マイペースおくやまの進化的考察

進化の研究は楽しい!というわけで、日常の研究生活で考えたこと、感動したこと、あるいは思いつきのネタの備忘録です。

モデル生物からの脱却

2010-01-21 17:40:15 | 論文紹介
最近研究が面白すぎて他のことが手につきません。
研究を仕事だと思ってはいけない気が真剣にしてきました。

さて、モデル生物からの脱却というタイトルで昨年末の種生物学会のポスター発表をしましたが、ついにScienceに凄い論文が出ました。
The Genetic Map of Artemisia annua L. Identifies Loci Affecting Yield of the Antimalarial Drug Artemisinin. Science 5963: 328-331.
全く遺伝学研究のためのリソースが整備されていない材料(ヨモギの1種)で、一気に高密度連鎖地図を完成させ、さらに実質QTLの原因遺伝子と思われるものを2つも単離してしまっています(コンプリでの確認まではしていませんが)。

しかしこの種、はっきり言ってホモ接合の系統さえ準備していない分チャルメルソウより材料としては悪いんじゃないかとさえ思えます。この論文を読んでいてようやく気づいたのですが、マッピングをするためなら、必ずしもF2まで世代を進める必要は無かったのですね。片方の親でヘテロになっている遺伝子座同士であればF1の段階で連鎖解析できますね。当たり前ですね。うーむ遺伝学の基礎が分かってなかった、、、。

マーカーの多くは454シーケンサーでESTを読みまくって、in silicoでSNP探索を行って作成しているようです。そしてilluminaのGoldenGateアッセイで一気にジェノタイピングです。これだけ新技術が使えると、もはや研究の律速は形質のスコアの部分だけなんだろうとも思います。きっとプロジェクトが始まってからまだそんなに時間が経っていないんだろうなあ。

まだかなりのマンパワーがかかっている仕事ですが、今後このレベルの仕事が個人研究で出来るようになると思うと、ほんまに楽しいですね。

折しもRocheからはGS juniorという卓上型454シーケンサーが今年中に発売になって、しかも価格は3130xlと同程度との噂です。

適応遺伝子の先に何があるのか、何を求めるのかが、多様性研究の今後のテーマになるでしょう。とはいえ、今はとにかくやってみたい!
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「みんな、オラにちょっとだけクリックを分けてくれ!」

2009-06-11 18:11:53 | 論文紹介
先日紹介したBMC Evolutionary Biologyの私の論文が、ようやく整ったフォーマットで公開されたようです。それと、この雑誌はアクセスランキングが表示されるのですが、結構いい線いってて嬉しいです(現在ランキング7位らしい)。

かなり地味な仕事だと思うのですが、やっぱり交配実験まで行っているDNA分類/バーコーディング関連の仕事はたぶん他にありませんので、そこが目を引いたということだと思います。なんかリジェクト続きで嫌になっていましたが、今ではかなりお気に入りの仕事です。似たような研究例がこれから増えてくると嬉しいのですが。

ランキングが上がればもっと注目していただけるので、奇特な方はぜひ上のリンクをクリックして読んで下さいませ。

論文のキャッチコピーは、『新たなトランスフォームは、リベンジから始まる』ではなく『新たな種のディスカバリーは、シーケンスから始まる』でしょうか。いやめっちゃ強引ですねすみません。

そのうちまともな紹介記事を書きます。
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チャルメルの奇妙な研究第4部「リジェクトされてもくじけない」

2009-05-17 10:15:18 | 論文紹介
昨年末のエントリーの時も含め計3回リジェクトされた論文がようやく日の目を見ました。

Okuyama, Y. and M. Kato 2009. Unveiling cryptic species diversity of flowering plants: successful biological species identification of Asian Mitella using nuclear ribosomal DNA sequences. BMC Evolutionary Biology 9:105 doi:10.1186/1471-2148-9-105

例によってレフェリーが計7人ついたので、全員のコメントに対応したらディスカッションの部分はほとんど原型が無くなって(というか段落を3つくらい加筆させられた)、長大な論文になってしまいました。「長い論文は読む気がしない」と言わずにどうか読んでやって下さい。

論文の内容としては、おおむね昨年(2008年)の進化学会ワークショップでお話しした内容で、東アジア産チャルメルソウ属チャルメルソウ節の全種を使って徹底的に掛け合わせ実験を行い、種間での接合後生殖隔離(F1雑種の花粉稔性)を計測すると同時に接合後生殖隔離の大きさがどのように種間の塩基配列の違いの程度と相関するかを解析したものです。


