまったでしょうか ... 。

(ひょっとして、創作文のなかで ... )

幼少時代は、関西・中部地方、現在は、関東に実家があります ... 。



でも、ご心配くださって、ほんとうにありがとうございました。



被災地の一日も早い復旧を願います ... 。

返信する
約束 (aquaqua)
2004-10-26 11:58:49
出来るか出来ないかわからない、そして結構重要な約束を出来る人と、

それよりは約束は出来ないけど、何かやってみると思う人と。



「いきてれば会える」



不確かだけどどこから出てくるのか分からない信念って言うのも嫌いぢゃ無いっす。

「がんばってみる」

なんてすてきな約束ですねぇ。
返信する
うぅ~ (ぶんぶくちゃがま)
2004-10-26 14:54:21
なんだか読みながら涙目になってしまいましたぁ。

いろんなことを考えました。

新潟には知り合いはいませんが、テレビで見る風景が、自分の田舎の風景とだぶってしまって人ごとではありません。今、実際に私にできること、リアルに最短で、新潟の方達につたわるのは、募金だと思ってます。



byrdieさんの文章は、とても素直で、いつもすうっと心の中に入ってきます。なんだか、いつもありがとうを言いたくなってしまうのですが、いつもいいすぎなので、今日は、あえて、あえて、心の中にとどめておきますぅ、えへへぇ。

返信する
約束 (popo)
2004-10-26 21:02:06
こんばんは、ご無沙汰しておりましたっ

byrdieさんと同じ質問を彼にしてみました。「なるようになる」って言われました…。ちょっとしょげてると「ただ、元気でいてくれ」この言葉でほっとしましたが。

私の地域でも自然の脅威を感じずにはいられませんでしたが、命がある事に対して、生きる事に貪欲であることが生涯の課題かなぁと思いました。

返信する
葛藤を越えて ... (byrdie(雲雀))
2004-10-26 21:33:02
●aquaqua さん、こんばんは。



コメント、ありがとうございます。



彼としては、じぶんのなかで、わたし(あるいは世間?)に対する負い目のようなものがあって、不確かな約束はしたくなかったのかもしれません ... 。



(えと、かなりまえに記事にも書いたのですが、彼は、前科モノでして ... 。

http://blog.goo.ne.jp/byrdie/e/dbc82ccdd0fa1fc78536fa5766127aa7



それでも、「がんばってみる」と言ってくれたのが、うれしかったのでした。

何も無いし、何もできないおれだけど、これから、何かできるように、努力してみる ... と。(うわーん!)

そんなふうに言ってもらえたこと、そんな決意をしてくれたことが、とても、うれしかったのでした ... 。



なにがあっても、会いに行こう! と思いました!(照)



返信する
ささやかながら、わたくしも ... (byrdie(雲雀))
2004-10-26 21:40:41
●ぶんぶくちゃがまさん、こんばんは。



> 新潟には知り合いはいませんが、テレビで見る風景が、自分の田舎の風景とだぶってしまって人ごとではありません。



たまたま、新潟が被災してしまいましたが、いつ、どこで起きてもおかしくないものですし、もしかしたら、知り合いが巻き込まれているかもしれない ... と思うと、わたしも、痛ましい気持ちになりました。



> 今、実際に私にできること、リアルに最短で、...



そうですよね。

いままさに、困っている方々がたくさんいる ... と、いたたまれなくなって、わたしもささやかながら、募金に協力してきました。





> byrdieさんの文章は、...



そんな ... なんというありがたいおことばでしょう ... 。

こちらこそ、いつもありがとうございます!

とても励みになりました。



返信する
ビックリ (byrdie(雲雀))
2004-10-26 21:53:53
●popo さん、こんばんは。



ちょっぴりご無沙汰しております!



えと、じつは、popo さんちの記事で、気になるものがあって(「宝毛」のお話です ... )、trackback をお送りしようかな ... と思っていたところだったので、ビックリ && うれしかったです!





> 「なるようになる」



んー、男性なりの照れ(?)のようなものなのでしょうか。

でも、



> 「ただ、元気でいてくれ」



ほんとにいいことばですね。

きっと、彼氏さんの、こころからの気持ちなのでしょう。



> 私の地域でも自然の脅威を感じずにはいられませんでしたが、命がある事に対して、生きる事に貪欲であることが生涯の課題かなぁと思いました。



ほんとうに、そうですね。

生涯の課題 ... 。

約束してくれた彼のためにも、家族や友人のためにも、がんばって生き抜いていかなくては ... なんて、思いました。



ここのところ、台風、地震と続きましたが、いつ、なにが起こるかわからないので、どんな状況も乗り越えていける、たくましさや勇気、知恵が必要なのかな ... と、思いました。



返信する
TBありがとう (j-tenten)
2004-10-27 01:37:16
誰かのためにがんばれる、そんな思いをお互いに抱けるのは、心強いですね。そして、心配も多くなる。心に掛けることが多くなる。絆となって、生きる力になる。



今やっていることも、そんな思いかもしれません。

見ず知らずの皆さんですが。

生きる力と希望を失わないでいて欲しいと願っています。

どうも、ありがとう。
返信する
こちらこそ ... (byrdie(雲雀))
2004-10-27 02:02:27
●j-tenten さん、こんばんは。



なにか、こんなわたしでお役に立てることはないか ... と思い、じぶんなりの表現で、記事を書いてみたのですが ... 。



ひとりひとりの「思い」が、ひとつになって、強い絆となって、生きる励みになれば ... 。





影ながら、これからも応援させていただきます!

こちらこそ、ありがとうございました!

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