蔵書目録

明治・大正・昭和:音楽、演劇、舞踊、軍事、医学、教習、中共、文化大革命、目録:蓄音器、風琴、煙火、音譜、絵葉書

「デニショウン舞踊詩団 曲目解説」 京都 (1925.10)

2015年01月31日 | ダンス デニショーン、サカロフ夫妻他

  

 RUTH ST. DENIS WITH TED SHAWN DANCERS AND DENISHAWN DANCERS

 デニショウン舞踊詩団 曲目解説 

デニショウン舞踊詩団
 曲目解説

    第一日 (十月十二日)

 第一、ミュウジック・ビジュアライゼーション

 (定義) 純粋なミュウジック・ビジュアライゼーションは、楽曲の韻律的構成を、メロディック構成及び調音的構成を、肉体の動きに移す科学的翻移である。それには楽曲を「解説描出」ひやうとか、踊手に依て考へられる楽曲の中の意味を現さうとか云ふ考へは全然許されない。唯、音楽と舞踊との間に相関的翻移が結ばれ、科学的翻移が施されるのである。
 科学的翻移とは何か。これを分説すれば、
 (一) ビジュアライゼーションに於て八ノートのものは、踊りの動きもそれと同じ長さに踊らねばならぬ。從ってクオター・ノートは八ノート二倍であるから、この時は二倍の長さのムーブメントを以てビジュアライズさる可きである。
 (二) 一つのメロディーは一人の踊りに依てビジュアライズされ、多く連立的音声やテーマを含んでゐる複雑な対立的楽曲は三人亦はそれ以上の踊り手の群団に依てビジュアライズされる。
 (三) 丁度演奏の上に、スタッカトーやレガトーのある様に、肉体の動きの中にもスタッカトーやレガトーがある。
 (四) 次にデイナミックが用ひられる。柔く奏される処は、力を保留して、柔く踊られる可きである。一方又急激な諧音は、烈しい体力を以て踊られねばならぬ。
 (五) メロディーの上り、下りは、舞台を水準としての身体の起伏に依て表はされねばならぬ。音線上のノートの位置を、ポーズの連続に相似させるには、身体の動きは、舞台の上に平たく腹匐ひになった位置から最高の跳躍に至る迄の間の、動きに依て示さる可きである。
 先づかう云った風のものである。
 次にミュウジック・ビジュアライゼーションの第二の形式はーこれにはデニスやショウン達は左程興味をもってゐないービジュアライゼーションには劇的観念を重置するものである。即ちエモーショナルな色彩構造的梗概、韻律的な型、及一般的意味の中に、楽曲と舞踊を関連させる自勝手な舞踊形式を云ふ。
 〔解説〕 数年前、ルウス・セント・デニスは、音楽形式の最高のものたる、交響楽に考へを向けた。そして、それを目に見える舞踊の形式に、一層適正に翻移しやうとした。だが、一人の踊り手では、シンホニーをビジュアライズ(目に見えるやうにする事)するにしても、一個のバイオリンが、それを演奏する程度以上に出ない事が、初めから明であった。
 そこでデニスは「シンコリック・オーケストラ」と云ふ踊手の集団、即ち一人の踊り手が、交響楽の一楽器に当る編成のもとになれる集団を創造した。そして先づシューベルトの「未完成シンホニー」の一奏部をビジュアライズした。これは真の運動のオーケストレーションに対してなせる先駆的努力である。
 この大きな試みに次いでデニスは小曲をとってベートーベンの「ソナタ・バセテイック」を手始めにブラームスの名曲、初期古典作曲家の作品、及び近代に至る迄の諸種の名曲を手にかけたデニスはかくして、楽曲の建築的構造に極く密接に則って、これ迄インタープレテイブ・ダンサーやクラッシック・ダンサーのやって来たよりも一層密接な関連を以て楽譜とを結付けた。一方又 楽曲の情想的内容には、劇的表現を施して、音楽と舞踊との関係を一層密接にした。
 上の性質のものをミュジック・ビジュアライゼーションと云ふ
 一 ソナタ・パセディークー第一奏部(ベートーベン曲)  デニショウン・ダンサーウ
 二 歌劇「オルホイス」の舞踊音楽に依るグリーク・ベエール・プラスティーク(グック曲)  ルウス・セント・デニス女史
 三 ヴアルス・カプリス(シャミナード曲)  ドリス・ハンフレー嬢
 四 レヴオルーショナリー・エチュード(ショパン曲)  テッド・ショウン氏 グレーエム嬢 ヂエームス嬢 シャーマン嬢
 五 高翔(シューマン曲)  ドリス・ハンフレー嬢 ダグラス嬢 ヂエームス嬢 デイ嬢 シャーマン嬢
 六 ワルツ作品三十三番第十五(ブラームス曲)及び愛の夢(リスト曲)  ルウス・セント・デニス女史
 七 ヴアルツ・プリアント(アナ・ツツカ曲)  テッド・ショウン氏 及び総員

