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歌舞伎の繁栄のために         山積する課題の解決を

2013-10-10 21:24:36 | 世界の中の日本

相次ぐ役者の急逝や病気休演以外にも課題山積
 9月29日、歌舞伎座新築杮葺落第三部の「盛綱陣屋が」がNHKで放映された。4月15日の舞台を観て以来であったが、3年間の休場の後の杮葺落を観られるというだけで興奮している客席と相まって、舞台と一体となって盛り上がった当時を思い出し、金太郎の活躍(写真)なども楽しく懐かしい思いでテレビを見たが、記憶違いでなければ、4月から始まった歌舞伎座の杮葺落興行の初めての舞台中継であり、半年ほども過ぎてやっと放映されたことに不満を感じた。そんな思いでいる所へ片岡仁左衛門が11月から休演とのニュースが入ってきた。團十郎、勘三という大看板が急逝でショックを受けていたら、中堅の兄貴株三津五郎病気治療のため休演でまたショック。そして今度は仁左衛門である。幸い10月の舞台を済ませてからということなので、いがみの権太(写真)を楽しみにしていた身としてはひと安心だが、歌舞伎のこれからがだんだんと心配になってきた。歌舞伎の末永い繁栄を考える時、役者に関わる課題がいくつか頭に浮かぶが、ほかにも懸念されることが結構ある。問題は歌舞伎の提供者である松竹と歌舞伎役者、広宣・教育活動を担当するNHKなどのメディア、歌舞伎を観る観客の三者それぞれにある。

《歌舞伎界の懸念と課題…役者について》
◎ 一気に手薄になった幹部陣  
 歌舞伎座休場中に市村羽左右衛門、中村芝翫、中村富十郎の3人の人間国宝が亡くなり、開幕直前に市川團十郎、中村勘三という将来の人間国宝と目される当代の人気役者が他界した痛手はこれから影響がでてくる。今現在は、3年の休場と杮葺落人気でここまで何とか持ちこたえているが、観客を呼べる看板役者がこう手薄になると、毎回似たような顔ぶれによる芝居となり、新鮮さにかける。それだけ集客力が弱くなる。また、看板役者の負担も大きくなり、健康上の影響も否定できない。坂東三津五郎の休場に続いて片岡仁左衛門が右肩を痛め、治療に専念するため年内いっぱいの歌舞伎の舞台を降板が報じられている。負担増の影響もあるのでは懸念される。正に危機である。

◎ 急がれる中堅層の成長
 現在の状況を戦後間もない時期に六代目菊五郎、初代吉右衛門と相次いで逝去した危機を、海老蔵(11世市川団十郎)、梅幸、歌右衛門、幸四郎(白鴎)等の活躍で人気を復活させた先例と比較する見方もある。当時と比べると、吉右衛門、幸四郎、仁左衛門はパリパリの現役であり、女形陣は玉三郎を筆頭に7世中村歌右衛門を襲名する福助、時蔵、芝雀、扇雀と揃っている。課題は染五郎、橋之助、海老蔵らが、團十郎、勘三に代わる人気実力を備えた役者としての早い成長である。

◎ ベテラン脇役の高齢化
 大幹部もさることながら、役者全体を見れば、脇役の高齢化が最大の懸念事である。つい10年くらい前までは、菊十郎、鶴蔵、吉之丞など六代目や初代吉右衛門の教えを受けた脇役陣が良い意味でのお目付役であり、お手本であり、指導役であったが、舞台で見かける機会も少なくなった。「寺子屋」で孫や倅を迎えに花道に並ぶ顔ぶれにも見慣れた顔が少なくなってきている。芝居に歌舞伎味が薄くなる一つの理由である。

