MARKETER’S BLOG【小太郎がゆく】

【小太郎がゆく】はマーケター小太郎がいろんなところで出会うさまざまなヒトやデキゴトについて等身大で描いていく日常見聞ログ

【小太郎がゆく】巻の十

2002年07月25日 | エッセイ【小太郎がゆく】
「小太郎がゆく巻の十」まえがき

先日、久しぶりにヨットに乗った。
正確に言うと、「二人乗りの小さなヨットに乗せてもらった」である。

仙台から1時間足らずのところにあるヨットハーバー。
2日間、学生の大会の応援に出向いたのだが、
様々なOB達との旧交も温められた。楽しかった。

「人とつながっていること」、「自然とつながっていること」。
こんなことに支えられながら、ゆっくりと歩んでいる自分がいる。

今年は、いつもの夏より「人」と「海」におぼれてみようか、と思う。

皆さんの夏はどんなステキな季節になるのでしょうか。

それでは【小太郎がゆく】はじまり、はじまり。
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【小太郎がゆく】巻の十

「ショー・ザ・スピリット!ショー・ザ・ゲーム!」


◆親父のワクワク、ドキドキ

「きょうは、清原が打つぞ。そんな気がする」

巨人、大鵬、玉子やき世代の親父が田舎から上京した。
巨人戦は欠かさずテレビで見ている大の巨人ファン。
還暦をとうに過ぎ、白髪としわの人懐っこい顔が、
初めてのドーム球場でほころぶ。
打撃練習が終わり、いよいよ試合開始。
内野の指定席から球場全体を俯瞰する眺めは
テレビとはひと味もふた味も違う、と言う。
ドームに響く打球の音、投球のスピード、
ナイター照明に映える選手の大きさ…。
選手の一挙手一投足に、ボールの行方に、
一喜一憂している子供のような親父がそこにいる。


◆かんじんなところが見えないんです…

「すみません。そこに立たれると試合が見えないんですけど…」

内野席の通路で携帯電話中のサラリーマンに、
我慢しかねて声をかけた。
野球の醍醐味は投手と打者の真剣勝負。とすれば、
その真剣勝負の接点たるホームベースが見えなくなることは、
観戦者からすればたまらない。
インプレー中のオーロラビジョンが消えたままであればなおさらのこと。
ようやく見通しが利くようになり、座席に戻る。

ほっとしたのも束の間。新たなる障害物が立ちはだかった。
生ビール売りの女性戦士(=仲売り)である。
喉の渇きを潤す必要もあったので、
障害となる場所でアピールしている彼女を呼び寄せる。
「生、3つちょうだい」


◆160人の女性戦士たち

「キリンだけで40人もいるんですヨ」

7リットルの樽を背負い、ノズルから紙コップに生ビールを注ぎ、泡をつける。
慣れた手つきに見とれながらたずねた仲売りの人数に驚いた。
ビール4社で同じ数だけいるとすると全部で160人。
仲売りそれぞれの持ち場は決まっているとのこと。
だとすれば、ドームの観客席は、極めて直接的な、
かつ結果が鮮明に出る営業最前線の現場ともいえる。

確かにまわりを見渡すと、
通路の要所要所にプレーリードッグのように背伸びして
客席にアピールしている仲売りがいる。

ノズルを持つ仲売りの左手の指間には
縦折りの紙幣が幾重にも広がる。まるでお札の扇子。
決して売上を見せびらかしている訳ではない。
お釣がスピーディに渡せるための工夫らしい。
事実、会計の手際もよい。
「ハイ、お釣です、ありがとうございます」
お礼を言い立ち上がった彼女の膝頭は紫色のあざになっていた。
よく見ると他の仲売りも同様だ。皆一様に若いのだが、
その膝小僧の色にキャリアが出ているのだった。


◆劇空間、驚異の目を大切に

「子供たちの世界は、いつも生き生きとして新鮮で美しく、
驚きと感激にみちあふれています」 『センス・オブ・ワンダー』

「ほら、打っただろっ」。
清原の技ありの打球がライトスタンドに飛び込むのを見て、
親父は誇らしげに言った。
この一瞬が誰にもさえぎられることなく見せられてよかった。
スポーツの歴史的瞬間はエンスー(熱狂的ファン)にとっては、何ものにも代えがた
い。

この夜の東京ドームの売りは、当然のことながら、プロ野球というゲーム。
来場のお客さまにいかにゲームを楽しんでいただくか。
球場のあらゆるサービスは、この一点に集中されるべきである。
仲売りと呼ばれる売り子もゲームの流れを読みとり、
時に喜び、時に残念がり、観客と一体となってゲームを楽しみ、
そしてビールを売る。
そんな球場運営が観客の心地よさにつながるのではないか。

今、世はまさに夏休み。子どもはもちろんのこと、
かつては子どもだった大人も好奇心を取り戻し、
驚異の目をみはらせるには絶好の季節。
日常を少し離れて、違った世界へ足を運ぶ。
何かを純粋に楽しむ時間は人の心を広くする。

天井の幕に消えた松井の大飛球が飛び出す
おまけもついたジャイアンツvsベイスターズ戦。
終了後の混雑を極めるホームで、劇空間のあり方に思いを馳せる。

次回『小太郎がゆく』、乞うご期待!

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Marketer's Essay【小太郎がゆく】<バックナンバー>
№000 序 章「おにぎり的な私」
№001 巻の壱「うりばのちからを信じています」
№002 巻の弐「スローバックなスーパースターにまなぶ」
№003 巻の参「いちねんの計は?やっぱりうりばにあります」
№004 巻の四「数字が教えてくれるもの うりばが教えてくれるもの」
№005 巻の五「目は口ほどにものをいう 耳は目以上にものを見る」
№006 巻の六「お酒飲む人 花ならつぼみ 今日も咲け咲け 明日も酒」
№007 巻の七「調査とは旅すること 旅することとは見聞きすること」
№008 巻の八「お食事系外食チェーンに見る『伝えたいその想い』」
№009 巻の九「『ワールドカップ』四年に一度の祭典に学ぶ」
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