「豊臣秀長」から黒田如水孝高を読み解く
今度のNHKの大河ドラマは「軍師官兵衛」だそうですね。
そう、黒田如水孝高。豊臣秀吉の軍師として活躍した方です。
私は歴史小説マニアというわけでは無いので、黒田如水といえば、「豊臣秀長」での印象が強いです。

▲…何度も読んだのでボロボロ…。(^_^;)
維新とか、原発とかを抜きにして、
私は以前の「歴史作家」としての堺屋太一は嫌いではないです。その1885年の作品「豊臣秀長」を新作大河ドラマの主役である黒田如水に注目して読み返してみました。
以前大河ドラマ化された(竹中直人の怪演が影響してか今だにDVD化されない)「秀吉」の原作も彼の小説複数が採用されています。
その一つである「豊臣秀長」では黒田如水孝高は「策謀好き」という描写をされています。
こんな時には「俺が」という野心家が現れる。播磨にもそれが居た。御着の城主?小寺政職(まさもと)の重臣で、姫路の小城を預かる小寺官兵衛孝高なる青年だ。
小寺官兵衛、のちの黒田如水孝高、この時三十歳。その後の人生が示すように、なかなかの野心家でありひどい自信家であり、かなりの知恵者であり無類の策謀好きでもある。(堺屋太一/豊臣秀長 より)
この辺は、竹中半兵衛との対比という演出もあるように思います。竹中半兵衛はあまり喋らない美形の先生的な。
また、そもそもこの小説は秀吉の弟の秀長が主人公なので、どちらかと言うと主人公は官兵衛の進言のとばっちりを受ける側です。
例えば有名な「水攻め」です。
織田vs毛利の戦いで決め手となった「宇喜多裏切り」の後にやって来た高松城戦は水攻めとして知られていますが、それを進言したのも官兵衛とされています。
「昔、唐土において水攻めというのがござりましてな」
黒田官兵衛は、これから行うべき戦術を説明するのに、まずそんな迂遠な所から語り出したが、要は足守川を堰き止めて高松城を水浸しにしてしまおう、ここの地形はそれにぴったりだ、というのである。
ただ、実際やるのは秀長。この小説のカタルシスである
「小一郎(秀長のこと。秀吉は彼をこう呼ぶ)頼むぞ」
「またか・・・」
の流れになります。土俵を集める、集める為の金を集めるのはいつも秀長・・・ヽ( ´ー`)ノ
ただ、慎重論が言いたくても「指揮官が決めたら、従うのも良い補佐官の条件」と考える彼は素直に従います。その辺の描写がこの小説の面白いところです。
例えば「荒木村重謀叛」。信長最後のハイライトと言えばこの摂津での謀叛騒ぎがあります。
「村重挙動不審」と通達が届いた際、説得を試みようとしたのが官兵衛であるとしています。
同じキリシタン同士、道理を説けばと考える官兵衛。しかし秀長は「今となっては無駄ではないか」と考えます。しかし、兄秀吉がGOサインを出した以上進言はここでも控えています。
兄よりは幾分か村重の気持ちが分かる小一郎はそう思った。できることなら黒田を止めたかった。だが、この人は敢えてそれをしなかった。主君の、兄が決定したことに異論をさしはさむのは、この際得策ではない。兄の予想がはずれ、自分の忠告が当たったとしても、兄の権威を傷つけるだけで得るところがない。補佐役たるもの、主役と才知や人気を争うようなことはしてはならないのである。
この「村重謀叛」は官兵衛の大河ドラマではどう描かれるのか興味があります。
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村重の妻に桐谷美玲があてられていることからも、この辺はじっくり描かれるのでは?と予想しています。
この小説では、「官兵衛のスタンドプレー」的な印象を持ちますが、ドラマではどうなのでしょう?
そもそも、黒田如水って方を私はあまり知りません。この荒木村重にしても、旧体制よりという解釈でこの小説では扱われていますが、どうなのでしょう?「村重の気持ちが分かる」という豊臣秀長は村重の心の疲弊を想像して、謀叛を止めるのは無理ではないかと考えたようです。官兵衛はそうは考えなかったのでしょうか。
それこそ、組織改革に対する考え方の違い、という観点で言えば、その後の関ヶ原の戦いでもその辺の色はあったはずです。
組織を変えたり守ったりしたい側と、それに対する不満。
キャストの紹介で息子の黒田長政や石田三成がフューチャーされていますので、その辺りの人間ドラマがあればいいなぁと期待しています。
この小説のテーマとも繋がってくるのですが、ここでの黒田如水の描かれ方は「軍師」として。それに対して、秀吉に重用されたのは「補佐役」である秀長であるとしています。
それが端的に表れたのが、中国返しの冒頭。
泣き崩れる秀吉に対してかけた2名の言葉です。
黒田如水は
「殿、泣いている場合ではござりませんぞ。今こそは謀反人を討ち取り、天下を手中に収める好機でござりますぞ」
というセリフ。それに対して秀長が雰囲気を察して発したのが
「何はともあれ仇討ちでございます。秀勝(信長の四男、秀吉の養子)様をして御父?信長様の仇、惟任日向守光秀殿を打ち取っていただかなねばなりませぬ。これができぬようでは、我が殿も御養父としての立場がありませぬぞ」
というセリフ。
この立場の差がその後の官兵衛と秀長の政権内での位置取りの差になっていきます。
もちろん、天下が収まっていくなかでは「軍師」は必要がなくなって行くのはわかるような気がします。
ドラマでは、キャストの紹介で暗示されるように、黒田官兵衛の晩年まで描かれるのかなと期待しています。となれば、後半は徐々に政権内での影響力が小さくなっていく様なんかも描かれるかもしれません・・・ワクワクしますね!
今回は原作なしの大河ドラマという点も興味深いところです。
それこそ今回引用した「豊臣秀長」は30年も前の作品。その後の研究などで明らかになったこともあったでしょうし、何より昨今の「歴女」ブームも意識しなくてはいけないでしょう。(そう言われると、キャストにはイケメンが、多い・・・?ヽ( ´ー`)ノ)
ついこの間の「江」では「信長のカリスマにメロメロののだめ」が個人的にはヒットでした。
今回は・・・骨太な組織内のやりとりがあればいいなぁと妄想する秋の夜長でした。
※「豊臣秀長 ある補佐役の生涯」はPHP文庫版と文春文庫版とでており、上巻・下巻の切れ方が違うので購入の際はご注意ください。