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徒然なるままに修羅の旅路

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悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

Evil Must Die 17

2014年10月28日 23時38分09秒 | Nosferatu Blood
 
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「――これでよし」 子供たちふたりにちゃんと乾いた服を着せてやり、見端がきちんと整ったところで、アルカードは満足して腰に右手を当てた。
 これが晴れの日なら犬と一緒に公園にでも連れ出してやるところなのだが、相も変わらず土砂降りの状況ではそうもいかない――梅雨も明けてるってのに、この大雨はおかしかないかいゴッド?
 まあ、颱風は相変わらず絶賛来襲中だがな――
 胸中でだけぼやきつつ、カーテンを開け放つ――開けたところでなにか、水着姿の女の子とか一九六七年式のオリジナルのシェルビーコブラGT500とか高砂酒造の訪問販売とか、そういう素敵なものが視界に入ってくるわけでもないが、カーテンを閉めていた理由が子供たちの格好だったので、もう閉めておく理由も無くなってしまったのだ。
 びしょびしょになっていた服がすっかり乾いて上機嫌になった子供たちが、ソファに座って犬をかまっている――孝輔は今のところアレルギー症状は出ていないが、母親、つまり忠信の奥方が犬猫小鳥に齧歯類、その他もろもろ動物アレルギーを全制覇せんばかりの勢いでアレルギー症状があったため、警戒して動物は飼っていない。
 綾乃は犬が大好きだし、孝輔も嫌いなほうではない。だが、弟である恭輔はすでにアレルギー症状を発症しており、孝輔も、その子供である秋斗や美冬もいつ発症するかわからない――飼えなくなって手放すよりも、最初から飼わないほうが子供たちへのダメージが少ないと、そう思っているからだろう。
 なら神城の実家に倣えばいいのかもしれないが、あの家のペットは特殊すぎて万人向けではない。たしかにアレルギー予備軍の凛や蘭、陽輔や、すでに発症している恭輔がいてもアレルギーの心配の無いペットではあるのだが――知らずに遊びに行ったら、苦手な人はまず間違い無く裸足で逃げ出すだろう。
 まあいずれにせよ、人の家でペットを飼わない理由に口出ししても仕方が無い。とりあえず今犬と遊んで満足している様だから、それで十分だろう――胸中でだけつぶやいて、アルカードはリビングから出た。
 もともとこのアパートは、管理人部屋だけが二階建てになっている――微妙に理不尽な構造ではあるのだが、老夫婦が物件を買い取る前の元の持ち主がそうしたらしい。最終的にそのままアルカードに横滑りすることになったわけだが、そのために二階にも部屋がみっつばかりある。
 アルカードとしては一階だけあればさほど困らないので、蛍光燈の電球などの消耗品のストックや住人が置いていったものの一部を二階の一室に保管してある――その中に、凛や蘭が小さいころに使っていたチャイルドシートがあったはずだ。
 どうしてそんなものが老夫婦の家でもなく神城の実家でもなくここにあるのかといえば、くだんのペットを飼うために家の一部を改築したときに恭輔に頼まれて預かり、そのまま向こうもこっちもすっかり忘れて数年間放置状態になっていたからだ。
 三人目を作る予定が無いなら棄ててしまえばよかったのかもしれないが、その当時は兄弟が子供を作ったら譲るという約束をしていたらしい――結局孝輔のほうは気を逸らせた母方の祖父母がベビーカーだの新生児から四歳までずっと使えるタイプのチャイルドシートだのを買ってしまったために必要無くなり、亮輔のほうはまだはいはいも出来ないので今のところ需要が無い。
 そもそも本条はここいらの大地主なので、わざわざ親戚のお古などもらわなくてもいくらでも新品をそろえられるかもしれないが。
