マイペースおくやまの進化的考察

進化の研究は楽しい!というわけで、日常の研究生活で考えたこと、感動したこと、あるいは思いつきのネタの備忘録です。

マイクロサテライトマーカーの開発・新手法

2006-05-27 14:21:20 | 論文紹介
昨日は広島大学の井鷺先生が京大にいらして、大変興味深いお話を色々伺うことが出来ました。
その中でもひとつ驚くべきニュースが紹介されました。

なんと非モデル生物のマイクロサテライトマーカー開発が約2週間、数万円の予算で出来てしまうようになったそうなのです。ちなみに今までは数ヶ月、100万円近くかかっていたという事を考えると、大変な違いです。

マイクロサテライト(SSR)マーカーとは、真核生物のイントロンや遺伝子間領域に普遍的(60-90kbにひとつくらい)にある、数塩基対の繰り返し単位 からなる高度な反復配列です。集団内に、ひとつの遺伝子座当たり多い場合で数十の遺伝子型があり、またヘテロ接合体をホモ接合体と識別できる(共優性)ため、遺伝マーカーとしては 最も質が高く、有用性が大きいものです。これを使えば、例えば親子判定や花粉、種子の移動距離の推定、集団の遺伝構造の解明など、対象生物のあらゆる基礎 的なデータを抽出することが出来るようになる他、高密度連鎖地図を構築するのにも有用です。

いずれそういう日が来るだろうと思って待っていたのですが、ついに来たようです。しばらく内緒にしておいて、チャルメルソウで真っ先に開発して研究の上で優位に立ちたい気持ちもあります、、、が、ここは進化生態学の大きな進歩のため、宣伝させていただきます。

まあそうはいっても原著論文はもう出ているのです。

C. Lian, M. W. Wadud, Q Geng, K. Shimatani, and T. Hogetsu (2006) An improved technique for isolating codominant compound microsatellite markers. Journal of Plant Research (Online First).

手法の要は、マイクロサテライトの中でもcompound typeと呼ばれる二つの反復領域がつながったものを利用する点です。この手法では特に(AC)n(AG)nというタイプ及び(TC)n(AC)nという タイプを使っています。compound typeでは、二つの繰り返しモチーフの境目が固定されているので、プライマーのずれが生じず、明確な遺伝子型の識別が期待できるようです。

さて、方法ですが、まずは全ゲノムを平滑末端切断制限酵素であるEcoRV で消化し、48bpのアダプターを付けてプラスミドに入れ、ゲノムライブラリーを構築します。次にこのライブラリー全体から、ターゲットのマイクロサテラ イト領域そのものの配列を片側のプライマーとし、もう片方はアダプターの配列をプライマーとしてPCR増幅を行います。非常に特異的なプライマーなので、 増幅産物は全てマイクロサテライト領域であることが期待されます。PCR産物をサブクローニングして、塩基配列決定を行い、片側(アダプターのある側)に のみ新たにそれぞれのクローンごとの特異的プライマーを設計してやれば出来上がりです。

さらにこの方法の素晴らしいところは、マイクロサテライト側のプライマーが共通なので、高価な蛍光標識プライマーをいくつも用意する必要がないというところだそうです。ゆえに、開発だけではなく、実際の集団解析においても大幅にコストを抑えることが出来るようです。

さて最後の疑問は、実際にこの手法が使えるのか?ということですが、どうやら井鷺先生がいくつかの植物を試した感触では、ハズレ無し、だそうです。

野生生物を対象とした進化生態学に、新たな時代が到来したことを感じさせてくれるニュースですね。

しかしよくよく考えてみると、私はまだ制限酵素さえ使ったことが無いのだった、、、。うーむ。まあしかし、私のようなローテク研究者にとってもこの手法のハードルは低そうですね。
コメント (1)

交雑による適応遺伝子の浸透

2006-05-26 10:13:45 | 論文紹介
下の論文紹介にもたついている間に、もっと面白い論文を見つけました。最近読んだ論文の中でもかなりヒットです。

N. H. Martin, A. C. Bouck, and Michael L. Arnold (2006) Detecting adaptive trait introgression between Iris fulva and I. brevicaulis in highly selective field conditions. Genetics 172: 2181-2189.

