Study of Spenser

ロバート・B・パーカー著、ボストンの私立探偵スペンサーを読み解くガイドブックです

失投 - Mortal Stakes - (1975) 29章その2

2009-12-24 | 海外ミステリ紹介
画像は、ラブ夫妻の住む、チャーチ・パークのアパートメント


29章その2
マーティから電話がかかり、「ロビーにメイナードと連れが来ている、リンダがあんたに知らせろと言う」と言ってきます。スペンサーは、自分が行くまで二人を部屋に入れるなと指示し、車でチャーチパークに向かいます。

ドアマンがマーティに連絡し、スペンサー、メイナード、レスター・フロイドの3人は、揃ってエレベータでマーティの部屋に到着しました。
メイナードが、「新聞にあんなことをぶちまけて、これで取引が終わると思っているのか」「八百長をやった試合の記録は全部とってある、自分だって新聞にうまく話すことができるんだ」と言うと、スペンサーは、「確かに話せるだろう、でも話さないよ」と応酬します。

「ノープ(Nope)、話せばお前だって一貫の終わりだ、そのことをばらしても金にはならない。マーティは球界から追放されるかも知れないが、お前だってキャリアは終わるんだ」とスペンサーは言います。
「そう思うか?」と聞くメイナードに、スペンサーは、「一言でも漏らしてみろ、ジョージア州の片田舎で、ドラッグレースの実況をやるしかなくなるさ」と言います。
マーティも「これで終わるんだ、俺は投げて、お前は放送する。俺や家族に近づいたら、殺してやる」とメイナードに言うのですが、レスターはガムをくちゃくちゃ噛みながら、言います。「お前には誰も殺せないよ」と、テコンドーの構えを見せます。

子供が「ママ、」と泣き声で言い、レスターは、「おい、坊主、お前のママは売春婦だ」と言うのです。それを聞いて、殴りかかろうとするマーティを、レスターは腕で払いのけ、左足を軸にして、右足のかかとでマーティの腎臓のあたりにキックを入れました。マーティは倒れはしませんでしたが、スペンサーはああいうキックで腎臓が破裂することもあると知っています。

「二人ともこの先ラブに近づいたら、入院することになる」と、スペンサーはレスターの耳の後ろにパンチを叩き込み、マーティに、子供とリンダを連れて行くように言います。「子供にこんなことを見せてはいけない」
レスターはガクッと膝を折って崩れるのですが、立ち上がってスペンサーに挑みます。レスターは素早いのですが、スペンサーは、自分の方が15パウンドは体重が重いし、力が強い、至近距離にいる限りは自分がレスターを圧倒できると思います。

レスターは反撃を試みますが、スペンサーは20年以上も鍛え抜いているのです。レスターを何度か壁に叩きつけ、顔の左右を何度も殴ります。レスターの顔は血だらけになり、スペンサーはパンチを打ち込むことに集中していて、そのパンチのリズムだけがスペンサーを支配しているのでした。

ふいに、リンダの「やめて、やめて、スペンサー、殺してしまうわ」という声が聞こえ、マーティがスペンサーの腕を押さえます。
解放されたレスターにメイナードが這って行き、レスターの顔を拭き始めました。子供も出てきていて、リンダの手を握って怯えている様子です。
「どうしたんだ、スペンサー、まるで狂っていたぞ」と、マーティが言うと、スペンサーは、「子供が見ることになってすまない」と謝り、メイナードには、「憶えておけ、俺を怒らせるんじゃない」と言います。

レスターの唇は腫れ上がり、片方の目がふさがっているのですが、がわずかに動きます。「大丈夫だよ、レスター、大丈夫だ」と言いながら、レスターの顔を濡れたタオルで拭くメイナードに、レスターは「ここから出よう」と言い、メイナードの助けを借りて立ち上がるのです。

ドアの方に行こうとする二人に、「お互いがタイだとわかっているな、この先なんの係わり合いがないことも」と、スペンサーはメイナードに念押しし、メイナードが蒼ざめた顔で頷くのでした。
「家に帰りたいよ、バッキー、」とレスターが言い、メイナードも「よしよし、家に帰ろう」と去っていきました。

リンダは床に座りついて子供を抱きしめ、スペンサーは立ったままマーティに言います、「やるべき事はおわったな」と。マーティは、「礼を言うべきだな、スペンサー、あんたがいなければ、この状態から抜け出すことはできなかった。やってくれたことに感謝している。」そして二人は握手をします。

リンダは顔を上げず、スペンサーは家を出ます。リンダはさようならも言いませんでした。
スペンサーは、それ以来、二度と彼女には会っていません。


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