もう一つのポイントは、チャルメルソウ節の「生物学的種」と考えられるまとまりが、適切なDNA配列を用いることでかなりはっきりと単系統群として認識できることを示したことです。この辺が私が「種」は存在するのだという立場を強めた理由です。あくまで自分の材料においての話ですが。

また本研究で日本に産するチャルメルソウの仲間にはまだまだ隠蔽種が存在することも示唆しました。ちなみに近い将来あと2種増える(私が記載する予定)ことは決定的です。

さて、種の実在云々の議論はこの論文では述べていませんが、実際には私の本心は『「種」らしきものがはっきり見える(種が存在する)場合もあればそうでない場合もある。進化生物学において大事なのは、どのような条件(進化生物学的パラメータ)の下で種が「顕在化」するのか?を明らかにすることである』といったところでしょうか。

いずれにせよ、Coyne and Orrの名著Speciationにも述べられている通り、本論文は数少ない(特に植物では)遺伝的距離と生殖隔離の大きさとの関係を調べた研究例です。どうかうちの子をよろしくお願いいたします。
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ようやく論文が出ました

2008-01-11 02:01:05 | 論文紹介
仮アクセプト(昨年4月1日のブログ参照。本当にエイプリルフールだったとは、、、。)からまさかの一転リジェクトなど、かなりの産みの苦しみを経験させられましたが、最近ようやく私の最新の論文がオンラインで公表されました。というわけでここで紹介させていただきます。

私の博士論文の中核を成す論文のひとつであり、さすがに時間をかけただけあってかなりいい感じに仕上がってくれた自信作です。ちなみにレフェリーは計7人もついて、彼らのコメント全てに対応する羽目になりました。ありえない、、、。

Okuyama, Y., O. Pellmyr, and M. Kato. In press. Parallel floral adaptations to pollination by fungus gnats within the genus Mitella (Saxifragaceae). Molecular Phylogenetics and Evolution.

これは、チャルメルソウの仲間では繰り返し、キノコバエ媒に適応した花の形が平行進化していることを明らかにした研究です。面白いことに、従来認識されていた「チャルメルソウ属」は多系統群であり、この(系統学的に不適切な)分類体系はどうもキノコバエ媒への収斂進化(送粉シンドローム)の産物らしい、ということも示唆されました。

解析の上でもけっこう新しい試みを行っているので、系統学的アプローチによる祖先形質の復元に興味がある人は是非参考にしてみて下さい!
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DNAバーコーディングとDNAタクソノミー

2007-11-05 09:58:12 | 論文紹介
ここのところ今行っている仕事との関連で、今流行り(?)のDNAバーコーディングについて勉強しています。その関連でいい総説を同じ研究室の人に教えてもらいました。かなりマニアックなドイツの雑誌のようですが(動物学のことはよく知らないので実際はどうか分かりません。あしからず。)、非常に良い総説ですのでちょっと紹介します。

Vogler, A. P., and Monaghan, M. T. (2007) Recent advances in DNA taxonomy.  J. Zool. Syst. Evol. Res. 45:1-10

この総説から理解したのは、いわゆるDNAベースでの系統分類をプッシュしているグループにもいくつかの学派があるということです。この総説の著者達は、非常に聞こえが良く、キャッチーなDNAバーコーディングではなく、DNAタクソノミーこそが既存の分類学を革新する試みであることを強調しています。

ではDNAバーコーディングとDNAタクソノミーはどう異なるのでしょうか。DNAバーコーディングは、既存の分類学の枠組みを元に記述された種から一部の個体を代表させて参照塩基配列を得、野外で得られた個体の塩基配列とこの参照配列との一致を見ることで簡便な生物の同定を達成するというものです。一方でDNAタクソノミーは、これまでの進化生物学、系統学、集団遺伝学の考え方を総動員して、完全にDNAベースでの種認識の枠組みを構築し、今後、記載も含めて全て塩基配列を中心としたものに置き換えてしまうというものです。結果としてこれまで標本や記載論文が果たしていた役割は、それぞれ塩基配列そのもの、そして正確な種認識の枠組みを備えたデータベースによって置き換えられることになります。