 第二、ソーチル  =古代トルテック伝説に拠る舞踊劇=

  音楽   ホーマグ・リュン氏
  振付   テッド・ショウン氏
  舞台意匠 フランシスコ・コルネジョー氏
  衣裳考案 テッド・ショウン氏及コルネジョー氏
       〔役割〕
  テパンカルッイン(トルテック王) テッド・ショウン氏
  ソーチル             ヂオルディ・グレーエム嬢
  ソーチルの父親          チャールズ・ワイドマン氏
  笛吹き男             ヂョォーヂ・スチーアース氏
     乙女、宮廷の踊後子等
  第一場 有史以前のメキシコに於ける或る
  第二場 トルテック王テパルカルチン王宮の内部
       〔梗概〕
 世にも稀なる美酒がマダエイの木からとれると云ふ事を、ソーチルの父 が知った。彼は娘と共にこの発見を齎して トルテック王の御前に伺向する。ソーチルが、王の為めに一曲舞ふ。酒に狂酔したトルテック王は彼女の上に恐ろしい考へを向けたそして、邪魔な父親は、だまされて部屋の外へつれ出された。が併し、突然起った娘の叫び声に、彼は急いでとってかへす。そして一撃のもとにナイフをテパンカルツィンに突つささうとした。が、この時、ソーチルは 優しい女の心から、命を許してやつてくれと父にたのむー。命拾ひをしたトルテック王は恋と感謝の中に、廷臣どもを呼び集めて、ソーチルを彼の最初の妻、トルテック女王に娶る事を證覧せしめる。      

 第三、小品舞踊

 一 天界の女王 マドンナの研究)
 二 グノッシーヌ(サタイ曲) ルウス・セント・デニス女史 テッド・ショウン氏
 三 バッブル・ダンス ウェンク曲) シャーマン嬢 ダグラス嬢 デイ嬢 ローレンス嬢 ヂエームス嬢 グレーエム嬢
 四 バイレリナ・ロール ドリス・ハンフリー嬢
 五 西班牙組曲
  (イ)ショール・プラステイク(西班牙舞踊曲第五グラナドス曲 ルウス・セント・デニス女史
  (ロ)タンゴ(ヂョナス曲)及びエレグリアス(ヴアルヴェルト テッド・ショウン氏
  (ハ)マラゲナ(モスコウスキー曲) ルウス・セント・デニス女史 テッド・ショウン氏
 六 庭園にてイ
  (イ)三人の娘 ダグラス嬢 グレーエム嬢 シャーマン嬢
  (ロ)一人ぼっちのピエロ  チャールズ・ワイドマン氏
  (ハ)ワルツ  グレーエム嬢 ダグラス嬢 シャーマン嬢 ワイドマン氏
 七 ヴアルス・デニショウン(ウェンク曲) ルウス・セント・デニス女史 テッド・ショウン氏 

 第四、エヂプシヤン・バレー  =古代埃及の造形芸術に拠って感示されたる舞踊組曲=

 一 地を耕す者      ルウス・セント・デニス女史 テッド・ショウン氏
 二 ソース神とホーラス神 ワイドマン氏 スチーアース氏
 三 タンボリンを持てる踊 ドリス・ハンフレー嬢 ダグラス嬢 デイ嬢 マルチン嬢 シャーマン嬢
 四 再生の踊       ルウス・セント・デニス女史 テッド・ショウン氏

    第二日 (十月十三日)

 第一、ミュジック・ビジュアライゼーション

 (定義、解説は第一日の分を御参照下さい)

