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徒然なるままに修羅の旅路

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悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

Vampire Killers 3

2014年10月06日 22時38分18秒 | Nosferatu Blood
 
   †
 
「頼まれたから――だな」
 最後の質問を適当にはぐらかして、アルカードは部屋を出た。ドアを閉めたところで、ふうっと息を吐く――フィオレンティーナが自分を着替えさせたのが誰かという疑問をいだかずにいてくれたことに安堵しながら、彼は短い廊下を歩き出した。
 ……と、彼女が目を覚ましたことをエルウッドに報告しておかなければならない。それを思い出して、アルカードは小さく息を吐いた。
 リビングの扉を開けて室内に入ると、中央にしつらえられたソファーに腰を下ろす――管理人部屋はそこだけほかの部屋と構造が違う。間取りや広さも含めてもともとかなり差があるのだが、最大の特徴は二階建てになっているということだ――もっとも一階だけでも十分生活が成り立つため、普段は二階に上がること自体がほとんど無いのだが。
 自腹を切るなら勝手に改造していいということで、アルカードが自分で使いやすい様に改築したので、テレビ台の手前の床が階段状に下がっており、壁際に大きな液晶テレビが置いてある。
 ソファーはテレビを囲む様にコの字型に設置されていて、真ん中に硝子テーブルが置かれていた――この管理人部屋は時折店子を誘っての宴会場に利用されるため、硝子テーブルもかなり大きなものだった。テーブルの上には中に透明な液体が入った瓶と、斜めにカットした竹を模した銀製のぐい飲みが置いてある。
 アルカードはソファーに腰を下ろし、硝子テーブルの上のリモコンを取り上げてテレビの電源を入れた。
 昼間の湾岸埠頭倉庫の謎の爆発について、ニュースで最新情報が流れている――当然のことながら、埠頭で発見された死者についての報道は一切なされていない。
 国民にはひた隠しにしているが、日本政府はかなり以前から国内に吸血鬼が潜伏していることを知っている。国民に対する情報開示という意味ではどうかと思うが、文民統制という意味では正しいだろう。
 マスコミにでも情報が漏れて、彼らがそれを大々的に宣伝すれば――『ねえねえ、みんな知ってる? 僕たちの街には人の血を吸う吸血鬼が何十人も住んでいて、夜な夜なほかの人の血を吸っているんだよ』――、市民がパニックに陥るのは想像に難くない。
 マスコミというのは基本的に安全保障がらみのネタでは余計なことしかしないので、不要な情報は教えないのが得策だ。
 場合によっては、周囲の人間を吸血鬼と決めつけてのリンチだって起こりかねない――悲しいことだが、人間というのは異質なものを排除することでしか自己を保てない生き物だ。
 さらに言うならば、吸血鬼の存在を利用して周囲の人間を陥れようとする様な輩だって出てくるだろう――それはネタにするのが吸血鬼だろうが裸の幼女の写真だろうが、あるいは鞄の中に忍ばせた麻薬であろうが同じことだ。違うのは幼女の全裸写真や麻薬に比べて、被害の規模とその拡大がはるかに速いことだ――暴動だって起こるかもしれない。
 それを危惧した日本政府は、警視庁内に特殊現象対策課を設立した――聖堂騎士団と警視庁の繋ぎと言えば聞こえはいいが、要するに彼らの仕事は国内における吸血鬼関連の情報を収集して、確度の高いものについてヴァチカンの魔殺したちに仕事を依頼し、彼らの戦闘の痕跡を消して情報操作を行うことだ。
 逆に言えば、その特殊現象対策課内に吸血鬼の手先を送り込まれたり、すでに内部にいる構成員が彼らに取り込まれたりすれば――特殊現象対策課長だという女が、現に彼らに取り込まれている――、それで終わりということでもあるのだが。
 すでに内部にいる人間を自分の仲間に取り込むというのは、まあ諜報戦エスピオナージの基本だろう――せっかく手に入れた内部の人間としての地位をふいにする今回の様な使い方は、正直に言って手駒の使い方をわきまえてはいないが。
