心が満ちる山歩き

美しい自然と、健康な身体に感謝。2019年に日本百名山を完登しました。登山と、時にはクラシック音楽や旅行のことも。

北アルプス 槍ヶ岳から笠ヶ岳へ(1) 上高地から徳沢まで

2021年09月06日 | 北アルプス


北アルプス 槍ヶ岳(3,180m)・笠ヶ岳(2,898m)


 「~ 而して、鎗ケ嶽は、いかに名称自詮とはいひながら、その矗々として鋭く尖れるところ、一穂の寒剣、晃々として天を削る、その体たらくは日本山嶽に通有せる尖塔形(ピラミッド)にあらず、一個無煙の煙筒形(チムネー)を成して聳ゆるなり、鎗ケ嶽が千山万嶽鉄桶の如く十重二十重に囲繞せる中に、昴々然として一肩を高く抽くさまは、これを草に喩ふれば、裾野に穂を閃かす薄の如く、木に形容すれば、野路にひと際秀でたる一本杉の如く、人に具体すれば風骨珊として秋に聳えたる清痩の高士の如し。 ~」
 (『鎗ケ嶽探検記』~『山岳紀行文集 日本アルプス』より 小島烏水著・近藤信行編(岩波文庫))

 山に登る時の天気には、とても恵まれている方だと思います。槍ヶ岳を眺めるチャンスは何回もありました。離れた山からも、空が澄んでいれば、槍ヶ岳はすぐに見つけることができます。こんなにユニークで、分かりやすい山は他にありません。
 槍ヶ岳には、「晃々として天を削る」鋭さはあっても、「清痩の高士」のような厳しいイメージはなく、遠くからおいでおいでとささやかれている気がしたくらいでした。
 登山を始めて2年経ち、穂先と呼ばれるその頂上に一度立ってみたいと思います。


 9月の日曜日、上高地のバスターミナルは込み合っていました。英文旅行ガイド「Lonely Planet」では、上高地の項でこんな文章が出てきます。
 ”~ It's perfectly feasible to visit as a day trip but you'll miss out on the pleasures of staying in the mountains and taking uncrowded early-morning or late-afternoon walks. ~”
 (『Lonely Planet/Japan』(Benedict Walkerほか・Lonely Planet Global Limited))
 上高地が一番混雑するのは午後の明るい時間で、ほとんどの”day trip"の観光客は、”early-morning or late-afternoon”の散歩を楽しむことなく帰路に就くと思います。
 河童橋の向こうは雲に覆われて、穂高岳は何も見えません。
 青空が出そうだと思ったら、雨も降るような天気でした。出発するのが何となく億劫になり、食事の後ケーキセットにコーヒーまで注文しました。雨が止んだ2時過ぎに、やっと歩き出しました。
 バスターミナル近くの案内所で、食事がおいしいですよとおすすめされた徳澤園に泊まることにしました。予約金3,000円を先払いするシステムでした。
 上高地を歩くのは、澄み切った水の流れが楽しめるのが何よりもよいです。雨の後にできた、道の水たまりすら輝いて見えます。

 初日の宿・徳澤園は、この地が昔牧場だったことから「園」の名があります。テント場のテントの数は少なかったです。大きなドーム型のテントに混じって、一張りだけ背の低いツェルトがあるのが目をひきます。
 山小屋とは思えないような格調です。何しろ、館内には西郷隆盛の揮毫があったり、踊り場に真紅の着物が飾られていたり、1920年代に製作されたというフランス製のシャンデリアがあったり、韓国・李朝のタンスが置かれていたりします。不思議なほど落ち着く場所でした。
 アンティークな調度品が揃った山小屋など、泊まったことがないし、考えたこともありませんでした。
 夕食のメインはステーキでした。唐辛子味噌がのったお豆腐も、とてもおいしかったです。
 「ご連泊様はメニューが異なります」とありますが、食堂にメニューの違う人はいないように見えました。
 あまりの美味しさに、ここは本当は山小屋じゃないんじゃないか?という話が出るくらいでした。しかし、これからアルプスへ登ろうとする人達が集まれば、自然と山の話題になるものです。槍ヶ岳を目指す人もいれば、穂高を目指して岡山から来た人もいました。食卓は山小屋とは思えないほどの豪華さでも、会話は紛れもなく山小屋のものでした。






 (登頂:2013年9月上旬) (つづく)



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