 ただ、それが無くても孝輔のほうは不妊治療で大幅に出産が遅れてしまったし、亮介のほうも諸事情で入籍と出産が遅れて、チャイルドシートはかなり古くなってしまっている。チャイルドシートの耐用年数が何年くらいなのか知らないが、これが終わったら棄ててもいいか聞いてみよう。
 雑然とした物置の中から引っ張り出したチャイルドシートのビニール袋を取り払いつつ、そんなことを決意する――粗大ゴミの日は第四月曜日だから、あと三週間以上あるが。
 とりあえず、チャイルドシートの各部にガタつきが無いことだけ揺すって確認してから、アルカードは裏返しにしたビニール袋の中にもうひとつのビニール袋を乱雑に突っ込んで壁際に寄せた。あとで棄てればいい。
 ふたついっぺんにかかえて降りるのは物理的に無理なので、ひとつずつ運んで階段を降りる――チャイルドシートを二脚上がり框に並べると、玄関先がだいぶ手狭になった。
 一度リビングに向かい、子供たちの様子を確認する――満腹になって眠くなったのか、子供たちは犬を抱いたままソファの上で寄り添う様にして寝息を立てている。
 眠ってしまったのなら、しばらく放っておいても問題無いだろう――今のうちにチャイルドシートを車に取りつけてこよう。
 そう決めて、アルカードは再び玄関に取って返した。外出用のブーツに履き替えて、ふたつのチャイルドシートを玄関前の共用廊下に運び出したところで、あまりにもひどい雨に顔を顰める――自分が濡れるのは別段かまわないのだが、チャイルドシートが濡れても困る。
 玄関の靴箱をあさって、アルカードは自治体で配っている街指定のゴミ袋を取り出した。この街では世帯ごとにゴミ袋を無償で(というか税金に込みになっているのだろうが)配っており、基本的に世帯ごとに枚数の区別が無い。一定期間ごとに一定枚数で配られるため、単身者世帯ではゴミ袋が大量に余るということがままあった――アルカードの場合もそうで、入居して最初にもらったゴミ袋の束が使いきれずにまだ残っている。
 量がたまりすぎたので数年前に役所に返しに行ったのだが、またもやそのときと同じだけの量がたまりつつあった――市役所の要望窓口みたいなところに意見具申書を投書したこともあるのだが、今のところ反映される様子は無い。
 きっと世帯ごとに人数を調べてそれぞれ違う束を配るより、なにも考えずに一定枚数を配るほうが楽だからだろう。それは全然かまわないのだが、今の自分の世帯の様に今までもらったゴミ袋の九割が手つかずで残っているところもあるのだから、ちゃんとそこらへんきっちり仕分ければ今より税金抑えられるのではないだろうか。
 そんなことを考えつつ、アルカードはチャイルドシートに手早くゴミ袋をかぶせてから、部屋の鍵を取り出した。掌を上に向けた左手の上に、皮膚の下から浮かび上がる様にしてカーボン製のキーケースが姿を見せる――憤怒の火星Mars of Wrathの水銀の中に沈み込ませてあったのだ。
 左腕に擬態した憤怒の火星Mars of Wrathはあくまでも流動する液体金属なので、腕に擬態しているとき腕の内部に骨格や筋肉や腱が形成されるわけではない――そのため腕の容積の範囲に収まり曲げ伸ばしなどに支障が出なければ、小物のたぐいを腕の中に取り込んで持ち歩くことが出来る。
 具体的には鍵やナイフ、秘匿携行型の小火器のたぐいだ。これなら絶対に失くさないし、盗まれる心配も無く、見つかる危険性も無い――問題があるとすれば、大型の銃は持ち歩けないことと、人間の腕とは映り方が違うので金属探知器に必ず引っかかることくらいか。
 玄関の鍵を施錠してから、アルカードはチャイルドシートのひとつを持ち上げた。
 そのままえっちらおっちらシートを運んで、駐車場に早足で歩いていく――屋根の無いところに出た途端、大粒の雨が容赦無く正面から襲ってきた。
 身につけた服にあっという間に水が沁み込み、肌に張りついていく。不快感に顔を顰めながら、アルカードは外側から廻り込んで駐車場に入った。
 フィオレンティーナが日本にやってくる三ヶ月ほど前に新車で購入したジープ・ラングラーの磨き込まれた塗装面を、大粒の雨滴が川の様に流れ落ちている――年式が新しいのは、一年と少し前の北海道での『クトゥルク』討伐の際に、それまで使っていたジープ・ラングラーがおじゃんになったからだ。
