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徒然なるままに修羅の旅路

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The Evil Castle 37

2014年11月12日 20時33分19秒 | Nosferatu Blood LDK
 身長百五十センチ強、体重四十キロの、中学生並みの体格を持つ赤ん坊だという――学者の話だと、最終的には身長四~五メートル、体重百三十キロ前後にまで成長すると予測していたはずだ。
 なるほど、三倍体の人間の遺伝子をベースにキメラを作れば、こういうふうになるのだろう。
 タイラントの脇腹は内部に入り込んだ射出式擲弾が爆発したことでごっそりと肉が吹き飛ばされ、肋骨が剥き出しになっている――だが代謝速度を早回しにされているためかその傷は急速に治癒し、数十秒で完全にふさがって、吹き飛んだ甲殻も元通りに再構築され、甲殻の隙間から覗くわずかな肉の盛り上がりだけがその痕跡を残すのみになっていた。
 ギャルルルルアァァァァッ!
 タイラントが咆哮をあげ――そして、それが瞬時に爆音じみた高音域を経てから聞こえなくなる。
「……くるぞ! 散れッ!」
 アルカードが警告の声をあげ――警告に従って跳躍した次の瞬間、背後の壁にビシビシと音を立てて亀裂が走った。
 物体固有の共鳴周波数をチューニングして、共鳴現象を利用した分子振動破壊攻撃を行うということか――だとすると、彼の肉体の共鳴周波数をチューニングされたらただでは済まないだろう。壁がそうなった様に、共鳴周波数に近い振動波を浴びせられただけでも危険なのだ。
 あの攻撃を受ければいかなロイヤルクラシックのアルカードであっても――霊体にダメージの及ぶ攻撃ではないから死ぬことは無いものの――、その状態からの肉体の再構築にはかなりの消耗を伴うはずだ。
 だが――
流れるものども――沈黙せよZahh ―― La Vieya!」
 アルカードが叫んだその呪文と同時に、周囲から一切の音が消滅した。音としては認識出来ないものの鼓膜を震わせていたタイラントの叫び声が聞こえなくなり、そしてそれに気づいたのかタイラントが叫ぶのをやめる。
 『無音殺傷サイレントキル』――アルカードが独自に組み立てた儀典魔術の術式で、効果範囲内にある流体に干渉して効果範囲内の空間と接続した流体、気体や液体の振動波や音波、衝撃波、圧力波を伝播する媒体としての特性を一時的に抑制する効果がある。
 これをされると効果範囲内で発生する音や振動、衝撃波、圧力変動等の流体を媒体とした伝達が阻害され、音はよほどの大きな音でなければ聞こえなくなり、爆発物が間近で爆発しても爆風が発生せずに影響を受けなくなる。
 味方同士の音声による指示や連携にも問題が出てくるので、使いどころの限られる魔術だが――音響を利用した反響定位やこういった空気を媒体にした攻撃も阻止することが出来る。アルカードはキメラが叫んでもそれが対象まで伝わらない様にすることで、タイラントの攻撃を妨害したのだ。
Shaayaaaaaaaaaaaaシャァァィヤァァァァァァァァァァッ!」 咆哮とともに――その咆哮も声にはならなかったが――、千人長ロンギヌスの槍の長大な刃をタイラントの肩口に叩きつける。異常発達した筋肉に阻まれて、分厚い刃は鎖骨に引っかかる程度まで喰い込んでそこで止まった。
 激痛に悲鳴をあげているのだろう、タイラントが牙列が二重になった口を大きく開く。
 だが次の瞬間、タイラントが三本ある左手の一本の千人長ロンギヌスの槍の穂先をむんずと掴んだ――続いて繰り出された大人の頭ほどもある拳の打撃を右脇腹にまともに喰らい、横殴りに吹き飛ばされて壁に激突する。
 千人長ロンギヌスの槍は吹き飛ばされたときに手放してしてしまっている――背中から壁に叩きつけられ、後頭部をしたたかに打ちつけて、エルウッドは床にうずくまって咳き込みながら小さく毒づいた。
Aaaaaalieeeeeeeeee――アァァァァァァラァィィィィィィィィィィィ――ッ!」 『無音殺傷サイレントキル』は解除したのか、金髪の吸血鬼の咆哮が聞こえてくる。
 アルカードの殺到に気づいて、タイラントが迎撃のために腕を振るった。縦に叩きつけられた放熱爪が、アルカードの体を真直に引き裂く――が、次の瞬間にはアルカードはタイラントの手の甲を踏み砕き、キメラの腕を駆け登っていた。おそらく攻撃が命中する瞬間、一瞬だけステップバックして放熱爪を躱したのだ――上腕まで駆け登ったアルカードが、一撃のもとに首を刎ね飛ばさんとして横薙ぎの一撃を繰り出す。
 だがパワーショベルと拮抗するアルカードの膂力を以てしてもなお、キメラの強靭な首の筋肉はその一撃に耐えきった――塵灰滅の剣Asher Dustの形骸が疑似的に得る重量はせいぜい七、八キロ程度で、斬撃の一撃一撃はかなり軽く、重量を利して叩き斬る様な使い方には向いていない。アルカードの技術が小技に頼った、変幻自在の技法に特化していったのもそのためだ。
 タイラントがうなり声をあげながらアルカードの腕を掴み、そのまま引っこ抜いて壁に向かって投げつける――だがアルカードは空中で体をひねり込み、そのまま足から壁に着地してそのまま再び跳躍した。
 投げ棄てられた際に引き抜いたのだろう、アルカードが千人長ロンギヌスの槍を手に短い間合いを侵略する。
「――死ねよ!」
 咆哮とともに、跳躍したアルカードが手にした千人長ロンギヌスの槍の斬撃をタイラントの右肩に叩きつける――防御のために翳したタイラントの右腕二本が切断され、長大な穂先が深々とキメラの右肩を叩き割った。斬撃の軌道に巻き込まれて天井が破壊され、細かな破片と埃がばらばらと降ってくる。
 ギャルルルアァァァァァッ!
