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京都・本願寺、東西対決 ~御影堂の大きさは東に軍配

2018年08月05日 | 美の殿堂ものがたり

戦国時代に織田信長が10年かかっても軍事力で屈服させることができなかった宗教集団・本願寺(浄土真宗)。江戸時代初期に東西分裂したことはよく知られています。以降、東西両派はあたかも暗黙のルールを守るように、同じ都市内では競いながらも棲み分けています。

京都の本拠地では、伽藍焼失が長らくなかった西本願寺だけが世界遺産に指定されていることもあり、東本願寺は観光的な視点ではやや地味に見られていることは否定できません。しかし江戸時代に4回の伽藍消失の憂き目にあった東本願寺は、その都度門徒(=檀家)の不屈の精神によって再興されているのです。

浄土真宗で最も大切な建物である御影堂(ごえいどう)阿弥陀堂(あみだどう)を中心に、東西両本願寺の文化財の比較をしながら、両寺の魅力を探ってみたいと思います。


木造建築面積で世界最大の東本願寺・御影堂(左は阿弥陀堂)


東西の名称の区別はとても深い

東/西本願寺は、京都で近接する東西両派の本山寺院を区別するために、地理的な位置にちなんで自然と呼ばれるようになった通称です。この同じ都市内で両寺を区別する「東西」という表現は、全国的に両寺が争うことなく棲み分けるキーワードになっています。偶然もあると思われますが、興味深い視点で見ることができます。

  • 浄土真宗は全国の多くの主要都市に拠点となる「別院」を設けているが、ほとんどの都市で京都と同じ名称で区別している。東本願寺系は「東別院」、西本願寺系は「西別院」。地図上の位置も東西で矛盾しない。地下鉄の駅名にもなっている名古屋が代表例。
  • 東は北陸や東海地方、西は中国地方に門徒が多い。京都の本山境内の位置はこの東西関係に沿っている。
  • 分裂の経緯から、東は徳川、西は豊臣に親近感がある。京都の本山境内の位置は両氏本拠地の位置の東西関係にも沿っている。
  • ほとんどの都市で中心的な建造物である城に向かって、東本願寺は右側、西本願寺は左側に境内を設けている。京都では二条城や御所が両寺から向かって北側にあるため右が東で左が西、大坂では城が向かって東側にあるため、右の南御堂が東で左の北御堂が西。この位置関係は江戸でも該当する。


豊臣政権以降、宗教勢力による武力抗争が禁じられたこともあり、東西両派の門徒はこのような暗黙のルールを守ることで、境内地の確保や名称でもめないようにしていたと思えてなりません。


京都タワーから見下ろす東本願寺境内

そもそも東/西本願寺のどちらが正統かは、第三者の視点で見ても断定できません。石山本願寺退去前から宗主で穏健派(現在の西本願寺)の顕如と、顕如の長男で強硬派(現在の東本願寺)の教如の対立は深刻化していました。世襲に基づき一度は本願寺の宗主になった教如は、秀吉の命で宗主を弟に譲らざるをえませんでした。両派の対立に収集の兆しはなく、秀吉の死後に家康に近づいた教如が東本願寺の境内を与えられることになります。


東/西両本願寺の主な特徴の比較

  京都での通称 お東さん(東本願寺) お西さん(西本願寺)
名称 正式 宗派 真宗大谷派 浄土真宗本願寺派
本山寺院 真宗本廟 龍谷山本願寺
ローマ字表記 honganji hongwanji
歴史 <現>伽藍創建 1602(慶長7) 1591(天正19)
伽藍消失 1788 天明の大火が延焼
1823 自らの失火
1858 近隣火災が延焼
1864 禁門の変の延焼
1596 地震で倒壊
1617自らの失火


<現>堂宇
再建
御影堂 1895(明治28) 1636(寛永13)
阿弥陀堂 1618(元和4)→
1760(宝暦10)建替
<現>堂宇
幅×奥×高
(m)
御影堂 76×58×38 62×48×29
阿弥陀堂 52×47×29 45×42×25
(参考)東大寺大仏殿 <現>57×50×49 <創建時>85×50×47
境内 本山(東西×南北) 400×200m 330×290m
宗祖墓地 大谷祖廟(円山) 大谷本廟(五条坂)
  京都での通称 お東さん(東本願寺) お西さん(西本願寺)
文化財 開祖像 鏡御影 × 正本(国宝)
安城御影 副本(重文) 正本・副本(国宝)
開祖真筆 教行信証坂東本(国宝) 観無量寿経註(国宝)
阿弥陀経註(国宝)
建造物(国宝) × 御影堂・阿弥陀堂・
書院・飛雲閣・唐門
庭園 渉成園(名勝) 虎渓の庭(特別名勝)
滴翠園(名勝)
主な
地方別院
大坂 難波別院(南御堂) 津村別院(北御堂)
江戸 旧・浅草本願寺 築地本願寺
名古屋 東別院 西別院(大須)
主要行事 報恩講(開祖年忌法要) 11月21〜28日(旧暦) 1月9〜16日(新暦)
系列 高校・大学 大谷など 龍谷・京都女子・相愛
・武蔵野・筑紫女学園など
美術館 大谷大学博物館 龍谷大学 龍谷ミュージアム
  京都での通称 お東さん(東本願寺) お西さん(西本願寺)