 まあそうはいっても――
 それ以降使う気が無いなら話は別だが・・・・・・・・・・・・・・・・・
 胸中でつぶやいて――アルカードは液晶テレビの画面に注意を戻した。
 特殊現象対策課の残りの人員と内閣調査室の努力の結果だろう、ニュースは事実をとことんまで歪曲した内容を流していた――もっとも、カバーストーリーにはところどころに欠陥が散見されたが。
 だがだからといって、それを追及しようとする市民はいないだろう――事実を知らない人間が、若干いぶかしみはしてもはっきりと不審をいだくほどの欠陥ではない。
 今後妙な事件が立て続けに起こらないでもしないかぎり、この事件は闇に葬られて忘れ去られるだろう。
 アルカードはソファに腰を下ろし、テーブルの上の日本酒の酒瓶を取り上げた――北海道旭川の高砂酒造が作った、火入れをしていない生酒の中の生酒、そんな長い名前のいい酒だ。そばに置いてあった精緻な銀細工のぐい飲みに少量注いで酒杯に口をつけたとき、テーブルの上で携帯電話ががたがたと音を立てた。
 手を伸ばして携帯電話を取り上げる――マナーモードにしてあったのでわからなかったが、エルウッドからの着信だった。どうやら看護婦さんに没収されそうになった携帯電話は、無事に返してもらえたらしい。
「もしもし、ライルか?」
 通話ボタンを押して相手を確認すると、ライル・エルウッドの声が聞こえた。
「アルカードか? フィオレンティーナの様子はどうだ?」
「さっき意識を取り戻した――とりあえず、これで大丈夫だ。今は俺の部屋で保護してる――彼女を着替えさせる栄誉に与ったのが誰かって疑問は、出来れば一生忘れたままでいてもらいたいがね」
 その言葉に、エルウッドが電話口の向こう側でくつくつと笑うのが聞こえた。ひとしきり笑ったあとは真面目な話に戻ることにしたのか、
「フィオレンティーナ――確か昼の電話で、噛まれたと言ってたよな?」
「ああ、噛まれた――彼女はなにかの異能持ちか? 死んでない・・・・・からかもしれないが、普通の人間に比べると吸血鬼化の進行がひどく遅い」
「ああ、彼女は自分に対する状態変化をもたらす術の類を受けつけない異能を持ってる――異能、正確にはそれに分類されるほど強力な抗魔体質だが。探索系の結界に反応せず、認識を撹乱する類の魔術も効果が無い。カーミラほどの高位の吸血鬼に血を吸われたのに、まだ生きてるってのはその異能の恩恵だろうな――もちろん、一度死んでいないからってのもあるだろうが」
 なるほどな――胸中でつぶやいて、アルカードはソファーに座り直した。
 先日フィオレンティーナと遭遇したとき、フィオレンティーナ自身は気づいていなかった様だが、アルカードは彼女に対して魔眼を仕掛けている。
 魔眼は視線を介して他者に干渉する、高位の魔物の能力の一種だ――強大な魔物の魔眼は、ギリシャ神話のゴルゴンの様にひと睨みのもとに他者を石に変えたりすることが出来る。
 アルカードにもそこまで強力なものではないにせよ、魔眼の能力は備わっている――彼の魔眼は視線の合った相手の精神に干渉して、一時的にその精神を支配下に置くというものだ。
 相手が高位の魔族であれば、通用しない能力だが――ただの人間には決して防ぎ得ない能力だし、にもかかわらずフィオレンティーナがなんの反応も示していなかったことに関してはアルカードも不思議に思っていたのだが、これでわかった。
 フィオレンティーナの異能は彼女自身が干渉を受けたという自覚すらさせないまま、干渉を弾いてしまうのだ。
 結界を透過するだけでなく、自身に対する状態変化も無効化してしまう。非常に強力な抗魔体質持ちにはままあることだ。さすがに吸血鬼の因子を体内に直接撃ち込まれれば、無効化はしきれない様だが――それでも抵抗は出来るらしい。
 あらゆる探索系の結界を、察知出来ない代わりに反応もしない、ある意味完全なステルス能力だと言える――もう少し気配を消すのが上手くなれば、たとえアルカードであってもその発見は困難だろう。
「それでわかった――それがあるから、彼女はまだ人間のままでいるわけだ」
「助かるのか?」