 苦悶の声をあげて、タイラントがアルカードの体を拳で殴り飛ばそうと左腕の一本を繰り出す。だがアルカードが迎撃のために撃ち込んだ右肘の一撃で、その拳は粉々に破壊された――衝撃波で筋肉繊維が細かく裂け、噴き出した血が血霞となって周囲を舞う。
 『矛』――『楯』と並ぶアルカードの最秘奥のひとつで、『楯』に入力された衝撃を増幅して方向を制御し、接触点もしくは左右どちらかの手足の末端から放出する技術だ。直接接触していなければ効果は無いが、逆に言えば直接触れてさえいれば、攻撃を加えてきた相手にそのまま叩き返すことはもちろん、攻撃者以外の相手に対して衝撃を送り込むことも可能になる。
 増幅比率に反比例して持続時間が短くなるため、増幅率を上げれば上げるほどタイミングがシビアになるという欠点はあるものの、成功すれば自身はまったくダメージを受けないまま相手に攻撃を文字通り倍返しすることが出来る。
 増幅比率は一定に保っているので――正確には増幅無しから六十倍まで制御することは出来るのだが、実戦中に増幅度を変動させる意味は無いので、持続時間と破壊力、精度の兼ね合いから四、五倍程度の増幅度で叩き返しているのだ――、単純に入力された衝撃力が大きいほど『矛』の破壊力は大きくなる。
 今のは左肘の接触点に構築した『矛』が、入力された衝撃を増幅してそのままタイラントの拳に送り返したのだ。人間がコンクリートの壁を全力で殴りつける様なものだ――筋肉はずたずたに引き裂かれ、骨格も罅だらけになっているだろう。
 苦悶の声をあげるタイラントの眼前に、アルカードが水平二連のショットガンの銃口を突きつけた。耳を聾する銃声とともにタイラントの片目の眼球が大きく膨れ上がって見え、次の瞬間眼球表面の強膜が衝撃波でずたずたに裂けて卵の白身の様などろりとした硝子体が噴き出した。
 アルカードのショットガン――挽肉製造機ミンチ・メイカーは右側の銃身から散弾を、左側の銃身からはスラッグ弾を発射する構造になっている。
 スラッグ弾とは単体の弾体で構成された弾頭で、ひと固まりの弾頭をショットガンから発射するためのものだ――そのため、ショットガンを散弾・・銃と和訳するのは本来の定義からは正しくない。
 弾頭自体がかなり大型であるためにいろいろと仕込み・・・やすいのも特徴で――高性能爆薬弾エクスプローダー徹甲弾アーマーピアシング焼夷弾インセンダリー、非殺傷用ではゴムスタンに催涙ガス弾、ドアの蝶番を吹き飛ばすための専用弾など、選択の幅が広い。
 今撃ち込んだ銃弾は、アルカードの自動拳銃から発射するフランビジリティーと同じ様な構造になっている。つまりは対化け物用の専用弾なわけだが、物理的な衝撃力も大きいために霊体に依らずに生きている生物に対しても十分に有効になる。
 ギャルルルアァァァァッ!
