徒然なるままに修羅の旅路

祝……大ベルセルク展が大阪ひらかたパークで開催決定キター! 
悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

Long Day Long Night 6

2016年02月11日 10時55分46秒 | Nosferatu Blood
 本来肉体を持たない霊体が物質世界に顕現する方法は三種類――
 霊体のまま存在するか、筺体に取り憑くか、受肉マテリアライズによって肉体マテリアルボディを構築し、そこに自分の霊体アストラルボディを封入するか。
 下位の霊体は、自分のための筺体・・・・・・・・を持たない――筺体とはガーゴイルやゴーレムの体を指すこともあるが、本来は人間が神仏との交信を行うためにそれらに似せて作った像を指す言葉だからだ。
 すなわち、筺体とは仏像や悪魔像、天使像のたぐいを指す――地蔵観音であれば地蔵観音仏像、大天使ミカエルであればモン・サン・ミシェルのミカエル像といった具合に、自分に似せられた像を触媒にして限定的にではあるが現世に影響力を行使するのだ。
 それはつまり、ミカエルやサタンといった高位の霊体はともかく有象無象の雑魚霊体は誰にも見向きもされず、彼らに用があって筺体を用意する者もいないということだ。高位の天使や悪魔ならともかく、吹けば飛ぶ様な弱小霊体を相手にわざわざコンタクトをとって崇め奉る様な奇特な者はいない――し、姿形のはっきりしない下位の霊体が相手だと彼らがこちらに干渉するための筺体を似せて作る・・・・・ことも出来ないので、そもそも接触を取ること自体が難しい。筺体とは霊体が現世に干渉するための端末であると同時に彼らを呼び寄せるための目印でもあるため、彼らの霊体の姿に似せないと召喚が成功しないのだ。
 だから、ある程度明確に姿形のわかっている高位天使や上級悪魔はともかく十把一絡げの下位の霊体を筺体を使って召喚することは難しい――筺体を似せて作ろうにも、そもそもどんな姿をしているかわからないからだ。
 すなわちその姿形が人間たちに周知されていない下位の霊体は、自分に似せて作られた筺体が存在しないために、筺体を使って現世に影響を与える手段を持たない――ゆえに彼らが現世に顕現するためには直接霊体のままで顕現するか、もしくは受肉マテリアライズで構築した肉体に霊体を封入するかの二択しか無い。
 霊体のまま物質世界に顕現するのは、たとえ天使を通り越して神がみずから地上に降臨する場合を含め、文字通りの自殺行為になる――肉体を持たない純粋な霊体にとって、物質世界は人間が全裸で北極に放り出されたも同然の、極めて過酷な環境なのだ。人間が全裸で北極に放り出されたら極低温の風と氷と雪で瞬く間に体温と体力を削り取られ凍死する様に、純粋な霊体がそのまま物質世界に顕現すれば凄まじい勢いで霊力を奪われ、やがては消滅してしまう。
 それを防ぐのが、霊体にとって過酷な環境である現世で活動するための防護服としての役割を果たす、肉体だ。
 だが霊体がじかに物質世界で活動する場合ほどではないせよ、肉体を持って活動することもやはり消耗を伴う――上位の霊体であれば問題にならないし、『門』の周囲にいれば『点』からあふれ出す無属性の魔力を取り込むことで消耗を補えるから致命傷にはならないが、『点』から離れてしまうと薄れた大気魔力で補える魔力量より消耗のほうが速くなるためにやはり消滅してしまう。
 だが、悪魔は人間も含めてほかの生物を喰らうことで魔力を補充出来る。取り込んだ精霊と自身の魔力の総和が受肉マテリアライズした肉体を維持するのに十分な量であるうちに人里に降りて人間たちを襲うことが出来れば、あとは『門』から離れても行動出来る様になるのだ。