◎ 微妙やおかやの役者が
 4月の「盛綱陣屋」微妙は東蔵であった。真面目にやっているが、ふっくらした丸顔で損をしている。これまでの微妙役では圧倒的に芝翫が多い。公演記録によれば。ほかには先代又五郎や延若、菊次郎、先代鴈治郎などの名前がみえる、それぞれ面長のやせ面である。同じ事は道明寺の覚寿にも言える。
 また、「忠臣蔵6段目」のおかやや「引窓」のお幸は細面で小柄な方が良い。敢えて名を伏せるが、以前6段目のおかやを大柄でややでっぷりとした女形で観たが、一生懸命演じてはいるが、哀れさも何もあったものではなく気の毒にさえ思えたことがある。東京では団之助、多賀之丞、関西では霞仙の頃は可愛い“おかや”であった。その辺りが出られなくなって又五郎(先代)がおかやを演じることこともあった。もったいない配役であるが、良いおかやであった。
 近頃は全体に体格がよくなっているだけに、やせ気味で小柄な可愛く哀れな老婆を探すのは難しくなっているが、芝居は可愛いおかやで盛り上がる。濡れ髪にひけをとらない立派な体格のおこうが「濡れ髪の長五郎を召し捕った」と捕り縄を持っても見せ場にならない。
 一方、先代の又五郎や三津五郎の役どころであった男性老け役は「鮓屋」の弥左衛門や、「熊谷陣屋」の弥陀六など歌六の老け役は好評であり期待している。

◎甘やかされているのでは? 若手役者
 3月27日(水)歌舞伎座再開を記念して歌舞伎座新開場記念 銀座・春のパレード「GINZA花道」が行われた。10時スタートということであったが、9時過ぎにはパレードが行われる銀座1丁目から4丁目までの両側は見物客でぎっしり、主催者の発表では32,000人という。歌舞伎役者の襲名のおりなど浅草でのお練りの光景がテレビで時々紹介されるが、あのイメージとは異なり、通りには入れないように銀座通りの両側に鉄柵が設けられている。お練りではなくパレードだから、温和しく柵の中で見物しろということらしいと合点するが、すこしガッカリした。

◎  傘もさせないファンの前を                    傘をさして行進する役者 

通りに面したビルの壁面の温度計は摂氏7度、雨がパラツキ始めたが、十重二十重の行列の中で傘をさせる状態ではない。定刻になっても一向に始まる気配がなく、やっと10分ほど過ぎた頃に、パレードに参加予定の役者が到着していないと司会のアナウンス。“こちらは3時間も待っているのに、主役が遅刻ぅ…”と前列から呟きが。更に10分ほどして、役者が揃ったのでパレードの準備をしているとのこと。“予定外の雨のため、傘を用意している”。“パレードの後、セレモニーがあるので、着物を濡らす訳にはいかないので傘が必要”などとの説明が途切れ途切れに聞こえてくる。
 ようやく、パレードが始まるが、その前触れにガードマンが「周りの迷惑になるので傘を差さないで下さい」とハンドマイク片手に触れまわっている。言われなくても、どこもかも10列を超す人混み、無神経にも傘をさせる状態ではない。ようやくパレードの先頭が視界に入ってきたが、何と役者の皆さんは一部のベテランを除いて、皆傘をさしての行進である。一部の役者には声もかかるので、声の方に手を振ったり、会釈をしているが、全体としては、傘をさしての静々の行進で、あっという間に通り過ぎてしまった。早い方は夜明け過ぎ、遅くとも7時過ぎに来られたのではないかと思うが、3時間待って10分余りのただ通り過ぎるだけの行列を見たことになる。(トップの写真は産経ニュースから)

◎勘三郎さんがご健在なら                  もっと楽しいパレードになったのでは
  同じ事でも、役者衆がジグザグに歩いて沿道の両側に並ぶ人々に握手をしたり、笑顔を振りまいてくれたら、前列に並んだ甲斐があったと言えるが、正面を見据えて、真っ直ぐ歩くだけのパレードにどれほどの意味があるのか、考えさせられた。パレードの様子はテレビでも紹介されたが、それを見た友人の何人かから、「勘三さんがおられたら、あんなことにはならなかったのではないか。勘三さん持ち前のサービス精神で、両サイドのお客さんを精一杯楽しませようと努力しただろうと。そうなれば、後に続く、若手連中もそのように動けたのでは思う。」との意見がでた。同感である。
 