 仕方無く買い替えたラングラーはそれまでのルビコンと違って、三ピース分解式ハードトップの四ドア仕様になっている。当時ディーラーですぐに調達の見込みが立つのが、四ドアのアンリミテッドだけだったからだが――オートマティックがどうしても嫌だったので、エンジンとトランスミッション周りだけは積み換えたのだが。
 欠点といえば取りはずしたハードトップの置き場所が無いことと、別にソフトトップが無いために急な天候急変に対応出来なくなるので、結局はずせないことくらいか――そんなことを考えながら、アルカードは左腕の中の・・・・・ラングラーのキーを操作してリモコンでロックを解除した。憤怒の火星Mars of Wrathを構成する模擬複合合金は電磁波の進行を妨げないので、わざわざ取り出さなくてもリモコンの操作が出来る――赤外線式のリモコンは無理だから用途は限定されるが、それでも手がふさがらないというだけでもだいぶ違う。
 アルカードはアスファルトの上にチャイルドシートを置いてから、運転席側の後部座席のドアを五センチぶんほど開けた――いったんアスファルトの上に置いたチャイルドシートを後部シートの上に置いて、ゴミ袋を取り払う。シートを濡らす雨滴に舌打ちを漏らして、アルカードはチャイルドシートを助手席側へと押し遣ってからドアを閉め、助手席側へと廻り込んだ。
 助手席側にはムスタングが駐車してあるのであまり大きくドアを開けられないが、まあチャイルドシートを取りつける作業をするぶんには問題無い。
 そうしている間にも雨粒が全身を濡らしてゆく。体にぴったりとフィットしたcw-xのアンダーウェアがたっぷりと水を含んでいく不快感を無理矢理意識から締め出して、手早くチャイルドシートを固定にかかった。首筋を水滴が伝う感触がひどく不愉快ではあったが、アルカードは気にせずに目前の作業に集中した――作業が終わったら着替えよう。
 シートベルトをかけてチャイルドシートを揺すり、きちんと固定されていることを確認してから、アルカードは満足してドアを閉めた。
 たった五分かそこらだというのに、頭から爪先までずぶ濡れになっている――脚を伝って靴の中に入り込んだ水が靴下を濡らしてぐじゅぐじゅと音を立てる不愉快極まりない感触に顔を顰めながら、アルカードはジープのドアを閉めた。
 そのままいったん踵を返して、アパートの共用廊下へと取って返す――玄関前に置きっぱなしになっていたもうひとつのチャイルドシートをかかえ上げ、彼は再びジープのところに足を向けた。
 再度屋根の下から出ると、大粒の雨滴が容赦無く吹きつけてくる――髪を伝って頭皮を濡らし、そのまま眉間に垂れてくる雨水をそれ以上気にせずに、アルカードは、門扉の角で向きを変えた。
 かかえたチャイルドシートを覆うゴミ袋に大量の雨水が当たってばしばしと音を立て、ゴミ袋の表面を流れ落ちて腹や腕を濡らしてゆく。
 今度は運転席側だ――ジープの隣にカバーをかけて駐車されたドゥカティS2Rにぶつけない様に注意しながら、アルカードはアスファルトの上にチャイルドシートを置いた。幸いなことに、ドアを全開にしてもS2Rに接触する恐れは無い。後部座席のドアを開け放って、チャイルドシートのゴミ袋を取り払う。
 剥き出しになったチャイルドシートを、アルカードは手早くリアシートに乗せた――固定の仕方はほぼ同じだったので、先ほどよりもスムーズに取りつけることが出来た。
 最後に軽く揺すって固定を確認してから、足元に打ち棄てた二枚のゴミ袋を回収し、アルカードは通用口のほうに足を向けた。ついでにリモコンを操作してロックをかける――左手で握ったキーケースは、役目を終えた時点で再び左腕の中へと沈み込んでいった。
 窓から部屋の中を覗くと、子供たちが犬を抱いたまま眠っているのが見えた――わざわざ玄関に回る意味も見出せなかったので、靄霧態をとって窓の隙間から室内に入り込み、玄関の内側で実体に戻る。
 ゴアテックス・ブーティーの内側まで水の入り込んだブーツを脱いで玄関に放り出し、とりあえず濡れそぼった服をどうにかするために、アルカードは浴室に足を向けた。
 
