Study of Spenser

ロバート・B・パーカー著、ボストンの私立探偵スペンサーを読み解くガイドブックです

ゴッドウルフの行方 - Godwulf Manuscript - (1973) 23 章

2009-07-27 | 海外ミステリ紹介
画像は、コープリー・スクエアに面して、アメリカンフラッグが立っているクラッシックな建物が、フェアモント・コープリー・プラザ・ホテル  


第23章
コープリー・プラザ・ホテルは、ボストンのバックベイにあるコープリー・スクエアに面しています。ホテルは天井が高く(high ceilinged)、ふかふかの絨毯(deep carpeted)が敷いてあって、金箔がふんだんに使ってあり(a good deal of gilt)、ベルボーイは大変品がよい(very dignified)としています。スペンサーは、ここに来ると、声を低くして話さないとならないような気分になるが、自分のような仕事ではめったに来ることがない I always felt I should lower my voice in the Copley Plaza, although my line of work didn’t take me there with any regularity. と感じています。
コープリー・プラザ・ホテルは、現在はフェアモントが経営しています。

ミセス・ヘイドンと一緒にエレベータを四階で降り、一組のカップルも同じ四階で降ります。(←ここ、ちょっと大事) ミセス・ヘイドンが411号室のドアをノックします。もう二回、さらにもう二回。秘密の合図(secret code)です。スペンサーは、イアン・フレミング(007の原作者)が音楽か何かに凝ってくれていればいいのにと思います。

チェーンを掛けたまま、ドアが一インチほど開き、ヘイドンの声が聞こえます。「ジュディ、どうした? What’s it, Judy?」 スペンサーはこう思います。ジュディ? それはまずい、ミセス・ヘイドンにはジュディは似合わない the name was bad; Mrs. Hayden wasn’t a Judy. ルース(Ruth)かエルジー(Elsie)ならいいが、ジュディはいけない、と。ミセス・ヘイドンのアピアランスの描写(17章参照)を読むと、これは実に納得できます。オルガやウィルマにしてはミセス・ヘイドンは痩せすぎのようなので、やはりルースが似合いです。

ヘイドンはジュディに、スペンサーに脅迫されたのか、誰も連れてきてはいけないと言ったはずだといいながらも、チェーンを解いて二人を中に入れます。中はダブルベッドのある部屋で、ダートマス・ストリート(Dartmouth Street)に面しているいい部屋で、《ボストン・グローブ》紙が部屋中に散らばっています。

スペンサーはヘイドンに、「You owe me a favor  あんたはおれに恩を受けている」と言います。ヘイドンはそんなことはないと言いますが、スペンサーは昨夜の銃撃のことを持ち出し、自分に協力しなければ、また同じようなことになると言います。自分が調査を続けて殺されたとしても、ブロズにとってヤバイことを知っているのはヘイドンなのだから、ヘイドンを殺してしまう方がブロズには好都合だという論理です。

ヘイドンが黙っているので、スペンサーは事件の推測を語ります。
ヘイドンと殺されたデニス・パウエルが大学で麻薬の密売に関わって(involved in pushing dope)いた。ブロズが麻薬を供給した。ブロズにとっては新市場(nice new market)だし、ヘイドンは利用価値があった。しかしヘイドンとパウエルは出来心をおこし(get fancy)、ゴッドウルフ・マニュスクリプトを身代金(for ransom)に盗んだ。そして自分が大学に雇われた。理由はわからないがパウエルと仲たがいし、彼を殺す段取りをした。キャシー・コネリーを通じて、テリィ・オーチャードの拳銃を手に入れた。

大学は写本が戻ったので、告訴するつもりはない。パウエルが死んで、ヘイドンとSCACEの関係をバラす者もいない、キャシーも死んで、恋愛関係の腹いせにヘイドンにとって都合の悪いことをしゃべることもない。ヘイドンはブロズとの関係を維持して、新しい売人を見つければ良かったのですが、スペンサーが介入したために、そうはいかなくなったのです。

ヘイドンはブロズにスペンサーの殺害を依頼したのですが、ブロズはうんざりしてヘイドンの方を殺すことにしたというわけです。そうすれば官憲の手がブロズに及ぶことはなくなります。
そして、スペンサーはヘイドンに言います。生き延びるチャンスはただ一つ、それはすべてを自分は警察に話して、ブロズがヘイドンを殺さなければならない理由をなくすることだと。

ヘイドンは、キャシーの殺害には、自分の奥さんが手伝ってくれたのだと打ち明けます。彼女が提案したのだと。まったくオトコの風上にも置けないようなヤツです。

ヘイドンはさらに言い訳を続けます。自分は麻薬を使わない。 But, many people need them to liberate their consciousness, to elevate their perceptions and free them from the bondage of American hypocrisy. A drug culture is the first step to an open society. しかしながら、多くの人々にとって、意識を解放して、知覚力を向上させ、アメリカの偽善という束縛から解放されるために、麻薬を必要なのだ。薬文化は開放された社会への第一歩だ、と。
本当に言うに事欠いて、という感じです。

ヘイドンは、麻薬の質についてパウエルと揉め、そのことをブロズに話すと、ブロズは麻薬の質は変えないと言い、パウエルが警察に話すと言ったことから、パウエルを殺害するために、テリィ・オーチャードの拳銃をキャシーが持ち出し、ブロズの手下に渡したことも白状します。

スペンサーが、すべてを警察に話すか? とヘイドンに問うと、ヘイドンは、I’ll die without speaking. 死んでも話さない、ときっぱりと答えます。そのきっぱりさ加減は、ロナルド・コールマン、アンドレ少佐、ネイザン・ヘイル、キリスト教の殉教者のようだとスペンサーは思ったようです。

■■ ロナルド・コールマン(Ronald Colman)とは、イギリスの俳優で、アカデミー賞も受賞している人。鼻の下の特徴的な髭が、コールマン髭と呼ばれるのは、彼がトレードマークとしたことからです。

■■ アンドレ少佐(Major John Andre)とは、18世紀中盤から後半にかけて、アメリカの独立戦争当時のイギリス軍のスパイで、絞首刑にされています。

■■ ネイザン・ヘイル(Captain Nathan Hale)もアンドレ少佐と同じ時代の人で、こちらはアンドレ少佐とは反対でアメリカ側のスパイです。やはり絞首刑にされています。亡くなったのは21歳(若い!)で、死後はアメリカの英雄として、あちこちに銅像となっています。シカゴのトリビューン・タワーの前にもあります。でも、ニューヨークのシティ・ホール・パークにあるのが素敵です。(すっごいハンサム! 今度行ってみなくっちゃ)

スペンサーは、死刑は違法なのだから、警察に話せば命は助かるとヘイドンを説得し、ミセス・ヘイドンも、夫にそうしてくれと言うのですが、ヘイドンは拒みます。そして、ミセス・ヘイドンにも、自分の運動を理解してくれないし、信用していたのに裏切ってスペンサーを連れてきたとなじります。
そして、「I am the movement. 私が運動そのものなのだ」と夢見るような表情で、自分に酔ってしまっていました。それを見てスペンサーは、彼の中では<God Save The King>が鳴っているのだろうと思います。

静寂がしばらく続き、コネクティング・ルームのドアが開き、フィル(ブロズの手下)が現れ、スペンサーに「Time’s up. おしまいだ」と、サイレンサーを付けた拳銃を向けるのです。スペンサー、危うし!!!


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