◎“ファンより衣裳が大切”とは、どんな性根?
  春の彼岸が過ぎたばかりで、寒さが残る小雨の中、2時間も3時間も立って待っておられる人々こそ、真の歌舞伎ファンである。その方々が傘も指さずに待っている中を、傘をさして、笑顔もろくに見せず、ただ正面を向いてさっさと歩くという性根が理解できない。「セレモニーが控えているので…。衣裳が濡れては困る」は言い訳にならない。売れない噺家でもあるまいに、紋付き袴着替えがないではお粗末過ぎる。

◎若手の躾けは先輩や松竹の役目
 菊五郎が菊之助、幸四郎が染五郎、吉右衛門が万之助であった頃は、歌舞伎座で歌舞伎以外の興行が行われてい時代であり、それぞれに歌舞伎や歌舞伎役者の将来に不安を感じたこともあったと聞く。現在の若手の役者は伝統芸能などと持ち上げられてテレビなどにでればればそれなりに人気がでる時代だけに、観客あっての歌舞伎という原点を忘れているのではないか。思い上がりがあったり、身の程を弁えない礼儀知らず行いがあれば厳しく注意するのが、先輩や松竹の役割ではないか。一時が万事という。傘を差してのパレードを注意もせず、黙認し見過ごした関係者の猛省を促したい。
  翌日の一部の新聞には「雨の中、傘もささずに」との大見出しがでていた。大嘘である
が、本来はそうあるべきであり、その思い込みがそのまま見出しになってしまったのだろう。当日の産経ニュースの写真が真実を物語っている。

《歌舞伎界の懸念と課題…松竹について》
利益の追求と歌舞伎の繁栄、ファンサービスのバランス
  歌舞伎界の育成・発展に松竹がこれまで果たしてきた役割功績は評価できる。特に故永山会長が歌舞伎の発展への貢献、歌舞伎役者にもそれぞれに愛情を持って取り組んでこられたことは私のような素人でも理解できる。歌舞伎の良き理解者永山会長が逝去されて7年、歌舞伎の保護者としての松竹が変質しつつあるような気がしてならない。
  歌舞伎座新築工事中の3年間の休演の減収は覚悟の上とは言え、経営上は大きなマイナスであったろうが、それを一気に回収しようと利益追求に走るのは禁物である。人気役者の相次ぐ休場は経営上は大きな痛手であるが、だからといって、頑張っている残りの役者に負担を掛けるのは禁物である。金の卵は大事にしてほしい。また、開幕直前の歌舞伎パレードの傘をさしての行進に垣間見えた若手役者の心得違いなども役者の教育・躾けの一環として松竹が心して取り組むべき課題である。

◎5階歌舞伎ギャラリーは無料でも
 歌舞伎座5階のショップやギャラリーのオープンが四月興行に少し遅れたは松竹らしからぬことであったが、歌舞伎関係資料展示のギャラリー入場料500円は松竹らしい。屋上庭園など二度も三度も行くほどの値打ちがあるとも思えない。杮葺落興行人気が一段落した頃には5階までわざわざ脚を運ぶ者は減るのではないだろうかと懸念する。
 第一、歌舞伎見物に出かけて、芝居も資料館もという時間的余裕はそうない。むしろ木挽町ホールは役者の語りなど客を呼べる企画わざわざ出かける価値のあるものにして有料にし、資料見学だけならは無料でも良いのではないか。
 
◎テレビ中継はファン増加の有力なツール
  歌舞伎座新築杮葺落興行観劇は全国の歌舞伎ファンの垂涎ものであるが、首都圏に住んでいても切符の入手は容易ではない。まして地方のファンにとっては、せめてテレビでなりともと願うのは当然であるが、ほぼ半年間放映がなかったのはどうしたことだろう。NHKの方針なのか、松竹の方針なのかは不明であるが、歌舞伎ファンの為には双方とも放映に努める義務がある。仮に、衛星放送の契約やDVDの売り上げに影響するからなどの理由で松竹が渋っているとすれば由々しき問題である。
  ファンあっての歌舞伎であり、テレビ放映が歌舞伎ファンを増加することに役だっても、劇場での観劇希望者を減らすことになるとは考えられない。

