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黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

パブコメの意見公開と違憲訴訟のはなし

2013-07-30 23:11:02 | 法曹人口問題・法曹養成制度総論
 法曹養成制度の問題については,閣僚会議の結論先送り決定で展望が見えない状況になっていますが,それでも民間レベルの動きはあるようです。今回はそのうちの2つ,パブコメ意見の全文公開と給費制廃止違憲訴訟に関して触れることにします。

1 法務省がパブコメ意見の全文公開へ
 一聴了解さんの記事によると,法務省は検討会議のパブコメで寄せられた意見の全文について,10月末以降にホームページで公開する方針を採ったそうです。
 検討会議のパブコメについては,意見募集の結果が取りまとめでろくに反映されなかったばかりか,意見の内容についても事務局作成の概要が公表されただけで,全文の公表については情報公開請求があれば対応するというスタンスだったのですが,一聴了解さんだけでなく複数の方が全文の情報公開を請求したことから,法務省もやむなく全面開示に踏み切ったようです。
 これは,パブコメの意見を無視した政府の方針に反感を持っている人が多いことの現れでもあり,全面開示自体は素直に歓迎すべきことのようにも思えるのですが,一方で素朴な疑問として,全部で5,000頁を超える意見の全文なんて一体誰が読むのか,という気もします。
 パブコメ意見のうち,経済的支援に関する部分だけは平山誠前参議院議員のブログで既に公開されていますが,これだけでも合計239頁にのぼり,公開された意見を基に誰かが意味のある検討や研究をしたという話は,今のところ聞いたことがありません。
 合計で3,119通にものぼるパブコメの意見は,電子メールで提出されたものもあり,郵送やFAXで提出されたものもあるようですが,特に郵送やFAXで寄せられた意見は,おそらく事務局が手作業により全文をパソコンに入力するしかありません。法律上情報公開請求があれば開示の対象になるとはいえ,法務省としては大変な手間です。
 しかも,パブコメで提出された意見については,意見提出者が自らのホームページやブログなどでその内容を公表している例も少なくないことを考えると,一体何のために情報公開請求をしたのだろう,単なる法務省への嫌がらせではないか,という気もしないではありません。
 実際に提出意見が公開された場合,このブログではネタ切れになったときに「こんな面白い意見があった」などという趣旨の記事を書くことはあるかも知れませんが,意見の内容を細かく分析する,統計を取るなどという作業はたぶんできないと思いますし,する気もありません。実際の政策形成に何ら寄与していない膨大な文書を細かく検証しても,得られるものは何もありませんし。
 それでも,5万円以上もの開示実施手数料を支払ってまで情報公開請求をした人は,たぶん開示された意見を何かに使うつもりなのでしょうが,何に使うのかは黒猫にも想像できません。おそらく読むだけでも大変だと思いますが,まあ頑張って下さいと言うしかないです。

2 給費制廃止違憲訴訟,8月2日提訴へ
 検討会議のパブコメ実施を受け,提訴が延び延びになっていた給費制廃止違憲訴訟ですが,原告団のホームページを確認したところ,8月2日に提訴する方針が正式に決まったようです。
 司法修習生の貸与制については,検討会議のパブコメでは給費制復活を求める声が多数を占めており,自民党の司法制度調査会中間提言でも給費制を復活すべきとの意見があった旨を記載されていることから,もしかしたら政治的解決もあり得るのかというかすかな期待もあったのですが,閣僚会議決定によりその可能性が断たれたので,やむなく提訴に踏み切るということでしょう。
 黒猫は,一般論としては給費制復活に賛成であり,給費制でなければ本来の司法修習制度,法曹養成制度は成り立たないものと考えていますが,以前の記事にも書いたとおり,この集団訴訟に関してはあまり良い印象を持っていません。

 そもそも,司法修習の給費制が廃止されて貸与制に移行した経緯は,司法改革に由来するものです。法科大学院制度の創設や法テラスの新設などを盛り込んだ司法審意見書は,政策のコストパフォーマンス,費用対効果というものを全く考えておらず,非常にお金のかかることばかり要求するものでした。
 法科大学院は,学生を予備校に奪われた大学の経済的な生き残り策に過ぎず,しかも司法改革以前は司法試験以前の勉強に国費は投入されず予備校教育などの民活に委ねられていたわけですから,法科大学院にかかったお金(総務省の推計によると,平成16年度~平成22年度までの7年間で585億円)は,まるまる司法改革による国庫の負担増ということになります。
 法テラスについては,要するに法律事務所の国営化を図るものであり,平成23年度の法テラス収入のうち実質的な国庫負担と思われる運営費交付金収入と政府受託収入の合計額は約320億円に達しています(法テラスのキャッシュ・フロー計算書を参照)。そのうち国選弁護と法律扶助協会の事業を引き継いだ分以外は,司法改革による国庫の負担増と考えられます。
 ただでさえ財政赤字が膨らんで国家財政が苦しいときに,金ばかりかかる改革案を出された財務省は当然難色を示し,そのような司法制度改革をやるのであれば,国民の負担を少しでも軽減するため,司法修習の給費制を廃止して貸与制に移行すべきであると言い出しました。具体的には,財政制度等審議会の『平成15年度予算の編成等に関する建議』において,貸与制への早期移行が提言されています。
 司法修習の貸与制移行は,いわば金の掛かる法科大学院や法テラスの予算を財務省が受け容れる交換条件として行われたものであり,税金の無駄遣いを続けている法科大学院も法テラスも残したまま,司法修習の給費制を復活させてさらに国庫負担を増やすという政策は,財政の論理としては到底あり得ないことです。

