いわゆる隠し撮りというのを頼まれた事がある。
依頼主は893の組長だった。どうも、自分の縄張りの中に一軒だけ言う事を聞かない店舗があるらしく
その店舗が法に触れて営業しているというところを証拠として押さえておいて、それを元にして揺さぶりを
かけようという魂胆だったようだが、ぶっちゃけ自分達はどうなのさ?なんて思いながらも、
撮影自体は違法性がないのと、それを使ってどうのこうのということは関知できないので引き受けた事がある。
打ち合わせの為に事務所に入ったら、ずらーっと強面の人達が並んで出迎えてくれた。
かなりの人数がいるので聞けば、広域暴力団として指定されているほんにゃら組直属の事務所だったそうだ。
それで、両脇に並んでいる人の間を通って、応接室に通されたら、組長がにこやかに向かえてくれた。
少なくとも組織のリーダーであるから、きっと強面なのかなぁ~と思ったら全然予想が外れた。
にこやかな893というのも微妙に怖いが、撮影する内容を聞いたら前述の理由を教えられた。
その後、ターゲットとなる場所を案内された。それで撮影ポイントを探したのだが、うまい具合に撮影できそうな
スポットがなくかなり離れた場所でないと、手元までわかるようなカットが撮れない事がわかった。
当時は撮影収入の大半を機材購入に当てていた時期で、そのカットを撮ろうとするとそれなりの望遠が
必要だという事が判明した。
「機材がないので」とは言いにくい状態である。望遠が駄目なら通行人を装ってワイドで近隣から写すしかない
ワイドレンズというのは、一眼レフに装着して絞りをF8か11にして、撮影距離を一定の数字にあわせれば
ファインダーを見なくても被写界深度でカバーできるのだ。
戦場カメラマンは大抵この方法で撮影しているのだ。ただ、これが、できない理由としては、立ち止まる必要があ
ることで、ちょうどよいタイミングで立ち止まることがほぼ無理だということと、ワンチャンスをゲットできても
同じような事が行なわれている事を照明するのには、カット数が足りないという事になる。
「そういうわけで無理です」で済むのかな?いや済みそうもないので、300mmをつけたファインダーを
除いてもらい、「この倍ぐらいないと厳しいです」と伝えた。
ついでに、最後の方法は「写したものを全部4つ切りでプリントして必要な大きさにカットする」という方法が
あるにはありますが・・・・と告げた。
ピントがかりっと合っていれば35mmでも全紙全倍までは楽に伸ばせるので、理論的には望遠で撮影した
事と同じになるからなのだが、これは説明しにくいので省いた。
で、後日「指5本払うから(撮影を)してくれ」といわれた。ひぇぇ指5本ってまさかつめる??なんて和歌はないが
5万だと思ったら50万でどうだということだった。
それなら、レンズを調達してコンバーターを買えば600mmF5.6になるので撮影可能だ。
なので撮影をした。仕上がりを気に入ってもらったのか、組長とさしでうなぎをだされたが、さらしになった姿を
みたら思いっきり30cm位の傷があってそれがうなぎのように見えた。
ただ、この人の名刺の威力はすさまじくて、変なチンピラに絡まれて事務所にいったりしたが、
「ほにゃららさんに電話してから話をしましょう」といってみたり、名刺を見せてみたりしたら、180度態度が
かわったことが何度かあった。