 一 セカンド・アラベスク(デビュシイ曲)  ダグラス嬢 シャーマン嬢 デイ嬢
 二 アダーヂオ・パセティック(ゴダルド曲) テッド・ショウン氏
 三 スケルツオ・ワルスイル グンフリツ曲  ドリス・ハンフレー嬢
 四 アルバム・リーフとプレリュード、スクリアピン曲 デイ嬢 ワイドマン氏
 五 ドラシャウワルツ ドリス・ハンフレー嬢 デニショウン・ダンサース
 六 ワルツ作品三十三番第十五(ブラームス曲)及び愛の夢(リスト曲) ルウス・セント・デニス女史
 七 春の声(ストラウス曲) ダグラス嬢 グレーエム嬢 シャーマン嬢 デイ嬢 ヂェームス嬢 ワイドマン氏 スチーアース氏 ハンフレー嬢
 (解説) これはフローレンスに在るボチチェリイの名画「プリマベラ」に依って霊示された絵画的小品。

 第二、クワドロ・フラメンコ =西班牙のジプシー・ダンス=

 クワドロ・フラメンコとは、西班牙のアンダルシア地方のコンサート・ホールや、酒場の演奏になくてはならぬジプシーの踊子、歌手、ギター弾きの一団に與へられた名称である。
  音楽 ルイズ・ホースト編曲 テッド・ショウnウン氏が西班牙で集めた生粋西班牙曲の写譜より編曲せる物
  構想及振付 テッド・ショウン氏
 クワドロ・フラメンコ ダグラス嬢 グレーエム嬢 デイ嬢 ドリス・ハンフレー嬢 ワイドマン氏
 花売娘 ヂェームス嬢 シャーマン嬢 ホーリー嬢 コーレンス嬢
 セビラツ兒 スチーアース氏ビー・セント・デニス氏
 ラランダ名有な闘牛師 テッド・ショウン氏
 ラ・マカレナオ(踊り子ー全セビルの偶像) ルウス・セント・デニス女史

  場景
 セビルの町の或カフェーのコンサートホール。
  梗概
 大闘牛日の宵。カフェーの盛りはこれからと云ふ頃。商売に忙がしい花売娘や、ジプシーの姿が見える。
 ラ・マカレナークワドロ・フラメンコの一人である彼女は、綺麗な踊子で名高いセビルの町の、人気者である所からかう呼ばれてゐるのである。この美しいマカレナの唄に、カフェーの常連どもが、すっかり魅惑されてゐる処で幕があく。
 歌が終ると、仲間の踊子達が、各々に踊り出て、ジプシー・ダンスの粋を見せる。
 と、其処へラランダが、闘牛師の装ひ美々しく、揚々と入って來る。皆の者から、プラザ・ド・トロスに於けるその日の彼の午後の勝利を、話してほしいとせがまれる。クワドロ・フラメンコは、踊ったり、歌ったり、いよゝ夜の愉楽のふたをあけるラ・マカレナがカフェーへ戻って來る。
 長い間、彼女に恋してゐたラランダは、申込んだ求婚に対する色よい返事を要求する。
 そして、もし自分の花嫁になってくれるならば、全セビル一番の美しいショールを買ってやうと約束するマカレナは喜んでそれに同意する。ラランダは雀踊して隣のショール店へとんで行く、そして目も覚めるやうな綺麗な織物の一ぱいに入った箱をかゝへて戻って来る。一枚、一枚ひろげて見せる。
 五番目のショールと、一番最後のとが、マカレナの心を奪ったかくして婚約は成立する。満座の男女は、二人の婚約を、典型的なジプシー流で、祝福の歓騰に包んでやる。
 この舞踊は、ジプシーダンスの精髄の集りである。筋はなんでもないものであるが、この中に編み込まれた幾多のジプシ・ーダンスが 鑑賞の眼目である。これまで日本の舞台にも、可成り西班牙舞踊は上せられたが、恐らく今回のこのデニショウンに依って踊られるものが初めて日本にスペイン・ダンスの真髄を紹介するものと云へやう。

