(前編 - 「男が見られたくないモノ / 呼ばれて行くところ」) 『さつき荘』 自慢のあじさいを眺めていたら、すぐに、彼が用を済ませて戻ってきた。 大家さん宅のねこは、部屋にはいなかったそうである。 あまりにも暑くて、どこかでのびているのか ... 。 いざ、バスにでも乗って、どこか公園にでも行こう、ということになったのだが。 彼が、自転車の鍵がない、と言い出した。(彼は、わが家まで自転車で来ていたのである) 自転車の鍵を差しっ放しにしてしまったか、鍵をどこかに紛失してしまったか。 心配なので、一旦わが家まで戻り、自転車を確認しに行くことに。 行ったり来たり。 私たちは、行ったり来たりのおかしな二人なのか。 どきどきしながら、わが家のまえまで来て、鍵がついたままの自転車が、盗まれずに置いてあるのがわかった。 なにかの動物が、ぽつんとひとりぼっちで、立ったまま眠っているみたいに見えた。 とりあえず、よかった。 今年に入ってから、何度も自転車盗難に遭っているため、これでまた盗まれてしまっていたら、彼がかわいそうすぎる。 自転車の無事を確認し、施錠もしたので、気を取りなおして、バス乗り場へ向かった。 なんとなく、以前から気になっていた、練馬区の 「光が丘公園」 というところに行くことにした。 「光が丘」 は、都営地下鉄の 「大江戸」 線の終点である。 とりあえず、西武池袋線の 「江古田」 駅まで行くバスに乗ることに。 バスに乗る、という行為が好きである。 なんというか、遠足にでも行くような、どきどきわくわく感をおぼえる。 いや、行き先は決まっているのだから、どきどきわくわくする必要はないのだろうけど。 もしも、通勤などでバスをよく利用していたら、バスが嫌いになっていたのだろうか。 きっと、私のあたまのなかは平和なのだな。 バスのなかには、観光案内のポスターや、美容院や針灸診療所などの広告のほかに、ひき逃げ事件や失踪事件などのビラがひらひらとゆれていた。 こうして、私たちがのほほんとしているあいだにも、いたるところで、さまざまな事件が起きている。 ああ。 ほんとうに、私たちは、幸運に恵まれているのだろう。 彼は、座席に座ると、すぐに眠ってしまった。 日々の疲れがたまっているのか。 寝やすいように、肩を貸してあげた。 ふつう男女で逆ではないかしら ... などとも思いつつ。 これもきっと、しあわせな午後の風景なのだろう。 バスにゆられながら、ふと、耳を澄ますと、「大江戸」 線の 「新江古田」 駅というところを通るようだったのだが、彼があまりにも気持ちよさそうに寝ているので、起こしてしまっては悪いかな? と思い、そのまま通り過ぎた。 べつに、急ぐ旅でもないし。 少しくらい、遠回りしたっていい。 ―― これは、彼のせりふの受け売りである。 すっかり得意。 そうして、「西武池袋」 線の 「江古田」 駅までやって来てしまったので、「練馬」 駅まで行き、そこから 「大江戸」 線に乗り換えることに。 「練馬」 駅で乗り換えるときに、ふと、「豊島園」 駅の近辺にあるという日帰り温泉の看板が目に入った。 彼は、「いいね~、温泉なんかに、カポンとつかりたいね~」 と温泉に興味を示していた。 疲れている証拠だろう。 私としては、公衆の面前で裸体を晒すには、ココロとカラダの準備ができていないのだが、彼が行きたいのなら、と、賛成した。 とりあえず、公園でゆっくりしてから、カポン、することに。 「光が丘」 駅に着いた。 はじめて降り立った場所であるが、思ったよりもいろいろお店があって、びっくりした。 彼が、「ハーゲンダッツのアイスが食べたい」 と言い出した。 駅前にショップがあるのを目ざとくも発見したのだ。 彼がハーゲンダッツのアイスクリームが好き、というのは、さいきん発覚した事実。 このページで何度か書いたが。 彼は、四月に空き巣に遭ってしまい、五月中は、苦しい日々を送っていたので、その間、彼のためにいろいろ食事をつくって差し上げていたのだが、五月末にやっと出たお給料で、なにを買ったかというと、ずばり、ハーゲンダッツのアイスクリーム。 しかも、いろんな味のを二つずつ、計十個くらい買って、そのままわが家にやって来たのだ。 苦しかったあいだ、さんざん世話になった 「お礼」 が、ハーゲンダッツというわけか。 彼らしい 「お返し」 にうれしくなった。 アイスをもって、お礼を来てくれる、こんなすてきな人のために、これからもずっとそばにいてあげよう、と思った。 いや、ずっとそばにいてもらいたい、と思った。 ずっといっしょにいられたら ... と。 ところで。 十個のアイスクリームであるが、むろん、あっというまにぺろりと平らげてしまった。 二人でとろけながら。 ハーゲンダッツのショップでは、コンビニエンス・ストアなどで売られていない味のものがあったり、サンデーのようなものにしてくれたりするので、それもまた楽しみのひとつである。 彼は、ショップを見つけるやいなや、まだ火を点けたばかりのタバコをもみ消して、颯爽と店内へ駆けて行った。 