黒猫のつぶやき

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債務整理事件の規制と今後の課題

2011-05-11 13:30:39 | クレサラ弁護士奮闘記
 今年の4月1日から,日弁連の「債務整理事件の規律を定める規程」及び同施行規則が施行されました。債務整理事件とそれに伴う過払い金請求事件に関しては,一部の弁護士に不適切な事件処理や報酬の請求を行う例が見られるということで,最長5年間の臨時措置として規制が設けられたものです。弁護士による事件処理の規制としては他に類を見ないほど細かいことまで規定してあるので,債務整理事件にあたる弁護士はその内容に注意する必要があります。
 規制のポイントは,概ね以下のとおりです。

1 直接面談の原則
 債務整理事件の受任にあたっては,原則として受任する予定の弁護士が自ら依頼者と面談して,債務の内容,依頼者の生活状況,債務者が不動産を所有している場合はその処理に関する意向,及び債務整理事件の処理に関する意向を聴取することが義務づけられています。
 まあ,普通の弁護士ならそのくらいの聴き取りはやっているでしょうが,事件処理を事務員任せにして,弁護士自身はろくに聴き取りをやっていないという事例もあったので,このような規制が設けられたのでしょう。問題は例外で,依頼者が遠隔地に居住しており来所困難であるという場合や,病気で来所できないといった場合に,どのような態様であれば事件受任が許されるのかは規程上必ずしも明示されておらず,この点は今後の課題になろうかと思います。
 なお,地方在住の弁護士から見れば,なぜ東京の弁護士がわざわざ遠隔地の債務整理事件を引き受けるのかと言われるかも知れませんが,以前遠隔地に住んでいる人に地元の弁護士会を紹介したところ,そこの法律相談を担当した弁護士から「自己破産なら着手金30万円一括で払え」などと言われて抗議されたことがあり,ましてや個人再生事件に至っては,その地域では詳しい弁護士が見つからないということも珍しくないので,東京の弁護士が受任せざるを得ないということもあるのですよ。

2 受任弁護士等の明示
 債務整理事件を受任した弁護士は,依頼者に対し,その氏名及び法律事務所の所在地(法律事務所に名称がある場合にはその名称を含む)を明示することが義務づけられています。さらに,事件処理にあたり復代理人を選任した場合には,その復代理人の氏名,法律事務所の所在地及び所属弁護士会を明示することも義務づけられています。
 明示の方法は特に定められていないので,弁護士が一人であれば単に名刺を渡すくらいでも問題ないのでしょうが,共同受任の場合や復代理人選任の場合は,必ずしもこのような明示が実務上一般的に行われているわけではないので,特別な対応が必要になろうかと思います。

3 受任時の説明
 債務整理事件を受任するときは,事件処理の方針や見通し,弁護士費用などを弁護士自ら説明しなければなりません。さらに,説明すべき不利益事項として,破産の場合は法令による資格制限があること,信用情報機関に事故情報として登録され金融機関等からの借り入れに支障を生じるおそれがあること,不動産等の資産を失う可能性があることの3つが明示されています。
 普通の弁護士は,このくらいの説明は当然やっていると思うのですが,即独などで債務整理事件に関する実務経験の全くない弁護士や,事務員任せにしている弁護士などがいるのでこのような規制が設けられたのでしょう。
 なお,規程には,受任時の説明を法律相談時間に含めるべきか否かは明示されていません。最近は,債務整理に関する法律相談料を無料としているところが多いので特に問題とされなかったのでしょうが,黒猫の知っている弁護士の中には,債務状況などの聴き取りはせいぜい5分くらいで,あとは弁護士費用などの説明だけで30分5,250円の法律相談料を取っている人もおり,そうした行為は規制の対象とされていません。

4 弁護士費用の規制
 本来,弁護士費用は報酬規程の廃止により自由化され,弁護士と依頼者との協議により任意に決めて良いのが原則ですが,事業者以外の任意整理事件については,弁護士費用の体系が複雑で分かりにくく,依頼者との間におけるトラブルの原因になっていると判断されたのか,従来の一般的な慣行による金額が上限として定められ,個別の事務手数料などの請求や受領も禁止されています。
 破産事件や民事再生事件の報酬については規制の対象外ですが,最近,事業者の倒産事件について過大な報酬を取っているとして問題にされた事案もあり,将来的には破産や民事再生の報酬も規制されることになるのかも知れません。特に,事業者の倒産事件については,弁護士会の旧報酬規程にも明確な規定がなく,これを専門としない弁護士にとってはいまいち相場が分かりにくいという問題があり,それがトラブルの一因にもなっていますので。

