三井寺で「あお若葉の競演」と並行して「観音堂特別公開」が行われています。関西を中心とした観音巡礼ルート「西国三十三所」の14番札所である観音堂は、三井寺の中でも最も賑やかなお堂です。
高台に造られており琵琶湖の絶景も楽しむことができます。特別公開では観音堂の内陣に入って美仏を拝観でき、書院では江戸時代にブームとなった観音信仰の足跡を展示する「三井寺の観音信仰と美術展」が開かれています。重厚感のある金堂とは対照的な三井寺の魅力を楽しむことができます。
観音堂の外陣
2018年は西国三十三所が草創されて1300年になることを記念し、2016~2020年の間に三十三の寺が順次行う特別公開の一環として、三井寺は2018年春に観音堂内陣を公開しています。2018年秋には国宝・黄不動の公開も予定されています。
三井寺・観音堂は平安時代後期の1072(延久4)年に創建されたと伝えられています。本尊の秘仏・如意輪観音は中興の祖・智証大師円珍(ちしょうだいしえんちん)が自ら彫ったという伝承があり、三井寺にとってとても大切な仏様の一つです。
三井寺は、飛鳥時代の壬申の乱で敗れた大友皇子(天智天皇の皇子)の子が、乱の勝者である天武天皇の許可を経て、父の菩提を弔うために建立したのが起源です。その後寺勢は衰えますが、円珍が平安時代になって再興したことで、再び歴史の舞台に登場します。
【公式サイトの画像】 智証大師坐像(文化財収蔵庫)
円珍は唐からの帰国後の868(貞観10)年に、延暦寺のトップである天台座主になっていました。円珍は三井寺の境内に唐から持ち帰った経典や法具を収納する「唐院(からいん)」を設け、天台宗の修行の道場として三井寺を再興します。
唐院の灌頂堂と三重塔、三井寺の最も神聖なエリア
円珍は延暦寺の中で信望を集めた偉大な人物でした。しかし皮肉なことにこの偉大さが、後の三井寺の運命を大きく左右します。
円珍の二代前の座主だった慈覚大師円仁(じかくだいしえんにん)も唐から多くの経典を持ち帰っており、延暦寺内で大きな信奉を集めていました。円珍の死後しばらくすると、円仁を支持する山門派(さんもんは)と円珍を支持する寺門派(じもんは)が延暦寺内で激しく対立するようになります。
993(正暦4)年には寺門派が比叡山を下り、三井寺に拠点を構えます。山門派は幾度も三井寺を焼討しますが、三井寺はその都度復興を遂げます。そのため「不死鳥の寺」とも呼ばれています。
復興の背景には強大な宗教勢力であった延暦寺をけん制する勢力として、時の権力者の保護を少なからず受けていたことがあげられます。白河上皇や鎌倉・室町幕府とは良好な関係を続けていました。反面そのために源平や南北朝の騒乱で平氏や南朝側から攻撃される憂き目にもあっています。
三井寺は延暦寺や時の権力者の都合に翻弄されながらも、力強く生き抜いていきます。そんな厳しい状況の中でも人々の信奉を集める努力を三井寺は怠らなかったように思えてなりません。それが観音堂の移転です。
観音堂は当初、現在地よりさらに高い山の頂にありました。見事な如意輪観音にお参りしたい人は少なくありませんでしたが、険しい道と女人禁制が参拝者の前に立ちはだかっていました。観音堂は戦国時代の1481(文明13)年に、琵琶湖の眺望抜群の現在地に移され、女人禁制もいつしか解かれていきます。
眺望という観光地としての魅力も付加したことも、人々の信奉を集める努力の一つだと私は感じています。現代に続く三井寺のほっこり空間形成のきっかけは、この移転にあると思います。
現代もしっかりPRしています
観音堂は1686(貞享3)年に焼失しますが、4年後に再建されています。特別公開では再建への期待感の強さを物語る絵馬が展示されており、江戸時代の三井寺の観音堂はとても賑わっていたことを感じさせます。
【公式サイトの画像】 特別公開される脇侍、愛染明王と毘沙門天
本尊・如意輪観音は33年に1回公開の秘仏のため今回の特別公開でも対象外ですが、脇侍と御前立本尊を間近に鑑賞することができます。
重文の愛染明王は平安時代にさかのぼる古い像ですが、保存状態がよく肌の質感がとても美しく見えます。しかし肌の色は赤ではありません、一般的な不動明王のように濃い灰色になっています。時の経過とともに変色したのかもしれませんが、かえってこの仏様の霊験を高めているように見えます。
戦国時代に延暦寺からの弾圧で本願寺の蓮如が三井寺に一時的に身を寄せていたこともあり、蓮如と親鸞の像が伝わっています。特別公開期間中、観音堂内でお会いすることができます。多宗派も受容する三井寺の懐の深さを感じることができる空間です。
こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。
巡礼ガイドで定評のある「歩く旅」シリーズ
三井寺 特別企画展 西国三十三所 草創1300年記念
「観音堂特別公開」「三井寺の観音信仰と美術展」
http://miidera1200.jp/aomomiji2018/#sec002
会期:2018年3月31日(土)〜5月20日(日)
会期中休館日:なし
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
※この特別公開は定期的に行われるものではありません。
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