 第三、小品舞踊

 一 ヴアルス・ディレクトアール(ドリゴ曲) ルウス・セント・デニス女史 テッド・ショウン氏
 二 虐げられた恋(無音楽舞踊)       デニショウン・ダンサース    
   (解説) 「舞踊は、本質的に見る藝術である。そしてそれ自身完全な、独立的藝術である。それは音楽の伴奏に何等たよる事のない、独立的藝術である。」と云ふ信念のもとに、デニスが創作せるもの。
 三 黒の金のサリの踊 (ストウトン曲) ルウス・セント・デニス女史
   (解説) この舞踊でデニスは、印度の婦人が身飾りの主要品として身に纏ふサリーと云ふ長い織布を用ひる 因みにこのサリーは、もと印度皇女の持物だったものである。
 四 アメリカ・スケッチス
  (イ)雷鳥への祈願 (ジョーン・フィリップ・スーザ曲 テッド・ショウン氏
   (解説) インディアンの雨乞踊り。地べたに雨神の像を描いて、それに聖餐を供へて儀式を挙げる。すると雨が降って来ると云ふ儀式舞踊である。
  (ロ)クレオール・ベル (ゴットシャルク曲) ドリス・ハンフレー嬢
  (ハ)クラップシュッター (イーストウッド・レーン曲) チャールズ・ワイドマン氏
  (ニ)テキサスのホールをめぐりて (レーン曲) アン・ダグラス嬢 テッド・ショウン氏
  (ホ)グリンゴタンゴ (レーン曲) アーネスティン・デイ嬢 テッド・ショウン氏
  (ヘ)布哇島火山の女神ペレーの踊 (ヴォーアン曲) ルース・セントデニス女史
   (解説) 身にまとふ布は火山の溶岩の表徴である。
  (ト)ボストン・ファンシー ― 一八五四 (レーン曲) ローレンス嬢 ワイドマン氏 グレーエム嬢 スチーアース氏 シャーマン嬢 デニス氏 ハンフレー嬢 テッド・ショウン氏
   (解説) 是は今のアメリカのお婆さんどもが、娘時代にはやった、丁度今日のフォックス・トロットキャット・ステップであったスクエーヤ・ダンスの数片である。

 第四、エイソーアの幻想 =アルヂエリア舞踊劇=

  創作及演出 ルウス・セント・デニス女史
  振付    デニス女史 テッド・ショウン氏
  音楽    アール・エス・ストートン氏
  装飾パネル ニノ・ロンヂ氏
  衣裳    パール・ホイラー女史
    ショウン氏が北アフリカで求め来ったアルジェリア特有のもの。
      (役割)
 ウーリーダ(ウーレッドナイル族の娘)  ルウス・セント・デニス女史
 ベン・サーディ(エイソーアとなる若者) テッド・ショウン氏
 青衣の酋長               ジョーヂ・スチーアース氏
 緋衣の酋長               チャールズ・ワイドマン氏
  アトマ(カフェーの店主)       パール・ホイーラー氏
 トウニスより来れる二人の踊子      デイ嬢 ジェームス嬢
 ムール族の踊子             アン・ダグラス嬢
 ビスクラより来れる三人の踊子      グレーエム嬢 シャーマン嬢 ローレンス嬢
 アイシャ                ドリス・ハンフレー嬢
 音楽師、給仕人、其他
  第一場 ビスクラ近郊のシダイオクバの回々教寺院
  第二場 ファトマの家 アルジェリアのカフェー
    〔梗概〕
 或るウーレッド・ナイル族の娘が、一人の貧しい少年を恋してゐた。娘は種族のならはしに従って、アルジェリアのカフェーに売られ、其処で踊を踊って、一族の為めに金を得なければならなかった。娘と少年とは悲しい別れを告げる。少年は、其頃失意のと反動の中に、回々教寺院に入った。そして、一種の宗旨狂になって仕舞って、エイソーアと云ふ苦行僧になった。
 第一場の寺院の場に於て、私達は燥狂の踊を踊る失恋の彼を見る。この踊は、一種の病的興奮を表はさうとして振付けされたものである。踊り狂って、彼は、其場にばったりと倒れて、意識をなくしてしまふ。この失神の間に、彼の少年時代の恋人がマホメット楽園に侍姫として、彼の面前に立つ。女は踊る。そして彼に「ファトマ」と云ふさるアルヂェリアのカフェーに来たれと告げる。
 第二場 ファトマの家。北アフリカの各地の娘が 富めるアラブの娯みとして、此家に大勢集められて来てゐる。娘達は此処で各々に、自族の踊を踊るのである。アラビヤの酋長や、金持連が出入して、珍味やコーヒーが供されてゐる。と、其処へ若いエイソーア(苦行僧)が四圍に、注意を配り乍ら入って来る。恋人を見付ける。そして逃げやうと誘ふ。かくして愛に生きた二人の姿は、ひそかにアラビアの砂漠に消えた。  

   デニショウンの舞踊 

 時日 十月十二日 十月十三日 午後六時開演
 場所 岡崎 市公会堂

  御観覧料
    指定席 五圓
    一等席 参圓
    二等席 貳圓
    紅札席 壹圓

  主催 松竹合名会社



コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。