『星からおちた小さな人』はコロボックル物語の第3作目にあたります。『だれも知らない小さな国』『豆つぶほどの小さないぬ』の前2作とは違って、コロボックルとは直接関係のない少年が主人公となる物語です。
作者もあとがきで書いていますが、この作品はコロボックルのことをまるで知らない人間がふとした出来事からコロボックルの世界と関わりをもつこととなる点で、シリーズのターニングポイントとなります。言い換えれば、今まで一部の理解のある人間しか知られることのなかったコロボックル世界が、人間社会と関わりをもち始めることとなるのがこの『星からおちた小さな人』となるのです。
作者はコロボックル世界の行き先について楽観的なイメージをもっているようです。もちろん、物語をつくる人なのですから、自分の思うように話を発展させていくことはできますし、実際このあとに書かれた同シリーズも作者の思うとおりの方向に進んでいきます。私も楽しく読んでいます。人間の善性というものに信頼が置かれている社会を背景としているからこそ、このような物語は面白いと思うからです。
ただ、世相をみているとそう気楽なこともいっていられないのではないか、と思います。仮に現在のネット社会を背景としてコロボックル物語が書かれるとしたら、どのような話になるのでしょうか。ネットはとても便利なツールであると同時に危うさももっています。
せいたかさんを中心とするファミリーのなかだけで物語が完結しているうちは良いのでしょうが、それが他の人々にまで広がっていったときに何が起きるのか。たとえばその対象が、コロボックルが友だちと認めた人だけにとどまったとしても、秘密は守られるのか。ネットによる拡散ということを考えるとどうも悲観的になってしまいます。
コロボックル物語の世界は自分の胸のなかだけにとどめておくのが一番よいのかもしれません。