5 事件処理の報告
 依頼者に事件処理の結果を報告するのは,受任者である弁護士として当然の義務ですが,規程ではその具体的内容として,裁判所からの決定書や和解契約書,調停調書の原本または写しを依頼者に交付すること,開示された取引履歴や過払い金請求事件の清算に関する事項を報告すること,必要に応じて引き直し計算に関する資料を開示することなどが義務づけられています。やたら細かい規制だと思いますが,特に任意整理事件の減額報酬を取っていない事務所では,利息制限法による引き直し計算をやっていないところがあったりするので,後で事件処理の適正性を検証できるようにする必要があったのでしょう。

6 広告規制
 債務整理事件に関する業務広告を行うときは,報酬の基準を表示するよう努めなければならないという規定も設けられています。最近,クレサラ関係の法律事務所のTVCMで,細かい契約内容らしきもの(内容は字が小さいのでとても読めません)が一瞬だけ表示されるようになり,あれは一体何のためにやっているのだろうとかねてから疑問に思っていたのですが,どうやら弁護士会の広告規制を意識しているようです。将来は弁護士業界も,保険会社みたいに一見無意味とも思える細かな開示規制に縛られる時代になってしまうのでしょうか。

7 過払い金請求事件の規制
 クレサラ業界では,債務整理よりも過払い金請求の方が儲かると認識されるようになったせいか,過払い金請求事件だけを受任するケースが近年増えていたのですが,債務整理は全体として行わないと,依頼者の生活再建にあたりかえって取り返しのつかないことになってしまう場合が多いということで,過払い金請求事件だけの「つまみ食い受任」は原則として禁止され,過払い金請求だけを取り扱うかのような広告をすることも禁止されています。過払い金請求事件の報酬にも上限が設けられているので,これまで過払い金請求で儲けてきたような事務所は,この規制で結構な打撃を受けるのではないでしょうか。

 この規程の19条には,「この規程は,弁護士の職務が本来多様性と個別性を有することにかんがみ,弁護士の債務整理事件処理を不当に萎縮させることのないよう実質的に解釈し,適用しなければならない」という解釈規定があります。したがって,実質的に依頼者の利益を害するような行為でなければ,この規程に形式的に違反したというだけで直ちに懲戒の対象となるわけではないのだろうと思いますが,事件処理の態様や報酬がここまで細かく規制されるのは極めて異例のことであり,このような規制の更なる強化が必要にならないよう,弁護士業界全体の健全化が進むことを願ってやみません。

 なお,クレサラ事件では弁護士と競合関係にある司法書士業界でも,日本司法書士会連合会が「債務整理事件の処理に関する指針」を定めており,基本的な理念はあまり変わりませんが,あまり細かな報酬規制は定められていません。弁護士会内部では,クレサラ事件をビジネスにしている弁護士の発言力はほとんどゼロに等しく,規程の内容もそのような弁護士を貸金業者並みに厳しく取り締まるようなものになっているのですが,司法書士業界ではクレサラ事件を取り扱う司法書士の発言力が大きいのか,指針の内容も,何となくそのような司法書士の言い分に配慮したようなものになっています。
 例えば,司法書士も直接面談による受任が原則とされていますが,例外事由として「依頼者が現に依頼を受け又は受けようとしている者の保証人(連帯保証人を含む。)である場合で,債権者の厳しい取り立てを速やかに中止させる必要があるとき」及び「依頼者が離島などの司法過疎地に居住する場合で,債権者の厳しい取り立てを速やかに中止させる必要があるとき」が条文上明記されており,このような場合には,面談によらなくても依頼者であることの確認及びその意向を確認できれば債務整理事件を受任して良いことになっています。
 弁護士業界と司法書士業界は,特に司法書士の業務範囲を巡って現在も深刻な法廷闘争を続けており,伝統的に仲が悪いため,債務整理事件に関する規制内容の摺り合わせなどは考えもしないのでしょうが,将来弁護士自治が崩壊して弁護士会が任意加入制になったりした場合には,このような規制の在り方も検討の対象にする必要があるでしょう。

2 コメント

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そのとおりだと思います。 (丸山)
2011-05-11 22:31:28
某事務所でも所長弁護士が同様の事がありましたね。
あのお守りも大変でした。
たった20分の間にすべての状況を聞き出してバトンタッチ。
所長弁護士は,委任契約書と報酬に関する契約書を延々と説明して,相談料1万とか酷い時にはチャットで3万円の相談料を取っていましたから・・・。

今後,どうなるのでしょうか・・・。

いい方向に向かえば,依頼者にとってメリットが大きくなり,弁護士の負担も東京限定,横浜限定とかにすれば,弁護士の負担も少なくなるのではないかと思います。
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(追記)手の方はどうですか? (丸山)
2011-05-11 22:33:54
お大事にしてください。
私も2月頃に左手を不自由しました。
2ヶ月かけて,毎日ペットボトルを500回手首上げを行い,関知しました。

体調,お大事に・・・。
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