このグループは長い間このアヤメの仲間(Louisiana iris)の仲間を使って種間交雑と適応の研究を行っているので有名ですが、この研究では送粉様式についてではなく(両種は送粉様式についてもそれ ぞれハチドリ媒とマルハナバチ媒とで異なっています)、河川の増水による冠水への抵抗性というQTLを野外における移植実験で調べている点が面 白いです。
他にも驚くべき結果が出ているのですが、来週の研究室ゼミで紹介する予定なので詳しい内容紹介はその後研究室のホームページにアップすることに します。

コメント

ヤシの同所的種分化

2006-05-25 13:52:11 | 論文紹介
少しチェックが遅れていましたが、先週号のNatureに興味深い論文が出ていたので紹介します。

V. Savolainen et al. (2006) Sympatric speciation in palms on an oceanic island. Nature 441: 210-213.

種の多様性がどのようなメカニズムで生じるのかという問題は、私も含め多くの進化生物学者の主要な研究テーマとなっています。新しい種が生じる過程(種分化)には地理的な隔離に起因する異所的種分化と、純粋に生態的な分化に起因する同所的種分化の 大きく分けて二つのタイプがあります。前者は単純な過程であり、種分化の多くの場合がこれに起因すると考えられています。一方で後者は理論的には可能と考 えられており、また実際に起こっているはずではあるものの、定義上実証するのが難しく、これまでわずかな例しか報告されてきませんでした。本研究は隔絶さ れた小さな海洋島という特殊な地域で種分化したとみられるヤシの2種に焦点を当て、同所的種分化を実証する事を試みた研究です。



Lord Howe島はオーストラリアの東海上に位置し、640-690万年前に火山活動によって成立した12平方km未満の小さな孤島で、独特の生物相を有する場所として世界遺産にも指定されています。
そこには3属4種のヤシの固有種があり、その内Howea属 は2種からなる固有属で、同所的種分化が起きた系である可能性があるとして著者らは着目しました。Lord Howe島は非常に小さいため、島内で地理的隔離が成立するとは考えにくいからです。この2種は外部形態から容易に識別でき、雑種とみられる中間的な個体 もごくわずかしかみられないため、明らかな別種であると考えられます。

彼らはまずインド太平洋地域のヤシ科アレカヤシ亜科全67属を含む分子系統解析を行い、本属の単系統性を示しました。さらに彼らは得られた分子系統樹と複数の基準年代を用いて、Howea属が最も近縁な姉妹属Laccospadix属から分岐した年代を457-553万年前、Howea属の2種が分岐した年代を約192万年前(ノンパラメトリックレイトスムージング法)または100万年前より最近(ベイズ法)と推定しました。この結果は本属の祖先種が島に辿り着いたのが一回限りであり、その後島内で種分化を果たしたことを示唆しています。

次に彼らは両種の生態的特徴を野外調査から明らかにしています。この両種の花粉は風によって運ばれて(風媒)おり、H. forsterianaH. belmoreanaに比べて平均して6週間ほど早く咲く開花フェノロジーを持っている事を明らかにしました。またH. forsterianaが塩基性の石灰岩性土壌を好むのに対し、H. belmoreanaは中性から酸性の土壌を好むということも示しました。この土壌選好性の違いにも関わらず、両種は全調査プロットの20%で同所的に成育していました。

最後に彼らは両種間のゲノム中にある多型的な274AFLP座について遺伝子頻度の分化の程度(Fst)を調べ、うち4遺伝子座のみが有意に分化している事を明らかにしました。もし両種が異所的種分化によって生じたとするとゲノム全体に遺伝的分化が蓄積しているはずなので、このデータは同所的種分化の場合予測される状況によく適合しているといえます。

以上のデータから彼らはHowea属の同所的種分化について、以下のシナリオを提唱しています。
すなわち、まず450-550万年前に共通祖先種がオーストラリアからLord Howe島に入ってきた。その後、ごく最近(100万年前前後)に新たに隆起して生じた石灰岩土壌に適応して、H. forsterianaの祖先が分化した。H. forsterianaは生育する土壌の性質によって開花フェノロジーが変化することが分かっているので、このような生理的要因による花期の変化が両エコタイプ間の任意交配を妨げ、種分化に至った。

本研究は、同所的種分化のかなり信頼できる例を示したという点もさることながら、同所的種分化に至るシナリオを比較的はっきりと提示できている点が、このタイプの種分化現象を理解する上で重要であるということで高く評価されたのではないでしょうか。


コメント

三度目の正直

2006-05-16 19:05:45 | 研究
先月リジェクトされた論文をようやく投稿する事が出来ました。

もうこの原稿は2回のリジェクトを経ているので、次こそは何とかなって欲しいです。(二度ある事は、、、は禁句です。)

前回の編集委員のコメントを参考に、イントロダクションにある程度結果を予測して研究を行った旨をはっきり書きました。論文はイントロ書きが最大の難所というのは真実のようです。

それにしても、投稿している内容というのはいつも自分の中では『過去の研究』になりつつあり、今現在行っている仕事とのギャップにはもどかしささえ感じます。

しかしそれでも学会発表の時とは違って、論文にするとなると論理や解析にかなりの厳密性が要求されますから、自分の研究の基盤を固めて次に進む上ではやはり避けられない作業なのは間違いありません。

