arata-tokyo-jp's blog(Henry Nagata)

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「正しい話」は好きですか?

2005年01月04日 19時25分42秒 | エッセイ
今日のテーマは、「正しさ」と「魅力」についてのお話です。

以前「ユダヤ人と日本人」という本を読んだ事があります。
この本は大した宣伝もしないのに、ほとんどクチコミだけで評判が広がってベストセラーになり、「日本人ブーム」を引き起こすきっかけを作ったイザヤ・ベンダサン(山本七平)の著書です。
私はこの本の面白さに魅かれて、その後も山本七平の本を何冊も読みましたが、そのユニークな発想や知性に触れて、「この人は日本の宝だ!」と思ったほどです。

ところが、この本の内容には何ヵ所か間違った表現があったらしく、その後「にせユダヤ人と日本人」という本が朝日新聞社から出て、それを指摘し非難しました。
この本も私は読んでみましたが、その時に気が付いた事があったのです。
それは「正しい内容の本を読んでみても、ひとつも面白くない」という事です。

個性的な人というのは、自己表現や主張したい事が沢山あって、それを話したり文章を書いたりしている内に想像力が膨らんで来て勢いあまって大げさな表現になり、ついうっかり間違った事を書いてしまうのではないだろうか、と思えたのです。
学術的な本の場合には間違いがあってはいけない訳ですが、娯楽的なものの場合にはそういう間違った箇所があるくらいの方が、本としては面白いのではないかと思ったのです。

前に何かの本で読みましたが、出版業界では「もし旅行記などを書かせる場合には、その土地に詳しい人に書かせてはダメで、初めてその地を訪れたような人に書かせた方が面白い本になる」と言われているようです。
初めて見たものに対しては間違った判断もある訳ですが、やはり「新鮮な驚き」があって、それが読者にも伝わって来るからでしょう。


10年くらい前に「脳内革命」という本が400万部のベストセラーになって、「脳内麻薬ブーム」を引き起こした事がありました。
詳しい事は忘れましたが、この本の著者は「脳の専門家」ではなくて、確か専門は東洋医学や漢方薬の人だったと思います。
ですからこれにも間違った箇所があって、後で「脳内革命の嘘」という本も出たくらいです。
これについてはネットの検索で次のような文章を見付けましたので、参考の為に載せて置きます。

この本の主役は善玉ベータエンドルフィン、脇役は悪玉ノルアドレナリンで、プラス思考だと善玉が分泌されて健康に、マイナス思考だと悪玉が分泌されて病気になるという単純な筋書きである。
心の持ち方で人は健康にも病気にもなるという従来よく知られている考え方を、「脳内モルヒネ」と結びつけて「革命」と称している著者は、ただ者ではない。

脳の専門家からみれば、「脳内革命」の中に科学的根拠のない記述は枚挙にいとまがないという。
私のような脳の素人がみても、明らかな誤りが多い。
春山理論の根拠は次の言葉に集約される。
「脳から分泌されるノルアドレナリンは自然界にある毒物では蛇毒に次ぐ猛毒で、あらゆる病気を引きおこす。一方、ベータエンドルフィンは老化を防止し、人体の自然治癒力を高める脳内ホルモンである」。
神経伝達物質として生体内で必要不可欠なノルアドレナリンを猛毒と断ずるのは良識ある医師のすることではない・・・(沖縄○○病院副院長)

このように医学的な内容の本の場合には間違いがあっては困りますが、ブームを引き起こすくらいですから非常に魅力的な面白い本であった事は事実でしょう。


ブームと言えば「イルカの癒し効果ブーム」というのもありました。
私も何年か前にそういう本を読みましたが、イルカと遊んだり、イルカの鳴き声を聞いたり、近くに行って見たりするだけでも治癒的効果があると言うので、その本を読んだ次の日にはさっそく水族館に出かけて行きました。
その頃は私がかなり落ち込んでいた時期で、今になって考えると可笑しいのですが、本気でイルカに癒されたいと思って行ったのです。