 たとえ下級悪魔であっても、人間が用いる運動エネルギー兵器は一切通用しないので――魔力を帯びていない物理的な攻撃では一時的に損壊を与えることは出来ても、瞬く間に復元されてしまうだろう――、殺傷するには聖典戦儀や霊体武装、霊的武装や魔具、あるいはアルカードの様にそれ自体が魔力を発する特別誂えの銃弾を用いる銃火器を使うか、もしくは魔力強化エンチャントを這わせた武器を使わなければ仕留めることは出来ない。
 それ以外の方法では力を使い果たすまで徹底的に破壊し続けて復元能力を保有魔力量の限界まで使わせるか、同様に力を使い果たして自然消滅するまでの間人間を喰らえない様に足止めし続けるしかない――どちらも専門的な訓練を受けていない人間にとって、現実的な方法ではない。たとえ下級悪魔一匹でも、人里に解き放たれたが最後甚大な被害が出るだろう。
 そしてアルカードが口にした『発生した瘴気のために精霊が堕性を帯び、その影響で宿神が邪神に変化していた』という内容から推すに、かなり堕性の強い霊場になっていたのだろう。
「どうも聞いた話だと、戦争中に民間人が大勢集まってるところに空襲で焼夷弾が落とされて大勢焼け死んだらしくてな、その怨念とかで堕性の強い霊場になってたんだよな」 そう言ってから、アルカードはちょっと考え込んだ。
「それで?」
「だから、散らしてやった――二ヶ月ほどかけて神社の周りの地脈の流れに手を加えて、神社の周囲に『点』が出来ない様に魔力の流れを散らしてやった。それ以降は、まあ平和そのものだ」
 というアルカードの返答に、リディアは眉をひそめた――無論、批判的な感想をいだいたわけではない。アルカードは今、地脈を加工し霊場を散らしたと言った。
 リディアは専門の魔術師ではないが、そういったことが技術的に可能であることだけは知っている――ただし技術的に可能、という言葉の前に『途轍もなく高度な技量を持つ魔術師であれば』という枕詞がつくが。
 少なくともパオラでは無理だろう――もしそれをこの男がやったのなら、裏社会でささやかれている様に魔術の技能をまったく持たないと言われているのはまったくの大嘘か、もしくは故意に流した虚偽情報ディスインフォメーションのどちらかだ。実際問題として味方のはずの聖堂騎士団でさえ彼はドラキュラの『剣』であると聞かされているのだから、世に流布されている情報の内容の大部分が嘘であってもおかしくはない。
 魔術を使えないどころか、彼の言うことが本当なら、アルカードは歴史上でも最高の技量を誇る魔術師のひとりだということになる。ならばはじめて会った日、あの教会でフィオレンティーナの聖典戦儀を瞬時に解体したのも――
「アルカード、あとで一緒にゲームコーナーに行かない?」 お姉ちゃんも、と蘭が誘いの言葉を口にする。
「そうだね――でもその前に、犬の様子を見に行ってくるよ」 アルカードはそう答えて、飲み乾したグラスを脇に置いた。
「わんちゃんは元気かな」
「大丈夫だよ、ああ見えて船酔いには強いみたい」 まるで窓の外の天気の話の様な気楽さでとんでもない内容を口にした吸血鬼は、今は凛と蘭と犬の話をしながら烏龍茶を飲んでいる。
「凛も一緒に行ってもいい?」
「もちろん」
「それで、そのあとはどうなったんですか?」
 リディアが質問を発すると、
「んー……まあアレだ、なんやかやで出発を引き止められつつグリゴラシュにやられたダメージの完全回復を待ってる間に、いろいろとしがらみが出来て、な」
 まあ、そんなに悪くない――そう続けて、アルカードは烏龍茶に口をつけた。
 