この著者達が主張している意見は一見すると極論のようにも思えますが、実際にこの総説を読んでみると非常に筋が通っていて、これまで私が抱いていたバーコーディングの考え方に対するある違和感が解消されたように思えました。実際に一介の系統分類学者としての私の立場はこちらに近いようです。

結論として、DNAバーコーディングは進化生物学、特に系統分類学者のための方法論ではなく、これまでに記載された、比較的良く分かっている生物多様性を簡便に識別する方法論でしか無いということです。また一方でDNAタクソノミーも、概念としては優れているものの、本来外部形態を元に簡単にこなせる種認識に関してまでDNAに任せる必要は無いはずなので、これまた100%受け入れられるものでは無いだろう、と思います。
多くの対立する学説がたどってくるように、この二つの学派、そして古典的分類学擁護論者の間での議論が繰り返されることによって最終的には理想的な形に落ち着くのだろうなあと思いました。




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葉緑体遺伝子rbcLには正の自然選択がはたらいている

2007-05-14 14:37:22 | 論文紹介
森長さんのブログで紹介されている論文からたどって、私にとっては衝撃的な論文を発見しました。自分のアイデアがすでにこんなエレガントな手法で研究されていたとは!少し残念な反面、私のこれからの研究の方向性が間違っていなかったことが分かって嬉しい気持ちもあります。この論文は間違いなく、DNAベースの仕事をしている植物学者のパラダイムを転換することになるでしょう。

M. V. Kapralov and D. A. Filatov. 2006. Molecular adaptation during adaptive radiation in the Hawaiian endemic genus Schiedea. PLoS ONE 1:e8.

小笠原諸島やハワイ諸島のような海洋島、あるいは湖のような閉ざされた陸水生態系では、しばしば顕著な生物の多様化、すなわち適応放散がみられます。これらの「閉じた」生態系で生じた多様化は、基本的には地球全体で起こった生物の多様化と同じ仕組みで生じていると考えられるので、これらの生態系はしばしば「進化の実験場」として進化生物学者に特別な関心を向けられてきました。

ハワイ諸島では特定の植物の系統群が、極めて多様な生活形を持つように進化しています。有名なのはキク科ギンケンソウ類ですが、他にもこの論文で扱われるナデシコ科Schiedeaは、草本が主体のこの科としては非常に変わっていて、ツルになるものや、潅木になるものと、様々な生活形を持つ種に多様化しています。これだけ大きな生活形の違いの背後には、正の自然選択と適応的な分子進化が様々に関わっているはずですが、これまでに海洋島で適応放散を遂げた植物ではっきりとそのような正の自然選択を検出できた例はありませんでした。そこで著者らは、この仲間が様々な光環境に進出していることに着目して、光合成を支配している葉緑体ゲノムに自然選択が働いている可能性を、3つの葉緑体遺伝子atpBmatKrbcLについて検証しました。この中でもrbcL遺伝子がコードしているルビスコタンパクは、二酸化炭素の固定を支配する光合成系において最も重要かつ多量にある酵素であるにも関わらず、非常に機能効率が悪いことでよく知られているそうで、その機能向上を促すような分子進化は、直接植物の適応度を変化させると考えられます。

まず著者らはSchiedea属27種の葉緑体ゲノムの系統樹を構築し、それぞれの遺伝子における非同義置換(アミノ酸を変化させる変異)が系統樹上のどこに生じているかを調べたところ、rbcL遺伝子における非同義置換のみが系統樹の中心部に近い位置(比較的古い分岐)に集中していることを見出しました。
さらにデータセットからの最尤法によるモデル選択法を利用して、rbcL遺伝子においてのみコドンの特定の部位に有意に非同義置換が集中していることも確認しました。非同義置換が集中している部位は、rbcL遺伝子がコードしているタンパク質(ルビスコ)の機能に直接関わる部位であることも、タンパクの立体構造(既知)を解析することで明らかになりました。このほとんどはルビスコアクチベースタンパクと相互作用する部位であり、核ゲノムにコードされるルビスコアクチベース遺伝子との分子共進化も興味深い課題だと著者らは述べています。
Schiedea属はしばしば形態的に大きく隔たった種間でも交雑を起こし、おそらくはその結果として種間で葉緑体ゲノムの共有も見られますが、これは適応的な葉緑体遺伝子のタイプが急速に種を越えて広がったためかもしれないと最後に著者らは示唆しています。

母系ゲノムに働く自然選択についてはすでに以下の文献で議論されていますので、興味を持たれた方は是非参照して下さい。

J. W. O. Ballard and M. Kreitman. 1995. TREE 10: 485-488.
J. W. O. Ballard and M. C. Whitlock. 2004. Mol. Ecol. 13: 729-744.
E. Bazin, S. Glemin, N. Galtier. 2006. Science 312: 570-572.