水族館に着いてみると、一階のプールの周りにはお客さんの席があってイルカ・ショーを見る事が出来、地下一階は水槽になっていて水中のイルカの様子を見る事が出来るようになっていました。
その時に初めて気が付いたのですが、水槽が思っていたよりもかなり小さくて、水面から高く飛び上がったイルカが水中にもぐって来ると、鼻先がプールの底にぶつかるのではないかと思える程底が浅かったのです。
私は狭いプールの中で一生を送らなければならないイルカの気持ちを考えると可哀想になって来て、自分が癒されたいという気持ちはすっかり忘れてしまい、いつの間にか逆にイルカの方を癒している自分自身に気が付きました。
私はその心境の変化に、大いに満足しながら帰って来たのを覚えています。
これもイルカの「癒し効果」だったのかも知れませんが・・・。

去年ニュースで、1、2年前に出来たばかりの「イルカ療法」の施設が、閉鎖されてしまったという事を知りました。
詳しい事情は分かりませんが、一時的な流行で施設を作ってしまったけれども、元々イルカを食料にしていた日本人の事ですから、ブームが過ぎ去ってしまった後では、本気で「イルカで治療をする」という事を信じる気持ちが萎えてしまったのではないでしょうか。

またアルカリ・イオン浄水器のブームの時にも沢山の本が出版されたと思いますが、そういう本を読んでいますと、表現が行き過ぎて「水だけで万病を治す」という印象を与えるものもあったようです。
私が読んだ本も非常に面白くて、つい浄水器を買ってしまい未だに使っていますけれども、この本の著者も水研究の専門家ではありませんでした。
専門家の書く本ならば冷静で正確ではありますが、読み物としては面白くない場合もあるので、素人の本が多く出版される事になるのでしょう。


最近の出来事で面白かった事は・・・
病院で知り合った人が、「頭がボケた時には、イチョウの葉が効くぞ~!」と言って自分の体験談を詳しく話してくれた事です。
私はその話の影響を受けて、さっそく三つの薬局を見て回りました。
最初の薬局では「イチョウ葉エキス」の錠剤(一か月分)が一万円ほどで売られていて、店員の話では「以前は安価なものも置いていたが、結局は評判の良い物だけを置くようになった」との事でした。
この人は白衣を着ていましたが、後から考えると多分薬剤師ではないと思います。

私はそこで解説書をもらって帰りましたが、何処かの医学博士か医大の教授?が書いたその解説書を読んでみますと、イチョウ葉エキスと言うものが脳の毛細血管の血行を良くする働きがある為に、老人のボケに効いたり頭を使う受験生にも良いという事が書かれていたのです。
また女性の冷え性にも効くと言うのです。

次の薬局には、一か月分千円程度のものが売られていました。
三つ目の薬局は病院のとなりにありましたが、やはり千円程度のものが売られていました。
私はそこの薬剤師に聞いてみました。
「イチョウ葉エキスは、本当に老人のボケや女性の冷え性に効くのですか?」
すると驚いた事に、「そんな話は聞いた事がないですね~」と言う返事が返って来たのです。
私は非常に疑問に思って、「それでは何故これを売っているのですか?」と言ってイチョウ葉エキスのケースを手に取って薬剤師に渡しました。
薬剤師はそのケースの解説を良く見ながら、「あ~、これは単なる中高年向けの健康補助食品ですね~」と言うのです。
「う~ん」
確かにそのケースの解説には、老人のボケに効くなどという事は一言も書かれていなかったのです。


流行のものと言うのは、どれもこれも似たようなものではないかと思います。
読んでいて非常に面白い本というのは、100%正しい事が書かれているというのではなくて、少しくらい大げさな表現をしている方が却って面白いのではないか、という事です。
ですから非常に面白い本を読んだ後には、少しの冷静期間が必要という事でもあります。
そうすれば後になって落胆したり、大きな失敗をする事もないと思います。

ところで、この広い宇宙に「絶対に正しい唯一の真理や神」と言うものが存在するのでしょうか?
ある人は「この広い宇宙の何処にでも存在する物質は水素である・・・であるから神は水素である」というような話をしていました。
科学の分野でも、昔は正しいとされていたものが今では間違っているとされる事は良くある話です。

私は二十代の頃には、もう既に「正しさ」という事には興味を無くしていました。
私はエッセイを書く時にも、「正しい話」などを書く気は全くありません。
他人を見ましても、「魅力のある人」というのは、けっして「正しい人」という訳ではありません。
「正しい話をする人」や「正しい行いをしている人」に魅力を感じる訳ではないのです。
私はもし成れるものならば、「正しい人」にではなく、「魅力ある人」に成りたいと思っているのです。

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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
いい文章を書かれますね! (ちゃこ)
2005-01-05 21:33:19
はじめまして!ログから飛んできました!

