それは少し前のこと
引きこもり裁縫師が出かけるのは
バルクの受注にミノックに行くくらいなのだが
(それすらも、金で買った爵位維持のためだけに)
ある日そこで、誰かが落とした手帳を拾った
「手帳」とか「日記」とか
個人の秘密が書かれているかもしれない類の物は
好奇心をくずぐられる事柄の、頂点であろう
そんな後ろめたくも高揚する気持ちを
落とし主が分かれば届けてあげてもいい
という親切心のベールで覆い
迷うことなくページをめくってみた
ミノックに居を構える何処かのお屋敷の
有能だが(大事な手帳を落とすなんて)
少々うっかり者の執事の持ち物であろうか
そこには几帳面な筆跡で
執事が仕えるお屋敷で起きた
ある日の事柄が書かれていた
執事の名がセバスチャンであることはわかった
だが、生憎その名に心当たりはなく
この時点で返しに行くという考えは消え去った
なおもページを繰ると
なにやら不穏な単語が並んでいる
げ・り・ら…?
第3土曜…?
この手帳が使われ始めたのは
最初のページを見れば
10月の初旬であることは間違いないだろう
そしてその月の第3土曜といえば…
もうすぐじゃないか
肝心の手帳には
それ以外の詳しいことは書かれておらず
ゴリラがバナナを好きなのは普遍であることと
巷で流行している「行商で一儲け」という甘言に
この執事が仕えている主人も
熱中している様子しかうかがえなかった
辺りをきょろきょろと見回し
誰も居ないことを確かめて
手帳をそっと鞄に仕舞いこんだ
2014年10月18日 土曜日
午後10時以降
このミノックで何かが起きる…?!
季節はハロウイン間近
街にはナ・ッツ・ブーリと呼ばれる亡者も
少なからず見受けられる
なにがおきてもおかしくは無い空気が漂っている
好奇心の赴くままに出かけてみようと思う
ミノックへ…