愛詩tel by shig

プロカメラマン、詩人、小説家
shig による
写真、詩、小説、エッセイ、料理、政治、経済etc..

2009年01月18日 20時49分40秒 | 

映画館に来た
独りで

早朝の待合いは空いている
インディージョーンズ・クリスタルスカルの王国

前作は二人で来た
初めてのデート
ポップコーンをほおばりながらも、君は画面に釘付けだった
僕はと言えば、映画そっちのけで、君の横顔ばかり見ていた
衝撃のシーンで、思わず君は僕の手を握った

どきっとした
映画が終わったあと、インド料理屋でランチを食べた
インド民謡が流れる中で、君は映画の興奮が冷めないらしく、一方的に話していた
僕は君の形の良い唇が動くのに見とれていた

「ねえ、聞いてるの?」

「もちろん」

「さっきから何もしゃべらないじゃないの」

僕は映画の筋など何も覚えていなかった

「面白かったじゃない」適当に答えた

「どこが?」

「ええと、それより、これからどうしよう」

僕が言ったのはランチのあと、どう過ごすかだった

「どうもならないわ、さよならするだけ、私、デートは一回きりと決めてるの」

「え?どうして?」

「だって、人を好きになってしまったら、失ったとき傷つくもの」

「僕は君から離れない。約束するよ」

「明日のことは分からないわ あなたの約束だって、何の補償もないもの」 

そう言って、君は席を立った
君の後ろ姿を見ながら、僕は深く心を痛めた
自分ではなく、君のこころの在りように

確かなことは、何もない
けれど、傷つくことを恐れて、避けていたら、人は前には進めない
それは、傷つけることも同じ
人を傷つけないで生きて来た人は一人もいないはずだ

僕は君に携帯メールを送った

「インディージョーンズの次回作が作られるかどうか分からない、それは10年後かもしれない
もし、作られたなら、その時、この映画館で、封切りの初回で会おう
それまで僕が変わらなかったら、君も変わるかもしれない」

そして10年
僕は開演までの時間、待合いのテーブルで本を読んでいた

「あなたって、ばかね」

耳元でささやく声がする
君だった
開演のアナウンスが聞こえた

「さあ、行きましょう、ハリソン・フォードも歳をとったでしょうね
初めてだわ、同じ人と2回もデートするなんて」

僕は変わらない君の形の良い唇を見つめていた。

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