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世界最高峰の天平彫刻と静かに向き合える_東大寺 戒壇堂 四天王

2019年07月05日 | お寺・神社・特別公開

奈良の東大寺には、大仏以外にもたくさんの国宝の美仏がいらっしゃいます。大仏が圧倒的に有名なだけに影に隠れてしまっており、奈良時代の天平彫刻の最高傑作である戒壇堂(かいだんどう)の国宝・四天王ととても静かにお会いすることができます。

  • 天平時代に隆盛した写実表現が完成の域に達した最高傑作、まるで人肌のぬくもりを感じさせる
  • 観る者を鋭く見つめる瞳には包容力もある、仏法の守護神の表情として最高の造形
  • 戒壇堂は大仏殿や法華堂(三月堂)と比べて参拝者はかなり少なく、とても静かな空間でお会いできる


戒壇堂の四天王にお会いすると、誰もが「仏様から見つめられている」と感じます。「睨み付けられている」とは感じる人はおそらくおらず、誰もが虜になります。世界レベルの美仏を独り占めするような空間が、戒壇堂にあります。



東大寺の戒壇堂は、中国から鑑真が平城京に到着した直後の755(天平勝宝7)年に、国家が公式に僧侶であることを認定する受戒(じゅかい)を行う施設・戒壇院として建立されました。戒壇はその後、大宰府の観世音寺と下野の薬師寺にも設置され、律令国家として僧侶を管理するシステムが整うようになります。

東大寺では現在「戒壇堂」と呼んでいますが、建立当初は「戒壇院」でした。「院」とは塀で囲まれた施設を指すため呼び名としては「院」の方が正しいと思われます。国家が管理する東大寺の戒壇院は平安時代になると徐々に有名無実になっていったことに加え、平安時代末期の平重衡の兵科で大仏殿と共に創建時の戒壇院は全焼します。

明治になると戒壇が完全に行われなくなったこともあり、江戸時代半ばに再建された現在の堂宇を「戒壇堂」と東大寺では呼んでいます。



【東大寺公式サイト】 境内案内図.pdf

戒壇堂は南大門から正面に大仏殿を見た場合、左側(西側)にあります。法華堂(三月堂)や二月堂といった著名な堂宇がある右側(東側)に比べ、西側を訪れる人はかなり少ないのが現状です。メディアでの露出が少ないためと思われますが、西側には戒壇堂を始め世界レベルの文化財の宝庫がたくさんあり、多くが常時拝観できます。


西側には国内外の団体観光客はほとんどいないこともあり、大仏殿の喧騒とは打って変わった静かな空間を体験できます。欠点とすればただ一つ、餌をくれる観光客が少ないため、鹿はあまりいません。

東大寺は現在、大仏殿/法華堂/戒壇堂/東大寺ミュージアムの4か所の拝観が有料ですが、大仏殿&ミュージアムの組み合わせを除いて一枚ですべてを拝見できるセット券が発売されていません。これも戒壇堂の参拝者が少ない要因の一つです。


近鉄奈良駅から依水園を通り戒壇堂へ向かう道

戒壇堂はとても小さなお堂です。堂内には須弥壇があり、中心にある多宝塔を囲むように四隅に四天王が安置されています。須弥壇の周囲を一周して拝観することができ、かなり近い位置で四天王の造形の美しさを味わうことができます。照明もLED化されており、以前に比べると明るく見やすくなっています。

四天王の配置は、須弥壇の正面に向かって右下隅の東南角を起点に、東:持国(じこく)天→南:増長(ぞうちょう)天→西:広目(こうもく)天→北:多聞(たもん)天の順です。「じ→ぞう→こう→た」と覚えます。配置の関係上、持国天と増長天は正面が、広目天と多聞天は背面が間近に見えます。

【JR東海 うましうるわし奈良 キャンペーン・ポスターの画像】 東大寺 戒壇堂 四天王
 ※ポスター配置 左上:持国天、右上:増長天、左下:広目天、右下:多聞天

四天王はいずれも160cmほどの像高で、ほぼ等身大であることがリアル感をより高めています。日本の仏像では珍しくボディが白いことも、生身の人間のように感じさせます。大道芸で見かけるスタチュー or マネキンと呼ばれる「人間がポーズをとったまま全く動かない」芸に遭遇したようにも感じるほどです。

ボディが白いのは、この像が粘土で造形する塑像(そぞう)だからです。造形当初はド派手な彩色が付けられていましたが、現在では彩色はほとんどなくなり、地肌の色が露出しています。

漆を固めて作る乾漆像(かんしつぞう)と並んで奈良時代に集中して見られる仏像制作の手法です。乾漆像は制作費が高いため、本尊のような中心となる仏像に、塑像は制作費が安いため、四天王のような脇侍となる仏像に多く見られます。

前面に配置される持国天は刀、増長天は戟(げき)と呼ばれる棒状の武器を持っており、衛兵のように上から見下ろすような表情に造られています。後方に配置される広目天は筆と巻物を持ち、多聞天は宝塔と宝棒を持ち、先生のように正面から観る者を見つめます。

お堂の中では他の参拝客が誰もいないこともよくあります。正面に立つと一切の音がしない空間で四天王から見つめられていることに気付きます。この瞬間に四天王の美しさの虜になります。鎌倉時代の運慶による興福寺・北円堂の無著・世親像と並んで、日本彫刻が世界に誇る傑作であることを実感する瞬間でもあります。



戒壇堂の四天王は創建当初のものではありませんが、いつから安置されているのかはよくわかっていません。近年の調査では法華堂の須弥壇にのこされた仏像安置の痕跡と戒壇堂の四天王の台座の形が一致することが確認されており、元は法華堂にあったとする説が有力になっています。

四天王と並ぶ東大寺の至宝であり、東大寺ミュージアムに安置されている塑像の日光・月光菩薩とも作風は似ており、同じ工房で造られた可能性も指摘されています。

東大寺では最新の防災設備を備えた東大寺ミュージアムに、塑像を中心とした壊れやすい仏像を移しています。塑像でまだ移されていないのは戒壇堂の四天王と法華堂の執金剛紳だけです。法華堂の執金剛紳は厨子に入った秘仏で、年一日しか公開されない東大寺の最重要仏像の一つであり、移されることは考えにくいでしょう。

戒壇堂の四天王はそもそも現在の戒壇堂にある事情がよくわからないこともあり、安全な安置場所に移す障害は少ないと思われます。塑像は地震による転倒で粉々になるリスクを最大限警戒しなければなりません。

私個人的には、知名度の低い戒壇堂拝観をセット券に含めない状態にしているのは、東大寺ミュージアムに移す日が近いのではないかと期待しています。仏像との距離が近く堂内が狭いため、多数の拝観者が詰めかけると困るという事情だけではないような気がします。

初めての方も、久しぶりの方も、次に奈良に行く機会にはぜひ戒壇堂を訪れてみてください。世界最高レベルの彫刻を前にして至福の時間が過ごせること、間違いありません。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



通常の拝観では体験できない一瞬の表情をとらえた写真集
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<奈良県奈良市>
東大寺
戒壇堂
【東大寺公式サイトの案内】 戒壇堂

原則休館日:なし
開館(拝観)受付時間:7:30~17:30(11-3月は8:00~17:00)

※この堂宇は観光目的で常時公開されています。



おすすめ交通機関:
近鉄奈良線「近鉄奈良」駅下車、東改札C出口から徒歩20分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:東大寺まで1時間20分
JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→近鉄奈良駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設に駐車場はありません。※道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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