《歌舞伎界の懸念と課題…メディア、特にNHKについて》
◎劇場中継をしないのは何故
  杮葺落興行の初日4月2日にその様子がニュースで伝えられて以来、ほぼ6ヶ月ぶりに4月興行の第三部の「盛綱陣屋」が放映された。楽しく拝見したが、「古典芸能への招待」であって劇場中継ではないことが気になった。歌舞伎の劇場中継は一頃ほどは多くなくなったが、それでも、それなりの頻度で放映されていたものが、この半年、歌舞伎座からの中継を目にすることはなかった。NHKの方針か、松竹の方針か知らぬが、世界で唯一、採算の取れる古典芸能、それだけ国民が支持して歌舞伎中継を放映しないのはどういうことであろう。NHKは日本の伝統芸能を国民に見せる義務があり、松竹は歌舞伎の末永い繁栄を確実にするためにファンを育成、増加する工夫が経営上欠かせない。BSも含め、4本のチャンネルの保有を許されているのは、韓国ドラマを放映するためではあるまい。古典芸能の紹介でない歌舞伎中継の定番化の努力が望まれる。

◎“弁慶があの手、此の手で嘘を…”の説明に呆れる
  4月2日午後9時のニュースで歌舞伎座新築杮葺落4月興行の模様が紹介され、上演中の「勧進帳」の模様が中継された。舞台の模様を画面に映しながらのアナウンサーの解説にビックリ仰天した。耳で聞いた通り書くと
「義経は兄頼朝に追われる身。その義経を守るのが弁慶。一行は奥州平泉へ落ち延びようとしますが、そこに立ちはだかるのが関所を守る富樫。関所を突破するため弁慶があの手、この手で嘘をついて、義経を守ろうとする。…義経を守る弁慶の至誠に感じ入った冨樫がわざと見逃して、酒を振る舞う」である。
 「味もしゃしゃりもない」とのはこのような事かと思わせる説明だが、話すことが商売のアナウンサーとは思えない語感である。“あの手、此の手で嘘をついて…”には参った。あの手此の手の嘘で、冨樫が至誠に感じ入る訳がない。
 山川静夫氏や葛西聖司氏など歌舞伎解説では名だたる先輩がおられるNHKである。何とも情けない後輩がいたものだが、教育・指導に一段の努力を払われたい。何事も体験、失敗で育つ育成法もあるが、放送には適しない。チャント育ててから、人前に出すべきである。

《歌舞伎界の懸念と課題…観客について》
◎かけ声一つで芝居が盛り上がるが…
  演劇から舞踊まで、舞台芸術は多種多様であるが、演技中に観客が大声を出しての声援が許されているのは舞伎とフラメンコだけである。というより厳禁どころか、両者とも演技中のかけ声は演技を盛り上げるものとして歓迎される。実際、フラメンコを見ていて“オレッー”の声がかかるとフラメンコを見ているという気がする。
  歌舞伎のかけ声は役者が見得を切った瞬間などを捉えてタイミング良く声が掛かると芝居を観ていることの満足感が増す。歌舞伎の地方巡業を観ていて、つい声を掛けたところ、たまたま隣に座っておられた老婦人から、「歌舞伎を観ているような気がして、嬉しかった」とお礼を言われたことがある。
  このかけ声、歌舞伎の大向こうは有名であるが、近頃は客席のあちこちから声が掛かることがある。昔は聞くことがなかった黄色い声も含めてその多くは芝居を盛り上げるものとして歓迎であるが、中には頂けないものもある。
  かけ声のほとんどは役者の屋号である。問題は役者が襲名した時、屋号が変わることがあることだ。つい、これまでの習慣で襲名以前の屋号で声を掛けてしまい、後で気がついて耳まで真っ赤になった記憶がある。中村時蔵ら播磨屋一門が万屋に、中村福助が梅玉を襲名した結果、成駒屋から高砂屋に変わった時など、つい昔の屋号で声をかけてしまうことがある。心得事である。
 屋号以外には場面に合わせて、「待ってました」「ご両人」などとのかけ声もある。病気などで暫く舞台から遠ざかっていた役者が、久しぶりに舞台に立った時、舞踊「お祭り」がでることがある。この時の「待ってました」の大向こうを受けて役者が『待ってましたは嬉しいね』と受けるが定番になっている。「待ってました」の声が掛からなければ、舞台が進行しないということだ。平成6年1月の舞台で1年間の病気休場した片岡孝夫(現仁左衛門)が「お祭り」(写真)を見たが、松嶋屋もファンも嬉しい「待ってました」であった。
  「梶原平左誉石切」では、手水鉢を銘刀で切った後、「剣も剣」「切り手も切り手」のノリに、大向こうもノリで「役者も役者」。定番でもあり、芝居が一段と盛り上がる。
   六代目歌右衛門の晩年、「役者の神様」と声がかかることがあった。芸一筋の歌右衛門丈への尊敬が言わせたものであろう。そののりだろうか、平成8年3月歌舞伎座夜の部に「梅ごよみ」は丹治郎は孝夫、仇吉に玉三郎、米八に勘九郎と配役であったが、その玉三郎に「芸者の神様」と声がかかっことがあった。確かに仇っぽい芸者であった。(写真) 