ほんとうに好きなのだ。 しかし、お昼を食べ過ぎたせいで、まだお腹いっぱいだったので、二人で半分こすることにした。 ひとつのカップから、アイスを分け合いながら、公園へと向かった。 公園は、都会のかたすみに突如あらわれた近代的ジャングルの入り口という感じで、思ったよりもずっとずっと広く、緑が生い茂っていた。 そして、その公園、どうやら犬を放していいところのようで、連れて来ている人がたくさんいた。 わんちゃんたちが、うれしそうにたのしそうに、走り回っていた。 私たちは、芝生の上に寝転んで、空を見上げながら、雲のながれを追った。 私が、 「小さいころ、雲のうえに乗れると思ってた?」 と訊いたら、彼は、 「喰えるとは思ってた」 と言った。 「わたあめ みたいに、むしゃむしゃとな」 雲を食べたかった男と、雲のうえに乗りたかった女は、星がきらきら耀きはじめ、こうもりがひらひら飛びまわり出すまで、じっとじっと、そうしていた。 なんという、平和な夕暮れ。 そうして、あっというまに日が暮れてしまったので、いざ、温泉を目指した。 そういった日帰り温泉の洗髪料というのは、シャンプーとリンスがいっしょになっているものなのではないか、と思い、途中、コンビニエンス・ストアに寄って、旅行用のミニサイズのシャンプー・セットを買った。 その温泉場は、さいきんできたものなのか、とてもきれいな施設だった。 浴槽が数種類、ナントカ式サウナ、ジャグジーなど、いろいろ充実していて、たっぷりたのしめた。 ふだん、女のハダカを見る機会がないので、どきどきしながら、つい、盗み見してしまった。 いや、じぶんのハダカなら見慣れているけれど。 太っている人、痩せている人、胸の大きい人、胸の小さい人、湯気でぼんやりかすんで、みんなキレイ。 女は、着飾らなくても、化粧をしなくても、その身体だけで、りっぱにキレイなのだ、と思ってみた。 ちなみに、心配していた洗髪料であるが、きちんと、シャンプー、リンスが別になっていた。 しかも、フツウに市販されているちょっといい銘柄のものだった。 メイクおとしやら、洗顔料やら、化粧水・乳液・整髪料などもきちんと用意されている。 いまどきの施設は、ちゃんとしているのだ。 いまどきは、女ゴコロをくすぐるサービスをしなけりゃあ ... という感じなのだろうか。 風呂をあがったのが、もう夜十時近かったので、併設されているレストランで食事をすることにした。 なんだか、どこか片田舎に、「わけあり旅行」 でもしに来たみたいだ、と思った。 私はビール、彼はお茶を、ぐいぐい飲みながら、渇いた身体を癒した。 私が、「シャンプーとリンス、ちゃんと別だったね」 と言ったら、彼は、え? という反応。 どうやら男性用浴場は、シャンプーとリンスがいっしょのものだったもよう。 化粧水や整髪料もあったという話をしたら、男のところには、そんなものもなかったと言っていた。 うむう。 同じ料金を払っていても、男性と女性では、待遇がちがうようだ。 女が得しているのか。 男が損しているのか。 これが、浮世のかなしきさだめなのか? 食事を終え、帰路についた。 午後十一時近かった。 昼過ぎから活動しはじめた割に、いろいろなことがあった一日だった。 「時間がない」、「忙しい」 が口ぐせのようになっていた私であるが、彼といると、時間をわすれてしまう。 また、こんな休日を迎えられたら、いいな、と思った。 BGM: The Monkees ‘Daydream Believer’ |
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同感です。女性はそのままで、美しいんです。
男は・・・。
BGMもいいですね!
いちおう(?)私も女性として、同意してくださって、うれしいです。
ありがとうございます。
ところで。 男性のハダカも、すてきですよ?!
(好きな人のは ... 。 キャー ! )
# Monkees は、「Monkees のテーマ」 も好きです。
『女生徒』には、かなり影響を受けています。
しかし、なぜ、男性の作者に、あそこまできめこまやかな女性心理が描写できるのか ... とは、既出の評価ですね ...
こういう一日はとっても貴重ですよね。
ところで、記事を読みながらコメントにつけるBGMを考えていたのですよ。
これだな!と思って最後を見たら…
な、な、なんとまったく同じ曲がっ!
びっくりびっくりでした(笑)。
でもって、こんな曲を…
BGM:
THE YOUNG RASCALS ‘GROOVIN'’
まあ ! まったく同じ曲!? それはすごい !
しかも、もけさんとシンクロ ... 。うれしぃ~です♪
なかなかゆっくり休日を過ごすことができませんが、こんな休日、あんな休日、また書けたらいいな、と思います ...
BGM:
The Lovin' Spoonful
- On the Road Again
- Do You Believe in Magic?