   *
 
 ぴちゃり――拳を握った右手の指の隙間に挟み込む様にして保持した鈎爪状の刃物の尖端から赤黒い血が滴り落ちて、床の上で弾けて音を立てる。小さな小さな音のはずなのに、妙にはっきりと聞こえてくるのはなぜだろう。
 だだっ広くて黴臭い、埃だらけの廃倉庫のど真ん中。三十人以上の男女の乱交の場と化していたために妙に生臭い。
 よくもまあこんな不潔な環境を、オーラルセックスの場にしようなどと思うものだ。
 今更ながら半ばあきれつつ、香澄は周囲に視線をめぐらせた。ひっぱたかれた頬がひりひりと痛む――自分になにかするのはあとのお楽しみのつもりでいたのか、ジーンズのミニスカートの下のストッキングもちゃんと穿いたままだし、気絶している間になにかいたずらをされた様な違和感は無い。最初に連れ去られるときにぶつけた頭と、今両手を後ろ手に拘束している結束バンドが喰い込んだ手首が痛かったが、それだけだ。
 それに関しては安心すべきだろうが、香澄としては先ほどまで集団で殴る蹴るの暴行を受けていた陽輔のほうが心配だった。
 今、彼らは全員で金髪の若い男を取り囲んでいる。ドラム缶の中で燃える廃材の炎だけでは明かりには到底足りない薄暗がりの中で、彼らの目が紅く光っているのが見えた。
「不潔な場所だ。ドブ鼠やゴキブリと一緒に交歓会とは、またずいぶんと物好きだな」 アルカード・ドラゴスは自分を囲んでいる連中に物怖じした様子も無く、香澄と似た様な感想を漏らした。
 黒い革のコートの下に時代錯誤といってもいい様な西洋風の鈑金甲冑を着込んだ金髪の青年は、足元でうずくまった若い女の髪を左手で鷲掴みにしていた――複数の男女で乱交パーティーの最中だったために女は下着一枚で、剥き出しになった脚は蹴り折られてあさっての方向に捩じ曲がり、骨が飛び出して血だらけになっている。
 その絶叫を無視して、アルカードが右手の四指に挟み込む様にして保持した鈎爪状の刃物を持ち上げた。蹴り折られた脛を足で押さえつけられたままで乱暴に引きずり起こされ、膝下をへし折られて立つこともままならないまま、血の様な真っ赤な瞳の若い女が髪の毛を思いきり持ち上げられて耳障りな絶叫をあげる。
 アルカードは女を見下ろして、右手で保持した三枚爪の様な刃物の尖端をその顔面に突き立てた。
 四指の間にそれぞれ一枚ずつ、無数の曲線を組み合わせた兇悪な形状の刃物がずぶりと音を立てて女の顔面に喰い込んで頭蓋骨を突き破って脳に達し、そのまま頭蓋を完全に貫通して後頭部から銀色の刃の尖端が飛び出した。
「ふん」 アルカードが侮蔑もあらわに鼻を鳴らし、細かい痙攣を繰り返しながらもそれで悲鳴の止まった女の体を床に投げ棄てた。細かなピースをいくつも組み合わせた様な形状の鋭利な刃に掻き出された脳漿と骨片、皮膚の切れ端が、ぎざぎざの刃にこびりついている――アルカードはこちらに一瞬視線を向けてから、再び周囲に視線を這わせた。
 その足元に横たわった惨殺された若い女の屍に、変化が生じる――細かい断末魔の痙攣を繰り返していた女の肌があっという間にまるでミイラの様にがさがさに乾燥し、やがてぼろぼろに崩れてひと塊の灰とも塵ともつかぬものになってしまったのだ。それすらもが見る見るうちに消滅し、あとには女が穿いていたショーツ一枚しか残っていない。
 よく見るとアルカードが先ほどまでの間に虐殺してのけた連中の屍も、ことごとく塵の山となって埃と一緒に床に堆積している。

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