 かけ声の原点は役者の演技に対する賞讃であり、感嘆であり、観客が役者に捧げるものである。これを間違うとおかしなことになる。20~30年前、実に不愉快な声を聞いたことがある。京都南座の顔見世で白鴎の弁慶の幕切れ、義経主従を花道の向こうに見送った弁慶に「しっかり息吸うて…」と。飛び六方に備えて、呼吸を整えることをアドバイスしているつもりなのだろうが、それは役者の領域で、観客が入り込む所ではない。何やら自慢したい風の通ぶったかけ声であったが大向こうが目立ってはいけない。人迷惑であり、不愉快でもある。
 『間は魔なり』 と言うように日本の芸能は間を大事にする。“間抜け”、“間違い”など、間のズレを意識した言葉も多い。 歌舞伎のかけ声も『間』で決まる。声をかけ始めて半世紀近くなる、最初の頃は、その間が掴み難く、躊躇してしまうことがしばしばであったが、自分にだけ聞こえる小さな声で声を掛けている内に、自然に声がでるようになってきた。舞台の役者と同じ間で呼吸をしていると、タイミングの良く声がでるように思う。その呼吸が身に付くまでは自分だけに聞こえる声でかけ声をかけるくらいの気配りをして欲しいと感じるかけ声をたまに聞くようになった。

◎拍手と手拍子 観劇マナーに変化
 、歌舞伎座新築杮葺落4月興行の第三部を 4月15日に観た。「盛綱陣屋」の後が、幸四郎の弁慶、菊五郎の冨樫、梅玉の義経。左団次、染五郎、松緑、勘九郎の四天王に、長唄は鳥羽屋里長と当代では最上の顔ぶれによる「勧進帳」。3年間の空白が一気に埋めようとする熱気が舞台・客席の一体感を醸成し、舞台の所作、一つ一つに客席が敏感に反応していることが感じられる雰囲気の中、いよいよ大詰めとなり、飛び六方になったが、拍手で送っていた客席がいつの間にか、手拍子に変わってしまった。歌舞伎を本格的に見始め、半世紀が軽く過ぎた。その間に観た「勧進帳」は100回を下らないと思うが、手拍子で送る飛び六方は初めてだ。それだけ、杮葺落興行の興奮からか、舞台と客席が渾然と一体となって芝居を盛り上げた結果と言えば、それはそれで評価できる。
 気になったのは、それが役者の演技に妨げになったのではないだろうかという懸念である。飛び六法と手拍子のリズムは明らかに異なる。幸い、弁慶を1000回以上務めておられる幸四郎丈でだけに、手拍子につられておこつくようなこともなかったが、クライマックスでは相当なスピードで飛んでいくだけに、手違いがあっては大怪我をさせることにもなりかねない。その辺りは当の高麗屋さんにお伺いしなければ判らないが、気になることではある。
  幸い、手拍子で送る飛び六方は15日だけようであったが、観客心得として考慮すべき一項ではと思う。ファッション一つとっても何でもありの時代、個人個人の言動の自由度も大きくなっている。観劇マナーもその影響を受けざるを得ない部分もあるが、役者の演技、芝居の進行を妨げるものであってはならないのは当然である。ファンがそれぞれに意識しておきたいことである。


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