何より論文が掲載されて、研究成果を世界の研究者に公開できるようになるのを思うと、頑張れます。やはり論文書きは研究生活の上で最も辛く、けれど最も楽しい作業と言えますね。

今回の論文も、持てる力を全て出し切って、その上協同研究者の先生方を含め色んな方々に助けてもらった大事な成果ですから、それなりの自信作だと言えます。

論文を公開できる日が今から待ち遠しいです。これからの改訂作業を考えるとちょっと気が早いですが、、、。
コメント

アメリカのビール

2006-05-07 19:07:05 | お酒
本日はお酒の紹介をひとつ

アメリカのビールが実はすごく美味しいってご存知ですか?
僕は研究のために何度かアメリカ西海岸に滞在したのですが、
その時にアメリカのエールビールの美味しさに感動しました。

今回紹介するのは、アンカー・リバティーエール。
サンフランシスコ国際空港で飲んだアンカーのビールが美味しかったのを思い出して購入しました。税込みで357円です。現地価格の倍くらいでしょうか。
ちょっとした贅沢です。でも発泡酒やら第三のビールやらを2回飲むより、私はこのビールを1回飲むのにお金を使いたいです。

このビールを含め、アメリカの地ビールは何といっても香りが素晴らしいです。
ビールはキンキンに冷やして飲むもの、と考えている人が多いですが、この香りを楽しむためには、10-15℃が適温のようです。

この香り、どう表現しようかと考えていたら、ビンに説明文があり、『マスカットの香り』と書かれていました。
なるほど、的を射た表現だと思います。ビールからマスカットの香りがする!信じられない人は一度ぜひ飲んでみて下さい。

いやはや本当にビールは奥が深いです。
麦芽とホップだけを原料にして、このような複雑な香りがでるとは何とも不思議というしかありません。本当にマスカットの香りと同じ化学成分だったら面白いですね。

おつまみもアメリカ製のペッパーサラミにしたら、アメリカ滞在中の気分がよみがえりました。ちなみにサラミも外国製のものが圧倒的に美味しいです。
本当にビールとつまみに関してだけ言えば、アメリカに永住したいとさえ思ってしまいます。

幸せになれる一杯でした。
コメント (5)

平行進化の分子遺伝学的解析

2006-05-06 00:03:29 | 論文紹介
GWということで久しぶりに論文を読むゆとりができました。本当はチャルメルソウ達にもGWをとって欲しいのですが、、、。彼らの花期は容赦なく過ぎてゆきます。そんなわけで矢原先生がブログに取り上げられて気になっていたNatureの論文を読んでみました。

B. Prud'homme et al. (2006) Repeated morphological evolution through cis-regulatory changes in a pleiotropic gene. Nature 440: 1050-1053.

紹介記事を書こうと思ったら、すでに他にありました。興味の有る方はそちらからどうぞ。Drosophila elegansは和名をカザリショウジョウバエと呼ぶようです。

本研究のミソは、形質をつかさどる遺伝子の、コード領域ではなくイントロンや5'側非転写領域といった部分に起きた変異が平行進化を引き起こしているとい う事を示したという事でしょうか。いずれにせよ分子生物学に疎い私には、非コード領域が機能的に重要だという事自体がちょっと意外です。著者の意見による と、このyellowの様に多面発現的な遺伝子では、タンパク質そのものではなく一部の発現のみに影響するような調節因子に変異が生じる方が、全体の適応度に与える影響が小さいのではないか、ということです。なるほど。

平行進化は生物の多様性を考える上で非常に大切な現象であり、私の最も関心のあるテーマのひとつです。植物においては、特定の送粉者に関連した花形質はしばしば独立に起源し、「送粉シンドローム」と呼ばれ ていますが、いったいどうして複雑な形質が繰り返し進化しうるのか、非常に不思議です。個人的にはレアアリルや交雑が重要な役割を果たしていると睨んでいるのですが、、、。今のところこの送粉シンドロームの起源を分子遺伝学的に解明した仕事 は無いようですが、近いうちにMimulus project teamがやってくれそうな気がします。できるなら私もチャルメルソウで調べてみたいものです。

本日のコーヒー・メモ

キューバ・クリスタルマウンテン
ストレートで飲むとクセの無い味だが、少し物足りない。
ミルクを加えるとナッツのような香りがあり、良く合う。
コメント (1)

ホームページの更新

2006-05-04 00:51:56 | 日常
久々にホームページを少しだけ更新しました。
良かったらチェックしてみて下さい。

今日は慣れないハードスケジュールに体が悲鳴を上げているのが分かったので、久々にゆっくり休む事にしました。
やはりよい研究をするには精神的にも肉体的にもゆとりが欠かせない、といって今日のサボりを自己正当化するのでした。

コメント