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日本歴史紀行

現代語訳 徳川実紀 9 母の便りと黒鶫(くろつぐみ)



竹千代 君像 (愛知県岡崎市)


母の便りと黒鶇(くろつぐみ)


万松寺、天主坊に幽閉された竹千代君であったが、織田信秀は竹千代君を戸田康光の持ちかけに応じ、竹千代君を買い取り人質としたものの、その生母に関して意外な事実を知った。


東を固める阿久比(あぐい)城主、久松佐渡守俊勝の再嫁した於大の方である。


さすがに幽閉はしても竹千代君を粗略に扱うことは無かった。


竹千代君の身柄が尾張にあると知った 御母公~於大の方は、岡崎で生き別れた我が子が信秀の元にあることを夫、俊勝に告げた。


御母公は夫 俊勝の許しを得て、手紙や菓子、季節の衣類に至るまで家臣 平野久蔵と竹内久六の両名に持たせて万松寺へ訪ねさせ、竹千代君の安否を確かめた。

どうか生き延びて下さいまし。

顔も覚えてない御母公~於大の便りに竹千代君は思慕の想いを募らせ、また、幼きながら人々の様々な心の機微を感じ取る若君に成長なされていった。


ある日のこと、竹千代君が退屈していると信秀の家臣から聞いた熱田の神官たちが訪ね、竹千代君に黒鶇という、よく他の鳥の鳴き声を真似る小鳥を差し上げた。

竹千代君の近侍たちが大変珍しく思い、可愛がり面白がった。


竹千代君は鳥をご覧になって、~珍しい鳥を下さったお気持ちは嬉しいですが、思うところがあるので、お返しします。~とおっしゃった。

神官は仕方なく鳥を持ち帰った。

竹千代君は、小姓たちに向かって

~あの鳥は必ず、自分の声が他より劣っているから、他の鳥の鳴き声を真似て、自分の無能さを覆い隠しているのだろう。普通はどの鳥も生まれつきの声がある。鶯(うぐいす)は不如帰(ほととぎす)の声を学ばない。

雲雀(ひばり)は鶴の声を真似しない。それぞれ自分の声で人に良さが認められよう。

人もまた同じである。気質が優れて才能があり、何事においても能力のある者は、必ず大きな器量の無い者だ。 外見だけ着飾って真の能力の無い者は、鳥といえども大将の慰みにはならない。~

とおっしゃると、まだ幼くいらっしゃり、物心も十分でない程なのに、行く末どれ程賢明な主になるのかと、並々ならず感心した。


後に聞けば、黒鶇は案の定 自分の声を持たない鳥であったという。




黒鶇の話を伝え聞いた信秀の嫡子が竹千代君を訪ねて来た。


上総介信長である。



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