いい文章書かれますね!

別にそんなこと言ってないのに、なんだか…許されている気がしました。

カウンセラーぽいと言われると書かれていましたが、わかるような気がします。

返信する
torawareno (arata)
2005-01-06 05:30:52
ちゃこちゃん、はじめまして、こんにちは。

コメントをどうもありがとう。

表面的な「言葉」にとらわれずに、私の真意を理解して頂いているようで、嬉しく思いました。



私は人から理解されたいと思う時には、「言葉」によって理解されようとは思っていません。

私が実際に「行動」している部分や、音楽やエッセイなどの「作品」を通して理解されたいと思っているのです。

もし止む終えず「言葉」を使わなければならない場合には、「言霊」と言われるような「魂」の入った言葉でお話ししたいと思っているのです。



以前私は信頼していた人から騙されて非常にショックを受けた事があったのですが、これはその人の「言葉」だけを聞いて判断していたからで、その人の「実行」している部分を全く見ていなかったからだと気が付いたのです。

それ以来私は、人を「言葉」で判断するという事を止めてしまいました。



例えば音楽に於いても、「癒し系の音楽」と言われている音楽がありますが、こういうCDを何度も聴いていますと、その内に段々イライラしてくる事があると思います。

優れた音楽の中から自分の好きな音楽をその都度選んで聴いていれば、「癒し系」などというレッテルが貼られていなくても十分に癒される筈です。



また世の中には色々な宗教の団体や書物などがありますけれども、ただ単に奇麗事の理想論のような話が書かれてあっても、何の「美しさ」も「宗教性」も感じない場合があります。

それとは反対に、宗教と言う言葉を全く使わない人の「生き方」に、「美しさ」や「宗教性」を感じる場合があると思います。

ちゃこちゃんにも、そういう事柄がご理解頂けると思います。

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脳内麻薬 (まりあち)
2005-01-07 13:18:21
わたしも流行にさとい方で

春山さんの本も船井総研なんかの本も

ユダヤ・・の本も一応読んでみたほうです。

中身がすっかり誰かによって

くさされてしまっても

必ず一つは胸の中に残ってる言葉が

あって、それが自分の迷った時を

助けてくれば「よし」なのじゃないかと

思っています。

旬に出て爆発的に「旬」になったものには

当然力があると思っています。

旬が過ぎれば葉が枯れるのも

次なる真理が出てくるのも

自然な摂理だと思っています。

arataさんは頭柔らかくいろんなものを

素直に取り入れるココロが

おありになるから

音楽も文章もイカスのだなと

思いました。





なんちって・・

久しぶりにまじに書いちゃった。

あらたんへ。
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流行るからには・・・ (あらたん)
2005-01-07 18:14:54
あっ、まりあっちさんだ~!

来てくれましたね~!

確かに流行るものには、それなりの理由はありますよね。



私はね、どちらかと言うと流行には疎い方で、その本が流行っている時には読んでいなくて、大分後になってから読んでいるみたいです。

ビートルズにしても、全盛期には全く興味がなくて、「良いな!」と思って聞くようになったのは、解散した頃からなのですよ・・・反省、反省!



今後、「脳内革命の嘘」や「にせユダヤ人・・・」のような本が出たように、「イルカ療法の嘘」とか「イチョウ葉エキスの嘘」・・・な~んて本が出ないと良いのですがね・・・。

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大丈夫 (まりあち)
2005-01-09 17:28:01
そんな本が出たら

あらたんが「嘘の嘘」という本を

書いて下さるから。あはは
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なるほどね~! (あらたん)
2005-01-09 23:51:35
「嘘の嘘」ですか・・・?

あ・・・なるほどね~!

そこまでは、気が付かなかったな~!
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