Study of Spenser

ロバート・B・パーカー著、ボストンの私立探偵スペンサーを読み解くガイドブックです

ゴッドウルフの行方 - Godwulf Manuscript - (1973) 16章

2009-07-20 | 海外ミステリ紹介
画像は、ケンブリッジのコーヒーショップ

16章
管理人がキャシーの部屋に南京錠(padlockといいます)を取り付けるのを見ながら、スペンサーはフェンウェイ・ストリートの自分の車の中で考えます。テリィがデニス殺害の犯人とされ、ゴッドウルフ・マニュスクリプトは大学に戻り、テリィのルームメイトだったキャシーは事故死、と一見すべてがきちんとしたように見えるのですが、ギャングと警察と大学が事件から手を引けと言ったのが釈然としません。悪くないトリオだ Not a bad trio. といっています。そのうち宗教団体からも言ってくるかも、と。

二時間後、スペンサーは懐中電灯(flashlight)とテープ、小型のバール(pinch bar)を持って車を離れ、地下室の窓を破ってアパートメントに侵入します。管理人が取り付けた南京錠をバールで抜き、キャシーの部屋に入ります。スペンサーは、自分でも何を捜しているのかわからないのですが、何か手がかりがあると思っているのです。

まずはバスルームからです。何かを捜す場合は手順良くやらなければならないと言っています。一つの場所から始めて、セクションごとに区切りながら捜していくのです。 Start at a point and go section by section through the place, 一番ありそうな場所、なさそうな場所、あるいはどこからでもというので選んではダメで、 not where things are most likely, or least likely, or anything else, あらゆる物を調べ終わるまでセクションごとにやっていく just section by section until you’ve looked at everything  これがスペンサーの捜し物のテクニックのようですね。

メディスン・キャビネットのアスピリンはアスピリンの味がしたといっていますので、舐めてみたのでしょう。まぁ違法の薬物ってこともありますから。あらゆるものを確かめて、コゥプ(Cope)はコゥプだしとしています。Copeというのは、マウスウォッシュのことでしょう。とにかく、化粧水から口紅からアイブロー・ペンシルまで調べ、さらに洗面台の下に何かがテープで貼り付けてないか、リノリウムの盛り上がった場所に何か隠していないか、天井に固定してある照明器具まで外しています。

キッチンのガスストーブ(ガス台のこと)のグリルを外し、オーブンの中も念入りに調べ、調味料なども流しにあけて確認しています。徹底的です。

一番時間がかかったのはリビング・ルームで、あるものを見つけたときは夜中の二時になっていました。スペンサーがキャシーの死体を見つけたのが四時半として、警察が来たのがおそらく五時くらいでしょう。スペンサーは二度目の侵入について、死体を運び出したこと以外は二時間前と変わっていないとしていますので、七時間前後の捜索を続けていたのです。根性あります。夜中の二時って、two in the morning なのです。たしかにサイモンとガーファンクルのファーストアルバムは『Wednesday morning, 3 A.M.』なので、朝は朝なのですが、何となく三時は朝でも二時はまだ朝じゃないという感覚があったりします。

とにかく探索の甲斐があって、リビングルーム(キャシーの部屋はステューディオなので、ベッドルームも兼用です)のたんすの一番下の引き出しで、葉巻の箱に入った請求書や使用済みの小切手などと一緒に手紙が見つかったのです。それは、ピーボデイのモーテルの便箋に書かれた手紙でした。ピーボデイは、ボストンから18マイルほど北の町で、ニューイングランド地方の革製品を扱う産業の中心地です。

で、その手紙の内容はこうです。
Darling,
You are beautiful when you are asleep. As I write this I am looking at you and the covers are half off you so I can see your breasts. They are beautiful. I want to climb back into bed with you, but I must leave. You can cut my eight o’clock class, but I can’t. I won’t mark you absent through and I’ll be thinking about last night all the time. The room is paid for and you have to leave by noon, they said. I love you.

愛するきみへ
眠っているときのきみは美しい。これを書きながらきみを見ている。そしてカバーが半分外れているので、きみの胸が見えている。美しい胸だ。ベッドに戻ってきみと一緒にいたいと思うのだが、私は行かなくてはならない。きみは私の八時のクラスを休むことはできるが、私はそうもいかない。きみを欠席扱いにはしないし、昨晩のことを絶えず思い続けるだろう。部屋代は支払ってあるが、正午までにはチェックアウトしてくれとホテル側は言っている。愛してるよ。

まさしくラブレターです。決して長くはないけど、どのラインにも女心をくすぐるエッセンスがさり気に散りばめられています。もちろん美しいと言われることは普通に嬉しいことですが、しかも寝顔です。表情がなくても美しいと言われるのは女冥利につきます。そしてラブレターの送り主は、顔だけでなく体も褒めています。さらに、ベッドによじ登ってきみと一緒にいたい、です。どうやら教授らしい彼は、彼女に出席を与えるつもりですし、昨夜のことをずっと思い続けると言っています。(言われてみたいもんです)その後はちょっと業務連絡的ではありますが、ちゃんと、アイ・ラブ・ユーで終えています。100ワード以内で盛り込むだけ盛り込んだという感じです。

派手な筆記体の手紙で、日付もサインもないのですが、手がかりには違いありません。スペンサーは手紙を持ち帰ることにして、コートのポケットに入れます。そして本人も、これまでのところ、不法侵入、泥棒の七つ道具所持、器物破壊の罪を犯していて、これに証拠を勝手にいじくりまわしたとなれば完璧だ So far I was guilty of breaking and entering, possession of burglar’s tools, and destruction of property. I figured tampering with evidence would round things out nicely.  としています。

スペンサーが、キャシーのアパートメントを出たのが夜中の三時。自宅に戻って眠り、朝は7時10分前に目が覚め、シャワー込みの身支度をして、七時四十五分に出かけています。雪が反射する太陽の光が眩しくてサングラスをかけます。そしてダイナーに立ち寄り、プレイン・ドーナツ三個とコーヒーです。ドーナツショップではなく、ダイナーということなので、ダンキンではなさそうです。

大学でアイリス・ミルフォードを探し、一緒にカフェテリアに行きます。カフェテリアの入り口に誰かがいたずらで<ここに入る者ども、希望をすべて放棄せよ Abandon All Hope Ye Who Enter Here>と書いてあるのです。つまり、カフェテリアの食事に期待してはいけないということなのでしょう。ダンテの地獄編の第三部です。

空いたテーブルを探し、コーヒーを飲むのですが、テーブルにそのままになっているプラスチックのフォークやナプキンをスペンサーが片付けていると、アイリスが「いつからこのように片付けフェチになったの? How long you had this neatness fetch?」と聞きます。 neatness fetch です。
スペンサーはアイリスにキャシーが死んでいたことを伝え、キャシーの部屋から持ち帰った手紙を見せます。キャシーと寝ていた、八時のクラスを持っている教授が誰かということを調べるのに、アイリスの手を借りたいと頼み、アイリスは快諾します。スペンサーは、ゴッドウルフ・マニュスクリプトは中世のもので、中世の文学が専門でチョーサーの講義を持っているローウェル・ヘイドンがキャシーの秘密の恋人だと思っているのです。


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