美の渉猟

感性を刺激するもの・ことを、気ままに綴っていきます。
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三島由紀夫『獅子』-ヒロインは中谷美紀のイメージ

2012-11-11 21:48:18 | 三島由紀夫
 新しいブログ「三島由紀夫が描くスタイリッシュな女性達」準備のため、三島の短編を再読しはじめた。今日は『獅子』を読んだ。《エウリピデスによる悲劇「メーデア」による》と副題がついているとおり、ギリシャ悲劇「メディア」を下敷きにしたもの。再読のつもりが、ちっとも読んでいなかったことに気づいた(私が三島を読んでいたのは中学・高校時代)。私がいま探している「スタイリッシュな女性像」は出てこなかったが、これが面白かった。
 舞台は戦後、奉天から引揚げてきた或る資産家の家庭。三島小説の楽しみの一つは、戦中戦後のセレブの生活ぶりが描かれているところだ。資産家のお嬢様 繁子が、奉天で知り合った寿雄と恋に落ち周囲の反対を押し切り結婚、親雄という男の子をもうける。寿雄はその道では「電撃戦」の異名をとる(要するに手が早い)男。凄惨な引揚げ(ここの描写も短いが凄い)の経験を経て一家は帰国、寿雄は、繁子の父の友人の会社に雇われるが、その雇い主の娘 恒子の「針魚(さより)のように細身で固い肉の白さ」を「ショーツの腿」に見て、すぐに行動に出る。ほどなく二人は深い関係になって寿雄は家に帰らなくなり、繁子の懊悩が始まる。そして、繁子だけを家から追い出し(その家は繁子の亡き父が建てた家、つまり繁子の家なのであるが)、寿雄と恒子と恒子の父と、そして子供好きの寿雄は、親雄の四人で暮らそうと企むようになる。
 ヒロインの繁子はどんな女か。「財界の新しき太陽」と呼ばれた父に愛され、「この太陽の愛娘は…草木を枯らすに足る強烈な熱とを持っていた。とりわけ獅子のような瞳の焔が繁子の目をよぎる怖ろしい瞬間を、寿雄が見たのは終戦後の奉天においてであった」。しかしいまや「いかにもこの女は美しいにはちがいなかった。しかしそれは或る男によって美しさへの自信を根絶やしにされてしまった女の、どこにも手がかりのない、いわば外延を欠いた美なのだった。」「いつのまにか繁子には、瞼を押しあげるようにして人を見る不愉快な癖がついていた」。夫が家に帰ってこない理由を、当の恒子の父から知らされた繁子は(この恒子の父の軽薄さの描写がまた面白い)、壮絶な復讐を構想するようになる。どのような復讐かは、「メディア」と同じだ。「繁子は自分の残り少ない幸福を抵当に入れて、一つの確実な不幸を購おうとしているのだった」。
 復讐の実行とその結末までは、まるで舞台を見ているような描写だ。読んでいて、これはNHKの2時間ドラマにしたら面白いなと思った。ヒロインの繁子を演じる女優はすぐ浮かんだ。中谷美紀だ。「獅子のような瞳の焔が繁子の目をよぎる怖ろしい瞬間」を、彼女なら演じられるだろう。「財界の新しき太陽」と呼ばれた父を持つ、誇り高い娘の雰囲気も、彼女なら出せるだろう。
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