昭和四年一一月未明。北京にあるチャイナドレスの販売店で、店主がなに者かに刃物で首を斬られて、死ぬという事件が起きた。その店は、女性の剣術使いが衣装を調達していることで有名だ。店は三〇代と四〇代の女性従業員がいて、死体は店へ最初にきた四〇代の従業員が発見した。店主と奥さんは五〇代で、奥さんは天津の闘技場へ出張に行っているという。公安が「ドレスをなん着も使うの」と四〇代の女性従業員に聞いたら、「試合で使う剣を販売してるわ。うちで委託生産してて、ぼろぼろになった剣もうちで買いとってる」と言う。三〇代の女性従業員が「刃が欠けるとひっかかって危ないのよ」と口をはさむ。公安は天津の闘技場へ行く。観客が二階席までびっしり埋まって三千人ぐらい。チャイナドレスを着た二刀流の女性剣術使いが、刃渡りが一m近くある剣を持った男と対戦している。公安は一階席の最前列で立って見ていた。女性剣術使いが水平に剣を振る。「がちん。がちんっ」と二回金属音が響いて、男がふらつく。女性剣術使いが「やあー」と叫びながら男に斬りかかる。男が剣を横にかまえて、二本の剣をぶつけると女性剣術使いが鮮やかに宙返りした。女性剣術使いが着地して片手を上げて、ポーズをする。男が間合いを詰めてきて、こんどは女性剣術使いが二本の剣を交互に、男の剣にぶつけて「がきーん。がきーんっ」と金属音が響く。女性剣術使いが踊るように回転しながら剣をぶつけると、拍手が巻き起こる。公安は最前列で奥さんを見つけた。公安が事情を聞くと、奥さんが「ちょっと待って」と言う。女性剣術使いがあおむけに倒れた。男が頭へ剣を振り下ろす。女性剣術使いが二本の剣で受けとめて、男の股間にキックした。女性剣術使いが剣を強く押し返すと、男はしりもちをついてあおむけに倒れる。女性剣術使いが男の、両耳付近のリングに、二本の剣を突き刺した。観客が拍手する。公安が奥さんに事情を説明すると、「八百長を持ちかけてきた男に殺されたのよ」と言う。かけの倍率が、女性剣術使いが一.二倍ぐらいで、男が三倍以上。女性剣術使いは剣が折れでもしないと、負けることがない。公安が「その男は会場にいるか」と聞いたら、奥さんは「あいつよ」と言う。剣の業者みたいだ。公安が近づくと男は剣のホルダーを投げつけて逃げようとしたけど、 公安が受けとめて剣を引き抜いて男の首に向けると、男は殺したことを認めた。公安は男を逮捕する。