   *
 
 こち、こちと音を立てて、壁に掛けられたセイコーの時計の秒針が動いている――それを本条兵衛と神城忠信、手島紗希と並んで椅子に座りながらぼうっと眺めていると、おもむろに神城忠信が立ち上がった。彼はわざとらしくこちらに視線を向けて、
「喉が渇いたな――なにか飲み物を買いに行こうと思うんだが、そちらの金髪の兄さんもどうかね?」
「ええ、ご一緒します」 誘い・・か――胸中でつぶやいて口元をゆがめ、アルカードは席を立った。
「おふたりはなにか要りませんか?」 歩き出しかけたところで一度足を止め、肩越しに振り返って本条老と紗希に声をかけると、ふたりはそろってかぶりを振った。
「わしは結構だ」
「わたしも」 その返答に、アルカードは神城とうなずきあって歩き出した。
「で――」 時折看護師が行き交い、両側の長椅子に診察待ちの患者が座っている廊下を歩きながら、神城が口を開く。
「その容貌に、地下駐車場のエレベーター前に止めてあったジープのナンバープレート――君の素性は、私が考えてるとおりでいいのかね」
「ええ、それで結構ですよ」 歩きながらそう返事をすると、
「ローマ法王庁大使館の外交官、一等書記官ヴィルトール・ドラゴス? この質問も、本来はすべきではないのだろうが――どうしてアルカードなんて名前を?」
「まあ、いろいろありまして。本名ではないですが、人生の九割がたをその名前で過ごしてます」
「ふむ――君に関しては警察庁長官の名前で、行動の便宜を図り、必要無い接触も極力避ける様に指示されている。その事実ひとつだけをとっても、外交使節団職員などというのは名ばかりのことなんだろうとは思う――君はなんらかの工作員だ。ただ、それを警察庁や日本政府が特権を賦与して後押ししているということは、少なくとも日本の国家や国民にとっては有益なことなんだろうな」
「なんのことだかわかりませんね――と、まあそう答えておきます。立場上肯定も否定も出来ません」
「だろうな」 そんな会話を交わしながら、廊下の角を曲がる。
「これは聞いてもいいかね? どうしてここにいるんだ?」
「まあ、成り行き上――」 そう返事をして、アルカードは向こう側から看護師が歩いてきたのでいったん言葉を切った。
「ここしばらく、彼らの家で厄介になっておりまして。どうしてそうなったのかは、お話ししかねますが」
「……」
「たまたま出かけていて、マリツィカとその友人――さっきの彼女を拾って家に戻ったら、家が燃えていました」
「なるほど――家の主人の奥さんと、私の孫娘を家の住人が救出したと報告にあったが、つまりそれが君か」 あの家、今は主人以外に男はいないはずだしな――神城が独り語ちる様にそう付け加えて、再び廊下の曲がり角を曲がる。会計と薬局が並んだ待合ロビーの向こう側には硝子で隔離された喫煙場所とその隣のデイリーヤマザキの売店、自販機コーナーが見えた。神城は閉店の準備を始めた売店にちらりと視線を向けてから、自販機コーナーに足を踏み入れ、
「なら、最初に会ったときに礼を言っておくべきだったな――孫娘と次男の嫁さんを助けてくれたこと、感謝してるよ」
 アルカードはうなずいてその謝辞を受け、
「こちらからも質問してよろしいか」
「うん?」 自販機に小銭を投入しつつ、神城がそう返事をしてくる。
「火災の原因に見当は?」
 チャウシェスク邸はその横に隣接する様にして、夫妻の経営するルーマニア料理店が建っている。かつて日本にやってきた老夫婦が、何年も待った末に下りた難民認定ののちに出店したものらしい――が、それも家と一緒に燃えていた。
 あの日本家屋と店舗は直接つながっていない――定休日だったはずなので彼ら夫妻は店ではなく自宅にいたはずだし、したがって火の気は使われていないはずだから店で小火が出たということはあり得ない。
 したがって、家はともかく店があれだけ派手に燃えるということはありえないはずなのだ。
 それに――
 神城が一度口を開きかけて、黙り込む。
「放火」 アルカードの言葉に、神城は黙ってうなずいた。
「奥方と孫娘を助け出すために家の中に踏み込んだとき、通った経路に熔けた樹脂の塊がありました。それも複数――あれはおそらく、」
「樹脂製の携行缶、か」 コーラの間の封を切りながら、神城がそう返してくる。アルカードはうなずいて、財布から取り出した千円札を自販機に入れた。缶のアクエリアスのボタンを押して、排出されてきた釣銭を回収しつつ、
「俺が踏み込んだとき、家はほぼ全体に火が回っていました。こう言うとなんですが隙間風の入る家でしたから、それが空気の供給元になって奥方とお孫さんは酸欠にならずに済んでいました――が、中に入ってみると火の廻り方にむらがありました。まるで――」
「油を撒いて火を点けた、ということか」 先を引き継いだ忠信の返事に、アルカードは小さくうなずいてアクエリアスの封を切った。
「奥方と孫娘は寝室にいました。昼寝でもしていて放火に気づかなかったんでしょう――御主人と娘御は、まだわかりませんが」