 エルウッドの質問に、アルカードは首をかしげた。
「わからない。あのまま放っておいたら死んでいたのは確かだが――仕方が無いから、彼女には俺の血を飲ませた」
 その言葉に、エルウッドが息を呑むのが伝わってきた。まあ、当然の反応だろう。吸血鬼の血の効能に関してはよく言われていることだが、実際に血を飲んで試したことのある人間はほとんどいないのだ。
 不死の霊薬エリクシル――錬金術によって作り出された秘薬の中には、あらゆる疾病を癒すとされる霊薬が存在している。
 実際に節を与えるわけではないが、息があれば瀕死の重傷であってもものの数秒で完全回復させる、錬金術の奥義といってもいい秘薬である。
 不死の霊薬エリクシルは驚異的な薬効を持つ一方、原料の入手の難しさから生産個数が極めて少ない。
 数十もの原料のうちもっとも入手が難しいのが、生きたままの高位の吸血鬼、それも健全な状態のロイヤルクラシックから採取した生き血だった――ほかにもマンドラゴラなど物質世界にはそもそも存在しない材料も存在するが、やはりもっとも入手が難しいのは高位の吸血鬼、それも健康な状態の吸血鬼の血液だろう――ほとんど手傷も負わせず、薬品や魔術にも頼らずに生け捕りにして血を採取しなければならないからだ。
 だがその入手難度の高さに比例して薬効は驚異的で、肉体の内部に魂がとどまってさえいれば肉体と霊体両方の損傷が完全に回復し、魔術や呪術による影響、あらゆる毒性物質による害も回復する。すでに傷口が治癒していれば別だが、分断された破片が用意出来れば切断された手足も接合治癒し、その時点で望みうるもっとも健全な状態になる。
 だが、先述したとおり、その原料には生きたままの個体から採取したロイヤルクラシックの血液が含まれている。つまりフィオレンティーナはその霊薬の原料を、原液のまま直接摂取したことになる。
「心配無い――人間に俺の血を飲ませても、吸血鬼にはならない。それはおまえも知ってるだろう」
「ああ」 苦々しげな口調で、エルウッドがアルカードの言葉を首肯する。
「まあこの場合は、不死の霊薬エリクシル調合の処理はされてないほうが都合がいいんだがな」
 経路パスが出来なきゃ意味が無いからな――胸中でだけそう付け加えて、アルカードは酒杯に口をつけた。
 不死の霊薬エリクシルとして霊的な加工処理がされていない吸血鬼の血液の経口摂取による副作用の最たるものは、上位個体と下位個体の間に形成される『絆』と呼ばれるものとはまた異なる、霊的な経路パスが構築されることだった――まあ、少なくともファイヤースパウンの連中に言わせるとそうらしい。
 高位の吸血鬼の血液を経口摂取しても、吸血鬼化は起こらない――しかし体内に取り込んだ血液によって肉体が影響を受けて一時的に活性化し、血液が保有する活力の供給によって肉体と霊体の損傷が高速で治癒され、疾病や毒性物質の影響も回復する。後遺症も一切残らず、魂がとどまってさえいれば瀕死の状態であっても蘇生する。
 同時に経路パスを通じて互いの精神がリンクし、場合によっては互いの記憶や心理を読み取ることもあるとされている――あくまでも理論上のことで、実際のところどうなるのかは、アルカードには試したことが無いのでわからないが。
 血液提供者であるロイヤルクラシックの回復能力を一時的に使用対象に賦与するのだと、そう言い替えてもいい――そして使用対象を回復させる効果は活力供給も含めて百パーセントロイヤルクラシックの血液のみでまかなわれ、ほかの添加物は一切関与しない。したがって経口摂取であれば吸血鬼の血液はそれだけであろうが不死の霊薬エリクシルとして調合が完了していようが、回復薬としての薬効は変わらない。
 生きたまま採取したロイヤルクラシックの血液を主原料とする不死の霊薬エリクシルに添加されるほかの材料はそのほぼすべてが、吸血鬼の血を経口摂取することによる経路パスの形成という副作用を取り除くための、いわば弱毒化のために添加されるのだ。
 吸血鬼の血を摂取した効果は覿面で、フィオレンティーナの死亡寸前の失血は倉庫から連れ出して車に乗せるころにはいくらか回復し、少なくとも失血死の危険は回避出来る状態になっていた。
