「人間失格」113ページ
けれども、その頃、自分に酒を止めよ、とすすめる処女がいました。
「いけないわ、毎日、お昼から、酔っていらっしゃる」
バアの向かいの、小さな煙草屋の17、8の娘でした。ヨシちゃんと言い、色の白い、
八重歯のある子でした。自分が、煙草を買いに行くたびに、笑って忠告するのでした。
「なぜ、いけないんだ。どうして悪いんだ。あるだけの酒をのんで、人の子よ、憎悪
を消せ消せ消せ、ってね、むかしペルシャのね、まあよそう、悲しみ疲れたるハート
に希望を持ち来すは、ただ微醺をもたらす玉杯なれ、ってね。わかるかい」
「わからない」
「この野郎。キスしてやるぞ」
「してよ」
ちっとも悪びれず下唇を突き出すのです。
「馬鹿野郎。貞操観念、……」
しかし、ヨシちゃんの表情には、あきらかに誰にも汚されていない処女のにおいが
していました。
けれども、その頃、自分に酒を止めよ、とすすめる処女がいました。
「いけないわ、毎日、お昼から、酔っていらっしゃる」
バアの向かいの、小さな煙草屋の17、8の娘でした。ヨシちゃんと言い、色の白い、
八重歯のある子でした。自分が、煙草を買いに行くたびに、笑って忠告するのでした。
「なぜ、いけないんだ。どうして悪いんだ。あるだけの酒をのんで、人の子よ、憎悪
を消せ消せ消せ、ってね、むかしペルシャのね、まあよそう、悲しみ疲れたるハート
に希望を持ち来すは、ただ微醺をもたらす玉杯なれ、ってね。わかるかい」
「わからない」
「この野郎。キスしてやるぞ」
「してよ」
ちっとも悪びれず下唇を突き出すのです。
「馬鹿野郎。貞操観念、……」
しかし、ヨシちゃんの表情には、あきらかに誰にも汚されていない処女のにおいが
していました。
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