 もし,今から給費制を復活する必要があるというのであれば,当然代わりにどこかの予算を削らなければなりませんが,真っ先に削られるのは当然法科大学院関係の予算です。給費制の復活については,検討会議で鎌田委員が猛反対していましたが,おそらくは財務省関係者から,給費制を復活するのであれば法科大学院関係の予算を削ると言われたことがあるのでしょう。
 司法審意見書の説明では,多額の国家予算を掛けて法科大学院制度を作るべき理由は,①法曹需要は今後大幅に増えるので弁護士を大量増員する必要がある,②通常,司法試験の合格者数を増やせば合格者の質は大幅に低下するが,法科大学院制度は司法試験の合格者数を大幅に増やし,かつその質も高めることのできる魔法のような制度である,という趣旨のものでした。
 しかし,現在は①②のいずれも大嘘であったことが明白となっており,それでも各法科大学院が政府から補助金の交付を受け続けるのは,ある意味補助金の不正受給に他なりません。法科大学院が司法審意見書で示されたような役割を現実に果たし得ないのであれば,直ちに補助金の交付を辞退し,既に交付された補助金も全額政府に返還すべきです。
 ましてや,同じ法曹養成制度の問題で,給費制や前期修習を復活させるなど司法修習の再充実を図る必要があるというのであれば,そのような必要性が生じたのは法科大学院があまりにもだらしないからであり,それに必要な予算を法科大学院関連費から削るのはあまりにも当然のことです。いわば,法科大学院制度と司法修習の給費制は,財政規律の観点からは本来両立し得ない関係にあるのです。
 また,司法修習を貸与制ではなく給費制に戻すのであれば,司法修習生の人数が実質的な国庫負担額に直結するので,弁護士が明らかな供給過剰であり質も低下し市民の信頼を失っている以上,司法修習生の人数は大幅に減員すべきことになります。
 司法修習生の数を減らすには,司法試験の合格者数そのものを減らす方法のほか,合格者数は維持しつつ司法修習を受けられるのは司法試験の上位1,000人のみとする方法も考えられますが,いずれにせよ,現状において国費で司法修習を受けさせる正当性が認められるのは,多くても年間1,000人程度だと思います。

 しかし,給費制廃止違憲訴訟の原告団は,給費制の廃止は憲法違反であるなどと主張するのみで,貸与制以上に法曹志望者を苦しめている法科大学院制度の是非については沈黙しています。
 その理由は,要するに今の司法修習生や新人・若手弁護士の中には,自分は法科大学院がなければ弁護士になれなかった(旧司法試験に合格できる自信はなかった)などとして法科大学院制度を支持する者が相当数おり,ベテランの弁護士にも法科大学院の利害関係人がいるので,法科大学院制度廃止という方向性で意見の一致を見るのは困難であるというものであり,はっきり言って弁護士業界以外では到底通用するように思えない,身勝手極まりない理屈です。
 また,65期の元修習生たちが原告となる以上,あるべき司法試験の合格者数についても沈黙を守る以外にないでしょう。つまり,問題の本質には何ら迫ることなく,自らの失われた既得権益のみを復活させよと主張する訴訟にしかならないのです。
 制度改革のしわ寄せを社会的弱者である司法修習生に押しつけるなという言い分はあると思いますが,法曹はある意味社会の特権階級でもあり,それに相応しい倫理観と社会的存在意義を示すことができなければ,いくら経済的窮乏を訴えても世論の支持を得ることはできません。いわゆる政策形成訴訟としては,主張の内容があまりにお粗末過ぎるのです。
 この種の憲法訴訟は,もとより勝訴できると踏んでのものではなく,訴訟を通じてどれだけ世論の支持を集められるかにその成否がかかっていると言えますが,こんな訴訟で世論の広い支持が集まることはおそらくないでしょう。もちろん,裁判を受ける権利は憲法上保障されているものであり,国家賠償請求訴訟を起こすこと自体は彼らの勝手ですが,黒猫としてはむしろ止めてもらいたいとさえ思っています。

2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (Unknown)
2013-07-31 11:44:52
>>一体何のために情報公開請求をしたのだろう,単なる法務省への嫌がらせではないか,という気もしないではありません。

すべての提出意見について情報公開請求をして,自分のホームページに晒したりすることにより,集計結果が民主的かどうかを閲覧者自身で判断してもらうためです。

提出意見をブログで公開されている方もいますが,単発では意味がなく,全意見を一体として公開させる必要があるのです。
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Unknown (Unknown)
2013-07-31 11:48:24
>>意見の内容を細かく分析する,統計を取るなどという作業はたぶんできないと思いますし,する気もありません。実際の政策形成に何ら寄与していない膨大な文書を細かく検証しても,得られるものは何もありませんし。

政策形成に何ら寄与していないからこそ,得られるものは大きいのです。

>>それでも,5万円以上もの開示実施手数料を支払ってまで情報公開請求をした人は,たぶん開示された意見を何かに使うつもりなのでしょうが,何に使うのかは黒猫にも想像できません。おそらく読むだけでも大変だと思いますが,まあ頑張って下さいと言うしかないです。

例のpdfが公開されるまでは,一人一人のパブコメ3119通を全て情報公開請求して,ホームページで全コメントを晒す予定でしたので,当初は90万円以上かけて情報公開請求する予定でした。例のとりまとめたpdfが存在することが判明したために,かなり割安になったと感じています。
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