さらにこの論文の著者らの関連論文としては、
M. V. Kapralov and D. A. Filatov. 2007. BMC Evolutionary Biology 7: 73.
があり、こちらは陸上植物全体に解析を広げた重要な知見です。

葉緑体ゲノムにかかる自然選択はこの一連の論文によってほぼ証明されましたが、どのような適応形質が実際に関わっているかについてはこれからの研究が重要になってくるでしょう。そしてそれをダイレクトに示せるのは、チャルメルソウ達をおいて他に無いと私は信じているのですが、、、。
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ゲノムの複雑さとエピスタシス

2007-02-01 00:47:53 | 論文紹介
たまたま見つけた論文が面白かったので、先日ゼミで紹介しました。
以下はその時のレジュメに少し付け加えたものです。
Epistasis correlates to genomic complexity.
Sanjuan and Elena PNAS:14402-14405 (2006)

遺伝子は遺伝情報の基本単位として定義されますが、通常それらの働きは独立ではなく、それらの間にはエピスタシス(遺伝子座間に生じる相互作用) が存在します。エピスタシスは遺伝子型と表現型との関係、そして突然変異が個体の適応度に与える影響を考察する上でも極めて重要な概念ですが、このエピス タシスには方向性によって二つの種類があります。すなわち、二つ以上の変異が重なった結果が、それぞれ独立に起こった場合から考えられるよりも大きな変化 を及ぼす場合と、より小さな変化を与える場合で、それぞれ相乗的(synergestic)エピスタシス、拮抗的(antagonistic)エピスタシ スと呼ばれます。
ある生物に存在するエピスタシスの傾向がより相乗的か、それとも拮抗的かを予測することは出来ないと考えられていました。

しかしながら本論文ではこれまでに出版されたデータのメタ解析によって、ゲノム平均としてのエピスタシスのパターンはゲノムの複雑さの程度によって決まっているらしいことを指摘しています。

はじめに著者らは適応度に影響するエピスタシスを調べた21の研究例から、対象生物分類群とエピスタシスが適応度に与える影響の関係についてのパターンを調べ、ゲノムの複雑さとエピスタシスの方向性に有意な相関関係、すなわちよりゲノムが複雑になるほどエピスタシスの効果は相乗的になるという関係を見出しました(ケンドールの順位相関係数、P<0.001)。
しかしながらこの結論は、それぞれの研究例で用いられているアプローチが異なるために有効ではないということも考えられます。より厳密には、ある突然変異が適応度に与える独立の効果と、それらが組み合わさった時の効果が測定されている系を用いることでこの問題は解消されます。
標準化された定量的なエピスタシスの指標は以下の式で与えられます。すなわち
ε1,...i,...n = W1,...i,...n - Π(j=1...n)Wj
ここでW1,...i,...nは突然変異1~nまでを持つ時の適応度、Π(j=1...n)Wjは突然変異1~nをそれぞれ単独で持つ個体の適応度の相乗集合です。
εはエピスタシスの程度を表す指標で負の値は相乗的、正の値は拮抗的であることを示します。
すると5つの研究例だけでこの値が得られ、やはりゲノムの複雑さとエピスタシスのパターンに強い相関があることが示されました(スピアマンの順位相関係数、P<0.001)。
ただしここで得られた関係は、あくまで実験室環境における適応度に直接関わるような変異についてのものであることは注意しなければいけません。つまりεは有害な表現形に対するエピスタシスの効果と読みかえられると考えられます。
著者らはこの結果は、ゲノムの複雑な生物ほど、1つの有害突然変異に対して抵抗性を持っていることを反映していると述べています。実際に上の5つの研究例に関して選択係数(selection coefficient)を求めてみると、やはりゲノムが複雑になるに従ってこの値は小さくなるというはっきりとした相関が見出されました(スピアマンの順位相関係数、P<0.001)。

