Study of Spenser

ロバート・B・パーカー著、ボストンの私立探偵スペンサーを読み解くガイドブックです

ゴッドウルフの行方 - Godwulf Manuscript - (1973) 21章

2009-07-25 | 海外ミステリ紹介
画像は、アーリントン・ストリートとマールボロ・ストリートの交差点


第21章
スペンサーは、翌日明るい陽光の中で目覚めると、苦労して起き上がり、歩く練習を始めます。不屈の人です。最初はベッドの端から端まで、段々距離を伸ばして病室の端まで。

アイルランド系の陽気な顔をした担当看護婦がやってきて、ベッドから降りているスペンサーを見つけます。彼女は、さぁベッドに戻って、散歩なんかしてはダメよ、と言うのですが、スペンサーは聞き入れません。ここの<散歩>は、take a walk ではなく、strolling を使っています。

スペンサーは、散歩どころじゃなく、ズボンが見つかり次第ここを出て行くと答えます。看護婦は、とんでもないと言うのですが、スペンサーは病室のクローゼットから自分の衣類を取り出して着替え始めます。まだ濡れているズボンを履き、下着とシャツは血だらけだったのでそのままにし、包帯の上に直接上着を着ます。気に入っている靴のタッセルは一つがなくなっていて、泥だらけになっているのですが、何とか履きます。財布と拳銃はそこには保管されてないのですが、それについてはまた後で考えよう、としています。スペンサーはタッセル付きのコードヴァンのローファーが好みなのです。(賛成です)

そして、唖然とした看護婦に、「気にしないでくれ、きみはできるだけのことをした。それでもおれはやらなければならないこと、守らなくてはならない約束があるんだ Don’t fret, Cookie, You’ve done what you could, but I’ve got stuff I have to do and promises to keep. 」と言います。

スペンサーは歩き続け、エレベータのそばにいた二人目の看護婦も止めるのですが、無視してエレベータに乗って一階に降りて、ハリソン・アベニュー(Harrison Avenue)に出てしまいます。ハリソン・アベニュー沿いの病院としたら、タフツ・ニューイングランド・メディカル・センターでしょうか。

しかしながら、スペンサーは財布を持っておらず病院に引き返すと、最初のアイルランド系の看護婦が出てきて言います。「ミスタ・スペンサー、あなたは歩けるような状態ではないのですよ。大量に出血してショック症状を起こしているし」 それに対してスペンサーは答えます。「聞いてくれ、きみはおそらく正しい。それでもおれは出て行くし、きみは阻止できない。そのことはお互いにわかっている。しかし家までのタクシー代を貸してくれることはできる」 看護婦はしばらくスペンサーを凝視していたのですが、そのうちに笑い出し、「あなたの厚かましさには負けたわ。財布を取ってくるから待ってて」と言い、財布を取りに行き、スペンサーに5ドル札を一枚渡します。

スペンサーはタクシー拾うために、ハリソン・アベニューからマサチューセッツ・アベニューに出ます。ということは、タフツ・ニューイングランド・メディカル・センターではなく、ボストン・メディカル・センターでしょう。ハリソンとマサチューセッツの角にあります。

タクシーで自宅に戻ると、運転手に5ドル札を渡し、釣りは取っておけと言います。 I gave him the five and told him to keep it.  お釣りを取っておいてくれというのは、Change is yours. という言い方もあります。
スペンサーは鍵を持っていないことに気付き、管理人にドアを開けてもらいます。

部屋に入ると、趣味でやっている松の木を彫りこんだインディアン像に目を留めます。まだ馬まではできていません。それから傷を濡らさないようにシャワーを浴び、ひげを剃り、新しい衣類を身につけます。

ミディアム・フレアのかっちりしたグレイのスラックス(Gray, hard-finished slacks with a medium flare)、ブルーのペイズリー模様の半袖シャツ(blue paisley flowered shirts with short sleeves)、ブルーのウール・ソックス(blue wool socks)、脇にジッパーの付いたマホガニー色のバックル・ブーツ(mahogany-colored buckle boots with a side zipper)、真鍮のバックルが付いたマホガニー色の幅広のベルト(broad mahogany belt with a brass buckle)ご想像ください。シャツと靴下、靴とベルトは揃いの色でコーディネートしているようです。本人も身支度には細部まで気を遣う I paid special attention to it all. と言っていますが、出来不出来はブルーの色目次第でしょうか。また、清潔な体に清潔な衣類が触れる感じが好きだとしていますが、これは誰しもそうでしょう。

身支度を終えるとキッチンに行ってコーヒーを沸かし、大きく太いソーセージを六本フライパンに入れます。ノース・ショアまで行かないと買えない自家製のドイツ・ソーセージです。ソーガス(Saugus)にあるKarl's Sausage Kitchen が有力ですねぇ。

料理好きなスペンサーは、ソーセージの焼き方にも一家言があって、冷えたフライパンに入れて低温から焼き始めなければならないとしています。ソーセージを焼いている間に、大きなグリーン・アップルの芯をくり抜き皮をむいて厚めにスライスしたものに、小麦粉をまぶしてソーセージから出た脂で炒めます。途中でコーヒーにヘヴィクリームと砂糖を二つ入れて飲んでいます。割と甘党ですね。あるいは今の自分の体を考えて、乳脂肪分を摂取しようとしているのかもしれません。しかし、ヘヴィクリームが冷蔵庫にあるということです。
話はそれますが、ラズベリーにヘヴィクリームとブラウンシュガーを掛けて食べると美味しいですよ。

ソーセージもリンゴもちゃんとペイパータオルに乗せて脂を吸い取っています。健康志向です。ライブレッドのパンを厚めに二枚スライスし、ニューベリー・ストリートのマサチューセッツ・アベニュー寄りの店で売っていたワイルド・ストロベリーのジャムとともに食べています。食べることで体力を回復しようとしてるようです。しかし、ソーセージ六本はすごい!

ラジオで朝のニュースを聞くと、ジャメイカ・ポンドでの撃ち合いは報道されていたものの、誰の名前も発表されず、スペンサーのことは単にボストンの私立探偵ということになっていました。食後の皿はそのままに、寝室から予備の拳銃を取り出し、ヒップ・ホルスターに差し込みました。

たんすの引き出しから10ドル札5枚(たんす預金しているわけですね)と、合鍵を一組出してポケットに入れます。入り口のクローゼットからクリーム色のキャンパス地の上着を取り出してはおります。襟のところにシェルパ・ライニング(sherpa lining)がはみ出しているジャケットで、スペンサーは、マイオピア狩猟クラブ(Myopia Hunt Club)のカクテル・パーティかポロの試合に招待されたとき用に取っておいたのだが、もう一枚のジャケットに弾で穴を開けられてしまったから、今着なければならないと言い訳しています。そして、朝の八時十分にアパートメントから出かけています。うわっ、ソーセージ六本は朝食でしたか。

■■ シェルパ・ライニングというのは、ジャケットやフリースの内側についているモコモコのライナーのことで、元々は動物の毛皮でしたが、現在は毛皮に限らずこのように呼ばれています。嘘このムートンみたいに見えるやつです。

■■ マイオピア狩猟クラブというのは、ボストンの北にあるハミルトンに1882年に設立された、元々はキツネ狩りのためのプライベート・クラブです。現在はゴルフコースやテニスコート、ポロの競技場などがあるエスタブリッシュな社交場です。まぁ、スペンサーが招かれるとはあまり考えられませんが、会員が依頼人になるということはあるかもしれません。


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