 ただ抗魔体質は良性悪性を問わずに作用するので、フィオレンティーナに飲ませた血液はカーミラの魔素同様働きを抑制され、十時間以上経過した今でも完全回復には至っていない――これはおそらく飲ませたのが不死の霊薬エリクシルでも同様だろうが。
「そのせいで、血液量も元に戻ってない――仕方が無いから、とりあえずリンゲル液を注射しといた。輸血は嫌がるかもしれんからな」
「別に俺たちは問題無いが」 エルウッドの返事に、アルカードは首をすくめた。少女に投与したのはリンゲル液、細胞外液と似た電解質組成の製剤にアルカリ化剤として乳酸塩や酢酸塩を配合したもので、出血性ショック時のバイタルサインの安定化等に用いられる。
 といっても、アルカードはそれを持っていないので、代わりに自宅にある岩塩を水に対して十パーセントの濃度で溶かし、それを注射したのだが。
 なりかけヴェドゴニヤの吸血鬼が最初の吸血を済ませる前に上位個体が死ぬと、なりかけヴェドゴニヤは人間に戻る。しかし体内の血液量が元に戻るわけではないので、人間に戻った直後に出血性ショックで死亡する場合が多い。
 そのため、人間に戻ったなりかけヴェドゴニヤを救うにはインスリンの大量投与で仮死状態にするか、もしくは失った血液量を補ってやらねばならない――無論酸素供給量を補うために輸血を施すのがもっとも効果的だが、現場でそれが出来る状況というのはまず無い。リンゲル液も出血性ショックを抑えるためには効果的だが、なにしろかさばるので現場に持ち込めない。
 なので今では教会の後処理担当のチームがリンゲル液や輸血用血液製剤を携行して、後詰として控えるのが一般的になっている――ただ、今回は急なことだったので必要な人員を手配する時間が無かった。それに、吸血鬼に噛まれたフィオレンティーナをなにも知らない後処理担当に引き渡すわけにもいかない。
「たぶん今の状態なら、経路パスを通じて彼女の体内の魔素の働きを抑制して、吸血鬼化を遅らせる程度のことは出来ると思う」
 そう言ってから、アルカードは次に問題点を口にした。
「で、問題としてはだ――それをするには、俺が彼女から物理的にあまり離れてないところにいなければならないと思う。たぶん俺が干渉しても、カーミラの魔素を完全に取り除くことは出来ないから――彼女を人間に戻すには、少なくともしばらくの間ここで匿う必要がある。本人がどう言うかはわからんが――まあ少なくとも、あの女狐アマ殺害バラすまではな」
 そう言ってから、アルカードはグラスの酒を口に含んだ。
「彼女は俺なんかに匿われるくらいなら、死んだほうがましだと言うかもな――まあ、それであの子が自殺を図るなら俺は止めないが」
「やめてくれ、フィオレンティーナは聖堂騎士団の貴重な戦力だ。若手のホープなんだよ――失う様な事態になると困る」
 電話の向こうから、エルウッドがそう言ってくる。
「そうだろうな――おまえならそう言うだろうよ。正直俺は、女子供を戦場に立たせるってのは好きになれねえが――まあ、彼女がおとなしく俺の近くにいることを期待しておくんだな」
 エルウッドは答えない――沈黙の奥に逡巡を読み取って、アルカードは眉をひそめた。
「どうかしたか?」
「アルカード――あんたは、フィオレンティーナの血を吸いたいと思わないのか? 人間の血を吸いたいと思わないのか? 俺の、彼女の、あんたの周りにいるほかの人間たちの血を?」
 なにかと思えばそんなことか――与えられた問いに、アルカードはもう少しで酒を噴出すところだった。
「馬鹿馬鹿しい。おまえも知ってるだろう――俺は人間の血なんかに興味は無いよ」
「だが――」 エルウッドがなにか言おうとして黙り込む。だいたいの内容の察しはついたので、アルカードは苦笑してかぶりを振った。
「そりゃ全盛期の力を取り戻そうとすれば、吸血が一番手っ取り早いのかもしれないが――でもそれは嫌だ。それに、あいつディアから聞いた話はおまえにも聞かせただろう? 吸血をしたが最後、ドラキュラの魔素がどんなふうに暴走するかわからないからな。それに――奴と同じことをするなんざ、死んでもごめんだ」

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