徒然なるままに修羅の旅路

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悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

修学旅行の最中にバスで事故に遭ったと思ったらクラス全員で異世界に転移してたけど、特に勇者として召喚されたとかではなかったでござるの巻 1

2018年07月29日 23時14分38秒 | 日記・雑記
 
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 ぴちゃり――手にした小ぶりのシースナイフの刃の輪郭を伝って鋒から滴り落ちた赤黒い血が、黒っぽい土が剥き出しになった地面にぶつかって砕け散る。


 空は暗い――鶴のマークも鮮やかなエンブラエルE70型機の機体によって木々が薙ぎ倒されたために開けた開豁地に、空高くに昇った月の光が降り注いでいる。


 誰が信じるだろう? 今が午前十一時三十五分だなどと。


 いったいなにがあったのか、地面の上に転がった二十を超える数の二人掛けの座席シートが月明かりに照らし出されて哀れな姿を晒している――そこに座っていた人間はどこに行ったのか初めからいなかったのか、姿が見当たらない。


 否――視線を転じればすぐに視界に入ってくる。そしてその姿を目にすれば、シートに座っていた者たちの末期など自明の理であったろう。


 主翼の前あたりからまっぷたつに折れたエンブラエル機の機首側、その内部に五十をゆうに超える数の人間の死体が運び込まれていた。


 航空燃料ケロシンの臭いを押し潰す様にして立ち込めた胸の悪くなる様な濃密な血の臭いが、風の無い森の中で周囲の空気を汚染している――苔に覆われた表面が機体によって削り取られた黒い地面に転がった無数の獣の屍の中、彼は全身を獣たちの返り血であけに染めた凄惨な姿でたたずんでいた。


 体にフィットしたcw-xのスポーツトップの上からアンダーアーマーのTシャツを重ね着し、ジーンズにワークブーツを身に着けた黒髪の少年だ――ルーズフィットのシャツがアーチェリーのストリングに巻き込まれるのを防ぐための防具チェストガードを身に着け、左腕の肘から先にTシャツを一枚巻きつけて細い紐で締めつけ固定している。


 右腰の後ろにアーチェリーの競技などで使う数本の矢を納めておく平型の矢筒クィーバーをつけ、ジーンズの右側のポケットの上あたりでベルトに通したベルトループから伸びたナイロン製の紐の先で樹脂製の鞘がぷらぷらと揺れている。


 手傷こそ負っていないものの極度の緊張によるストレスで精神的な消耗が激しいのだろう、彼は細かく震える手を忌々しげに見下ろして小さく舌打ちした。荒い呼吸と心臓の拍動を落ち着けようとするかの様に大きく息を吸ってから吐き出し、髪や服にくっついた土をはたき落とす。


 ごぼごぼという嗽の様な音を立てて、足元に倒れ込んだ獣が身じろぎする――黒いごわごわした獣毛に全身を覆われた狼が、口蓋から血を吐き散らしながらなんとか生き延びようともがいていた。


 だが、もはやどうしようもない――腹を縦に引き裂かれた狼が、そこからこぼれ出した内臓をどうすることも出来ないまま哀れっぽい声をあげている。彼はチェストガードの上か服の胸元を掴んで再び深呼吸すると、右手の小さなナイフのグリップを握り直した――その場でかがみこんで狼の頭を左手で押さえつけ、ナイフの刃を喉笛にあてがって気道と頸動脈を水平に引き裂く。


 すでに相当量の出血があるために血圧が下がっているからだろう、噴き出す血はそれほど多くはなかった。


 脳への酸素供給が止まり、狼が瞬時に絶命する――頭を押さえつける手を撥ね退けようと無駄な抵抗を繰り返していた狼の体から力が抜け、全身がぐったりと弛緩して細かな痙攣を繰り返すだけになった。


 それを確認して、少年が立ち上がる――彼は小さく息を吐くと黄金こがね色の光で地上を照らし出すまっぷたつに割れた月を見上げてからきびすを返し、擱座した機首のほうへと歩き出した。


 そして、五年後――


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