むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所クラスター㊴

2019-08-04 10:48:15 | 小説
 昭和四年七月未明。天津で小作人の男が上半身を土に埋められて、死んでいる事件が起きる。現場は雑木林と畑の境界であちこち土を掘り返していた。男は雑木林を開墾して、朽ち木でかぶとむしを飼育していたらしい。公安(中国の警察)が地主に事情を聞くと、「雑木林はあいつが、開墾した物だが」と言う。公安が「鉄条網の柵は誰がつくったんだ」と聞いたら、「小作料をもらってるからうちの方でつくった」と答える。かぶとむしのかずを聞くと、「あいつが、町の業者に売ってたがよくわからない」と答えた。公安は「四川昆虫店」と呼ばれるその業者を探す。公安がかぶとむしも売っている町の雑貨屋でかぶとむしを一匹買うと、店主が教えてくれた。ここの町では、子供たちの間で、皿の中央にたらした蜂蜜を、二匹のかぶとむしで奪い合わせる遊びが流行している。かぶとむしの悠々しさは、幼虫の期間が長くて、時間をかたよらせたようにも思える希少な生物独特の物だ。公安は聞いた住所へ行く。そこは別な名前の昆虫店だったが店じゅうに、かぶとむしのかごが並べられて売られていた。公安が店主に四川昆虫店のことを聞くと、「うちはあそこから百匹単位で仕入れてる。あいつは昔の遊び仲間だから朽ち木で育てる方法を教えたよ」と言う。死んだ男が四川昆虫店のようだ。公安と店主が話している間に、かぶとむしのかごが二つ売れた。公安が帳簿を見せてもらうと他の仕入れ先は、日にちをだいぶおいて数十匹単位のとり引きだ。公安は小学生の頃にかぶとむしをとった経験があって、かぶとむしが集まる樹液は木の成長過程で、枝が折れた部ぶんだった。つかまえたかぶとむしは空を飛ばせて遊んだ。公安は店を出て、他の「三川昆虫店」や「五川昆虫屋」をまわる。公安は全部の仕入れ先をまわったが、「木に蜜をつけて、集まったかぶとむしをとっただけ」で死んだ男のように、自ぶんの軒先で本格的に飼育している者はいない。公安はもういちど雑木林を調べた。鉄条網は雑木林を囲んで隣接する畑の、先の用水路まで続いている。強欲な地主が侵入者にかぶとむしをプレゼントするだろうか。公安は女性の、裸体のまんがや、小銃の弾が落ちている雑木林は「かぶとむしを自由にとっていいんだ」という鉄則を思い出す。数日後に近所の、床屋の男が自首してくる。男は「小学生の息子がつかまえたかぶとむしをあの男にとられて泣いてたから殺した」と言う。公安は男を逮捕した。