 顔を掻き毟る動作でアルカードの体を引き剥がし、タイラントが絶叫をあげる。タイラントが滅茶苦茶に振り回した鈎爪から逃れる様にアルカードが後方に跳躍したとき、タイラントが振り回した左手の一本による平手がアルカードの体を捉えた――そのまま彼の体を手近な壁へと叩きつける。
 だが次の瞬間、タイラントが再び悲鳴じみた絶叫をあげた――アルカードの体を壁に叩きつけた左手の甲から、千人長ロンギヌスの槍の穂先が生えている。巨大な平手で撃ち据えられる瞬間、アルカードがいまだ保持していた千人長ロンギヌスの槍の石突を背後の壁に垂直に立てる様にしてその一撃を受け止めたのだ。
 結果、石突を壁に突いて立てた千人長ロンギヌスの槍の穂先にタイラントが掌を叩きつけた格好になったのだ。
 そして当の吸血鬼は、すでにそこにはいない――タイラントの掌に千人長ロンギヌスの槍の穂先が突き刺さった瞬間に彼が力を抜いたことで、タイラントの平手は吸血鬼まで届かずに柄元のあたりで止まっている。
 どのみち、直撃さえ喰らわなければそれでよかったのだろう――キメラが悲鳴をあげたときには、アルカードはすでにそこにはいない。次の瞬間周囲に広がった白い霧がタイラントの耳元に集結し、その中から黒衣の吸血鬼が姿を現す。
「――残念」 言い棄てて――アルカードがタイラントの耳の穴から力任せに塵灰滅の剣Asher Dustの鋒を挿し込んだ。ずぐ、という音とともに、曲刀の刃で耳道が傷つけられ、大量の血が流れ出す。
 ギャルルルアァァァァッ!
 明らかに蝸牛神経を突き破って脳にまで届いているにもかかわらず、タイラントはいまだに斃れる様子を見せなかった――アルカードを振りほどこうともがきながら、タイラントがすさまじい絶叫をあげる。
 ふん――アルカードが鼻を鳴らすのが聞こえた。彼の手にした塵灰滅の剣Asher Dustが、耳に突き立てられた状態から形骸をほつれさせて消滅する。
 同時に、キメラの外耳に掴まる様にして体を支えたアルカードがコートの懐から拳大の塊を取り出した。オリーヴ色に塗装されたそれは、ほぼ球状の本体から点火装置が飛び出した『アップル』――アメリカ軍とカナダ軍で制式採用されている破片式殺傷手榴弾フラグメント・グレネード、M67破片手榴弾だ。
「せっかくだ――耳掃除は好きか?」 安全ピンを引き抜いて、アルカードがそんな言葉を口にする。彼はそのまま、手榴弾を手にした左手をタイラントの耳の穴へと突っ込んだ。
 肘のあたりまで入り込んだ左腕を引き抜きながら、アルカードが後方へと跳躍する。
 数瞬経過したのち――
 タイラントの耳の穴から爆風が噴き出し、耳周りの肉がえぐれ骨片が飛び散る。内耳で破裂した手榴弾の爆風は、強烈な衝撃波となって脳まで届いただろう。キメラが凄絶な絶叫をあげたが、自分が叫んでいることを自覚出来ていたのかどうか。
 頭蓋骨の内部で走った強烈な衝撃波による圧力変動で細かな血管が破裂し、タイラントが血の涙を流しながらアルカードに視線を向ける。
「タフな奴だ」 いつの間に回収したものか楯代わりに翳した千人長ロンギヌスの槍の巨大な穂先の陰に隠れたまま、アルカードはそんなぼやきを漏らした。
 あれだけ痛めつけたのにな――そんな愚痴をこぼしながら、アルカードが千人長ロンギヌスの槍を投げて寄越す。
 エルウッドが受け取るのを確認もせずに、アルカードは再びキメラへと視線を向けた。
 タイラントは足元がやや覚束無くなっているものの、倒れること無くその場でこちらを睨み据えている。肩の傷は信じがたいことにすでにふさがりつつあり――切断された腕二本は再生する様子は無いものの、切断面から蚯蚓の様な触手がうぞうぞと伸びている。
 床の上に転がった二本の腕の切断面からも同様に伸びた触手が胴体側から伸びた触手とたがいに絡み合い、切断された腕二本を胴体側の傷口まで引き寄せて――傷口同士を接合したかと思うと、そのまま癒着してしまった。それで損傷は完全に回復したのか、タイラントがぐるぐるとうなり声をあげながら接合したばかりの二本の腕を翳して身構える。
 挽肉製造機ミンチ・メイカーのスラッグ弾を撃ち込まれて破裂させられた眼球は――おそらく内部に破片が残っているからだろうが――即座に再構成されたりしない様子ではあったが、それでもタイラントはふらつきながらも姿勢を回復している。耳も構造が複雑だし、内部に負った重度の火傷と大量の破片のために再構築には時間がかかるだろう。先ほどから姿勢が頼りないのは、平衡感覚を司る三半規管の一方が破壊されたからだ。
「さて――」
 そんなつぶやきを漏らし、アルカードは笑いながらX-FIVE自動拳銃を据銃して二度トリガーを引いた。

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