文化財では西、大きさでは東

世界遺産に指定されている西本願寺は、所有する文化財の質と量で東本願寺を圧倒していることは否めません。これには東本願寺にとっては不利となる2つの大きな理由があります。

  • 東本願寺は江戸時代に4度も火災で伽藍を焼失しているが、西本願寺は江戸時代初期以降に伽藍の焼失がない。御影堂や書院が現存していることが何といっても大きい。
  • 東西分裂の際に宗主だったのは穏健派の西本願寺側、そのため美術品のほとんどが西本願寺にのこる。



西本願寺・唐門

文化財では東本願寺が不利ですが、江戸時代の寺勢は東の方が大きかったように思えてなりません。東は徳川に近く様々な援助を受けやすい立場にあります。江戸時代の4度の火災で伽藍をすぐに再建できたのも、政権との近さに加え、経済力のある有力な門徒を多数抱えていたとことが背景にあると思われます。

現在の伽藍はほぼ明治になってからの再建で、廃仏毀釈の時代にこれだけの再建を行えた団結力には驚愕します。御影堂は建築面積では現在も世界最大の木造建造物です。高さは東大寺大仏殿より低いですが、幅(間口)が20mほど長いため、屋根の大きさが特に目立ちます。明治はじめに全国の門徒たちが協力し、16年の歳月をかけて工事を行った様子が、御影堂や阿弥陀堂の外周廊下でパネル解説されています。

畳は927枚もあります。ゆとりをもって1枚に2人が座っても1,800人ほどが座れます。宗祖・親鸞の年忌法要である報恩講(ほうおんこう)のような重要な行事の際に、全国の門徒で埋め尽くされる圧巻の光景は、東本願寺のアイデンティティの強さを象徴するようです。

【東本願寺公式サイトの画像】 報恩講の法要

一方西本願寺は、石山本願寺への籠城を毛利の水軍が密かに助けていたことから伝統的に毛利氏に近く、分裂前の相続争いで世話になった豊臣とも関係が親密でした。このため江戸時代を通じて、幕府とは一定の距離があったと考えられます。

幕末の禁門の変では、変後に長州藩士をかくまったことから会津藩から攻撃されそうになりますが、直前に回避します。しかし壬生(みぶ)周辺に収容しきれないほどの大部隊となった新選組の屯所として敷地の提供を余儀なくされます。東本願寺のように火災には遭わなかったものの、運営面では苦労が絶えなかったのでしょう。

なお東西両本願寺とも、御影堂と阿弥陀堂は常時公開されており、内部も拝観できます。柱の形や畳の敷方などに違いが見られます。じっくりと両者の個性を楽しんでください。

西本願寺の唐門も、常時すぐ近くで鑑賞することができますが、2018年8発現在、阿弥陀堂内陣・飛雲閣とともに修復工事中で、通常の内外観とは異なります。
【公式サイトの案内】 文化財指定建造物修復工事について

西本願寺の書院・庭園・飛雲閣は、法要に合わせて公開されることがあります。西本願寺は伝統的に、文化財の公開は門徒に対するサービスという考えがあります。そのため門徒でなくても拝観はできますが、法要への参加を求められることもあります。
【公式サイトの案内】 イベント


京都駅から最も近くいつでも楽しめる庭園


渉成園・傍花閣

東本願寺にはもう一つ常時公開されている文化財があります。東本願寺の御影堂門から東に徒歩3分の庭園・渉成園(しょうせいえん)です。

江戸時代初期に三代将軍・家光から土地を寄進され、京都・詩仙堂に隠遁していた文人・石川丈山(いしかわじょうざん)が作庭したと伝えられています。歴代の門主の隠居や賓客の接遇に使われていました。幕末には最後の将軍・徳川慶喜のお気に入りの庭園でした。

池泉回遊式の庭園で情景が変化に富んでいることが特徴です。明治の再建ですが、傍花閣(ぼうかかく)などデザインが興味深い建築も楽しめます。手入れが行き届いた庭では、四季折々の花が人々を迎えてくれます。

ここは関西でも案外知られていません。京都駅のすぐ近くでとても静かな空間を満喫できます。

【公式サイトの案内】 渉成園



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東本願寺(真宗本廟)
【公式サイト】http://www.higashihonganji.or.jp/

西本願寺(龍谷山本願寺)
【公式サイト】https://www.hongwanji.kyoto/




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