「デルチャさんの話は、一応現場にいた警察官がまとめてる――現場が私の息子の妻の家だということで、署員のひとりが教えてくれた。不審者が数人家に押し入って、御主人とデルチャさんを殴りつけてから油を撒いて火をつけたそうだ。否、デルチャさんは殴られたというよりも突き飛ばされたらしいが――そのときに柱で頭を打って気を失っていたから油を撒くところは目撃してないが、連中がポリタンクを持ち込んだところは見ていた。熱さで目を醒ましたら家が燃えていて、御主人が火に包まれていたから、必死で家から連れ出してふたり一緒に庭の池に飛び込んだそうだ」
 現場に到着したときには彼がすでに搬送されたあとだったために、アルカードはアレクサンドルの状態を詳しく知らない――だが自力で脱出出来なかったということは、かなり手酷く痛めつけられていたのだろう。デルチャはたしかにそこかしこに火傷があり、ずぶ濡れになった髪や服に焦げた跡があった。
「それをする連中に心当たりは」
「この近隣を本拠地にしている暴力団と、金銭面でいざこざがあったことは聞いている――銀行から債権を買い取った話は聞いてるかね」
「一応は――ほかに吸収されずに犯罪組織に身売りしたということは、もともとろくな銀行じゃなかったんでしょうな」
「そうらしい――まあそんなわけで、同様に債券を売り渡された債務者はほかにもいる。そういう人たちに対する脅しだろうな」
「先日ご子息とも話をしましたが、なぜそんな連中を野放しに? さっさと踏み込んで皆殺しにすれば済む話でしょう」
「日本にはね、人権派弁護士というなんの役にも立たん連中がいるんだよ」 私が言うのもどうかとは思うが――そう付け加えてから、神城は吐き棄てる様に続けた。
「まあ、胡散臭い不良外国人と犯罪者の人権にしか興味の無い連中がほとんどだがね。そもそも、法律の条文をまともに覚えてるかどうかも怪しい連中が雁首そろえてる。なにしろあの手のことについては、人権侵害だの差別だの、そういう魔法の言葉を壊れたテープレコーダーの様にわめき続ければ、日本では道理のほうが引っ込む。明らかにおかしいことでもな」
 実に都合のいい言葉だよ――彼はそう言ってから、
「これは聞いてないかね? 某政党に、連中の身内がいるのさ――前政権時代は、警察庁上層部にもその関係者が入り込んでいた。そしてまだ、完全には除去が終わってない――さらに悪いことに、この近隣の町議会も、与党はその政党でね」 人権派弁護士はその政党と仲良しこよしの連中が多い、なにしろ憲法の条文もろくに覚えてない奴が、大勢弁護士から政治家になってるからな――そう続ける神城にアルカードは顔を顰めて、
「だから手出しが出来ない? 一応形だけでも政治家なのに、犯罪組織を擁護するのか?」
「その犯罪組織のトップを義理の兄に持つ国会議員もいるよ。その政党で」
「……よく法治国家として機能してますな。その体たらくで」
「システムの完成度だけは無駄に高いからねえ――それに、有権者の意識が低すぎる。ヤクザの義弟に機動隊に火炎瓶を投げてた女、立候補するのにろくなのがいないうえ、有権者もまともに選んでないのが多すぎる」 『だけ』の部分を強調してそう返事をしてから、神城は飲みきったコーラの缶をゴミ箱に投げ込んだ。
「腹立たしい話だが、我々もそのせいであまり表だってプレッシャーをかけられん。そもそもが日本の左翼政党には、日本国民のためを思う意識がまるで無い――奴らは大陸や半島に侵略させやすい様に日本の防衛を弱体化させるのが役割の、工作員みたいなものだよ」
「それはそうでしょうね――共産主義や社会主義が掲げる思想通りの政治を行った例など、歴史上ただのひとつも無い。別におっしゃる様に日本の左翼が特殊なわけではなく、みんながみんな全部そうです――あれはただ単に政権を追い落として自分たちが権力を握りたい連中が、少ない戦力を補うために馬鹿を煽動して手駒にするための、阿呆向けの題目です。だからどいつもこいつも思惑通りに権力を手に入れたら、今度は自分たちが同じ目に遭わない様に真っ先に国家保安部セクリタテア秘密国家警察ゲシュタポといった秘密警察の設置を始める」
「確かにな――で、日本の場合はそれに中国や朝鮮半島に取り入って他人の褌で相撲を取る、が加わるわけだ。そんな連中に取り込まれた警察庁幹部が暴力団に対する捜査に口出ししてくるとか、世も末だ」 苦々しげに吐き棄てて、神城が壁にもたれかかる。アルカードはアクエリアスを飲みきって空き缶をゴミ箱に投げ込むと、
「根っこが同じで仲間をかばってるのか、それとも金銭でつながってるのか――それはともかく、ひとつお伺いしても?」
「うん?」
「今から言う住所が具体的にこの町のどのあたりなのか、教えていただけませんか」

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« Long Day Long Night 5 | トップ | 【実に素晴らしいと思います... »

コメントを投稿

Nosferatu Blood」カテゴリの最新記事