本棚の古い本を整理していた
はらり 何か白いものが落ちた
エーデルワイスの押し花
私は記憶の中に放り込まれた
あなたと行った北海道礼文島
これはね 礼文うすゆきそうっていうんだ
ヨーロッパアルプスに咲いているのと同じ花
礼文は緯度が高いから咲くんだね
花を見ながらあなたは言った
いつか行こうか ヨーロッパアルプス
うん
結局行かなかった
その約束は
その時私が読んでた文庫本だけが知っている
カバーもとれて 黄ばんでしまった文庫本
その花の形にくぼんだところに
なみだがぽとり 落ちた
別れたのではない
彼は命を失ってしまったのだ
癌だった
最後の言葉を私は一生忘れない
よくなったら ヨーロッパアルプスにいこうね