結論としては、複雑で大きなゲノムを持つ生物ほどある有害変異の影響は小さく、しかしながらそれらが複数重なることによる相乗的エピスタシスが現れやすい、という事です。そのためにゲノムの複雑な生物集団内には様々な変異が蓄積でき、これがその遺伝的多様性を高め、ひいては新たな形質を進化させる原動力となっているのかもしれません。
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"混合"モデルによる系統推定

2006-12-12 03:11:26 | 論文紹介
最近自分の論文のために系統解析法を色々勉強していますが、すごいものを見つけました。特にこのソフトウェアは素晴らしいです。基本的にはベイズ法による 系統樹構築ソフトです(MrBayesと類似)。ちなみに塩基データ以外に01データも扱えます。一応元になった論文を私が理解した範囲で簡単に紹介しま す(数式やそれに類する理論が苦手なので誤りがあるかもしれません)。

Pagel and Meade (2004) Syst. Biol. 53: 571-581
ソフトウェア"BayesPhylogenies"


系統解析に用いる配列データは往々にして不均一な分子進化メカニズムを持つ領域が混在していますが、その不均一性を系統推定に組み込むことは容易ではあり ません。例えば、タンパク質をコードしている領域ならばコドンの1番目、2番目、3番目といった違いが重要かもしれませんし、複数の遺伝子をデータセット に組み込んでいる場合はその遺伝子間の違いも重要かもしれません。機能的なRNAをコードする遺伝子ではステム構造やループ構造といった違いが重要だとさ れています。
私達が与えられたデータセットから系統推定を行うにあたり、どのようにモデルを立ててこの不均一性を評価すれば良いでしょうか。これまでに用いられてきた 主な方法は、ガンマ分布により不均一性を近似する方法と、あらかじめデータセットを分割してそれぞれに異なるモデルを与える方法でした。
しかしこの論文で著者らは、あらかじめデータセットを分割することなく、各々のデータサイトに最適なモデルを振り分ける手法を提唱しています。例えば2つ のモデルを使うことだけを事前に想定して、あとはそれぞれのモデルを最適化しつつデータセットを最も良く説明できるようにモデルをサイトごとに振り分けるということで す。
実際に著者らはこの方法をこれまでに解析されたいくつかのデータセットに適用し、従来の手法と比べ尤度スコアが大幅に上昇することを報告しています。
またこの方法を用いれば、逆にあるデータセット内で異なる分子進化のメカニズムがどのように分布しているかを事前の知識無しに評価できます。

このPagel博士は他にも系統樹から祖先状態を復元する手法の第一人者で、彼の仕事はどれも本当に画期的で、感動させられます。

系統学は本当に奥深い、、、。でもついて行くのがかなり大変ではありますが。

追記:幾霜様のご意見(トラックバック参照)からも分かるように、データセットから系統樹の尤度を最適化するようにモデルを分ける手法を手放しで受け入れるのは危険という見方もあります。
系統推定のためのモデル構築アプローチのひとつとしては面白いということで、今のところ選択肢として考慮するくらいが良いというところでしょうか。

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EICA仮説

2006-12-05 15:25:45 | 論文紹介
さっきの続きですが、二つ目の記事を一気に載せます。

外来種が侵略性を獲得することにおけるEICA(Evolution of Improved Competitive Ability)仮説については、種生物シンポジウム3日目の角野先生の発表で始めて知りましたが、進化生物学的に非常に魅力を感じました。ちょっと調べ た限りでは、最近でもEcology Letters 8: 704-714 (2005)というのがあるようです。
この例では侵入種ヤコブボロギク(Senecio jacobaea) はspecialistの植食昆虫に対する防衛は栄養器官や繁殖に回すものの、generalistの植食昆虫に対する防衛はむしろ強化しており、しかもこの性質は表現型の可 塑性ではなく、遺伝的に決まっていることを示しています。大変興味深いですね。ちなみに本種の防衛成分はピロリチジンアルカロイドという物質の仲間だそう で、フキの苦味成分と同一の非常に毒性の高いもののようです。

今回話を聞いていて、外来種のリスク管理のポイントとしては侵入種が進化しうるということをもっと広く一般に認知してもらうことが大切なのではないかと感じました。

進化速度や効率に影響が大きいのはやはり初期集団の遺伝的多様性と有性生殖だと思います。ですから特に緑化などの意図的導入の場合には、なるべく決まった 品種などの遺伝的に均一な生物を利用することが望ましいということを社会のコンセンサスとして根づかせることが重要なのではないでしょうか。進化生物学は一見実学からほど遠いようですが、こんなところ に重要性(例えば進化学教育)が見え隠れしていますね。

