Study of Spenser

ロバート・B・パーカー著、ボストンの私立探偵スペンサーを読み解くガイドブックです

ゴッドウルフの行方 - Godwulf Manuscript - (1973) 14章

2009-07-15 | 海外ミステリ紹介
画像は、ボストン大学マーシュ・チャペルと、卒業生で最も有名な同窓生マーティン・ルーサー・キング・ジュニアのメモリーとして作られたスカルプチャー


第14章
警備主任、カール・タワーに会いに、スペンサーは大学に行きます。タワーの秘書のブレンダ・ローリングがいて、この日は黒のジャンプスーツを着ています。形状的には自動車修理工のツナギというやつですね。ブレンダが登場したのは、これまで一章と八章で、一章では紫色のスエードの短いスカートに紫色のサテン地のパフスリーブのブラウス、八章ではピンクのジャンプスーツです。
なるほど、1973年というのはジャンプスーツが流行っていたのですね。あれは着ていて楽なのですが(ただしウェストをマークしない場合)、女性の場合はトイレが一苦労です。特に和式のトイレだったりすると、上から下ろすしかないので、ほとんどハダカも同然です。しかも袖の部分をお腹に巻き込まないと悲惨な目にあってしまいます。

ブレンダはごく一般的な決まり文句、普通に「何か? May I help you? 」と言うのですが、スペンサーは、「そんな甘い言い方をしても無駄だよ Don’t pull that sweet talk on me. 」というわけで、スペンサー、しょっていますね。そして、
(ブレンダ)I beg your pardon. 失礼ですけど?
(スペンサー)I know what you’re thinking, and I’m sorry, but I’m on duty. きみが何を考えているかわかっているが、残念なことに勤務中なんだ
(ブレンダ)Of all the outer offices in all the towns in all the world, you had to walk into mine. 世界中のあらゆる街の、ありとあらゆるオフィスの中から、私のオフィスに入ってきたわけね
(スペンサー) If you want anything, just whistle. 何かあったら口笛を吹くだけでいい
と、言いかけたときにタワーが呼びにきます。そしてスペンサーは、ブレンダに自分の腕時計を渡して、「生きて出て来なかったら、これを持っててくれ If I don’t come out alive, I want you to have this. 」と言いおいて、タワーのオフィスに入ります。ちょっと待ってよスペンサー、まったくとんだ色男ぶりです。

タワーのオフィスで大学の学生新聞を見せられます。そのヘッドラインには、
ADMINISTRATION AGENT SPIES ON STUDENT 大学当局の捜査員、学生をスパイ
とあり、小見出しで、
PRIVATE EYE HIRED BY ADMINISTRATION QUESTIONS ENGLISH PROFESSOR
大学当局で雇われた私立探偵、英文学教授を尋問

となっていました。スペンサーは記事の内容は読まなかったのですが、最初の部分で自分の名前のスペルが間違っているのに目を留めます。活字は 「 Spencer 」になっていたのです。
「c ではなく、s だ。イギリスの詩人と同じで、S_p_e_n_s_e_r」
16世紀のイギリスの詩人、エドマンド・スペンサー(Edmund Spenser)のことで、妖精の女王とか、神仙女王と訳される『The Faerie Queene』という作品が有名です。

依頼料を返せとは言わないが、大学内に現れたら探偵の免許を取り消してやる、とタワーからクビを宣告されます。スペンサーがゴッドウルフ・マニュスクリプトが戻ってきたらしいな、というと、「ダンボール箱に入れて昨日図書館の段々に置いてあった It just showed up yesterday in a cardboard box, on the library steps. 」と答えます。

show up というのは、暴露するとか目立つというような意味のほかに、現れるというようなときにもよく使われます。例えば、「Because the passenger did not show up at the gate, his luggage was unloaded from the airplane. 乗客がゲートにショーアップしないので、彼の荷物を飛行機から降ろした。」というようなときです。

スペンサーが、「どうして写本が戻って来たか不思議にも思わないのだな Ever wonder why it came back. 」と言うと、タワーは顔を真っ赤にして、お前の仕事はここにはない、もう二度と現れるな、現れたら不法侵入だ、と激怒します。

スペンサーは引き上げることにし、帰りがけにブレンダのところに立ち寄ると、彼女が渡されていたスペンサーの腕時計を返してくれます。そして時計バンドの内側に赤いインクで<ブレンダ・ローリング 555-3676>と書いてあるのです。

ここで初めて名前が明かされるブレンダ・ローリング(Brenda Loring)ですが、チャンドラーの探偵・フィリップ・マーロウのシリーズで、最終的に『プードルスプリングス物語』でマーロウと結婚するリンダ・ローリングから取られているのだと思われます。著者パーカーはチャンドラーの研究者としても知られていて、チャンドラーの。未完の遺作『プードルスプリングス物語』の五章以降を書き足して完成させています。


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