腹話術人形けんちゃんの日記

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「人間失格」113ページ・2017年6月06日(火)

2017-06-06 07:39:07 | 日記
「人間失格」113ページ

 けれども、その頃、自分に酒を止めよ、とすすめる処女がいました。

「いけないわ、毎日、お昼から、酔っていらっしゃる」

 バアの向かいの、小さな煙草屋の17、8の娘でした。ヨシちゃんと言い、色の白い、

八重歯のある子でした。自分が、煙草を買いに行くたびに、笑って忠告するのでした。

「なぜ、いけないんだ。どうして悪いんだ。あるだけの酒をのんで、人の子よ、憎悪

を消せ消せ消せ、ってね、むかしペルシャのね、まあよそう、悲しみ疲れたるハート

に希望を持ち来すは、ただ微醺をもたらす玉杯なれ、ってね。わかるかい」

「わからない」

「この野郎。キスしてやるぞ」

「してよ」

ちっとも悪びれず下唇を突き出すのです。

「馬鹿野郎。貞操観念、……」

 しかし、ヨシちゃんの表情には、あきらかに誰にも汚されていない処女のにおいが

していました。

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