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土壌微小節足動物によるコケの受精

2006-09-23 20:42:57 | 論文紹介
地下室のベランダでチャルメルソウの世話をしていたら、なぜかポットの隅にわりと大きいコクワガタの雌がしがみついているのを見つけました。昆虫少年で特にクワガタムシが大好きだった小中学校の頃なら、これだけで一日ハッピーだったなあと思い出されます。
それにしてももともとはコンクリートしかない空間ですが、鉢を隙間なく植えているため色んな生き物が住み着いていて面白いです。たいていは雑草か害虫なのですが、、、。

さて、先日コメントを頂いた論文(Cornberg et al., Science 313: 125)がシンプルで興味深いので紹介させて頂きます。

自ら動けない陸上植物にとって、距離の遠く離れた他個体との外交配は非常に困難な問題です。受精をになう精子は乾燥に弱く、それゆえ水の膜で繋がることができるほどの近接した個体にしか達することが出来ないという見方が一般的です。
一方で種子植物では受精の役割を花粉(小胞子)にになわせ、配偶体世代を著しく短縮することでこの問題を解決しました。さらに、乾燥に強い花粉が外交配の主役になることで動物が介在する受精も初めて可能になったと考えられてきました。
ところが著者らはこの常識を覆し、動物が蘚類の精子の媒介者となることができることを発見したのです。

実験デザインはとても簡単です。著者らはまず、吸湿性の焼き石膏の上に、汎世界的に分布する蘚類の一種ギンゴケBryum argenteum(カ サゴケ科)の雄株と雌株をそれぞれ0(近接している状態)、2、4cmの距離に離して置いたプレートを用意しました。そこに普遍的な土壌微小節足動物であ るトビムシ類、ササラダニ類をそれぞれ入れた実験区と、動物を入れない対照区(計3×3実験区)をつくり、3ヶ月後に胞子体がどの程度形成されているかを 見ます。胞子体が形成されていれば受精が成功した証となります。

結果は一目瞭然です。動物を入れなかったプレートでは、両株間が離れていると全く胞子体は形成されなかったのに対し、トビムシ、ササラダニを入れたプレー トでは両株間に2-4cmの距離があるにも関わらず有る程度の胞子形成が見られました。このことは、これらの動物に精子を媒介する能力があることを示して います。

次に疑問が生じるのは、これらの動物が、ちょうど花を花粉媒介者が訪れるように積極的に受精を助けているのか、それともたまたま体に接した結果そのようになったのか、という点です。

そこで著者らはこれらの節足動物に、造精器、造卵器がついたギンゴケのシュート(生殖芽)と、それらがついていないものを選択させる実験を行ったところ、 実際にこれらの動物がはっきりと生殖芽の側を好んでいることが示されました。生殖芽からは糖やデンプン、脂肪酸、そして粘液質などが分泌されるため、これ を求めてこれらの節足動物はやって来るのだろうと著者らは述べています。

実際に野外で動物が受精に果たす役割がどの程度なのかは気になるところです。本論文によると蘚類の約半数の種は雌雄別株とのことなので、潜在的には動物が介在する外交配に強い選択がかかっている可能性はあります。尾端で跳ねて素 早く移動できるトビムシ類には蘚類との関係が強いものもいるのかもしれませんね。
個人的にはトビムシはカビやキノコなどの土壌菌類の胞子散布に少なからず 重要な役割を果たしているんじゃないかと考えているので(専門外なので根拠はありませんが)、蘚類の外交配を助けていても不思議ではないと思います。

受精には直接関係しませんが、蘚類の胞子を昆虫が運ぶ例はマルダイゴケの仲間(オオツボゴケ科の一部の種)で知られています。胞子体はハエをよぶ特異的な 匂いまで出すというのですから驚きです(Koponen et al. 1990に詳しい)。この場合、コケは動物の糞や死骸に特異的に生えることと、 胞子は乾燥に強いこと、そして媒介者がハエであることから不自然ではありません。

いずれにせよ植物(あるいは菌類)が動物に移動分散を托すのが有利なのは、 動物が植物の求める場所に運んでくれる見込みが大きい場合だと言えるでしょう。




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