むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所クラスター㊺

2019-08-10 10:11:01 | 小説
 昭和四年九月未明。ハルピンで布団屋の経営者が、羊毛の束に顔を押しつけられて死んでいる事件が起きた。布団屋は店員が三人と、工場に従業員が五人いる。死体は事務所に、置いてある羊毛にうつぶせの状態で発見された。奥さんは事務全般を担当しているが、仕入れ先へ出張に出ていて現在連絡をとっている最中だ。死体を発見した工場の従業員は「朝に、出勤簿に、記入しに、事務所に入ったら社長が死んでた」と言う。公安(中国の警察)は昨晩「殺人事件と動機について」の論文を書いていて途中で、こんな頭になってやめたことを思い出した。工場はいつも従業員より先に社長がきていて、奥さんは出張が多いらしい。工場を調べると羊毛は事務所に置いてあるだけで、工場は綿の布団を生産しているようだ。死んだ経営者は婿養子の四二歳で、奥さんは四八歳。公安が工場のリーダーに、奥さんの、両親のことを聞いたら「奥さんと出張に出てるけど」と言う。公安が「出張してなにをやってる」と聞いたら、「とり引き先にとまり込んで麻雀をやってるよ」と答える。奥さんと連絡がとれた。「香港の、綿織物業者の家にいるけど。麻雀で負けて店と工場の権利をとられたわ」と言う。公安は放蕩を燃焼させた奥さんの、国家に対する意見を聞いて、思わず電話を切った。公安は殺し屋が近くに潜伏していると考えて布団屋を張り込む。翌日の午後に、殺し屋風の男と、地もとの若者三人が、布団屋の店先で店員とこぜり合いながら、「ここはうちの店だあ」と叫んでいた。公安が出ていくと、若者が「てめえは引っ込んでろ。おれたちに権利があるんだ」と言いながら殴りかかってくる。公安はパンチを手のひらで受けとめて、腕をつかんで背なかの方へひねり上げた。他の若者二人が公安につかみかかってくる。公安がキックを顔面に連続でヒットさせて若者二人は倒れた。殺し屋風の男が、背広のポケットから拳銃をとり出す。公安は腕を、つかんでいる若者を殺し屋風の男へ向けて突き飛ばして空中に飛びはねる。拳銃の弾が、公安の股下を通過した。公安は着地してすぐに、低い姿勢で殺し屋風の男に近づいて足払いを食らわせたが倒れない。男はにやりと笑って銃口を足もとの公安に向ける。公安は両足を使って、男のひざをはさみつけて前に転倒させた。公安が馬乗りになって、男の顔を地面に押しつけると、男は拳銃を捨ててあきらめる。公安は男を逮捕して、男は布団屋の店主を、殺したことを認めた。